見渡す街には、火の手が上がっている。
私がこの現状を理解するのにそう時間はかからなかった。
マスター、・・・宮本トシキさんが行ってしまい、突然空が光ったと思ったら沢山消えていく飛行機。
そのままセフィーラの飛行機は遠くへ飛び去った。
つまり・・・セフィーラは、負けた。
「うそ・・・そんな・・・マスタァァァァ!!!」
私が悲鳴のような声を上げている事を、どこか遠くで聞いていた。
***
ほんの少しの間だけど、マスターと過ごした思い出は私の中に大きく残っていた。
いつも前を向いて少し行き過ぎな所もあるけど、だからこそ楽しかったし、嬉しかったのかもしれない。
お父様がいなくなって、意外と不安がる事も分かった。
でももう彼は・・・帰ってこない。
私は歩いた。
宛てもなく、何かを考えることもなく。
ただただ、人の流れに従って。
今の私は、他の人から見れば抜け殻のような人と思われているだろう。
でも、マスターがいなくなった日から何も考えることができなくなってしまっていた。
鉄橋のたもとには、味方の兵士とゼントラーディがいた。
「急げ、急げよ!」
「この先にはまだ生きてる鉄道が走ってて、港までちゃんとつながってるレールがある。この橋は敵が来る前に落とさなきゃなんねぇんだ、ほら急いで歩くんだよ!」
兵士とゼントラーディが、ハイドシティから逃げてきた人たちを急がせる。
でも、私はそれでも急ぐ気にはなれなかった。
もう・・・帰る場所も、待つ人もいないのだから・・・。
私は電車に乗ってセフィーラの宇宙港にたどり着く。
そこでは逃げて来た人たちを宇宙船に乗せて、セフィーラの外へ逃がそうとする軍の人たちがいる。
名簿も張り出されていたが、そこに私の知る名前は無い。
本当に私は、何もかもを失ってしまった。
その後宇宙船は発進しセフィーラから離れていく。
私たちは・・・戻れない。
「・・・アリス?」
私は確かに聞いた。その名前を。
アリス・・・私の名前を知っているのは、ほんの少しの人しかいない。
私は後ろを振り返る。そこにいたのは銀色の髪と金色の瞳を持っている、私の大切な人。
「マス、ター・・・?」
***
軍と共に撤退してきたトシキは、セフィーラの宇宙港へ逃げてきた難民たちに行われている炊き出しを手伝っていた。
そこでトシキは見知っている人影を見る。
長い金髪。服装は自分がプレゼントした白いノースリーブとアウトスカート。
不意に声を漏らした。
「・・・アリス?」
聞かれていたのか、少女・・・アリスはトシキの方を見る。
とたんにアリスの顔が驚愕に染まっていく。
「マス、ター・・・?」
「アリス!よかった、無事で・・・」
アリスが無事な事にトシキは一先ず安堵する。
しかしアリスは、目尻に涙をためる。
「マスタァーッ!!」
「うおっ!?」
感極まったアリスは溜まらずトシキに駆け寄り、そして抱き着いた。
突然の事にトシキは整理が追いつかず、更に女子に抱き着かれた事で顔を朱くするが、アリスの肩が震え嗚咽している事を理解すると静かに受けいれた。
「マスターッ・・・マスター・・・」
「悪い、心配かけたな・・・」
自分の突っ走った行動でアリスを不安にさせてしまった。その事を痛感した。
「失礼。君がトシキ君、ジン中佐の息子かな?」
そう言いながらトシキとアリスに近づく人物が3人。
その人物達は身なりから統合軍の人間である事は分かるが、その内の1人は胸に勲章と階級章をつけている。
恐らくは上級将校だろう。
「そうですけど・・・」
「私は新統合軍のアンドレアス・マルコフだ。民間人でありながら今回のセフィーラ防空任務に参加してくれた事にお礼を言わせてほしい」
「俺は自分にできる事をしただけですよ。それにおめおめと逃げてきたし・・・」
自嘲気味に笑うトシキに、アンドレアスと名乗った初老の男は首を横に振る。
「あれは私達としてもやむを得なかった。君が気に病む事はない。突然ですまないが君に話がある」
アンドレアスはそう言うとトシキに背を向け歩き出す。
そしてアンドレアスについていた兵士がトシキを案内しだす。
アリスは突然の事で立ち尽くすが、トシキの背が見えなくなった時に我に帰り慌ててトシキの後を追う。
***
トシキが案内されたのは将校の執務室。
アンドレアスは執務席に座りトシキはそのアンドレアスと向かい合う形となる。
「話というのは他でもない。現在、新生マクロス・ブリタニアと名乗る勢力によりセフィーラだけでなく他の星系の惑星も侵略を受けている。各惑星の統合軍もギリギリで奮戦しているがいつまで堪えられるか分からない状況だ」
アンドレアスの言葉にトシキは思わず言葉を失う。
セフィーラだけでなく他の惑星も同様に侵略を受けているという事は敵の力はそれだけ強大だという事になる。
「今の我々には戦力が大きく不足している。急にで申し訳ないのだが君には今後も統合軍と共に作戦に参加してほしい」
「それって・・・!」
「すぐに答えてくれとは言わない。決まったら教えてくれ」
そう言われると、トシキは部屋から出される。
部屋のドアのすぐ隣にはアリスが立っていた。
「マスター・・・」
「アリス、さっきの話聞いてたか・・・?」
トシキの問いにアリスは静かに頷く。
彼の心は、もう決まっているような物だ。
「・・・俺、さっきの話受けるよ」
「!・・・どうして、また会えたのにまたいなくなってしまうんですか!?」
アリスの涙ながらの言葉にトシキは首を横に振る。
「いなくならないさ。いつか絶対に帰ってくる、このセフィーラに。そしてまた皆で暮らすんだ」
その誓いは固く、曲げる事はできない事をアリスは理解してしまった。
アリスは顔を下げた後、決意した表情で再び顔を上げトシキを見る。
「マスター、私も一緒に行きます!」
「アリス?」
「またマスターが遠くに行っちゃいそうで・・・。お願いです、私も一緒に行かせてください!」
目を潤ませながらそう言うアリス。
アリスの願意に一瞬トシキは呆気にとられるが、すぐに笑顔を浮かべ右手親指を立てサムズアップする。
その表情に、アリスも徐々に笑顔を浮かべる。
「取り戻そうぜ、俺たちで!」
「はい!!」
トシキの言葉にアリスは力強く答える。
そうと決まれば後は分かっている。先程出た扉に再び入る。
「トシキ君?話は終わったはずだが・・・」
「その事で話があります、アンドレアスさん。
・・・俺を、俺たちを軍に参加させてください!!」
ED:Waiting for the rain/坂本 真綾