ベルファン基地を押さえ、敵強襲母艦攻撃への目処が立ちセフィーラ軍の士気は上がっていた。
そんな中でトシキ達セイレーンは各々の機体のチェックをしている。
「にしてもミヤ坊、また機体に無理させたな?」
「すいません整備主任・・・」
「お前さんもとことん運がいいのか悪いのか分かんないよな。ここぞって場面で相手のエースとぶつかるんだからよ」
愚痴りながらも楽しそうに話す。
確かにトシキはここ1番の場面で敵のエースと遭遇してしまう事が多い。それは偶々か仕組まれた事なのかはトシキ本人も分からないだろう。
「トシキ、アンドレアス准将が後で執務室に来て欲しいって」
「アンドレアスさんが?分かった」
「宮本さん、どうしてマルコフ准将を呼び捨てで呼ぶんですか?正規の軍人なら不敬罪ですよ?」
「本人がいいって言ってたんだよ」
シズカは前々から何故トシキがアンドレアスを階級無しで呼ぶのかが理解できなかった為この際聞いてみたようだが、碌な返答じゃなかった。
ユーノに言われトシキはアンドレアスの執務室に向かう。
「まさか、何か説教かな・・・」
トシキは呼び出された理由を考えげんなりとなるが、それでも行かなければ余計な小言が増える事になるだろう。
少し重い足取りで執務室前に着くが、
「何度・・・・・・るな!・・・・・・軍の決定事項だ!」
「尊厳無視も甚だしい!貴方は・・・・・・を何・・・・・・いるのですか!?」
何やらアンドレアスが誰かと揉めているようだ。アンドレアスが敬語を使っている事から相手はアンドレアスより更に上の階級を持つ軍人か役員の線が考えられる。
やがてアンドレアスの執務室から肥満体型の大柄な男が出てきて、トシキと顔が会う。
「・・・お前が宮本トシキか」
「そうですけど・・・」
トシキが返答した途端、男は顔を背け溜め息をこぼす。
「マルコフも何故こんな奴を迎えたのか。唯の子供ではないか」
その言葉にトシキは触発される。
「・・・それってどういう事だよおっさん?」
「口を慎まんか。厚意で雇われた義勇兵風情が調子に乗るなよ」
捨て台詞に聞こえそうな言葉でトシキは顔を顰めるが男は気にする様子を見せずにその場を後にする。
そのせいかトシキはかなり不機嫌になって執務室に入る羽目になる。
「トシキ君か・・・」
「アンドレアスさん、さっきの人何なんですか?やたらと態度デカくて・・・」
トシキの言葉にアンドレアスはやはりといった感じの心境になる。
説明が必要だ。
「・・・彼はグレゴリー・ド・グレムスロワ中将。地球本国軍、セフィーラ派遣部隊司令官で役員だ」
「はい!?あれで中将!?」
思わず耳を疑った。
先程あった態度の大きい男が地球本国の中将だというのだ。
「言いたい事は分かるよ。私もあんな人が中将だとは。それに厄介な案件も持ち込んでいるしな」
「厄介な案件?」
「君達が敵基地から鹵獲したあの戦艦の件だ」
そう言いアンドレアスは3枚の書類を出しトシキはそれに目を通す。
「なっ・・・!」
思わず声が漏れた。
それはユーノ達がブリタニア軍基地から奪取したあの戦艦“機動戦艦イザナミ”の地球本国新統合軍のセフィーラ派遣部隊への配属命令書。
セフィーラ派遣部隊への命令、それを出せるとするのは・・・。
「まさか!」
「そのまさかだよ。グレム中将の命令さ」
つまり、あの男はトシキ達が立てた手柄を自分達に寄越せと言っているような物だ。
感情に任せ命令書を握り丸めてゴミ箱へ投げ捨ててしまおうとしたが、アンドレアスより上官である命令を勝手に始末すればいくら正規兵でないトシキでもどうなるか分からない。
「私とてこの命令、断れるなら断りたい。しかし本国でのグレム中将の権限はかなり強くてな。それに彼は君の隊員にまで目をつけている。下手に動けばどうなるか分からない」
その言葉にトシキは2枚目の書類を見る。
そこに書かれていたのはアリスへのスパイ容疑の可能性、そして必要であれば本国部隊へ異動し監視が必要という内容。
確かにアリスは現在は身元不明だがそれだけでスパイと判断するには軽率すぎる。
だがその気になれば容疑で本国に引き抜く事も容易だという事なのだろう。
「・・・ふざけてんのか、これ・・・!!」
力が入りトシキは資料をグシャグシャにする。それだけ資料の内容が許せなかったのだろう。
「それがグレム中将のやり方だ。利己的で常に自分に利益が来るよう周囲に圧力をかける。今回は彼なりの最大限の譲歩なのだろう。もう1枚を」
アンドレアスに言われた通り3枚目の書類を出す。
そこには今回本国部隊からセイレーンに入る報酬と備品リストが書かれている。
「・・・すまない。愚痴に付き合わせるような事を」
「いえ、そんな・・・」
「・・・話をする気分でなくなってしまったな、下がってくれ」
アンドレアスに言われトシキは大人しく執務室を後にする。
***
戻ったトシキは話した内容を仲間達に伝える。
「そんな、私がスパイなんて・・・」
「心配ないよ、お前がスパイのはずがない」
「そうだよ、アリスさんがスパイなんて信じられないよ」
最初はアリスは自分がスパイと言われ信じられない表情をする。が、そもそもトシキとユーノは疑った事は無い。
そんなありもしないスパイ容疑は信用しないだろう。
「それよりこれ、今回本国から受け取った装備ですよね?」
「ああ、俺たちから手柄を横取りして装備や資金で口封じってとこだろうな」
そう言ってトシキは自分の機体を見る。
装備されたデルタ翼と両翼端の回転式エンジンポッド、機体上部に設置された2連装のビーム砲、尾部につけられた尾のような冷却ユニット。
それはVF-25の追加装備でも大気圏内外両用の装備トルネードパックだ。
追加装備の中ではかなり高額な物で本来なら義勇兵に支給される物ではないのだが、今回は口封じの意も込められ送られてきたのだろう。
「でもそこは素直に感謝しておくべきではないですか?相手は地球本国部隊の司令官ですよ?」
「だからって何でも許される訳じゃないだろ」
「それは、そうですけど・・・」
シズカはまだ軍人としての規律が残っているのかトシキに注意を促すがそれでも納得はできない。
外を見れば、戦艦イザナミに本国部隊の隊員が乗り込み出発したのが見える。
「行っちゃいましたね」
「俺としては清々したけどな」
アリスの言葉に軽口で返すトシキ。
だが休んでばかりもいられない。まだ彼らにはやらなければならない事がある。
ED:吹雪/西沢 幸奏