ぶきようサンタのプレゼント 作: 池田
今日はクリスマス・イブ。
街は雪と灯りとプレゼントで溢れかえり、活気に満ちている。
はずなのだけど……。
「はぁ……」
私はその様子を、ベッドの上から遠くに眺めるのが精一杯だった。
頭が熱に浮かされたせいで、まるで蜃気楼のように街が揺らめいている。
まさかこんな日に風邪をひくなんて。
「……つまんないの」
私はソーニャちゃんに渡すはずだったプレゼントの包みを一瞥して、小さく呟いた。
今頃、みんな何してるんだろう。
友達同士で連れ立って、カラオケ行ったり買い物したり。
それとも、家族みんなで仲良くケーキでも囲んでいるんだろうか。
「ちぇっ」
右を向けば、水が張られた金ダライ。
左を向けば、ごちそうの代わりに塩気の足りないただのお粥。
そして部屋に漂うのは陰気な病人の雰囲気だ。
こうなるとますます嫌になってくる。
私はふてくされて、布団にくるまった。
だって今日は、やりたいことがいろいろあったのに。
ソーニャちゃんに渡したいプレゼントがあったのに。
たった一度くらい体温が上がったせいで、全部ご破算だ。
機嫌のひとつくらい、悪くなってもバチは当たるまい。
「今何してるのかな、ソーニャちゃん」
あぎりさんと一緒にケーキでも食べてるのかな。
でもソーニャちゃんはそう言うイベントとかに無頓着だからなぁ。
もしかしたら、今日もお仕事かもしれないし。
だけど、なんにせよ。
私の知らないところで、私の知らないクリスマスを過ごしている彼女を想像すると。
やっぱり少しだけ寂しくなる。
「うーん……」
ベッドの上をゴロゴロと、行ったり来たり。
染み付いた生暖かい体温が、少し不愉快に感じる。
私は思わずベッドから飛び出した。
ずっと横になっていたせいか、少し頭がくらくらする。
しかし、立ち上がったは良いがすることがない。
「……あ、そうだ」
プレゼントに手紙も一緒に添えよう。
そんな考えが、ふっと頭に浮かんだ。
我ながら冴えた思いつきだと思う。
私は机に向かって座り、紙とペンを用意した。
さて、なんて書こうかな。
「親愛なるソーニャ様……いや、違う違う」
いつも思っていることを書けば良い、なんて風に思っていたけど。
自分の心を整理して、改めて言葉にするって、結構恥ずかしいな。
でも同時に、とても楽しい。
ひとつひとつ、お似合いの言葉を選んで。
そうやって、文章を組み上げていくのはとてもワクワクする。
特にソーニャちゃんには、普段からお世話になってるから。
少しでも気持ちが伝われば良いな、なんて。
そんな願いを込めながら、私はただひたすらにペンを進めたのだった。
「ん……」
外からは鳥の声。
そして窓から差し込む朝日。
気がつくと、世界は光でいっぱいになっている。
いつの間にか眠ってしまったらしい。
「ふぁ……」
寝ぼけ眼をこすりながら、私は大きくあくびをする。
すると同時に、体にかけられていた毛布が床にずり落ちた。
「……あれ?」
いつの間に毛布が……?
そう不審に思っていると、部屋の様子がどうもおかしいことに気がついた。
乱れたベッドは綺麗に整えられて、手紙とプレゼントがなくなっている。
「あれぇぇ!?」
部屋を引っ掻き回しても、そのどちらも出てこない。
そんな……。
もしやと思ってお母さんにプレゼントのことを問いただしても、首を横に振るばかりだった。
「あーあ……」
あんな大切な物をなくしてしまうなんて……。
私は暗鬱な気持ちのままで学校へ向かう準備を始めた。
気持ちが沈んでいるせいか、カバンも教科書もまるで鉄か何かのように重く感じてしまう。
「……ん?」
重く感じる、と言うか……。
鞄が実際、少し重い気がする。
もしかして、プレゼントここに入ってるんじゃ……!
「なーんだ!私ちゃんと渡す用意してたんだ!」
先程までの暗い気持ちが吹き飛んだ私は、勢い良くカバンを開けて中を検める。
私の予想通り、カバンの中にはプレゼントの包みが入っていた。
「……へ?」
確かに、プレゼントは入っていたのだ。
だが、私のじゃない。
次々と起こる奇妙な出来事に、いよいよ私の頭はついていけない。
「なんだろうコレ……」
不審な包みを取り出して、まじまじと見つめてみる。
ちょうど片手に収まるサイズで、何やら柔らかい。
マフラー、とか……?
「それにしては小さいけど……あっ!」
あぁ、なるほど。そういう事か。
プレゼントに小さくかかれた「やすなへ」の文字を見つけた私は、全てを理解した。
まったく、本当に。
「本当に素直じゃないなぁ……」
授業の用意を済ませた私は、勢い良く家を飛び出した。
今日はとても良い天気。空には雲一つない。
私の心も体もまるでこの空のよう、なんて。
つまりそれほど、晴れやかな気分ってこと。
「手紙、読んでくれたのかな?」
そんな風に独り言を言ってみるけど、本当はちゃんと分かっている。
きっと、あの手紙は届いている。
「あっ、いたいた!」
そしてその日も私は。
少し恥ずかしがりやで不器用なサンタさんと、一緒に学校へ向かったのだった。
おわり。