赤い鳥居の女   作: 池田 

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第1話

雲一つない空に星がまたたく。

 

 

坂の途中から見た街の灯りは、普段よりもなんだか大人しく見えた。

 

 

人々の静かなざわめきと、煩悩を吹き飛ばさんとする強烈な鐘の音がする中、私は一人で黙々と歩く。

 

 

数十分前の出来事が去年だと言う実感を持てないまま。

 

 

「新年か……」

 

 

さっきまで見ていたテレビの、画面の向こう側。

 

 

そこにあった狂った熱気は、少なくともここにはない。

 

 

なんだか私だけ、去年に取り残されたような気分。

 

 

「しかし……寒い!」

 

 

さて、それはともかく。

 

ここ最近の冬は暖かいなんて言われているが、それでもやはり寒いものは寒い。

 

 

もう少し厚着をしてくれば良かったか……。

 

しかし家に引き返すと待ち合わせに遅れてしまいそうだ。

 

 

「……まぁ、甘酒の一杯くらいは手に入るはず」

 

 

そうすれば、だいぶマシになるだろう。

 

自分を慰めつつ、そのまま目的地の神社へと歩き続けた。

 

 

しばらくすると、やけに目立つ赤い鳥居とその傍らに佇む見慣れた顔が見えてきた。

 

 

「おーっ、神林ぃ!」

 

 

私服に半纏と言う、こたつからそのまま飛び出してきたような格好で、町田さわ子が私の名前を呼んだ。

 

絶対私より遅れて来ると思っていた私は、少しだけ面食らう。

 

 

「待たせちゃった……かな」

 

 

「いやいや、私もいま来たところでさー!それよりあっちで甘酒配ってるから!ほら行こっ!」

 

 

そう言って彼女は私の手をとり、強引に甘酒のある方へと進路を向けた。

 

 

「お、おい!」

 

 

すっかり冷たくなった私の手に絡まる彼女の指が、妙に暖かく感じたのは内緒だ。

 

 

 

 

「んふぁー、生き返るぅ……」

 

 

「あぁ……」

 

 

甘酒を飲んで、人心地がついた。

 

 

先程まで震えていた体も、内側からじんわりと温まって来る。

 

 

「それにしても、人がたくさんいるねぇ」

 

 

鳴らされる鈴の音、賽銭が投げ入れられる音、参拝者が手をたたく音。

 

 

町田さわ子の視線の先に、賽銭箱の前にごった返す参拝客の群れがいる。

 

 

「皆いったい、なにをお願いしてるんだろうねー」

 

 

「そうだな……」

 

 

受験、仕事、恋愛……。

 

 

それぞれの頭のなかに、それぞれの願いがある。

 

 

それをいちいち聞く神様も大変だろうな。

 

 

「はー、こんなに人が来るなんて思わなかったよ」

 

 

「そりゃ、初詣だし」

 

 

「こんなちっこい神社にさぁ」

 

 

「お前、それは失礼じゃないのか……」

 

 

「お参りしたら、もう帰っちゃおうか」

 

 

「……そうだな」

 

 

握りしめた紙コップを捨てて、私達は列の後方に並ぶ。

 

 

一体、何をお願いしようか。

 

 

やっぱり学業……いや、それとも健康……。

 

 

もしくは、前から欲しかった本……とか。

 

 

一つに絞れ、と言われると、逆に次から次へと欲が湧いてくるのは何故だろうか。

 

 

そんな風に、あれこれと考えているとあっという間に私の番がやって来た。

 

 

鈴を鳴らして、二礼二拍手。

 

 

でも、まだ願いは決まっていない。

 

 

どれにしようか、これにしようか。

 

 

神様の目の前に来てまでこんなことを考えるのは、私が欲張りだからだろうか?

 

 

「うーん……」

 

 

「神林?」

 

 

色々考えあぐねていると、町田さわ子が私の名前を呼んだ。

 

 

同時にその瞬間、私の頭に名案が思い浮かぶ。

 

 

そうだ、今年も……。

 

 

「ねぇ、神林ってば」

 

 

「わかったわかった」

 

 

町田さわ子に急かされながら。

 

 

私は最後に一礼して、神社を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

「ねー、神林ぃ」

 

 

「なんだ?」

 

 

「神林はさ、なにお願いしたの?」

 

 

「……なんで言う必要があるんだ」

 

 

「えー、気になるぅ」

 

 

「だいたい、そう言うのは自分から言うのが礼儀だろ」

 

 

「じゃあ私も言うから、神林のも教えて!私はねー……」

 

 

彼女は一拍おいて、私に向き直る。

 

 

「今年も、皆で楽しく本が読みたい!」

 

 

「なっ……!」

 

 

屈託のない、まっすぐな目で。

 

 

いつもの晴れ晴れするような笑顔で、彼女は堂々と宣言した。

 

 

一方私はと言うと、みるみるうちに顔が真っ赤になっていくのが自分でもよくわかった。

 

 

「ほらほら、次は神林の番!」

 

 

「う、うるさい!自分で考えろ!」

 

 

「なにそれひどい!理不尽!教えてー!」

 

 

「黙れぇ!」

 

 

苦し紛れに彼女の頭をひっぱたいても。

 

 

彼女の尋問はしばらく続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前と同じだなんて、言えるわけ無いだろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり。

 

 

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