僕の問いかけに、愛里寿は、少し目を伏せた。
それから、黒目がちなその大きな瞳で、僕を見た。
僕は言った。
「ごめん。いらない捜索だったかな」
「ううん」
愛里寿が首を振った。
「むしろ、聞いてくれてうれしいよ。やっぱり総一郎さんは優しいって思った」
「でも、それで君が何か、嫌な気分を味わうなら」
「大丈夫」
愛里寿が僕を制す。
「詳しくは話したくないけど。ほんの少しだけ、むしろ聞いてほしい、かも」
僕はうなづいた。
すると、愛里寿は、ちょこんっと、ベッドの僕の隣に腰かけた。
小さな肩が、僕に触れる。
「あのね。初めてあなたと出会った日の私、覚えてる?」
「うん」
「泣いてたでしょ?」
「うん」
「あれって、戦車道がらみ」
「うん」
深く知らないことにいい加減な言葉は与えられない。
僕は、肯首するだけに徹した。
「戦車道って、素敵だけど、時々嫌な世界。勝ち負けもあるし、選ばれるもの選ばれないものもあるし」
「それって、勝利の女神にってこと?」
「あらゆる部分で。勝者に選ばれるかどうか、選抜に選ばれるかどうか、才能に選ばれるかどうか……すべてが、まるでレースみたい」
「そっか」
僕は、愛里寿がなぜボコを心のよりどころにしているか分かったような気がした。
何があっても立ち上がるクマ、ボコ。
小さな体で、大学で頑張る愛里寿には、いろんな悩みがあるだろう。
僕は、無意識のうちに彼女の小さな頭を撫でていた。
「あっ」
愛里寿が、くすぐったそうに目を細める。
でも、嫌がらずに体を預けてきた。
「君は強いね」
僕はつぶやく。
「そんなことないよ」
愛里寿がつぶやく。
「ううん。君は強いよ」
愛里寿は、それ以上答えなかった。
その代わり、目を閉じて、僕にもたれかかってきた。
僕は、その小さな頭をしばらく撫で続けた。
「戦車道、それでも、好きなんだね」
小さな声で問いかけると、
「……うん!」
愛里寿が、うなづいた。
※
どれぐらいそうしていただろう。
時計が、18時を知らせてぼーんぼーんと鳴った。
愛里寿が頬を赤らめて、僕から体を少し離した。
「あ、あはは。そろそろ、ボコ、見なくちゃね」
照れ隠しのようにつぶやく。
「そ、そうだね」
僕もなんだか気恥ずかしくなって同意した。
愛里寿がテレビをつけ、DVDプレイヤーにディスクをセットする。
すると、歌が流れだした。
♪やってやる やってやる やってやるぜ♪
「面白い歌だね」
「うん。私、この歌大好き。主題歌なんだよ」
そういうと、再び彼女は僕に、肩を預けてきた。
どうやら、そのポジションがお気に入りになったみたいだ。
僕は、少女の高い体温を感じ、どぎまぎし、ほとんどアニメの内容が頭に入らなかった。
ただ、歌は強烈に印象に残ったけれど。
※
それからしばらくして、人事異動が発表された。
僕は、セクションの長に抜擢された。