金田と別れた後、久しぶりに飲んだ酒に酔いながら、夜道を歩いた。
社員寮のアパートのそばの自販機で水を買い、それを飲み干す。
ふと、先ほどの着信音が気になった。
カバンに入れていた携帯を取り出し、メールフォルダをチェックする。
金田からのメールを受信していた。
どういうことだ?
先ほどの着信音は金田からのメール?
別れた直後に僕にメールをしたのか?
少し不思議に思いながら、受信したメールを開く。
≪プレゼントだ。≫
そんな簡潔な一文とともに、添付ファイルがあった。
添付ファイルにアクセスすると、動画が流れ出した。
「!!」
驚いて僕はすぐにその動画を閉じる。
それは、先ほど金田が僕に見せた冷泉麻子のポルノ動画だった。
誰かに見られなかったか、僕は周囲を見渡す。
擬似とはいえ、ロリ系の女優だ。
他人にいらぬ誤解を与えたくない。
…………。
幸い、周囲には誰もいなかった。
真夜中の漆黒の闇が、空洞のような道路を覆っている。
僕は胸をなでおろした。
「テロかよ」
呟きながら、自室の鍵を開ける。
部屋に入ると、疲れが湧き出してきて、僕はベッドに突っ伏した。
金田にメールを打つ。
≪プレゼント、見ましたよ。まさかあの動画とは≫
すぐに返事が来た。
≪うれしいだろ? 楽しめよ、総一郎。≫
僕はため息をついた。
≪せいぜい楽しませていただきます≫
皮肉交じりの返信をする。
メールを打ち終えると、仰向けになり、アパートの天井を眺めた。
安っぽい、ぼろいアパートだ。
電球が吊り下げられた殺風景な天井は、薄汚れている。
ふと、鼻先に柔らかい匂いがしたような気がした。
花のような匂い。
女の香水のような。
だが、それは気のせいだろう。
香りは一瞬で消えてしまい、もうそれを辿ることはできなくなった。
女……。
体が、猛烈に女を求めていた。
だが、この部屋には女はいない。
安アパートの、薄汚れた天井、染みのにじんだカーテン、壁際に捨て置かれたカップラーメンの空容器。
これが、これが僕の世界か!
愛里寿!
愛里寿!!
君がいなければ、僕の世界はこんなにも真っ黒だ。
君だけが僕の世界を変えてくれる。
なのに、この深夜、君はここにいない。
僕は、携帯を手に取った。
愛里寿の声が聞きたかった。
電話をしたかった。
だが、時刻はもう23時を回っていた。
幼い少女に電話をかける時間ではない。
…………。
………………。
胸の奥がうずいた。
激しい波がやってきて、僕の根っこを揺さぶるようだった。
まるで、『セクシュアル・ヒーリング』のマーヴィン・ゲイだ。
荒れた海を漂うちっぽけな船だ。
酔っていた。
頭が、判断力をなくしていた。
僕は、携帯のメールフォルダにアクセスした。
金田の送ってくれた動画。
まだ、消していなかった。
それにアクセスする。
画面の中に、小柄な少女が現れる。
冷泉麻子。
冷泉麻子。
冷泉麻子。
小さな、幼い少女に見える。
この女は、まるで愛里寿みたいな年齢に見える。
くそっ!
くそっ!!
僕は、画面に見入る。
見入る。
見入る。
画面の中で、少女が、大柄な男に上から押さえつけられている。
男は犯罪的な大きさだ。
小さな冷泉麻子との対比が凄い。
そんなに大きい男が、冷泉麻子のような小柄な女の上に乗り、押しつぶさんばかりに腰を振っている。
飛び散る汗・汗・汗。
なんだ、これは!!
なんなんだ!!!
何で僕は!
こんなにも、興奮、しているんだ!!!!?
僕は、しごいていた。
自分のペニスを。
飛び散る。
飛び散る。
飛び散る。
それは。
きっと僕の汗だ。
※
息も絶え絶えに、ベッドに仰向けになる。
やってしまった。
金田の、擬似ロリ動画で、ヌいてしまった。
動画……。
消さなくて、よかった。
それが、そのときの僕の、正直な気持ちだった。
金田から送られてきた瞬間は、部屋に戻ったらさっさと消してしまおうと思っていたのだが。
まさか、こんなにも、『使えるもの』だとは。
頭の奥がチカチカとした。
感情や感覚、価値観が、塗りかえられている。
…………。
僕は、携帯を、握り締めた。
もう、それなしでは生きていけないような気がした。