「失敗したなぁ」
恥ずかしさで頬にほてりを感じながら、店を出た。
馬鹿なことをしてしまった。
まさか、動画を開いたままだったとは。
擬似ロリなわけだし、問題はないといえばないのだが……しかし、恥ずかしい。
でもまぁ、仕方がないか。
僕はため息をつきながら帰宅した。
※
ボコの限定品を愛里寿にプレゼントするのは、再来週にした。
再来週が、愛里寿の誕生日だからだ。
それに合わせてサプライズする方がいいだろう。
それまでに、愛里寿と遊ぶ機会が日曜日に一度あった。
僕は早くプレゼントを渡したくて仕方がなかった。
彼女の喜ぶ顔が見たかった。
だが、ぐっと我慢をした。
その日は、愛里寿の誘いで二人で映画を見に行った。
映画はどちらかといえば子供向けのものだった。
犬をかわいがっている少女が、引っ越しでその犬と離れ離れになるが、犬が引っ越し先まで追いかけて来てくて再会する……そんなお話だ。
まぁ、たわいのないお話だが、少女役の子役は可愛かった。
その点だけまだ見れるものだったなと僕は思った。
だが、愛里寿の方はというと……。
「うぅっ。ぐすっ」
映画館を出る時には、感動で盛大に涙ぐんでいた。
「再会できて本当によかったね」
ぐしぐしと瞳をこすりながら、僕に問いかける。
僕は曖昧に頷く。
映画はどうでもよかったが、あの他愛もない映画でこんなに感動できる愛里寿の純粋さがたまらなく可愛い。
「そうだな」
僕は愛里寿の頭をなでた。
「えへへ」
愛里寿がうれしそうに身をよじる。
……よかった。
つい、無意識で頭に触れてしまった。
嫌がられないかと思ったが、そうでもないみたいだ。
映画館を出ると、まだ陽が高かった。
映画を見るというざっくりとした予定以外に何も考えていなかったので、少し手持ち無沙汰になる。
「どこか、行きたい所ある?」
問いかけると、
「う~ん」
と、愛里寿が悩ましげに唸った。
「わかんない」
あっけらかんと答える。
「普段は大学と戦車道で一杯で、あんまり外で遊ばないから」
僕は頭を掻いた。
考えてみれば、愛里寿はまだ幼いのに、飛び級をしていて、しかもスポーツをやっている。
子供らしく自由に遊ぶ時間を犠牲にしているのだろう。
目の前の少女が、少しかわいそうに感じられる。
「そっか。それじゃせっかくだし、街をぶらついてみない? 興味があるところが見つかったら、入ってみるといいよ」
「うんっ!」
愛里寿が楽しそうにうなづいた。
そんなわけで、僕たちは、午後の街を歩く。
道路沿いには街路樹が植えられ、ところどころ木漏れ陽がつくられている。
それがひどく心地よい。
休日の街ってこんなにキラキラしているものだったっけ。
木漏れ陽が差し込むと、愛里寿が時々眩しそうに目を細める。
そんな様子が、子猫みたいで愛らしい。
愛里寿は今日もいつものボコのぬいぐるみを胸に抱いている。
道ですれ違った二人組の女子高生が微笑ましそうにそんな愛里寿を見る。
「見てあの子。大切そうにぬいぐるみ抱いてる。可愛い」
「お兄さんとお出かけかな?」
愛里寿の兄と思われたことに、少し心が高揚する。
愛里寿を見ると、不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「あ、愛里寿? どうしたの?」
「さっきのお姉さんたち、私のこと子供扱いした」
あ、そういうことか。
「違うよ、愛里寿」
「そう?」
「うん。可愛いって言ってたでしょ。ボコを抱いてる愛里寿は実際に可愛いんだから。子供扱いとかじゃなくて、そのままの事実を言っただけだと思うよ」
「そっか」
愛里寿は機嫌を直すと、意気揚々と、ボコのテーマソングを歌いながら歩き出した。
いつもは冷静沈着だけど、急に子供っぽくなる。
そういうところが魅力なんだけど、彼女には言わないでおく。
片手でボコを抱き、大きく手を振って歩く彼女の後ろをついて歩くと、カラオケ店が目に入った。
「ね、愛里寿」
「なぁに? 総一郎さん」
「あそこ、入ってみない?」
愛里寿がきょとん、と、僕が指さしたビルを見る。
「歌おうぜ広場?」
「知らない? カラオケ店だよ」
「カラオケ……行ったことないわ」
「ボコの歌が入ってるよ、きっと」
「ボコ!」
愛里寿が目を輝かせる。
「もしかして、伴奏つきでボコを歌えるの?」
「もちろん」
「行く!」
ふんすっと擬音が立たんばかりの勢いで、愛里寿が元気に手を挙げた。