「カラオケってのはね、まず曲を選択するんだよ」
僕はテレビの前においてあるリモコンを手に取る。
「これを使って歌いたい曲を探して、予約するんだ」
「総一郎さん、操作して?」
「オッケー」
リモコン画面の、『曲を探す』をタップする。
「愛里寿、ボコの曲名ってなんだっけ?」
「え、えと……」
「ん? どうしたの?」
何やら愛里寿はもじもじとしている。
「さ、最初に歌うのは恥ずかしいから、まずは総一郎さんが何か歌って……」
あぁ、そういうことか。
まぁ、初めてのカラオケだしな。
まずは僕が見本を見せるべきか。
といっても、そんなに持ち歌があるわけでもない。
音楽は好きだけど、子供のころからもっぱらジャズと洋楽を聴いて育った。
日本の曲といえば、昔のアングラ・フォークぐらいしか興味がない。
流行りの曲を知らないんだよなぁ。
会社の付き合いだと好き勝手歌うとTPOをわきまえろと言われそうだから、そもそもマイクを握らないようにしてるし。
「あのさ。僕、あまり流行の曲を知らないんだよ。適当に好きなの歌っててもいいの?」
問いかけると愛里寿がうなづいた。
「うん。気にしないよ。私もボコしか歌えないと思うし」
それもそうか。
そう言われると、ちょっと気が楽になる。
「それじゃぁ……」
曲目検索で、適当に知っている古いヒット曲を打ち込む。
『キー・ウェスト』
ビリー・ヒギンスの1980年代のスマッシュヒットだ。
僕は子供のころ、この曲を聴いて初めて、アメリカの南に第3世界が広がっていることを知った。
普段カラオケなんてしないから、えっちらおちらなんとか歌いきると、愛里寿が小さく手を叩いてくれた。
楽しそうだ。
緊張もほぐれたみたいだし、僕は彼女に問いかけた。
「次は愛里寿の番だよ」
「う、うん!」
愛里寿が立ち上がる。
「ははは。まだ曲を入れてないよ」
「あ、そっか」
「曲目は何にいたしますか、お嬢様?」
僕が気取って言うと、愛里寿が笑った。
「あのね、ボコのテーマはね、『おいらボコだぜ』っていうんだよ」
「承知いたしました」
リモコンを操作すると、簡単にその曲が現れた。
予約をする。
数秒後、イントロが流れ出した。
「あ、あわわ。始まった!」
愛里寿が両手でマイクを握って再びスタンダップ。
緊張しているのか、少し調子はずれで歌いだす。
さすがにボコられグマのテーマだけあって、なかなかバイオレンスな歌詞だ。
だが、それを愛里寿の可愛い声が歌っているので、ギャップがあって妙にほほえましい。
僕は途中から手拍子を入れていた。
そんな僕を見て、愛里寿が嬉しそうに手を高く上げる。
ハイタッチ!
最後には、二人で『イェーイ!』って声を合わせた。
「ちゃ、ちゃんと歌えたかな?」
一生懸命歌ったからだろう。
うっすらと汗をかいた愛里寿が僕に問いかける。
僕はサムズアップした。
「うん! 歌ってるとこ、すっごく可愛かったよ」
「も、もぉ。そういうこと訊いてるんじゃないのっ!」
ボコっ。
またボコのぬいぐるみでアタックされた。
最近この攻撃が定番になってきてるなぁ。
「つ、次は総一郎さんの番だよ」
「うん。……といっても、僕はそんなに歌う曲もないからなぁ……あ、そうだ。愛里寿、ボコの歌、いろんなヴァージョンがあるよ」
「そういうと、受付のお姉さんが言ってたね」
「うん。ほら、映像付きとか、デュエット版とかあるよ」
「デュエット?」
あれ?
そっちに反応した?
映像のほうに反応するかと思ったんだけど。
「デュエットって、総一郎さんと一緒に歌えるってこと?」
「まぁ、そうなるね」
「やりたい!」
愛里寿がキラキラの目を向けてくる。
ま、まじか。
「あんまりボコの歌、上手に歌えるかわからないけど」
「私もそうだよ。一緒に歌お?」
「わ、わかった」
僕はデュエットヴァージョンを選択する。
おなじみのイントロが流れ出す。
「まずは私が歌うね」
ちょっと背伸びした感じで愛里寿が僕に言う。
お手本を見せてくれるらしい。
その様子が逆に子供っぽくてかわいい。
「さ、次は総一郎さんだよ?」
「お、おぅ」
マイクを手渡されて、僕もうろ覚えで続きを歌う。
愛里寿は僕の歌に合わせて、うなづいたり、手を叩いたり、「あ、ずれてるよ」って表情をしたりする。
最後のコーラスを二人で一緒に歌って、終了。
なんとか歌いきることができた。
「やったね! 総一郎さん!」
「なんとかね!」
それなりの達成感があった。
ほっと一息つく。
「愛里寿、喉乾かない?」
ふと見るとドリンクのグラスが空になっていた。
「入れてきてあげるよ」
「ありがとう」
愛里寿のと自分のグラスを手に、部屋を出る。
ドリンクバーは、細い通路の先にあった。
まっすぐと通路を進む。
ドリンクバーの向かいの大部屋の前を通った時、唐突に高田渡の「自衛隊に入ろう」が聞こえてきた。
大部屋の団体さんが歌っているみたいだ。
古っ。
今時歌ってる人、初めて遭遇するよ。
しかも、声を聴く限り、若い女の子たちだ。
……。
ちょっと、興味が引かれて、ちらっと扉のガラスの向こうを垣間見る。
『知波単魂に栄光あれ!』と書かれた旗を振って、高校生ぐらいの女の子たちが「自衛隊に入ろう」を熱唱していた。
あぁ、あれって、戦車道の制服かな?
そういや、知波単学園ってあったなぁ。
愛里寿がやっている影響で、僕も最近は多少戦車道に詳しくなっていた。
今日は戦勝会か何かか?
しかし、内容を知ってて歌ってるんだろうか。
「自衛隊に入ろう」は、『花と散っちゃう』歌なんだが……。
あ、いや、ある意味、知波単らしいのかな。
たしか突撃好きのチームだったし。
「やれやれだよ」
僕は苦笑しながら、ドリンクバーでジュースを入れる。
氷でひんやり冷えたグラス片手に通路を戻った。
「愛里寿、ただいま!」
ドアを開けると、愛里寿がソファに身を乗り出してテレビの前に刺してあるリモコンを見ていた。
「あ、総一郎さん。おかえりなさい」
愛里寿がお尻をこちらに突き出した格好で、顔だけ振り返る。
ス、スカートが!!
僕は思わず目を見張った。
愛里寿は気が付いていないようだけど、ソファに膝をついて四つん這いになっているから、短いスカートがめくれて、パンツが丸見えになっていた。
ぼ、ボコだ!
愛里寿のパンツは、白い綿パンツで、お尻のところにボコのプリントがしてあった。
その、中学一年生にしては少し幼いパンツに、僕の心臓が高鳴る。
早鐘のように心臓が脈打つ。
「な、なにしてるの、愛里寿?」
「あのね、もう一つあるこのリモコンは何かな?って」
愛里寿が身を伸ばして、テレビの前のもう一つのリモコンを取る。
手に持って、僕に向き合うように体勢を変えたので、もうパンツは見えなくなった。
それでも、今日は少し短いスカートを穿いているからか、ソファに座った状態でも、細い膝小僧が露出している。
僕は、そこから目をそらすことができない。
「ねぇ? 総一郎さん?」
「あ、ご、ごめん」
僕は慌てて愛里寿が差し出したリモコンを手に取った。
や、やばい。
何してんだ、僕は。
いちゃいちゃ書きたいけど……難しい……。