いつまでもボコだと思うなよ   作:忍者小僧

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伊丹老人から受け取った盗撮のための改造ボコは、およそ一週間後の愛里寿の誕生日に合わせてプレゼントした。

正確には愛里寿誕生日は平日で、僕の仕事の都合で会うことができなかったのだが、その代りにその週の日曜日に彼女の部屋でささやかなパーティをした。

僕がかねて用意しておいた『愛里寿ちゃん、お誕生日おめでとう!』とチョコレートで書かれたケーキを見せると、愛里寿は目をうるませて喜んだ。

 

「総一郎さん、本当に、ありがとう」

「そんな、これぐらいのもの用意するのは社会人にはどうってことないんだよ」

 

僕がそう言うと、愛里寿は首を振った。

 

「ううん。これだけじゃないの。総一郎さんは私にいろんなものをくれたよ」

「いろんなもの? 僕が?」

「うん」

 

愛里寿が満面の笑みを浮かべる。

 

「大学であまりお友達ができなかった私の、一番のお友達になってくれたし、カラオケとか、ほかにもいろいろ、私が知らないものを教えてくれたでしょ。そのどれもが私の宝物だよ」

「愛里寿……」

「それにね、カラオケのお姉さん」

「西住って子のこと?」

「うん。西住みほさん」

「あれ? いつの間に下の名前を知ったの? 名札には確か名字しか」

「総一郎さんがトイレに行ってる時に、ちょっとお話してアドレス交換したんだ」

「へぇ……。あれ? でも、会計の時にはもうあの子は受付にいなかったような」

「ちょうどアルバイトが終わって私服に着替えてお店を出るところだったの。総一郎さんを探して廊下に出た私を見かけて声をかけてくれたの。それで、アドレス交換しない?って言ってくれて。もっとボコの話ししようねって」

 

確かに、ボコの話題で盛り上がっていたしな。

 

「それでね、仲良くなって。お友達ができたの、総一郎さんのおかげだよ。総一郎さんがカラオケに連れて行ってくれなかったら、出会えなかったもの」

「そっか」

 

僕は少しくすぐったいような照れくさいような温かみを感じた。

愛里寿が続ける。

 

「これ見て」

 

ブローチを取り出す。

ボコのデザインだ。

 

「お誕生日の日にね、みほさんがプレゼントしてくれたの。お誕生日会を開いてくれたんだよ」

「え……」

「えへへ。これ、おそろいなんだぁ」

 

お誕生日会?

誕生日の日に?

なんだって、そんなこと聞いていないぞ。

僕がせっかくの愛里寿の誕生日に、あのつまらない工場で汗水たらして働いていたというのに、その間に西住みほは、僕よりも先に愛里寿のお誕生日を祝っていたというのか!?

僕が一番に祝ってあげるはずだったのに。

それに、『お揃い』だと?

愛里寿と?

僕だってお揃いのものなんて何ひとつ持っていないのに!?

くそっ。

西住とかいうカラオケの受付の娘、まだ学生風の容姿だったな。

平日に暇があったのか。

畜生!

毎日必死になって働いている社会人を舐めやがって!

畜生!

 

「あ、愛里寿。どうしてそんな、誕生会なんて」

「え?」

「あ、いや。な、なんでもない……」

 

僕は、荒くなった息を抑え込む。

悔しいが、愛里寿を攻めたって仕方がないじゃないか。

しかし、くそっ。

僕は心の中で西住みほにつばを吐きながら、何とか平静を装って、大きめのバックの中に隠しておいたボコのぬいぐるみの箱を取り出した。

 

「ねぇ、愛里寿。これ……」

「総一郎さん?」

「実はね、プレゼントはケーキだけじゃないんだ。これ、貰ってくれないかな」

「いいの?」

「もちろん」

 

愛里寿が箱を見つめる。

 

「開けてみて?」

「うん」

 

小さな手が、慎重に、プレゼント包装のリボンをほどく。

その丁寧な手つきが微笑ましい。

包装用紙を、破かないようにそっと剝していく。

露になった白い箱を開けると、愛里寿が感嘆の声を上げた。

 

「すごい……! すっごく奇麗なボコ!」

「うん。限定版なんだ。愛里寿が喜んでくれるかなと思って」

「す、すごく、すごくすごく嬉しいよ!!」

 

これまで見たことがないほど興奮する愛里寿。

 

「ほら、これ。コンセントが付いているでしょ?」

「うん」

「電気を通せば、ペンダントが淡く光るんだよ」

「見てみたい!」

 

上手くいった。

僕は心の中でほほ笑む。

 

「それじゃ、僕が設置してあげるね」

 

これで主導権を握った。

設置場所を僕が選ぶことができる。

僕はコンセントの位置を確認し、部屋全体がうまく盗撮できそうな位置の棚の上にボコを置く。

伊丹老人の改造によって、台座がついてあるから、据え置きにしても全く違和感がない。

実際には内部に仕組まれた無線ルータへとつながっている電源をコンセントに差し込み、ペンダントの裏にある内蔵電池のボタンを押して、ペンダントを光らせる。

美しい淡いブルーの光を放つ。

 

「わぁ~」

 

愛里寿が目を輝かせた。

 

「きれいだろ?」

「うん!」

「これ、派手な光じゃないから、日中もつけっぱなしでいいと思うよ。電気消費量もすごく少ないから。それと、台座が付いている据え置きタイプだから、ここに置いておこうね」

「わかった!」

 

すべてがうまくいった。

これで、作戦成功だ。

西住という娘には少し出し抜かれたが、ぬいぐるみの設置がうまくいったことで帳消しだ。

いやな気分も吹っ飛んだ。

これで、数日後にでも映像を取得すればいいだけだ。

部屋の中の様子を盗撮する。

きっと、愛里寿の着替えも映るはずだ。

なんて、なんて楽しみなんだ。

あの細い足、可愛いパンツ、そして。

もっと、すごいものが見られるかもしれない。

 

「総一郎さん!」

「な、なんだい?」

 

愛里寿の声に我に返る。

 

「本当に、ありがとう! 大好きだよ」

 

この無邪気な瞳が、僕の本当のたくらみを知らないことに、すざまじいまでの興奮を覚えた。

 

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