愛里寿の家に盗撮用の改造ボコを設置してからは、まるで足が地につかないふわふわとした毎日だった。
朝起きて、工場へと向かい、仕事をしている間も、まるでうっ血した血液が頭の内部を破壊していくかのように心が熱を帯びていた。
それは風邪をひいたときの気分に少し似ていた。
頭がぼんやりとし、細胞が覚醒と懈怠を目まぐるしく繰り返しているような。
心の奥底には恐怖もあった。
改造ボコの中身がばれてしまうのではないか。
もしもそうなったら僕はどうなる?
もちろんお終いだ。
僕はたくさんの物事を失うだろう。
だがそういった理性で押さえつけられることは、もはや意味をなさなかった。
理性を鈍いアンカーが海の底に沈めて動けなくさせていた。
そう、アンカー(碇)だ。
僕の理性は今、深い深い海底に張り付けられている。
そして僕の欲望は、高く高く舞い上り、海から顔を出している。
欲望……。
愛里寿の幼く美しい体を見たい。
その素肌を映像に収めたい。
僕の所蔵する永遠の美術品にしたい。
そういった欲望が、すべてに勝っている。
僕は今、欲望の塊だ。
カチコチに硬くなって怒頂点をつきそうな欲望の塊だ。
突き破る。
突き破る。
僕は突き破る。
欲望の塊となり、理性の壁を突き破る。
なんだ、この熱は。
何かに似ているぞ。
そうか、これは、僕のペニスだ。
初めて勃起したペニスに触れた時の驚きと似ている。
あの、蓄積された熱。
解き放たれず折れ曲がり醜くゆがんだ熱量。
だがそれは生命だ。
僕のすべてだ。
僕は今ペニスになっている。
僕は今、この上なく純粋に、純血に、愛里寿を愛している。
君がほしい。
君がほしい。
君がほしい。
あぁ。
ハーモニカが吹きたい。
唇をべたっとつけて。
ハーモニカを吹き散らかしたい。
そしてフォーク歌手のように歌うのだ、君がほしい、と。
僕は、早朝のジョギングをこの数日の新しい日課とした。
明け方にジャージ姿で家を出る。
目深に野球帽をかぶって、顔を隠している。
ジョギングのルートは、河川公園の脇をとって、愛里寿の住んでいるところを通り過ぎ、その先にある寂れた商店街を通り過ぎたところでUターンすることにしている。
愛里寿。
君が待ち遠しい。
僕は愛里寿の部屋の前を通り過ぎるごとに、胸の疼きを覚える。
なんて切ないんだ!
愛里寿!
君がほしい、君に会いたい。
早く、君の映像がほしい。
君はどんなパンツをはいているんだい?
君はどんな乳首をしているんだい?
君はどんな脇腹をしているんだい?
君はどんな鎖骨をしているんだい?
愛里寿!
君の体はきっと華奢だろう。
君のパンツはきっと幼いだろう。
君の乳首はきっと小さくてつんと澄ましていて、苺のようにピンクだろう。
君の脇腹はすらりと柔らかいはずだ。
君の鎖骨は君の薄い肉付きなら、きっと浮いて見えるはずだ。
触れたい。
触れたい。
見たい。
見たい。
僕は……。
気が狂いそうになっている。
飛び上がりそうになっている。
君の家の前を通り過ぎるとき、こんなにも切ない思いを抱えているんだよ。
君のことをこんなにも想っているんだよ。
愛里寿、愛里寿。
君をこんなにも想っている男がいるんだ。
僕に気付いてくれ。
会社にいる間、僕は憂鬱で死にそうになる。
この工場には、女の子の柔らかさに似たものが何もないからだ。
波状ストレートの灰色の壁、削れた金属の粉っぽい匂い、職工たちのため息。
僕を痛めつけ、苦しめるものばかりだ。
愛里寿の美しさ、柔らかさを知っている僕の脳は、こんなものを受け入れられない。
まるで、ここで働いている間は、監獄にいるみたいだ。
僕は、息苦しいのが嫌いだ。
愛里寿。
早く君に会いたい。
僕が、設置した改造ボコの画像データを受信したのは、一週間後だった。