死を視る王   作:水天宮

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伝承にいわく。

 

アーサー王には三つの顔があった。

 

一つは、公平無私に物事を進め、定める清廉とした名君として。

一つは、冷酷無慈悲に敵対者を排し、徹底した合理を推す暴君として。

 

そして一つは、王の責務も器も関係なく、一人の小さき人間として。

 

 

 

 

 

***

 

荒れた海峡を見つめる。

今立っている大陸(ローマ)側は日差しが差し、麗らかな春の日和だ。

対する離島(ブリテン)側は漆黒の暗雲が立ち込め、今にも稲光が奔りそうだ。

 

 

「王。民の避難が終えました。ローマ側も、契約を破棄する考えはないそうです」

「そうか。それもそうだろうな。如何な腹黒とて、「アレ」には、誰も関わりたくなかろう」

「ルキウス帝は、王に追従する腹積もりと思われますが」

「よい。……これまで色々あったが、それはそれでありがたい」

 

アグラヴェインの報告に応答する。

日々の激務による疲労で草臥れた顔が常であったが、現在は一層疲労の目立つ面持ちだ。

 

 

 

「父上!」

「──モードレット」

 

(息子)の声で、初めて振り返った。

自分と同じ顔……跳ねた毛先や、つりあがった目尻に()の面影を見る。

……そういえば、姉上はどうしているだろう。

 

「俺も、俺も連れて行ってください! あんなのに俺たちの国が滅ぼされるなんて────」

「すまぬ。それだけは、出来ない。分かってくれ」

「っ…………!」

 

それ以上、モードレットは何故とも、ひどいとも言わなかった。

(彼女)は少し粗暴な振る舞いをするが、決して暗愚ではない。

王とも父とも仰ぐ人物が、何故自分を置いて戦いに挑むのか、理解できない子ではないのだ。

 

「だが……そうですね。どうか、(彼ら)を頼みます。いつか、新たな国が生まれるまで、生まれてからも、民を護り、民を導いてほしい。優しい貴方のことだ。きっと、できるでしょう」

「俺に、新しい国の王になれってことですか?」

「それは……さて、どうでしょうね。未来はまだ、誰の手にもわたっていませんから」

 

貴方かもしれないし、貴方じゃないかもしれない、と付け加えた。

 

「滅ぶのは確かに哀しいかもしれませんが、それでも、何もかも終わったわけではありません。ブリテンの民だった彼らならば、この先も強く歩み、強かに生きることが出来るでしょう。……ただ、その手助けを頼みたい。貴方にも、他の騎士たちにも」

「俺に……俺たちに、出来るでしょうか?」

「出来ますよ。だって、これまで私に従ってくれた、誇り高き円卓の騎士なのですから」

 

 

モードレットも、いつの間にか集まっていた他の騎士たちも沈黙している。

この言葉から、彼らが何を考え、何を感じ、何を思ったのかは分からない。

最も、「人の心が分からない」怪物なのだから、当然といえば当然かもしれない。

 

 

 

 

 

「まったく、相も変わらず頑固なことだ」

「マーリン」

 

声に返答する。

 

「これがキミの旅の果て……いささか興ざめの様な、そうでもない様な気もする。何とも不思議なことだ。いずれ崩れ去ったであろう円卓は、突如降ってきた超級の災厄の前に団結し、王独りが戦に身を投じる」

「そうですね。ですが。あまり悲観していません。ブリテンという国は終わりますが、ここに暮らした民はまだ未来がある」

 

沈黙する最初の師に最後の挨拶を。

 

「ありがとう、マーリン。貴方が私の師で、本当によかった」

 

些か、彼の笑みが悲しく見えたのは、錯覚だろうか。

 

 

 

 

「────もう、行きますね」

「父上……王、アーサー王。我が忠義()を奉ずるただ一人のお方。俺……私は、私たちは、貴方と共に在れたこと、本当に喜ばしく思います。これまでの日々、誓って忘却いたしません。本当に、ありがとうございました」

 

そう言って、モードレットは膝をついた。それに従うように、他の騎士たちも膝をつく。

 

 

 

しばし、静寂が海岸に訪れる。

もう思い残すことはない。出来の悪い王だったかもしれないが、それでも私が歩んだ道だ。

後悔なんて、どこにもない。

振り返り、脚に力を入れ、魔力を溜める。最期の仕事を、やりに────────

 

 

 

 

 

 

「──────待ちなさいよ」

 

 

 

肉体が硬直する。

精神が融解する。

魔力が霧散する。

……どうしてか、彼女に会いたくなかった。

 

 

 

「……やめろ、テメェ」

「絶対に嫌。アタシは認めないわよ。あんた一人が、あのバケモノの犠牲になるなんて」

「レディ、ここは下がっていただきたい。もうすでに、王は敵の排除を決められた」

「あんたらはそれでいいかもしれないけど、アタシは嫌よ。絶対に嫌」

 

強靭な足音がする。

しばらく見ないうちに、とても強い女性に育っていた。

 

「……ねえ。アタシとの約束、破る気?」

 

喉の空気が停止する音がした。

 

 

 

「あんた言ったわよね? アタシが作ったアップルパイが食べたいって。その時、アタシはあんたのクッキーがいいって言った。それに、チビたちとも遊ぶって言ったでしょう。アタシの妹が出産したら、顔を見たいって言ったのも忘れた?」

「────それでも、私は行かなくてはならない。貴方たちの、未来のために」

「どうもありがとう。でも、それじゃあ駄目。絶対にダメ。王様らしくアタシたちの幸せ考えてるのはわかるわよ」

 

でも、と言葉を切る彼女に、やめろとも聞きたくないとも言えなかった。

 

「あんたの幸せは、どこにあるっていうのよ」

「──、っ──────」

「……何とか言いなさいよ、あんたにとって、アタシは声すらかけない存在だっていう訳?」

「レディ────!」

「言いたいことがあるならはっきり全部言ったらどうなの!!!!!」

 

 

こみあげる感情を抑えられない。

彼女たちの前では、人間でいられた。育んだ人間の心が、暴れ出して、収拾がつかない。

 

 

「っ……そんな、はずが、ありません。私の友。貴方の前では、人間でいられた。本当に、ただの小娘だった」

「だったら──────!」

「でも! ……でも、行くしか、ないのです。私は、女である前に、王……なのですから」

「王様なら、ちゃんと約束守りなさいよ!!!」

 

思わず振り返った矢先、鋭い平手が頬を穿った。

目元が朱い、亜麻色の髪が艶やかな妙齢の女性が視界に大きく映る。

……いつの間にか、随分美人になったなあ。

そんな、場違いな感想が浮かんだ。

 

 

 

「イヤよ、行かないで、死んじゃいや……あんたがいないなら、幸せなんてこれっぽっちもないわよ…………!」

「──ごめんなさい……ごめん、ごめんね、ごめんね……!」

 

 

 

ああ、決壊してしまった。

彼女に正面から抱きしめられて、目頭が熱くなり、視界が歪んでいく。

 

 

 

「バカ! アホ! 最低! あんたなんて、あんたなんて──うぅ、ああああああ…………!!!!」

「ごめんね、ごめんね……ごめんなさい、ごめんなさい…………!」

 

 

 

ボロボロと涙をこぼし、わんわんと泣き叫ぶ。

……騎士たち(彼ら)の前でこんな醜態を晒すときが来るとは思わなかった。

 

 

 

 

「────わたくしも、彼女と同じ気持ちですわ」

「っ、ギネヴィア……?」

 

 

 

同じように、進み出る王妃。目元は赤く、頬に涙が伝っている。

 

 

 

「本当に、楽しかったのですよ? 貴方様について、宮廷を抜け出し、身分を隠して、皆様と過ごす日々が。ささやかなものでしたが、心温まるようでした。あの時は、王と王妃ではなく、ただ友として在れたのですから」

「そっか……なら、よかった……の、かな?」

「当然ですわ。サラさんと、ご家族と、何より貴方様と何の気負いなく語らうことが出来ましたもの」

 

ぐすぐすと鼻を鳴らし、目元を拭うギネヴィア。

そんな顔をしないでくれ。これじゃあ、何だかランスロットにも申し訳ない。

 

「ん…………ありがとう、ギネヴィア、サラ。でも、ごめん。わたしは行くよ。こればっかりは、どうしようもない」

「はぁーーーーー…………ほんっっっとうに頑固よね。知ってたけど。昔っから変わらないわ」

「む、ひどい」

「どこがよ。……けど、一つだけ約束しなさい」

 

腰に手を当て、勝気そうにニッコリと微笑むサラ。

見慣れた彼女の姿に、またこみ上げるものがあった。

 

「いい? 絶対に帰ってくるのよ? さもなくば、「アーサー王は女との約束も守れない大馬鹿だ」って後世に伝えてやるわ」

「それは勘弁してほしいなあ……」

「なら帰って来てくださいませ。わたくし達は、ちゃんと待っていますわ」

「──────うん」

 

初めて、心から笑えたと思う。

 

 

 

 

「じゃあ、行ってきます」

 

ただ、そう言い残して、大陸から飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブリテン終幕の戦いは、ひと月に及んだ。

海の彼方から時折空を貫く光が、騎士王が挑む死闘の過酷さを物語っている。

 

 

 

帝国との間に交わされた契約の元、一時避難したブリテンの民。

彼らは朝日が昇るとともに、海岸に集い、遠い小さな島国を見つめていた。

時に、騎士たちも民に加わった。

ローマの民でさえ、その集まりに紛れ込んでいた。

彼らもまた、自らが奉じる皇帝の戦いを見つめているのだ。

 

 

 

 

 

そうして、天を奔る光の数が増え始めたころ。

 

 

 

突如、()()()()()()()

誰もが恐れ慄き、この世の終わりかと絶望に浸りかけたその瞬間。

 

 

七色の極光が押し返し、黄金の極光が打ち砕くのを、確かに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地を駆ける。

剣を振るい、襲い掛かる敵を機械的に排除する。

 

「ったく、多いな! いつの間に蛮族どもは、ここまで増えたのか、知らないか騎士王!」

「知りません。大方、貴殿の国へ避難させている間に増殖したのでしょう」

「中々の繁殖ぶりだ。外敵ながらあっぱれだ」

 

同じように剣を振るうルキウス。

楽しそうに軽口をたたくが、その顔には明らかに疲労している。

羅刹とも剣帝とも畏れられる彼とて、此度の様な人智を超越した怪物とは分が悪い。

……もっとも、それは同じくこの戦線に参加している私の師とて同じだが。

 

 

 

 

 

「───おいアルトリア。先程奴らの巣をとりこぼしていた。もっと周囲をよく見ろ」

「本当ですか? 申し訳ありません、以後気を付けます」

「別に、私が欲しいのは謝罪ではない」

「は……ありがとうございます、オーディス」

 

エレンで構わん、と緑衣をまとった長髪の男性が不機嫌そうに口を歪ませる。

ほう、と傍らのルキウスが興味深げに顎を撫でた。

 

「なるほど、貴殿があの名高き「深緑漆黒の叡智館」の主か。こんなときでなければ、ぜひ古今東西の知識を(ローマ)に教授して頂きたいところだが」

「貴様のような侵略中など誰が相手をするものか。生まれる前からやり直せ」

 

ガツン、と所持していた分厚い書物の角でルキウスの頭頂を殴る師。

 

 

 

 

 

──何処かの森林の奥深く、洞窟を超えた果て。眠るように、静かに佇む、神代より続く知識の宝庫がある。

正式な名称は知らない。ただ、人はそこを「叡智館」と呼ぶ。

そこを管理する男が、かつて私が数年間教わった師匠の一人、エレン・オーディス。

気難しい彼だが、その知識量に神代級の魔術の腕は本物だ。

 

 

 

 

 

 

「──────そこ。口を動かすならば手を動かせ。ピクト人は未だ無限に湧き出ている。このままではいずれこの島は奴らに埋め尽くされるぞ。それでよいのか、ブリテン最後の王」

「いえ、よくありません。忠告痛み入ります、スカサハ」

「よい」

 

 

 

 

此方に向かってくるピクト人を大量の朱槍で一掃する、黒い戦装束で豊満な肉体を覆う女性。

名はスカサハ。影の国と呼ばれる魔境の女王にして門番。

かつて、ケルトの神話において、クー・フーリンやフェルグスをはじめとした勇士たちを鍛えた神殺し。

彼女もまた、私を教え導き、あの朱槍と原初のルーンを授けた師の一人だ。

 

 

 

 

「ほう、お前が大陸の剣帝か。なるほど、巨人の腕に魔剣……中々悪くない。おまけに王の器も十分と来た。これが遠き帝国(ローマ)の人間であることが残念でならん。全く、巡り合わせが悪いな」

「確かに、(ローマ)も貴殿のような優美かつ勇壮な戦士に教えを受けたかったがな。まだ死にたくはない」

「空気の読めぬ奴よ」

 

ピクト人を斬り殺し捨てる。

私も同様に、無言で敵を駆逐する。

 

 

 

 

「全く……これだから脳筋は。汗臭くてかなわん。アルトリアが居なければ早々に帰るところであった」

「本当に何から何までありがとうございます。ここまで私が生きてこれたのも、師匠達のおかげです」

「構わん。どっちにしろ、ここで外敵を徹底的に排除せねば我々の居所も失せる」

 

炎が敵を焼き払う。

 

 

 

 

「それにしても、騎士王。どうしてこうも師に恵まれているんだ? 何度も(ローマ)を人外扱いしていたが、貴様も大して人のことをいえんぞ。叡智館の主に影の国の女王。あちらで暴れている第二第三の秩序。そして花の魔術師」

「貴殿にも師はいたでしょう。むしろ完全な独学でその境地に至ったほうが恐ろしいです」

 

ルキウスが指差した先では、人知を超越した地上戦と空中戦が繰り広げられていた。

 

空中では、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが朱い月のブリュンスタッドと愉快な仲間(配下)たちと。

地上では、エルーシャ・ユリセシカ・フォン・アインツベルンがORTと。

それぞれに死闘を繰り広げていた。

 

 

 

 

「楽しそうですね。エルーシャは単なる耐久戦になっておりますが」

「……むしろ、第二のほうが頭おかしいな。黒翼公も白翼公もついていけてないではないか」

「ほぼ一騎打ちか。ふむ……月の王であれば、私を殺せるやもしれぬが……」

「どうでしょうね。ゼルレッチは純粋に、彼の王を嫌っているようでしたが」

 

 

 

 

 

────アイツ、あの、朱い月? ちょーむかつくわー。まじ死ねって感じ。

 

────あ、分かるー。あたしもね、あの、まあきゅりー? っていうの? 邪魔だなぁって

 

────だよなー。……え? 何? 襲来? 攻めてくんの? おまえんちまで?

 

────………………………………。

 

────…………ま、混ぜろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!

 

 

 

 

 

そんな勢いのままにブリテンまで飛んできて、そのまま戦線に参加したのが記憶に新しい。

何にせよ、強力な援軍であることは確かなので、思う存分に力を振るってほしい。

 

 

「その結果が蛮族に加えて死徒の襲撃、という訳か。悲しむべきか、笑うべきか」

「どちらにせよ、ブリテンを蹂躙する外敵は徹底的に潰します。ええ、掃除です」

「はははは、言うではないかアルトリア。ではしばらくあの軍団を潰してこい」

「承知」

 

女王の無茶ぶりとも思える指示に従い、死徒の軍勢に斬りこむ。

さすがは朱い月に従う者といったところだろうか。私の不意打ちにも的確に対処し、効率的に動いている。

 

 

 

……もっとも、この眼の前では、あまり意味がないのかもしれないが。

 

 

 

「直死──────」

 

 

 

脳が過熱しているような感覚。

視界に映る死徒たちの肉体に、青の線と点が浮かぶ。

正確に、されど素早く、なぞり、そして穿つ。

それだけで敵は見る間に崩壊していった。

 

斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、斬って、穿って、

 

 

 

 

 

 

そうしてどれだけ殺したか分からなくなった瞬間。

不意に、影が差した。

見上げると、大きな影が空を覆っていた。

 

 

 

 

────()()()()()()()()()

 

 

 

 

「────────────」

 

 

 

余りのことに理解が追い付かない。

ただ、「あれも排除しなければ」と機械的に、脊髄反射のように思考した。

 

 

 

 

「アルトリア! あとエルーシャも! ちょっといいか!」

「え────ゼルレッチ……?」

 

降りてきた師にパチパチと目を瞬かせる。

 

「何? あの月をどうにかする手段でも思いついたの?」

「一応な。俺なら「アレ」を押し戻せるから、アルトリアには木端微塵に砕いてもらう」

「な────む、無茶苦茶です! そもそも星を砕くとか、聞いたこともありません!」

「え、お前のビーム聖剣、一応そういう用途のためのものだけど?」

 

キョトン、と聖剣を指差す師匠。

 

「あんま気張るなよ。俺らがフォローするからよ」

「そうだね。それに、ほら。師匠としては、弟子にいいところみせたいじゃん?」

 

にこり、と二人そろって笑顔を浮かべる。

……剣帝の言うことも事実だ。私は、本当に人間に恵まれている。

 

「分かりました。やりましょう」

「おう!」

「ついでだし、あの水晶蜘蛛も一緒にフッ飛ばしちゃえ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

降下を続ける月球にぶつかる七色の光。

発生源は、第二の魔法使い周辺に展開された魔法陣。

そこから放出される大量のエーテルが月の虚像を押しとどめる。

 

「チッ……まだ足りんか。なら──────!」

 

キィン、とゼルレッチの肉体が光を纏う。

 

 

 

「筋系、神経系、血管系、リンパ系、疑似魔術回路変換──全細胞、平行境界疑似転換、開門!」

 

 

 

ブシィッ……と、肉体から鮮血が吹き出す。

何のためにここまで戦うのか?

決まっている。月世界の王が気に食わないからだ。

己が目的を果たすためならば、自らの命さえ削るのが、魔術師────魔法使いの在り方だ!

 

 

 

 

 

 

全・多元重奏飽和砲撃(クウィンテット・フォイア・フルコーラス)!!!!!!!!」

 

 

 

果たして、虹色の極光は巨星を押し返した。

そして────

 

 

 

「────束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。これこそは人が抱く希望、栄光という名の祈り」

 

 

 

 

 

宙より来たる魔星を打ち砕くは、星より産まれし神造兵装。

 

 

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)────────────!!!!!!!!」

 

 

 

黄金の輝きは、堕ちる星を打ち砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっはっはっはっは! どうだ、みたか! 人類をなめるなよ、よそ者!」

「────なるほど。確かに、これは我々の敗北か」

 

ボロボロの肉体だが毅然と立ち、高らかに笑うゼルレッチに朱い月は静かに敗北を認めた。

私もか細い息をかろうじて続けている。

……それでも、この王は、何としても消し去らなければならない。

 

 

 

 

「覚えておけ、朱い月」

 

 

ふらり、と起き上がる。

 

 

「貴様が本当に、この星を支配できると思っているのなら」

 

 

瞳を閉ざし、右頬に右手をあてがう。

 

 

「そんなくだらん幻想を打ち砕かれ────」

 

 

手を滑らせて、瞼を閉ざして覆う。

 

 

「────惨たらしく絶命しろ……!!」

 

 

眼を見開いた瞬間、全身が悲鳴を上げ、軋みだすのが感じ取れた。

ビキビキベキバキボキボキ! と、筋肉も内臓も嫌な音を響かせている。

それでも、私は眼前の王を視続けた。

この男を排除しなければ、この国に明日はない。

ただ、直感的にそう思った。

 

 

 

「っ……ぐ、貴様────その、眼は……!」

「はあああ…………あああああああああああああああ────!!!!!」

 

バロールの魔眼。

ケルトの神話における、視線で対象を死に至らしめる。

オリジナル程とはいかなくても、動きを止めて生命力を削る程度のことはできる。

 

 

 

動きを止められるなら、それだけで十分だ。

 

 

 

「っ、せえええええええええええええいい!!!!!!」

「な────」

 

ゼルレッチが振り絞るように光線を放出する。

無防備な朱い月に直撃し、虹色の光が暴発する。

 

「ほぼ無尽蔵の第二魔法を侮ったな! とどめだ……爆、散!!!」

 

 

 

耳をつんざくほどの轟音を上げて、光が爆ぜ散る。

後には、何も残らなかった。

 

 

 

 

「いえーーーーーい!!! 祝! 月世界の王(タイプ・ムーン)、とうばーーーーーーーーつ!!!!!!!」

 

 

 

元気に飛び跳ねる師匠が羨ましい。

……あれ、この男、死徒になってしまうんじゃ……?

 

 

 

「────ちょっと! そっち終わったんならこっち手伝ってよ! 水晶蜘蛛吹っ飛ばすよ!」

「おおそうだった。よし行くぞアルトリア!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の関門は、この戦線に参加した全員で取り掛かることになった。

まず私こと、ブリテンを治めた騎士王、アルトリア・ペンドラゴン。

そして当代のローマ帝国皇帝、ルキウス・ヒベリウス。

我が師。深緑漆黒の叡智館管理人、エレン・オーディス。

影の国の女王、スカサハ。

第二の魔法使い、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。

第三の魔法使い、エルーシャ・ユリセシカ・フォン・アインツベルン。

 

 

 

 

このそうそうたる面々が全力で取り掛かっても勝てるかどうかわからない……むしろ分が悪い存在がある。

それこそがORT。タイプ・マアキュリー。水晶渓谷の大蜘蛛。

 

 

 

 

「それで、エルーシャ。どうやってアレを吹っ飛ばすっていうんだ?」

「読解力ある? 吹っ飛ばすって言ってるんだけど? 外宇宙にだよ?」

「ほう。では、その前に奴を抑え込む役回りが必要だな」

「ルキウス帝……?」

 

 

そう私が問いかけた瞬間、ズガアアアン! と、轟音と衝撃が大蜘蛛にぶつけられた。

 

 

 

 

 

 

「な───おい侵略中! 貴様何をしている、貴様の人柱など、趣味は悪いにも程がある!」

「そういうな叡智館の主よ。だが第三の策略を達成するには、こうするしかあるまい?」

「ですが、それでは貴方が……!」

「相変わらず優しいな。だが、ここまで(ローマ)が命を繋げたのも、ひとえにお前のおかげかもしれん」

 

 

 

その恩義に報いる時だ、と剣帝は朗らかに言い放つ。

 

 

 

「何、心配することはない。(ローマ)は……(ローマ)は、帝国(ローマ)は、人類(ローマ)は、ローマは不滅だ! これしきのことで死するものか! さあ、やれ騎士王、アルトリア! お前が希望を託す民のために、未来を拓くがいい!」

「っ──────感謝いたします、ルキウス!」

 

 

 

ルキウスの声に背を押されるように槍を高く掲げる。

 

 

 

「聖槍、抜錨……最果てより光を放て───其は空を裂き、地を繋ぐ、嵐の錨!」

 

 

 

さようなら、ルキウス帝。

胸中で、静かに呟いた。

 

 

 

「────最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)──────!!!!!!!」

 

 

 






アルトリア・ペンドラゴン

ブリテンの騎士王。性別は女性だが、男性と偽って王の位に在った。
実は転生成り代わりだが、記憶がほとんどない。ただしメタ知識はある。



□□□□□。
その□□□を□□した□□□□によって肉体が□□に□□されている。
しかし、□□の□□□□で□□□□。脳が死を理解し、魔眼に覚醒した。

魔眼は紺碧。線と点は青。性能は超級。自壊覚悟でバロールの魔眼(弱)レベル。

後の「□□□□□」の□□となった、□□といえ□□□ない□□。
もっとも、□□□□により□□に□□□されている。
せいぜいが□□を□□して□□を□□、という程度。
故に、□□□□にはあまり乗り気ではなかった。

選定の剣を抜き、王となって歩んだ道に後悔はない。
そもそも彼女は国のためではなく、民のために王となった。
次の世代に繋げるため、新たな時代を始めるため。
ブリテンは終わるけれど、それは決して悲しいことではなく。

美しく愛おしい人々の未来に、輝きがあらんことを祈って───





現在、本体はアヴァロンに封印されている。
サーヴァントとして召喚される分体はいわば「夢」のようなものらしい。
また、暇つぶしに自身の分体を人間に転生させている。

実は長らく殺人衝動に悩まされてきた。
無自覚だが、聖杯戦争に参加するのは合法的に殺せるから。
こっそり「ジャック・ザ・リッパー」の正体とされる一人に数えられている。






*分体一覧

サーヴァント
聖杯戦争に召喚される分体。
本来、彼女が召喚に応じることは皆無だが、抑止案件のみ召喚される。
現界するにあたって在り方は大きく三つに分かれる。
「名君」
 青。清廉とした騎士王。割と自重する。
「暴君」
 黒。冷酷無慈悲。自重をやめた。
「少女」
 白。どこにでもいる穏やかな人間。
これは、生前に用いていた仮面(ペルソナ)に由来する。
基本的に召喚者の性質に沿った在り方で召喚される。


転生体
戯れに転生させた分体。記憶の有無・騎士王の自覚レベルはまちまち。


独立体
完全分離した分体。
本体との接続は断たれており、現界終了後に記録が戻ることもない。
独自に変化・変質することが多い。一種のアルターエゴ。
現状、本体が把握しているのは三件。
 ・謎のヒロインX
 ・謎のヒロインXオルタ
 ・■■■■■■■■■



*隠しスキル

□□
□□□□に由来。彼女の□にはわずかながら□□を□□する□□がある。
□□□でも□□□□□ほどに□□□□。ちょっと□□□□□□。
……なのだが、直死の魔眼は超低確率で□□□□□□□□と□□□□が発生する。



*関係者各位(一部)

キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ
魔法使い。師匠の一人。死徒になっていない……?

エルーシャ・ユリセシカ・フォン・アインツベルン
魔法使い。師匠の一人。

スカサハ
影の国の女王。師匠の一人。

エレン・オーディス
叡智館管理人。師匠の一人。

サラ
生前の友。

朱い月のブリュンスタッド、ORT
仇敵? 消滅もしくは成層圏突破。




----

というわけで多分あるだろうけど作者は見なかった直死もちセイバーさんです。
シキトリアさんってよんでね!



ちなみにブリテンの結末についてですが。

朱い月が襲撃する二次小説→ある
ORTが襲撃する二次小説→ある

どっちも襲撃する二次小説→少なくとも作者は見ていない

という短絡的な発想によります。


プロフィールの伏字は多分この先解放される、はず。
そこまで進めないといけませんね。


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