死を視る王   作:水天宮

2 / 20
第四次聖杯戦争
2


 

 

 

時間が止まったような心地だった。

「ソレ」以外に何も認識することが出来なかった。

 

一点の曇りなき、突き抜けるような蒼天に、魅了された。

 

否、魅了なんて言葉では全く足りない。

四方八方から雷で撃たれ、全身の血液が濃厚な酒で満たされたような心地。

 

視界がくらくらと歪む。思考がまとまらない。

心が騒がしく喚きたてている。

 

強烈な激情を訴える。悲哀の静謐で満ちる。

□としてあるまじき醜態。

 

 

だが。

 

余りにも……居心地がよかった。

 

 

────なんて、美しい。

 

 

この瞬間、己にとって最も重要な「何か」を叩き壊されたのかもしれない。

 

あってはならないことかもしれない。植え付けられた偽の情かもしれない。

 

 

 

 

 

 

それでも、この心を締め付ける疼きは、紛れもない真実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「問おう、貴様が私のマスターか」

 

真冬かと思わせるほどに冷酷な声色に思わず内心で苦笑した。

従者としては落第、下手すれば自害もやむなしのクソ態度である。

もう王として振舞う理由など、私には無いのだが、それでも騎士王を求められた。

それも、効率と合理の権化ともいえる暴君の貌として。

 

世界を認識し、認識されるとともに明瞭になる視界に大きく息を吐いた。

空を走る青い線。その交差する箇所は大きな点が在る。

胸の裡から安堵と落胆の入り混じった何とも形容しがたい複雑な感情が沸き起こる。

死してサーヴァントになってまで、私はこの魔眼と付き合わねばならないらしい。

この魔眼が操作できるようになったのは、はて何時のことだったか、と余所事を思う。

 

 

 

 

 

「……聞こえなかったか。問いに応答することもできないのか、此度の主は」

「あ──えっと、ごめんなさい。驚いてしまったの。それで……」

 

意識を集中させて、青い線と点を消し、改めて声をかける。

白髪赤目の女が申し訳なさそうに答えた後、視線を傍らの男に移す。

無精ひげ、光のない濁った瞳。くたびれた黒い外套。

男の手の甲には剣を模したと思われる真紅の令呪が刻まれていた。

……沈黙したまま一言も発しない。念のため、改めて問いを投げることにした。

 

「貴様がマスターで相違ないな?」

「…………あぁ。僕がアンタのマスターだ、セイバー」

「了承した。これより私は貴様と共にあり、貴様の運命を私が剣で守護することを誓う。ここに契約は成立した」

 

地獄の底まで付き合ってやる、と締めに付け加えると目に見えて嫌そうな顔をした。

男──衛宮切嗣は性根はともかくやり口が全くもって気に食わないがこれも縁というものだろう。

せめて、大災害などという結末に終わらないように動ければいいのだが。

 

 

 

 

 

「わたしは、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。今後、夫とあなたのサポートをするわ」

「アインツベルン……了承した。今後とも、よろしく頼む、アイリスフィール」

「ええ、もちろん。それと、あともう一人、久宇舞弥って女性が切嗣の助手にいるわ」

 

了承した、と頷いた。

傍らでマスターが憮然とした顔をしている。

 

 

 

 

 

「それで、その、セイバーって……」

「何だ?」

「女の子、なの?」

「……ああ。生前は性別を偽っていたがな。大して問題は生じないと思うが、どうかしたのか?」

「いえ……ちょっと、びっくりしちゃったから。ね、切嗣?」

 

夫に話を振るも、当の本人は何も応答しない。

……そういえば、衛宮切嗣は当初、少女に王を押し付ける周囲に怒りを抱いていたとか。

アイリスフィールはパチパチと目を瞬かせ、困ったように眉尻をさげながら場をつなぐために再び口を開こうとし、

 

「あの──────」

「一応言っておくが、憐憫も義憤も不要だ。私は私自身の意志で男の王として立ち、ブリテンを治めてきた。望まれはしたが、押し付けられた覚えはない。私は私の選択を後悔していない。正しくはなかったかもしれんがな」

「っ──そうよね、あなたが選んだ道だものね。わたしたちには想像もつかない、厳しい道だったとしても」

「だが、何らかの感情を抱いたことは、素直に嬉しい。私が進んだ道が、現在(いま)に残っている証だからな」

 

ありがとう、と礼を述べた。

……自分では、微笑んだつもりだが、上手く笑えていただろうか。

 

 

 

 

 

 

「────とはいえ、それはそれ、これはこれ。どうあれ、今の私は貴様の駒だ。上手く使えよ、マスター」

「……アンタに言われるまでもない。精々上手く暴れてくれ。こっちはこっちで聖杯を手に入れる」

「その言葉、忘れるなよ。────聖杯で思い出したが、貴様の聖杯にかける願望は何だ?」

 

沈黙するマスター。訝しげに私に視線を向ける。

 

「何故それを聞く?」

「ただの興味と確認だ。言いたくないなら言わなくて構わない」

「そういうアンタはどうなんだ」

「私か? 願望なぞ、あるわけがない」

 

私がそう言い放つと、マスターもアイリスフィールも奇妙な物を視る目つきで私を見つめだした。

 

「なんだ、その眼は」

「……じゃあ、アンタは何のために召喚に応じたんだ」

「単に此度は抑止力によって駆り出されただけにすぎない。この聖杯戦争、余程危険な代物になるらしい」

「そんな……」

「貴様の願望に興味はないが、くれぐれも注意しろよ。"地獄への路は善意で舗装されている"なんて、よく言うだろう」

 

 

 

 

 

どの道、聖杯が「この世全ての悪」に汚染されている以上、どんな善き願いであっても、人類を呪う災厄と化すのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「触媒に『鞘』を利用したか……姉上がどこにやったかと思ったが、まさか1500年も土の中とは」

「感想はそれだけか? これでは奸計を巡らした妖妃も報われないな」

「王位簒奪のことなら当の昔に察知していた。今更大して感慨もない」

 

 

 

一日たって。

作戦会議、と称してアインツベルン城の一室にてテーブルを囲んでいる。

召喚当初は顔をあわせなかった久宇舞弥も揃っている。

 

 

 

 

「私の宝具はまず約束された勝利の剣(エクスカリバー)風王結界(インビジブル・エア)破魔の宝剣(モルデュール)夜天の羽衣(グェン)の四つ。全て遠き理想郷(アヴァロン)はそちらが使うのだろう?」

「ああ、アイリに埋め込む。セイバーはアイリと共に行動し、囮として攪乱して欲しい」

「なるほど。他マスターとサーヴァントが彼女をマスターと誤認している隙にマスターと久宇が行動する、と」

「理解が早くて助かる。宝具の効果はどのようなものだ?」

「聖剣は対城宝具だ。隠すために、風の鞘で隠している」

 

 

実際に剣を現出させる。聖剣は風を解き、隠していた黄金の刀身を露わにした。

三人が息を飲む。確かに、この黄金色の輝きは、誰もを魅了する美しさを持っている。

 

 

 

「本来、空気の屈折を利用して剣を隠し、真名の露呈を防ぐためのものだ。開放すれば、一時的な風の攻撃……風王鉄槌(ストライク・エア)として利用することが出来る。それ以外にも応用は可能だ。最も、再び剣を隠すため風を集めるのに時間がかかるがな」

「扱いはアンタに任せる。あと二つは?」

破魔の宝剣(モルデュール)は魔術の効果を打ち消す。主に魔術師の工房攻略に有用だ。戦闘ではこちらをメインで用いる予定だ。聖剣も、使う時は使うがな。夜天の羽衣(グェン)はいわゆる隠蔽宝具だ。ステータスも隠匿できる」

 

そう説明して、剣をしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「……この書物は、参戦マスターの情報か?」

「ああ。現在までに分かっているだけで三人だ」

 

マスターが三枚の写真つき書物を並べる。

 

 

 

「まず御三家の遠坂時臣。触媒は、最古の蛇の抜け殻。恐らくは、メソポタミアの英雄王ギルガメッシュだろう」

「とんだ大御所だな。扱いを誤って自滅しそうだ」

「その隙を突ければ敵じゃない。それと、遠坂の元弟子という立場の男に教会の言峰綺礼、という人物がいる」

「裏で密かに同盟を結んでいるわけか。監督者も多忙だな」

「時計塔から、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。征服王の衣服の切れ端を盗まれ、代わりの触媒を用意したようだ」

 

運がないな、とその魔術師にわずかながら同情する。

 

 

 

「それと、間桐雁夜という男がいるが、そこまで大した脅威ではないだろう」

「なるほど……しかし、よくここまで情報を集められたな。相当な労力がかかっただろうに」

「知り合いの情報屋に依頼しただけだ」

「そうか。そのやり手の情報屋に感謝するとしよう。マスターはどれを脅威と見る?」

「……サーヴァントとしては遠坂、マスター単体なら……」

 

逡巡するマスターの視線を追う。

目線はカソックを身に着けた男の写真周辺を彷徨っていた。

 

 

 

「言峰綺礼……かつては代行者、か。なるほど、戦闘力は全マスターの中でも随一だろうな」

「──アンタは勝手に暴れてくれればいい。聖杯戦争は、僕の手で勝ち上がる」

「了承した。易々と死んでくれるなよ、マスター」

 

 

 

静かに応答する。

相変わらず、衛宮切嗣は不機嫌そうに俯いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side:衛宮切嗣

 

 

 

 

 

 

外見に見合わぬ凍りついた瞳と動かない表情、冷え切った声色が恐ろしいと感じた。

同時に、年端もいかぬ少女がこのような態度しか表せないことに怒りを抱いた。

 

四人で作戦を立てているうちに、セイバーの異様さが身に沁みるように実感した。

余りにも容赦がない。冷酷に過ぎる。

あれでは怪物も同然だ。あんな人智を超えた怪物が王の座についていたなんて、正気の沙汰ではない。

……しかし、彼女は「望まれて王となった」と言っていた。

それはつまり、あのような怪物であることを民と騎士に望まれた……ということではないか?

 

 

 

 

「吐き気がする」

 

思わずつぶやいた。

いや、いい。怪物であることはまだわかる。ブリテンが彼女を怪物に仕立て上げたことも、まだいい。

何より気に食わないのが、彼女は正論を言っていたことだ。

 

 

 

 

 

 

────このホテルとやらの最上階、か。まるで狙ってくれと言っているようなものだな。

 

 

 

作戦会議の際、セイバーが言っていたことを思い返す。

 

「外から攻撃するより内部から忍び込んだ方がいいだろう」

「……一応言っておくが、これは戦争だ。神秘の秘匿とか、周囲の影響とか、考えるのは無駄だ。ホテルそのものを爆破する。魔術師(ロード)の工房など、意味をなさない」

「────愚か者。自分が何を言っているのか理解しているのか?」

「何だって?」

 

 

奇妙な物体を観察する眼差しに、背筋が凍った。

 

 

 

「建物ごと破壊など、無駄の極み、愚の骨頂。標的のみを確実に潰すのが、真なる暗殺。一々余計な手間をかける前に、もっと効率的かつ確実性の高い手段を選びなおせ。まさかとは思うが…………貴様、これまでずっとそのような徒労をしていたのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう問うセイバーに沈黙しか返せなかった。

黙り込む僕を見て肯定と受け取ったのか、彼女は呆れと失望のため息をついた。

先が思いやられる、と感情が読めない顔にそう浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、くそ」

 

 

苛立ち混じりに言葉を吐き出す。

 

 

セイバーは正しい。だが、それを僕に当てはめないでくれ。

彼女のような類まれな資質もない。王としての器なんて、最初(ハナ)からない。

僕が出来る精一杯をこなして、必死に駆け抜けて、今日という日を迎えたんだ。

それを何も知らない小娘(怪物)に否定されるなんて、おか()しいだろう。

 

 

 

すでにこの戦争にネガティブな展望が染みてきた。

煙草を吸いながらその染みを思考から振り払う。

それでも、僕は……この戦争を、人類史最期の闘争にしてみせる。

邪魔をするなら、騎士王であろうと打ち破る。

 

 

 

 

通信を起動する。

 

『ほいほーい! 何をお求めかな衛宮! あれ以上はちょっと日付を置いてほしいな!』

「いや、あれはあれでいい。他の……ライダーとキャスターの詳細を教えて欲しい。それと、触媒の詳細が不明だったアーチボルトと間桐が召喚したサーヴァントは分かるか?」

『なるへそー! あ、ライダーは征服王だよ! どうもマスターは触媒盗んだ生徒さんっぽいね! って、よく調べたらロードの生徒が一人休学して何か冬木入りしてた! メンゴメンゴ! キャスターはまだ未召喚だね! 間桐はバーサーカーでケイネス氏がランサーだよ! 真名はバーサーカーの方は分かんないね! ランサーはむっちゃイケメンだし黒子あるからフィオナ騎士団の輝く貌(ディルムッド)じゃないかな!』

「……もうそこまで分かっているのか。それと、アサシン……山の翁は、どのような能力だ?」

『んー……なんか、分身? 増殖? 分裂? とりあえずむっちゃ増えるよ~』

「遠坂と教会の様子は分かるか?」

『さすがのボクも自分の命は可愛いんだなこれが! 千里眼もちに情報収集とか命がいくつあっても足りないね!』

「それもそうだな」

 

 

 

ほう、と息を吐き、白い煙が寒々しい夜空に溶けるのを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうでもいいが、どうやって情報を仕入れているんだ?」

『え? 監視カメラとか盗聴器とかだけど?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

オリジナル宝具

破魔の宝剣(モルデュール):随所に宝石が埋め込まれている。

夜天の羽衣(グェン):フード付き。紫というか紺というか黒というか……。

 

 

 

切嗣とシキトリアは原作ほど険悪ではない……が、そもそもの相性が悪いため仲はお察し。

仕事の時はしっかり連携とるけどね! お互いがお互いを子供だと思ってたりする。

 

シキ「経歴と性根はともかくやり口がクソ。一人の魔術師潰すために全部爆破とか馬鹿なの?」

ケリィ「人間じゃないくせに一々正論言うとかムカつく。こんなんが王とか周囲の連中正気か」

 

シキトリアさんはメタ知識でケリィのやり口は何となく知ってるが詳細は知らない。

 

 

 

それでも互いが互いを笑えない状況にはある。

人間の愛情と温かみを知って心が弱くなってしまったあたりとか特に。

 

 

 

 

 

オリキャラ

情報屋:マシンガントーク。テンション高い。切嗣と腐れ縁。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。