死を視る王   作:水天宮

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おそくなってすいません。
やっと直死の魔眼がでます。短いけどね。





6

 

 

 

どうにか帰還した後、私はアイリスフィールの誘いに乗って夜間ドライブを堪能していた。

最初はそれこそアイリスフィールに運転を任せていたのだが。

 

 

 

 

「ねぇ、セイバー? そろそろ変わってくれないかしら?」

「アイリスフィール、まだ五分だぞ……」

 

隣からの声に思わず辟易してしまった。

視線は前方のまま、夜の道路を自動車で走り抜ける。

 

 

 

 

「そうだけど……ね、お願い」

「悪いが少し待ってくれ。サーヴァントの気配がする。このまま運転を代わるのは危険だ」

「え──そ、それならそうと早く言ってちょうだい!」

 

ぷりぷりと怒るアイリスフィール。

すまんな、と一言謝罪を口にして再び運転に集中を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

「……キャスター、よね?」

「恐らくな。アサシンはまだ存命だが、こうもあからさまに存在感を示すことはあるまい」

「まるでこちらを誘っているようだわ……どうするの?」

「決まっている」

 

 

 

 

何度目かのカーブを曲がり終え、アクセルに足を置く。

 

 

 

 

「────これでも聖杯戦争真っ只中、敵はここで討つ。アイリスフィール、屈んで頭を守れ」

「え? まさか……」

「ああ──────轢き殺す」

 

 

 

 

 

言ってすぐにアクセルを大きく踏み込んだ。

一気にスピードを上げる車。

私の視界はすでに遠く前方に待ち構えるやけに長身の男を捉えていた。

 

 

 

 

Restraint(拘束)

 

 

 

魔術でサーヴァントを縛り、確実に轢く準備をする。

加えて、車体そのものに魔力を集め、保護と打撃の効果を備えた外装を纏わせた。

 

 

 

 

 

「──────風王結界(インビジブル・エア)!!!」

 

 

 

 

 

次の瞬間、ガン! という音と共に強い衝撃が走った。

吹っ飛ばされる影に魔術による追撃を行う。

見えなくなると同時に、ペダルをさらに踏み込み加速してその場から離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ……まだ生きているな。魔術師(キャスター)といえど、伊達にサーヴァントではないということか」

「いったん、城に戻りましょうか。切嗣に報告して、次の作戦を考えないと」

「了承した」

 

 

 

 

 

少し速度を落とし、アインツベルン城を目指して思考を切り替える。

あのキャスターがどう動くかは分からない。だが、戦場を引っ掻き回すのは間違いないと思う。

ランサーといい、バーサーカーといい、ここまで不利条件が重なっている。

加えて、そもそも私は抑止力の働きによって現界した身。出来ることは限られている。

……地獄の果てまでマスターに付き合うと誓ったが、それがどこまで通じるのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正午に、キャスターとそのマスターへの討伐命令が下された。

 

 

 

 

「報酬は令呪の追加、か……」

「ランサーの宝具による支障は無いのか?」

「少し動かしづらいが、問題はない。ただ、長期的に見て負担になるだろう」

 

 

 

 

 

再びアインツベルン城にて、私含め四人で作戦を立てる。

 

 

 

「そういえば、マスターはコンピューターゲームを……やらないだろうな」

「むしろ英霊からそんな言葉が出ることが驚きだよ」

「まあ聞け。通常の戦闘で負った傷は、ゲームで言えばHPの数値が削られる、ということは貴様でも分かるだろう?」

「あの宝具は違うと?」

「あれはHPの上限を減らすものだ。最大値が低くなっているから、治癒の魔術等も効果がない」

「えっと……もっと別の例えは無いかしら?」

「うむ、そうだな……器に入った水をこぼすのと、器自体を小さくするのは、異なるだろう?」

 

 

戸惑った表情のアイリスフィールに別の例えを示すと、納得したように頷いた。

 

 

「こぼしたなら、新たに継ぎ足せばいいけれど、器が小さいなら、もともと少ない量しか入らないものね……」

「もっとも、左腕と右脚が少し動かしづらくなった程度だ。こんなもの、枷にもならん。聖剣の発動にも問題はない」

「そうか。ひとまずはその言葉を信じるとしよう」

 

 

マスターの一言を皮切りに、作戦会議が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「現状、一番の脅威はアーチャーだな……そのマスター、遠坂と協力しているアサシンと言峰。色々と面倒だな。そしてランスロット(バーサーカー)……間桐雁夜とは別で魔力供給の伝手があったとはな。大方、遠坂の養子だろう。ランサーとアーチボルトも予想以上に手強い。ライダーは何をしでかすか不明。キャスターも、だがな」

「アーチボルトは拠点の工房を潰したから、ある程度戦力を削れたはずだ」

「どうだかな……ああいうやり手は、それを見越したうえで方針を立てている可能性がある」

 

 

すでに立ち直っている可能性すらあるぞ、と呟けばマスターの眉間にしわが寄った。

 

 

 

 

「攻撃を加えるとしたら遠坂や間桐の拠点を焼き払うことしか思いつかんな。だがこれも上策とは言えないだろう。あの射出攻撃手段で単独行動もちは色々と面倒だ。暴君などと畏れられた男、マスターがいないほうが危険だ」

「なら、バーサーカーのマスターを狙った方がいいか?」

「間桐雁夜が何処で何をしているのかが不明だが、それがマシだろうよ」

 

 

キャスター討伐後の標的は間桐とランスロット、と方針を立てた。

そこで、どのように奴らを潰すかをマスターともども話し合おうとした矢先。

 

 

 

「────────ッッッ……!!!」

「アイリ?」

「切嗣、セイバー……侵入者だわ」

「ほう? なるほど、大方キャスターだな? 他にも何人かいると見た。切嗣、アイリスフィール。席を外すぞ」

「倒せるのか?」

「努力はするさ。森が荒れると思うが、そこは大目に見てくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ────ッ!!!」

 

 

 

海魔を斬り裂く。

たまたま眼前にいた三体を輪切りにしても、そこからさらに再生して増殖、加えて新たに湧き出てきた。

 

 

 

 

 

 

「ふむ、貴様を殺した方が速そうだなキャスター?」

「おお……ジャンヌ、私の……尊き麗しの聖処女……! 復活の日を迎えられしこと、心より祝福申し上げます……!」

「会話は不可、と。まぁなんでもいい、どうせ殺すだけだ」

 

 

 

ふと辺りを見回せば、戦場にはおよそ似つかわしくない人影を複数確認した。

そのすべてが年端もいかない、幼児である。

思わず舌打ちして魔術を起動し、虚ろな瞳でこちらをぼんやりと見つめる子供たちに付与された魔術を消す。

 

 

 

Object desingnation(対象設定)────Magic Cancel(魔術、解除)

 

 

 

詠唱すると、虚ろだった幼児たちの瞳に光が灯る。

戸惑ったように周辺を見回す子供たち。

 

 

 

 

Teleport(転移)

 

 

 

 

 

次の瞬間には子供は一人も残っていなかった。

周囲数百メートルの範囲内における気配を探る。サーヴァントと魔術師以外には、何もいない。

 

 

 

 

「邪魔者はこれで消え去った……それじゃあ、その首をもらうぞ、キャスター」

「何故、です。ジャンヌ、何故このようなことを? 私から貴方への贈り物、一体何が気に食わないというのですか……?!」

「何を言うかと思えば。私も貴様もサーヴァント、ならばやることは殺し合いしかあるまい?」

 

 

 

邪魔なものがあったら片づけるのが常識だろう、と偉そうに説いたものの、恐らくほとんど通じないだろう。

精神汚染のスキルを有し、私を聖処女(ジャンヌ・ダルク)と誤認している。まともな応答を期待する方が筋違いだ。

現に、私の眼前、キャスターの周辺から、新たな海魔が現れようとしていた。

 

 

 

 

 

「神よ……どれだけ試練を与えれば気が済むのですか!!? 私どころか、ジャンヌにまでこうもむごい仕打ちを……ォォ! ご安心めされよジャンヌ。不肖ジル・ド・レェ、貴方様を忌まわしき呪縛から解き放ちましょうぞ────!」

「フン、そうやって初めから私を殺しに来ればいいんだ」

 

 

 

 

 

 

刃を振るう。

下手に斬り裂くのは難しい。一体を二つに斬ってしまえば、二体に増殖してしまうからだ。

ならば────

 

 

 

 

 

 

 

「こうするしか、ないな」

 

 

 

 

 

脳が過熱する。内臓が締め付けられる。

視界に、青い線が走り、青い点が浮かぶ。

海魔に浮かぶ線をなぞるように、宝剣の刃をなぞる。

 

 

 

増殖はない。

殺せばそのままだ。

 

 

 

「おのれ……穢れなき聖女に取りつく悪魔が!! こうもジャンヌを侮辱するなど、恥を知れェェェェェエエエエエエ!!!!」

死人(サーヴァント)の癖にうるさいな。私も同じだが」

 

 

 

 

とはいえ、この宝具はほぼ無尽蔵の召喚を可能としている。

いくら確実に潰せる手段があったとしても、無限の海魔相手にはきりがない。

視界の八割を占めるほどの海魔の群れ相手には、どうしても後手に回ってしまう。

脳が嫌に熱い。視界に焼きつく死線と死点がやけに濃く見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恥を知るのは貴様のほうだ、キャスター!」

 

 

 

突然耳に入る男の声。

視界に赤が横切った。

 

 

 

 

「何者?!」

「……ランサー?」

 

 

 

視線を向けると昨夜も鎬を削った麗しい槍兵が立っていた。

足元には彼が屠ったと思しき海魔が転がっている。

 

 

 

「すでにセイバーの首級は我が獲物と定めている。俺がここに現れたのは彼女と決着をつけることに他ならない。このディルムッドを差し置いて左腕と右脚を傷ついたセイバーを討ち果たすことは、断じて許さぬ」

 

 

 

 

起動していた魔眼を切り、霞んだ視界で朗々と語るランサー。

敵意のこもった視線でキャスターをにらみ、赤い槍の切先を向ける。

 

 

 

「退け、青髭。なおもこの森に居座りセイバーを攻撃するのなら、これより先は俺が相手になろう。無辜の幼子たちを手に掛けた業、ここで清算する時だ」

 

 

 

 

そういうや否や、キャスターに向かって駆け出し、赤と黄の槍を海魔へ振るい始めた。

彼の背中を追うように再び海魔の死線を剣でなぞる。

キャスターも負けじと海魔を呼び出し、私とランサーに攻撃させている。

 

 

 

「フン──まるで終幕戦争だ。あの時は海魔なぞどこにもいなかったがな。だが、増殖ぶりは蛮族を思わせる」

「案ずるな騎士王。此度は()()()()()珍事など起こるまい。思う存分、剣を振るうがいい」

「……さて、どうだかな。変な事件は、発生するだろうよ」

 

 

 

軽口を叩きながら海魔の排除を行う。

キャスターの憤怒の表情に浮かんでいる血走った眼はこちらを睨みつけている。

 

 

 

「ランサー。キャスターの魔導書は貴様の槍で壊せるか? あれが海魔の維持を担っている」

「可能といえば可能だが、海魔が邪魔だな。セイバー、道を開いてほしい」

「了承した」

 

 

ふぅ、と息を吐き出し左手をキャスタに向ける。

ちょうど、腕がキャスターへ続く道のように視界には映っている。

 

 

 

 

 

 

「────燃えろ」

 

 

 

 

たった一言。

ただ「結果」を…………海魔が燃えるという事実を作り出せばいい。

詠唱も、何もいらない。

それこそが、「聖杯」という奇跡が持つ力なのだから。

 

 

 

 

「ランサー!」

「感謝するセイバー!」

 

 

道状に開けた空間をランサーが一気に通り抜けた。

次の瞬間には赤薔薇は魔導書に、黄薔薇はキャスターに、それぞれ振り下ろされていた。

あれほど地面をうめつくしていた海魔が一気に消滅する。

 

 

 

「が──ッ、ぅ、グ……ぉのれ────許さぬ……っ! 思い上がるなよ匹夫めがァァァァアアアアアア!!!!!!」

「その言葉、そのまま貴様に返すとしよう」

 

 

 

胸から流血しながら激昂するキャスター相手に、あくまで冷静に応えるランサー。

再び海魔が召喚されるも、落ち着いて対処する槍兵相手にはもう打つ手がないと思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ、ジャァァアアアアンヌゥゥゥゥウウウウウ!!!! 今、お助けいたしますぞォォオオオオオアアアアアア!!!!!」

「何!?」

「キャスター、貴様……?!」

 

 

海魔をランサーの合間を縫うように放たれた禍々しい黒と赤と紫の混じりあったバスケットボール大の魔力弾。

宝剣で斬り裂くが、同時に爆発したように黒と赤と紫が広がり、私の周辺に立ち込める。

 

 

 

 

「あ──ガッ……! ァアア、ゥ……コフッ──」

「セイバー!?」

 

 

 

 

突如、背中と腹から押しつぶされるような感覚と共に、全身の関節に金属片が挟み込まれたような激痛が走った。

同時に視界が明滅する。喉から棒を突っ込まれ、胃袋をかき回されるような異物感。口から生温い液がこぼれる。

地面を踏みしめることが出来ない。指先も、踵も、完全に凍りついている。完全に動かない。

気づいた時には地面にうつぶせに倒れていた。どうにか顔だけあげて、キャスターを睨み付ける。

 

 

 

 

「きゃす、たー、貴……様──っ、ゴホッ、ケホッ、カハ……ッ、──!!」

「少し大人しくなってもらいますよジャンヌ……我が友より受け継ぎしモノは、何も魔導に限った話ではない」

「は……っ、なる──ほど、な……だが、っ──この程度で私が立ち止まると思ったか!!!!!」

 

 

動かない右手を無理やり動かして人差し指を立ててキャスターに向け、ガンドを放った。

一発撃つだけでも一苦労とは。全身が血液ではなく熱湯が巡っているように熱い。

 

 

 

 

 

「フン────わが師スカサハの鍛錬を思い出す。あれに比べればこの程度、優しいものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

────貴様に状態異常の術を掛けた。私を殺してみろ。

 

────一応聞きますが、具体的には?

 

────まず呼吸で生み出す魔力量の大幅減少。全身麻痺。視界の制限。眠気。吐き気。あと……

 

────あなた殺される気あります!?

 

 

 

 

 

 

 

殺されたい、などと言っているくせに全く逆の行動ばかり選んでいる師の一人。

あのアルスターの光の御子も、似たような目にあったのだろうか。

 

 

「はっ────一つ、言うのを……忘れていた。完全な人違いだキャスター。私はジャンヌ・ダルクではない。私は……アーサー、ブリテンの騎士王アルトリア・ペンドラゴン。お前の敵だ。くれぐれも、間違えるなよ」

 

ただそう言い残して口を閉ざす。これ以上は舌と喉を動かすのも正直つらい。

ランサーはひたすら海魔を槍で穿ち、斬り払っている。

先程までキャスターは般若の形相でこちらを睨み付けていたが、今は打って変わって能面だ。

 

 

 

「────、──────ここまで、ですね」

「っ!! 逃げる気かキャスター! それでもかつては聖女の剣として戦った高潔なる騎士とでも?!」

「戦略的撤退です。ジャンヌ、私は貴女を諦めませぬ。必ず、貴女に植え付けられた偽りの記憶を打ち破り、忌々しい呪いから解き放ちましょう。それまでどうか、御身に災いのなきことを……」

 

キャスターは霊体化して消えた。

残っていた海魔は、次々にランサーの手で消されていく。

その様子を、私は地面に倒れ伏しながらぼんやりと眺めていた。

……海魔の体液と私が吐いた血液が混ざりあい、土にしみこんで気持ち悪い。

消耗を防ぐために、魔力で編んでいた鎧を解いた。

 

 

 

 

「ぐ──ぅぐ、ゲホッ……ゲホッ、かは……ッ──あぁ、くそ……なんで、こうなる……っ、は、ぁ──」

「しっかりしろセイバー! 言っただろう、お前の首級は俺がもらうと。ここで倒れるなど、騎士の名折れではないのか!」

「は────お優しいことだな先輩。完全に無防備な私を今討てばそれは叶うというのに?」

「確かにその通りだ。だが、今ここで勝たなければならないのは、セイバーか? それともランサーか? 否、どちらでもない。ここで勝利すべきは「騎士の道」、我らが奉ずる誇り高き誓いに他ならない」

 

 

そう言って、倒れ伏した私を丁寧に抱き起こすランサー。

定まらない焦点をぼやけた視界に映っている青年に向ける。

 

 

 

 

「……マスターにどやされそうだ。こんなにも綺麗な理由で見逃されるなんて」

「エミヤキリツグか……。話には聞いている。卑劣、姑息な手段で無辜の民草を犠牲にする悪漢だと……そのような男がお前を召喚するとはな」

「そう言うな。あの男なりに苦しみ、絶望を味わい、必死に足掻き、戦いを続けてきた結果だ」

 

マスターの生き様と手段を評価する権利は私にも貴様にもない、と痺れる舌先を動かす。

空気が喉を通るたびに奥底から温い液体が逆流する。思わず咳込むと、口元から血液がこぼれた。

 

 

 

「っ、ゲホッ、ゲホッ、ぅ────ッ、ん……は、ぁ……さすがに、これは予想外だな……」

「あまりしゃべるな──いや、頭脳と同時に動かして意識を保っていた方がいいのか?」

「あいにく、この霊基(肉体)はそう簡単には壊れない。まぁ、今は中途半端に機能が故障しているがな」

「キャスターが最後に放った魔弾……魔術、ではないのか。こうもお前が苦しむということは」

「寧ろ呪術……いや、呪詛の系統だな。あの魔導書はキャスターの友人、プレラーティがイタリア語に翻訳したもの。原書は中国語で、夏王朝の時代のものだったはずだ。魔術とは法則(ルール)が異なるモノが記されていても、おかしくない」

 

 

対魔力では防ぐことが出来ない代物だな、と内心落ち込みながら説明する。

……戦争において、完全に有利に立ち回ることが出来る機会なんて、本当に限られていることは知っている。

だが、こうも予想外な出来事が次々に起きて、上手く物事が進まないと、気分が沈んでしまう。

今回に至ってはランサーに助命までされてしまった。

これからどうしたものか、と今後の行動を脳内に描こうとするも、頭が上手く働かない。

 

 

 

 

 

「──他はまだ戦闘しているな。アイリスフィールと久宇……相手は、言峰か?」

「誰だ?」

「アサシンのマスターで、監督する教会側だ。アーチャーのマスターと盟約を交わしてアサシンの退場を偽装したらしい」

「……それが、何故ここに?」

「さぁな。一応、教会の人間だから、神秘の秘匿やらにある程度気を使う必要はあるだろうが」

「向かうのか?」

「行けるものなら、な」

 

 

 

頑丈さに定評のある霊基(肉体)はキャスターの呪詛に蝕まれ、思うように動かない。

一刻も早く彼女たちの元へ助力に向かいたいが、向かったところでお荷物が良いところだろう。

衰えた状態でも暗殺者(ハサン)から逃げ切った代行者。全盛ともいえる現在なら、どうなるだろう。

 

 

 

 

「よし。行くぞ、セイバー」

「は────待て。何故貴様が? 私を抱えてまで行動を共にする理由などないだろう。考え直せ。あと降ろせ」

「ことわる。傷ついた乙女を捨て置くなど、騎士にあるまじき行動。大人しくしていろ、後輩」

 

 

あっさりと一蹴したランサーはそのまま私を抱えて戦闘の気配がする方向へ駆けはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呪詛に苦しみ、意識を飛ばしているうちに言峰は森から去って行ったらしい。

アイリスフィールからランサーへの謝辞を右から左へ流していたら、城に戻ることになった。

またしても美青年に抱えられる羽目になったが、それなりに楽なので大人しくそれなりに筋肉のついたランサーの腕の中に納まっている。

 

 

 

 

 

 

ところで、どうしてアイリスフィールはそんなにも輝いた目で見つめてくるの?

 

 

 

 

 

眼を閉じていても感じる視線に内心で辟易していた。

疑問を抱いても口にする体力も気力もない私は無言を貫き通した。

 

 

 

 

 

 

城内で戦闘していたのはマスターとアーチボルト。

魔術師であるかぎり敵ではない……と豪語していた切嗣のことだ。

恐らく起源弾を決めているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「などと思っていた時期が私にもありました……」

「まったく、手を焼かせてくれたな魔術師殺し。それとランサー、腕の中のソレはなんだ?」

 

 

平然と立っているロード・エルメロイ。多少の傷はあるとはいえ、五体満足である。

その眼前には血まみれで蹲っている我がマスター切嗣。重傷。見るだけで痛々しい。

 

 

 

 

 

「おいクソマスター。貴様自分の発言を忘れたか? 魔術師殺しの名はどこに行った? お得意の起源弾は? 貴様傭兵だったよな? なんで研究者に敗北しているんだ? それで聖杯を手に入れるつもりか? そもそも貴様にできるのか?」

「……そういうアンタこそ、英雄サマの癖に魔術師にやられて、そこの彼に救助されているじゃないか。王妃の不倫を容認したからと言って、自分が顔の良い男に誑かされてもいいって? 自分本位もいい加減にしたらどうだい、可愛い騎士王さん」

「やめろ気色悪い。というか切嗣、そのザマで聖杯求めちゃうのか? 冗談も休み休み言え、だからお前はダメなんだよ正義の味方(笑)」

「人間が理解できない癖に僕を語るなよ、怪物」

 

私とマスターの間だけ吹雪でも起きているようだ。

あれだけ痺れ、凍っていた舌先が嫌味を言う時だけは動く動く。

 

 

 

 

 

 

「三戦中、二勝一分け……といったところか。期待外れだよアインツベルン。魔術師殺しなぞを招いておきながらこの体たらく」

「むしろ貴様がこうも有能なことに驚愕を禁じ得ない。良かったじゃないか先輩、貴様のマスターは当たりだぞ」

「言外に主を侮辱していないかセイバー」

「まさか。ついこの間に出会ったばかりの男を侮辱するとか、逆に難しいのではないか? あと先輩、いい加減降ろせ」

「断る」

 

 

 

眼を閉じていても分かる。こいつ笑っているな。

あとアイリスフィール。凝視しないで。見世物じゃないから。

 

 

 

 

 

「悪ふざけもそこまでにしたまえランサー。いつまでも抱えている理由は無いはずだ」

「御意」

 

 

 

ようやく降ろされた。ご丁寧に床に寝かせるオプション付き。

そしてアイリスフィール。残念そうな顔をしない。ランサーも。

 

 

 

 

「さて……今私を討てば貴様の嫌いな魔術師殺しはここで退場。切嗣本人でも同様。やるなら今だぞ、ロード・エルメロイ」

「セイバー、俺は────」

「貴様の意見はもう聞いた。だが、聖杯戦争で優先するべきはマスターのほうだ」

「ふむ──ランサー、ここまでの働き、見事であった。貴様が奉じる騎士道に応えぬほど、私は矮小ではない」

「はっ、主従そろってお優しいことだ。後悔しても知らんぞ」

「己が行動の責任をとれぬほど幼稚ではない。案ずるな、貴様の主君も、十分に痛めつけている」

「だろうな。それを聞いて安心した」

 

 

当人は手足と口元から血を流し、苦しそうに咳込んでいる。顔色は蒼白だ。

どうもお互いに似たような目にあったらしい。

 

 

 

 

 

「だが、覚えておきたまえ。貴様をここで潰すのがどれだけ容易いかを。ゆめ忘れるなよ衛宮切嗣。貴様が敗北したのは名誉と矜持を理解できぬ視界の狭さ。貴様が生き延びるのはセイバーの清廉さゆえということを」

 

 

そう言い残して、アーチボルトは去って行った。

ランサーも、一瞥を残して霊体化した。

 

 

 

 

 

 

「……アーチボルトは節穴か? 私が清廉だと? 自ら国を滅亡に追いやった愚か者だぞ?」

「あら。そう思っているのは貴方だけ、ということじゃないかしら?」

「ぐ、む……やはり人間の心は分からんな。この場合、心というのは誤りかもしれんが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

「お姫様抱っこ」ってかわいいですよね。

 

私個人の趣味でシキトリアさんはヒロイン……のような扱いをさせております。

イケメンに助け出されるとか本当に素敵じゃないですか?

※なお本人は自分のことをラスボス系統だと思っている模様。

 

ケイネス先生強化しすぎたかな……このままいくとバゼットさん級になりそうな……。

単純にケリィを殺すのではなく痛みと苦しみを与えて放置するっていうね。

 

次回:王の飲み会(予定)

 

 

 

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