もしもアスナがヤンデレだったら   作:ぺんたこー

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人は時に、自分自身を制御できなくなる。
俺はそれを身をもって知った。これは後日、明日奈に聞いた話だ。


心境

 仮想の空の下、仮想の家で仮想の太陽に照らさながら椅子の上でこの世界を満喫している。でも決定的に足りないものが一つある。

 彼氏だ。かつて、茅場晶彦によって作られたデスゲーム。SAOの中で出会い、別れ、また出会い。魅かれ、求め、愛し合った。

 キリトこと桐ヶ谷和人くん。

 この状況でキリトくんさえいればもう、なにもいらないと思えるほど完璧なのだ。

 でも彼は最近、学校で知り合った人と遊んでいる。毎日、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日……

 もしかしたら私は愛されてないのかもしれない、もう彼は、私なんかに興味はないのかもしれない。これは思い込みかもしれない、でも本当のことなのかもしれない。考えるとどんどん苦しくなる。

 気づいたらもう10時を過ぎていた。結局彼は今日も、2人で買ったこのマイハウスには帰ってこなかった。

 私はメニューウインドゥを開き、ログアウトボタンに指を伸ばした。

 

 あの頃の思いはなんだったのだろう。アミュスフィアを外しながらベッドの上で思う。命がかかっていた世界での出来事はやはり、つり橋効果的ななにかのせいで、本当は愛してくれていないのかもしれない。

 考えるほどに狂っていく思い出を抑え込み、私、アスナこと結城明日奈は深い眠りについた。

 

 次の日も、その次の日もキリトくんはこなかった。彼のことを考えるほどに募っていく想いは不安や苦痛や自己嫌悪などを生み出していった。こんなに辛いならもう、死んだ方がましかもしれない。そんなことを考えながら無意味に仮想の街を歩いていると、キリトくんの声がした。気のせいじゃない。聞き間違いでもない。彼の声だ。強くて優しい、そして懐かしい声が後ろの方から聞こえたのだ。

 私は振り返り声のする方へ走った。だんだん近づく声に高鳴る鼓動を感じた。

 人混みを抜けて見つけたキリトくんを見て、私は思わず絶句した。

「なんで……なんで?…なんで?」

 真っ黒の装備を身にまとった彼の周りには、女性プレイヤーが沢山いたのだ。いや、よく見れば男性プレイヤーもいるようだがそんなことは関係ない。

 私は腰に下げた剣の柄を握り、キリトくんの周りに群がるプレイヤーめがけて基本ソードスキル『リニアー』を放った。

 突進していく私に気づいた彼は、驚きの表情を見せたのちにすぐさま背中に下げた剣を抜き、私の攻撃を上へと弾いた。

「どうしたんだよアスナ!」

 キリトくんの声も聞かずに私は次の攻撃を当てるべく、すぐさま魔法の起句を口にした。だが、その口をキリトくんに塞がれて呪文は不発に終わった。

「すまない。今日はみんなで行ってきてくれ。」

 キリトくんがそういうと、周りにいた人たちは、すまないな、また今度な、などと言いながら去って行った。

「どうしたんだよアスナ!なんで急に斬りかかったんだ!」

 私の肩を持ち、彼は言った。私はただ、口を閉じて俯くことしかできたなかった。そして、逃げ出しことしか。

 私は彼の手を引き離して、あてもなく逃げ去った。

 

 それからというもの、キリトくんの周りに誰かがいると、なぜか抑えきれないくらいの怒りがこみ上げてくるようになり、その度に剣を抜いて斬りかかっていった。

 最初はキリトくんに近寄る人を追っ払うだけで気が済んだ。しかし最近ではキリトくんを自分の監視下に置いておかないと不安で仕方がなかった。また私をおいて、知らない人たちと狩りに行ってしまうのかもしれない。その不安をなくすためにはこうするしかなかった。

「キリトくーん?」

 目の前には拘束魔法をかけられて身動きが取れないキリトくんがいる。

「ねぇ?私のこと好き?」

 問いかけても返事は来ない。拘束魔法といえど口くらいは動かせるはずだ。どうしてなにも言わないのだろうか。やっぱり私のこと、もう好きじゃないのかな…他の人といる方が楽しいのかな……

「前に仲良くしてた奴誰?」

 やはり彼は答えない。同じ空間にいるだけで幸せだったときが夢のように感じる。どうしても彼の気持ちを知りたかった。もし好きじゃないなら、もうそれでもいい。はっきりと伝えて欲しい。

「私はね?好きだよ?君のこと。ずっと、ずーーっとキリトくんのことしか考えられないの!ねぇ?どうなの?」

 彼は俯いた動かない。

「私は好きだよ。たとえ君が他の子を好きになっても、私はずっと君のこと好きだから!あぁ…キリトくん……好き!好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き………」

 ピロンッとメッセージが届く音がした。

「ちょっと待っててね。キリトくん」

 少しの間の別れを告げ、部屋を出た私は、ウィンドウを開きメッセージを確認する。送り主はユイだった。

『ママ、今どこにいますか?前に頼まれたものを持ってきました!』

 内容はこうだった。私は頼みごとをした覚えはない。

 少し考えた後、私は急いで彼を監禁している部屋に向かって走った。扉を乱暴に開けると、そこにはキリトくんの姿はなかった。

「……はめられた」

 娘のユイは、父であるキリトくんの方を助けたのだ。

 

 この日以降、彼を監禁することはなかった。と言うよりできなかった。どこを探しても彼を見つけることができなかったのだ。ログインはしているのでこの世界のどこかにいるはずなのに、見つからない。たまたまなのか、それと意図的なのか。考えるだけで胸が張り裂けそうになり、考えるのをやめるとどうしようもない不安に押しつぶされそうになった。

 

「キリトくーん!」

 呼んでみるが返事はない。

「キリトくーん?」

 孤独は辛い。そんなことは誰でも知っている。周りに誰か頼れる人がいつでもいたのなら、なおさらだ。

 結局今日も見つからない。頭からアミュスフィアを外して机の上に置き、明日奈は思った。あれから何日過ぎたのだろう。

 もう限界だ。私の脳は叫ぶ。でも私の体は諦めない。どれだけ脳に負担がかかろうと、体は仮想世界へ行くのを求めた。彼と繋がることを求めた。

 ベッドの上で座っている体は、まるでそこだけ重力が過剰にかかっているかのように重く感じた。

「…明日は会えるかな?」

 そう呟いて横になり、目を閉じた。

 

 チャイムの音がした。間違いなくうちの家のものだった。時計を見ると8時20分を表示していた。

 こんな時間に誰だろう。明日奈はベッドから起き上がり、自室のカーテンを開けて訪問者を確認した。

 涙が溢れた。

 そこにはキリトくんが立っていたのだ。

 なにも考えずに部屋を飛び出して、玄関へ向かう母親を押しとどめ、ドアを開けた。やはりそこにいたのはキリトくんだった。

 こんな時間になにをしにきたのだろう。冷静になっていくと同時に一つの疑問が浮かび上がった。そして、最悪の可能性も。

 もしかしたら私との交際を終わらせるのではないだろうか。

 その考えはすぐに消え去った。彼は両手を広げていた。私はたまらず彼の胸に向かって走り、飛び込んだ。

 そして彼は私の耳元でそっと呟いた。

「ごめん、俺、明日奈の気持ちに気づいてあげられなかった」

 その言葉は孤独だった私の心に、深く、熱く染み渡った。溢れる想いは涙となって頬を濡らした。

「ううん、私だって素直に言えばよかったのよ」

 彼は私を捨てていなかった。全部私の思い込みだった。今までの苦痛が嘘のように吹き飛び、安心と優しさに包まれた。

 

「和人くん!待った?」

 振り向いた彼は私の方を見て頰を赤くした。この日は1番のお気に入りの服を着てきた。

「行こ?」

今日は久しぶりのデート。それもリアルでだ。私はしっかりと和人くんの手を握った。




こんにちは、ぺんたこーです。
追いつめられた女性は何か魅かれるものがある気がします。え?私だけ?

今回は(というか多分これで完結だけど)アスナ視点のお話でした。
ヤンデレが理解できない方々、少しは分かっていただけたでしょうか?
行動力がある人は追いつめられるとあんな感じになります。(極稀)
私はヤンデレものがかきたかっただけです。なのに知らない間にUAがえらいことにw この数字を見たから続編(別視点)をかこうと思いました。
読んでいただき本当にありがとうございました!
ではまた、別のあとがきで!
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