ヘルファミリアで反英雄になるのは間違っているだろうか   作:コロッサスマグナ

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1話

 俺は幼い頃、命を救われた。

 決して助からないと言われていた大災害。誰にも防ぐことのできない災厄。

 本来死んでいるはずの俺は助かった。助かってしまった。たった一人の生存者として。

 

 後ろ姿を見た。

 強く、清廉で、美しい長い髪をたなびかせる女性の後ろ姿を。

 彼女は言った。

 

「ごめんね、あなたしか救えなかった」

 

 俺はただ呆然と目の前にいる最後の家族を見た。

 

「でも、私はお姉ちゃんだから……せめて、せめて弟のあなただけでも守らなくちゃね」

 

「―― あ」

 

 闇が、汚泥が彼女に迫る。

 本能的に察する、あれはこの世にあってはならない死の具現だと。そんなものを前にして彼女はただの一歩も引くことはなかった。

 最期に振り向いて言った。

 

「どうかあなたは自分を貫き通して生きて。それだけが私の願いだから、どうか、自分を見失わないで」

 

 手を伸ばす。伸ばす。伸ばす。だが、届かない。この小さな手は届かない。

 ああ、待って、待ってくれ、と魂が叫ぶ。

 

 光が汚泥を照らし、焼き尽くす。彼女の命を賭した極大の星光は一帯全てを照らし、悪を焼き尽くしていった。

 残ったのは光の粒子と幼い子供。

 

 そして――

 

 

 夥しい死の匂いだけだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 ここは迷宮都市オラリオ。

 様々な人種の人々や多くの商人、そして冒険者で賑わう地だ。

 富や名声、野望や欲望が渦巻く我欲の地でもある。

 そんな場所に俺は今日やっと到着した。

 

「やっと着いた。ここが『迷宮都市オラリオ』か」

 

 かつての大災害から生き延びて十年という月日が過ぎ、俺はある目的のためにこの地へ赴いた。別に英雄になりたいわけでも金が欲しいわけでもない。手段として利用できるかどうか確認するためだ。

 

「戦闘能力の向上、寿命の限界突破。これを可能とするのが『神の恩恵』らしいが、果たして事実かどうか……」

 

 まずはギルドへ行って『ファミリア』を探そう。俺の行動にあまり口出ししないところが理想なのだが、まあそれは追々考えていくとしよう。

 

「すいません、まだオラリオに来たばかりなのですが、どこか加入できそうな『ファミリア』はありませんか?」

 

「こんにちは。冒険者希望の方ですね?「はい」 でしたらこちらの『ファミリア』募集を見て、まずは直に神々と会ってみたほうがいいでしょう」

 

 男性職員は一枚の大きな用紙を俺に渡してくれた。どうやらそこそこの数が募集しているようで、探索系、商業系など様々な『ファミリア』が載っていた。

 ふとある『ファミリア』が目に留まる。

 

 『ヘルファミリア募集』

 加入条件

・力を追い求める者

・私を養う者

・私に甘えさせてくれること

・私に甘えること

・私と恋人になってくれること

以上

 

定員は一名のみ。

 

 

「あの、これは……」

 

「あ、ええそれはヘル様が書いたものですね。条件が重く、半年間誰も入りたがらないんです」

 

「そうなんですね。では俺が行って加入できるか聞いてみます」

 

「え? ええぇ!? 本気ですか!?」

 

 職員が目を剥いて驚く。

 

「力が欲しいので、それをくれるならある程度はなんとかしてみますよ」

 

 なぜあんな面倒な条件を見て加入しようと思ったのか。それは非常に単純で、『定員一名のみ』というのが理由だ。誰もいない『ファミリア』で一名ということは殆ど単独行動も同然。同業の連中とも関わり合いにならずに済みやすい。

 これはデメリットを加味してもメリットが大きい。少なくとも俺にとっては。

 

 

 

 

 

「で、来たわけだが。ここは墓地の跡地か、なんとも縁起の悪そうな場所だ」

 

 あたりは暗い雰囲気の漂う廃墟が立っており、跡地の真ん中には比較的新しめの一軒家が立っている。

 

「やっぱりやめて「あなた誰?」 ん?」

 

 後ろから声がかかった。振り向くとそこには…… 女神が立っていた。

 美しい紫紺の長髪。ややつり目気味の琥珀の双眸。育ち盛りの少女のようなほどよいスタイル。

 そしてこの身に感じる異質な、いや、神々しい気の感覚。間違いない、彼女は女神だ。

 

「私の家に何か用なのかしら」

 

「あ、ああ。俺はギルドで『ファミリア募集』を見てここへ来たんだ。あなたが神ヘルで間違いないか?」

 

 彼女は「ええそうよ」と言って顔を伏せる。肩を震わせ、手を拳の形にする。

 さすがにタメ口はダメだったか、と思った瞬間であった。

 両手に温かい感触が、鼻腔をくすぐるいい匂いが一気に押し寄せてきた。

 

「そう! そう! あなたは私の『ファミリア』入りたいのね! さあさあ家へ入りなさいな。美味しい紅茶と菓子を用意するわ!」

 

 満面の笑みを向けてくる彼女に為す術無く家の中へ引き込まれてしまった。

 

 ああ、これは面倒だ。と感じると同時に、ある種の懐かしさを感じる自分もいた。

 

 

 そして始まった。

 ここから始まったのだ。

 俺の、俺達の『眷属の物語』が。

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