ヘルファミリアで反英雄になるのは間違っているだろうか 作:コロッサスマグナ
「で、あなた名前は?」
「イゼル・ラーヴァだ」
「そうイゼル、イゼルね。覚えたわ! あなたはあの募集用紙を見てきたのよね? なら内容については……」
「恋人関連の話については、結論としてこれからということにしてくれ。基本的に俺は受け身でいよう、あなたの好きにするといい」
紅茶を飲みながら思案する。どうも、この女神は世間一般で言う『重い女』に該当するらしい。が、俺の姉も似たような性格、気質だったせいか、嫌悪などは一切感じなかった。むしろ懐かしく思える。
「むー、ま、そういうことにしておいてあげましょう。地獄の神たる私は寛大なのです。あ、ここ重要ですよ、覚えてくださいね」
前言撤回。
少々面倒な性格だ。
「なにやら話がトントン拍子で進んでしまっていたが、俺はあなたの眷属にしてもらえるのか?」
「当然よ! あなたは私好み……じゃなかった。ここに来て、普通に会話をした。十分に私の眷属足り得るわ」
「そ、そうか」
容姿とは裏腹に元気な女神だ。俺の第一印象では静かな女神だったのだが。人は見かけによらないな。あ、神か。ならしょうがない。間違うこともあるだろう。
「じゃあ早速、『神の恩恵』を刻むから上着を脱いでそこのベッドにうつ伏せになってちょうだい……じゅる」
不穏な音が聞こえた気がするが、この際無視だ。
「……始めるわ」
声質が変わった。
今まで話していた声とはまるで違う、氷のように冷たい声音。
背中が熱い。火傷ほどではないにせよ、一時的に感が鈍る程度にはある。
数分後、熱は引き、思考はクリアになった。
「さあ、これがあなたの『ステイタス』よ……ってなにこれ!?」
「どこかおかしいところでもあったのか」
イゼル・ラーヴァ
Lv.1
力: 0
耐久: 0
器用: 0
敏捷: 0
魔力: 0
《魔法》
《スキル》
【六道】
六つの門を開くことで『ステイタス』を強化。
門によって効果は変化する。
【願望成就】
目的を達成するまで『ステイタス』に補正。
目的を達成するまで全状態異常無効。
「凄い、凄いわ! というかこれ、このスキル! 私に縁のあるスキルよ。運命的だわ」
心当たりのあるスキルだな。
俺は一度死の淵を彷徨っていた『記憶』がある。生きながらにして地獄の全てを文字通り受けた。おかげで俺は痛みや精神攻撃で揺らがない精神性を獲得したが、正直あんな思いをするのは二度とごめんだ。
もう一つのほうも心当たりがあり過ぎる。
経過はどうあれプラスに働くものなのだから良しとしよう。
「それは良かったな。俺はこれから試運転のためにダンジョンへ向かいたいのだが、いいだろうか」
「む…… まあいいでしょう。力を求めているあなたにとってはある意味で死活、いえ、私にとってもあなたの戦闘能力は死活問題。ええ、いいわ。あなたの力を思う存分発揮なさい。それと……」
「!?」
頬に生暖かい感覚が……これはキスか? え? キス? なぜ?
(初対面の相手にいきなりだと? どこかの人種は頬のキスは挨拶程度と聞いているが相手は神。まさか神々にはそんな文化が……)※ありません
「生きて帰ってきてね」
「あ、ああ、了解した」
◆◆◆
「ふっ! はっ!」
拳が風を裂く。
血飛沫が舞う。
「ガァァ!」
コボルトは決死の突撃を開始する。全方向から迫る剣、槍、斧。その全てが『ビギナー』を一撃で殺しうる特攻。
だが、それは全方向であって同時ではない。ならば先に迫るものから回避していけばいい。
『ステイタス』の関係上、一撃で倒すことは不可能。だから楔となる傷を与え、二撃目で仕留める。
まずは剣。
一つ目。
次に槍。
二つ目。
次は斧が二つ。
三つ目。
四つ目。
楔の打ち込みは完了した。
「……二週目だ」
両手に装備しているダマスカス鋼製の手甲が煌めく。
幾何学模様を描く赤褐色の拳は傷一つ付くこと無く、全ての楔を容赦なく追撃。
コボルトは内部から粉砕され、魔石を残して霧散する。
「比較対象がいないのではどのくらい『ステイタス』に補正があるのか分からないな。もう少し降りてみるか」
イゼルこと俺は中層近くの階層まで降り、コボルト達との戦闘を機械的にこなしながら新たな敵と遭遇した。
「情報通りだな。影のモンスター。ウォーシャドウか、なるほど、名前の通りだ。これほど恵まれた『形』を得ているのなら、成長すれば強力なモンスターになるだろうな」
ウォーシャドウはコボルトよりも疾く、鋭く、イゼルに迫る。
「くっ、強いな」
かろうじて手甲で攻撃を凌ぐ。
たったの数層降りただけでこの変化。ダンジョンを舐めてかかるのは危険だと実感する。
「装備に助けられるとは、目的達成にはほど遠いな……ハァァァ!」
地を踏みしめ、向かう鉤爪を右腕で迎えうつ。一片の奢りもない愚直な一振り。
拳と爪はぶつかり合い、硬質な音を立てて爪が弾け飛ぶ。
「まだだ、逃がすか!」
回避しようと後ろへ半歩下がるウォーシャドウに左腕で追撃し、魔石があるであろう胸に叩きつける。
ウォーシャドウは断末魔を上げて力尽き、コボルトと同様に霧散した。
「ふぅ、まさかここまで苦戦するとはな。これなら武術の一つでも齧っておけば良かったな」
魔石を回収し、袋へ詰める。
そんな時だった。
瞬間、悪寒が走る。
脳が、いや、全身が『逃げろ』と警鐘を鳴らしている。
振り向いた。
そこには濃密な『死』があった。