ヘルファミリアで反英雄になるのは間違っているだろうか   作:コロッサスマグナ

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3話

「……あ?」

 

 『死』の気配を感じて振り向いた瞬間、俺の横を目にも留まらぬ速さで『ソレ』は通り過ぎていった。

 少し間を置いて痛みが全身を駆け巡る。一番痛むのは脇腹。目をやるとそこには千切れた肉片が足元に落ちていた。

 痛みはすぐに『無視』し、戦闘を続行する。

 

「これはかなり危険だな……」

 

 再び『ソレ』はこちらにやってくる。二度目にあんなものをくらえば間違いなく体が死ぬ。それは断じて許してはいけないことだ。

 

「ハアァァ!」

 

 両腕を交差して防御。

 

「ぐっ……!」

 

 凄まじい衝撃が追い打ちをかけるが、かろうじて防げたようだ。

 だが、安心はできない。気を抜けばそれだけで死ぬ。準最高高度を持つダマスカス鋼の手甲がなければ腕諸共、肉片に変わっていただろう。

 

『ほう、今のを防いだか。なかなかどうして、人間の癖にやるじゃないか』

 

「お前、喋れるのか」

 

『当然だ。モンスターとて同じ生きる者。人間よりも生まれ持った能力が高い分、言語の一つや二つ容易いものよ』

 

「なぜ俺を襲う」

 

『ふむ、私は人間は殺さない主義なのだが、なぜか貴様だけは今殺さねばならぬと思ったのだ』

 

 人型のモンスターは被っていたフードを取った。

 

「が、やめた。私は貴様のことを気に入った、幸い私は限りなく人間に近い色と思考能力を持っている。この迷宮に貴様が来たときにはパーティとやらを組んでやろう」

 

「俺とパーティを組むだと? 正気かお前」

 

「なに、貴様は私には到底及ばない。貴様の動きは冒険者たちの言う新人そのものだ。が、それでも私の攻撃をたった一度とはいえ防いだ。一線級冒険者を殺せるくらいには力を入れたというのにな。だから私が鍛えてやる、貴様の目は強さを追い求める鬼の目だ。いい提案であろう?」

 

「……分かったよ。お前になんの利益があるか分からんが、せいぜい利用させてもらおう。ところでだな?」

 

「む、なんだ」

 

 モンスターをチラと見る。そこには頭部の小さな角を除けば人間の少女と変わらない一糸まとわぬ裸体がマントの中から露わになっていた。正直、目の毒だ。見ていられない。

 

「ほれ」

 

 俺はバッグに入れてあった換えの服をモンスターに投げた。

 

「これを、私にか?」

 

「当たり前だ。モンスターと言っても人間の少女とほとんど変わらない見た目なんだ。服装くらいまともにしろ」

 

「礼を言おう。私も知能を持ってから恥という感情を知ったのでな。ちゃんとしたものが欲しかったのだ、と、いうだけではダメだな、こちらにこい」

 

「なぜ?」

 

「傷を治してやろう。痛むであろうに」

 

 ああ、そういえば脇腹持って行かれたんだったな。ポーションをかけても治りきらなかったので止血したままになっている。

 

「『スペリオル・ヒール』」

 

 モンスターが回復魔法を詠む。するとみるみるうちに傷口が塞がり、血痕を除けば元通りになっているではないか。

 

「……凄いな」

 

「そうであろう? これを習得するのは少々手間取ったが、実に使える代物だ。おっと、そういえばまだ名乗っていなかったな」

 

「お前、名乗る名前があったのか」

 

「む、貴様、私がモンスターだからとバカにしているな? いいだろう、私の名は『スライ』だ」

 

「……はあ、俺はイゼル。イゼル・ラーヴァだ」

 

「イゼル、イゼルか。覚えたぞ」

 

 スライは見た目通り、年相応の笑顔で俺の名を何度も口にした。何がそんな楽しいのか俺にはさっぱりだが、この緋色の髪と蒼炎の如き眼をした少女は悪いやつではないと、珍しく俺の直感が告げている。

 

 これが俺たちの、生涯の付き合いとなる『スライ』と俺の出会いだった。

 

 

◆◆◆

 

 

 あの後、スライに一層まで送り届けられ、俺は地上へと無事帰還した。

 さすがダンジョンを棲家にしているだけあって道には詳しい。道中で聞いた話では深層を散歩しているらしい。同じダンジョン生まれのモンスターとはどうしているのかと質問すれば「屠っているが?」と即答された。

 同族でも殺し合うのかと思ったが、よくよく考えれば人間も同族で戦争を起こしているのでそうおかしな回答でもないかと納得した。

 

「もう夜中か。ヘルは寝ているだろう、な……!」

 

 人影がゆらりとこちらへ近づいてくる。ただの人ではない。感覚から言って神の類だ。

 長い髪を夜風にたなびかせ、三日月のような笑みを浮かべる。

 

「う」

 

「う?」

 

 人影が呻く。

 瞬間、

 

「うわぁぁぁぁん!! イゼルゥゥゥゥ!! わだじずっどばっでだどにぃぃぃ! じんばいじだんだがらぁぁぁ!!」

 

「ひっ!」

 

 (怖い怖い怖い!)

 

 地獄ですらこんな狂気、恐怖を感じたことはない。見えないはずの地獄の鎌を引きずりながら駆けているような感覚を覚えるように近づいてくる神影。

 

 影の正体はヘルだ。顔をぐちゃぐちゃにして美しい顔を不細工にしている女神。滑稽というか無様というか。とにかくなにがなんだか分からない。彼女とは昨日今日会ったばかりのはずだ。

 なのにここまで俺に拘るんだ……。

 

「もうばなざないがら、ね?」

 

 俺に抱きつきながら狂ったような笑みを浮かべる女神。

 ああ、察してしまった。そう、この女神は、この女性は姉と一緒の、これは俗に言う。

 

「……ヤンデレだ」

 

「ん? なにか言ったかしら」

 

 泣き腫らした顔でにこやかに恐怖を感じさせるその様は姉そっくりであった。

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