ヘルファミリアで反英雄になるのは間違っているだろうか   作:コロッサスマグナ

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今回から少しずつ文章量が増えます。


4話

「……朝か」

 

 結局昨日は泣きに泣きまくったヘルに説教され、抱きつかれ、愛を囁かれ、心身ともに休まらなかった。

 

「今日もダンジョンへ行こうと思っているのだが……いつまで拗ねているんだ」

 

 膝を丸めて頬を膨らます俺の主神ヘル。地獄を司る神ともあろうお方がたった一人の人間の行動に拗ねる姿は実に心苦しい。本当に地獄を司っているのか問い詰めたいくらいだ。

 

「ふん!」

 

 ぷりぷり怒っていらっしゃる。これは帰りに何か土産でもやらねばどうしようもない。

 

「はあ……とりあえず『ステイタス』の更新を頼む。少しでも早く強くなりたいんだ」

 

 チラッと上目遣いで人睨みした後、諦めたように嘆息した主神殿。

 こうしている分には可愛げがあるというものだ。

 

「……ま、いいでしょう。さあ、こちらへきなさいな。ベッドでうつ伏せになってちょうだい」

 

 言われたとおりにすると腰のあたりに柔らかな感覚が。ヘルの指から血が垂れると背中にぴと、とひんやりした指に背筋をなぞられる。この感覚は少々苦手だ。

 

「たった一日程度じゃほとんど変わらないと思うけどねぇ――え?」

 

イゼル・ラーヴァ

 

Lv.1

力: 210

耐久: 550

器用: 54

敏捷: 211

魔力: 0

 

《魔法》

 

《スキル》

 

【六道】

六つの門を開くことで『ステイタス』を強化。

門によって効果は変化する。

 

 

【願望成就】

目的を達成するまで『ステイタス』に補正。

目的を達成するまで全状態異常無効。

目的を達成するまで身体的損傷の程度で『ステイタス』の上昇に大幅補正。

 

(と、トータル1000オーバー!? そんなバカな! それに【願望成就】に不穏な効果が追加されてるぅ!?)

 

「何か変わったことでもあったのか」

 

(はっ! いけない。この追加効果は身体的損傷による向上。こんなのイゼルが知ったら自傷してでも強くなることを望んでしまう。そんなのはダメっ! 私が許さないんだから!)

 

「え、ええ。『ステイタス』に大幅な向上が見られたわ。はいこれ」

 

 ヘルは細工を施した紙をイゼルに渡す。

 

「これは凄まじいな。……まさか昨日の戦いで……」

 

 【願望成就】に追加された一文のみを消した紙をじっくり見るイゼルに多少の罪悪感を抱きながらも、ヘルは彼のことを思って開示しなかった。世の中には知らないほうがいいこともあると、そう思うヘル。

 このスキルは本来、傷つく者を守るために発現したものなのだろう。状態異常の無効化、損傷によるステイタス向上効果。これほど自身を思いやるスキルが発現した背景には何か壮絶な過去がある。

 ヘルの神意は彼に伝わらない。だがそれでいい、と内心、安堵の溜息をつく。

 

「イゼル、約束してちょうだい」

 

「何をだ」

 

 ヘルは真剣な面持ちで言った。

 

「――居なくならないでね?」

 

 どくん、と全身の血管が脈動したような感覚を覚える。かつて似たようなことを姉に言おうとした記憶が、言う前に消えてしまった姉の末路が呼び覚まされる。

 決して消えない『絶望』の記憶。

 

「約束しよう。俺の主神に誓って、決して居なくならないと」

 

 

「ありがとう!」

 

 

 見た目相応の嘘偽りのない笑顔を向ける神、いや、少女を視界に収め、安堵する。この世界で俺を必要とする輩がいようとは、一度心が死んだ人間だ分かっていてこうなのだ。他には何も言うまい。

 

 が、『ステイタス』の更新直後のせいか、多少の疲労と急激に感じる力で体の感覚がズレている。

 

「ふむ、『ステイタス』の更新と話も済んだところで今日も稼ぎに行くが、その間あなたは何をしているんだ?」

 

「え? ああ、孤児院で子どもたちの世話をしているわ。遊び相手とか絵本読んであげたりとかね」

 

「そうか。ではファミリアの資金とは別に孤児院の分も稼いでこなければな。なに、安全を第一にやるさ」

 

「でも荷が重くないかしら。まだ冒険者になったばかりなのに……」

 

「俺は未来ある子供たちへの投資と考えている。笑顔と元気さえあれば十分だろう? まあ強いて欲を言うなら、いつか大物になって恩返しでもしてくれないか、くらいは狙っているがな」

 

 きょとんと俺を見上げるヘル。変なものでも見たかのような面だ。

 

「ぷっ」

 

 口に手を当てて何かを堪えている。

 薄々察しは付いているが……

 

「あは、あははははっ! まさかイゼルがそんなこと、ふふっ」

 

「む、何がおかしい」

 

「だって、仏頂面で、というか白髪で紺碧の目をした童顔の少年が仏頂面でそんなこと言うなんて笑うしかないじゃない。これが多少なりとも抑揚があったり表情豊かならいいけどその顔で……あははっ!」

 

 俺だって好きで仏頂面なわけではない。大災害の時に負った『呪い』や地獄での臨死体験のせいで精神的な面が削げ落ちている。いたってこの仏頂面はわざとやっているわけではないと断言しておこう。

 

「もういい、俺はダンジョンへ行くぞ」

 

 籠手を腕に装備し、バッグを下げて、未だに笑っているヘルを尻目に外出する。

 

 

◆◆◆

 

 

「お、来たか。こっちだこっち!」

 

「……こんな上層で待っているのか。他の冒険者に見つかったらどうするつもりだ?」

 

「心配ない、私は普段角を隠しておるのでな、同業者と思われているようだ」

 

 確かにスライは角さえ隠せばそこらへんのヒューマンとなんら変わらない容姿だ。というか容姿だけで見るならば俗にいう美少女と呼ばれる部類だろう。

 

「そうか、ならさっさと降りよう。『ステイタス』を更新したから少し強い相手、ウォーシャドウと戦闘しようと思っている。もしもの時は援護をお願いしたい」

 

「分かった。それと戦闘の時は私も多少だがアドバイスをしよう。人間どもが使っている武術とやらは分からんが、純粋な戦闘の手本なら私でもできるからな」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 俺達は昨日出会ったところまで、道中のコボルトやゴブリンを『一撃』で粉砕しながら最短ルートで駆け下りる。

 昨日まで楔を撃たなければ倒せなかった相手が、たった一度の『ステイタス』の更新でここまで楽に倒せてしまう。やはり『神の恩恵』は凄まじいものだ。

 

「む? あれはゼウスファミリアとかいう奴らではないか?」

 

「ゼウスファミリアだと」

 

 道中で十数人の集団を遠目に足を止める。

 ゼウスファミリアと言えばヘラファミリアと並んでツートップの最強クラスの探索系ファミリアと聞いている。噂によると両ファミリアともレベル7を二人も抱え込んでいるらしい。

 今の俺から見れば天上の存在だ。

 

「まあ私たちには関係の無いやつらだからな、さほど気にせずとも良いだろう」

 

「あ、ああそうだな」

 

 

 

 俺達はそのまま何事もなく、ゼウスファミリアとすれ違い、下へ進んだ。

 

 

 

「アリア、急に立ち止まってどうした?」

 

「……いえ、少々強くなりそうな少年を目にしたのでつい」

 

 金髪の女性は薄く微笑み、少年を、未来の『英雄』を祝福する。

 底の見えない闇のような目をした少年を。

 

「ほう、お前が言うならそいつは見込みがありそうだな。どっかで見かけたらどこのファミリアか聞いといてくれよ」

 

「ええ、そのうち、ね」

 

 アリアと呼ばれた女性はまだ幼い我が子を想いながら、少年を行く先に幸あらんこと祈る。いつか会うその日まで。

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