BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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「いいわね!もちろん、参加するわ!」

 

 ショッピングモールでライブを行っているハロハピを見かけたヒビキはライブの出演を持ちかけたところ、快く快諾の返事が帰ってきたのは予想通りだった。世界を笑顔にする、その活動の一つとして、ガールズバンドパーティに参加することに迷いはない。美咲や花音ですらそれは認めており、ヒビキの誘いでもあったことから疑いなくその話を受け入れた。ビッグになるのが目標ではない、そして仲良くやっている彼女たちも笑顔になっているのだから幸せなことだろう。まさに、ハッピーワールドを体現していた。独特な世界観を持つ五人が予想だにせない化学反応を起こしてメルヘンチックなワールドを展開していることから、このバンドの方向性が尚更強められる。よろしく頼んだ、とヒビキが言うと、こころも任せなさいと言わんばかりに笑顔で答えた。

 

 レザージャケットの合間から見える、首から下げたマリファナのペンダントが照明の光で輝く。キラっと反射しながらヒビキの位置を知らせるようにしていれば、あちらから若宮イヴを寄せ付けてきた。和菓子屋の前からすぐに飛んできた彼女を見ては、グッドタイミングとつぶやいた。ブシドーを求める彼女なら、と思ったが、間違った知識を教えてはいけない。長袖の白いシャツとレザーカーゴパンツに革のブーツ、とメタラーな格好をした長身の男ならヒビキだとすぐわかるので、ペンダントも何もないが。そういえば、彼女はキーボード担当である。ある意味直々のヒビキの弟子だ。

 

「どらやき、食べる?奢るよ」

「いいんですか?」

「いいのいいの!」

 

 早速和菓子を買って、併設されているイートインコーナーで煎茶と共に甘味を食す。団子も追加して、ごきげんなティータイムの突入だ。美味しそうに口にどらやきを運べば、幸せが溢れ出るイヴの顔。見ているだけでも癒される。アイドルなのだから当然かも知れないが、可愛いのだ。そして、ハーフの彼女で日本を愛する彼女には和菓子を体験しても貰いたかった。武士道だなんだらを求めている他に、アイドルとしての大和撫子を目指す。一度入れ知恵をしてみたら、人気が鰻登りのパスパレになってしまったのだから、案外ヒビキはコマーシャル的なデザインも上手く熟せるのかもしれない。自惚れだという自覚は常に絶やすことはないが。

 

 和菓子屋にしては凝ったイートインコーナーだ。座敷には畳と座布団。い草の香りがまた心地よく、お茶の味を更に引き出してくれる。イヴのご満悦な顔は周りの客にも伝染っていく。これだけでも宣伝効果になるのだ。店とパスパレ、Win-Winの関係になる。

 

 この後パスパレの事務所に行こう。仕事も今日はパスパレのレッスンだし、とヒビキは思い出し、午後からの練習を楽しみにした。

 

 

 事務所についてスタジオに入る前、パスパレのマネージャーや事務所のお偉いさんに呼び出しを食らった。何か悪いことしたかな、とヒビキが不審になりながら会議室に入れば、役人の人数は4人ほどでビビる気すら起こらない。ちょうどいい、とここでガールズバンドパーティの出演を打診してみよう。

 

「あの、皆様からお話があるのは承知してございますが。わたくしからも、お一つお話がありまして」

「なに?」

「この度、私が働かせていただいております"CIRCLE"というライブハウスで、女の子がメインのライブを開く運びとなりまして。Pastel*Palettesさんも出てみないか、とのお誘いを」

「あ、それだ。話したいことってそれなんだよ。インターネットの、そこのホームページに載っててね。一応、パスパレに声かけてるんだけど。それだったら話早いね。よろしく、六角さん」

 

 なんとまあ偶然の一致であることだろうか。実力派アイドルバンドの枠組みに入りつつあるパスパレが、こんなライブに出てくれるとは。芸能事務所ぐるみなら、カメラなども来たりするのか、と思うがそれはなさそうだ。SPACEの件についてはまだ調整中なので、話すことではない。スタジオで待機中の彼女達に話は行っているのだろうか。がちゃりとドアノブを引き、重いドアを開けると、おはようございますの挨拶がかけられる。日菜は遅刻のようで、来るまでにウォーミングアップをしていたのだろうか、クーラーが女の子がいる部屋にしては強めだ。スマホを見れば、連絡用SNS"JINE"に日菜から連絡が入っていて、電車の遅延情報もちょうど知らされたことから、なるほどと遅刻の理由がわかった。

 

 背負ってきたSuhrのModern Customを引っ張り出し、日菜が来るまではギターを弾いておこう、と決めれば、これまた持参のエフェクトボードにシールドをぶち込み、アンプに繋いで音のチェックをした。Diamond CPR-1,CLYDE Deluxe Wah、DOD Looking Glass Overdriveと続き、ループにStrymon Time LineとDiamond HCH-1が入る。なかなかシンプルなセットで、ギターの方は内蔵のバッファと0フレットが打ち込んであるくらいだ。スタジオワークではこれくらいが最適であるし、機材ヲタ麻弥も質と量を考えれば、これくらいで十二分だと考えていた。最適解はAxe Fx II XL+と上質なパワーアンプである。

 

「日菜ちゃんきたらお話するから」

「何かあるんですか?」

「ちょっとしたパーティーのお誘いだよ。派手な、ね。さあ、やろっか」

 

 

 しゃきーんとクリアな音質でギターサウンドが出力される。一曲合わせると、日菜とはまた違った安定感が、そしてギターソロがアドリブだが派手な速弾きではなくポッピーな音使いで弾いてくれた。曲をやっている途中で来た日菜はそのソロを一度聞いただけで覚えてしまい、今度からこのソロを弾こうと決めると、練習を自主的に始めた。

 

「いいじゃん!なまら凄かったよ!彩ちゃん、この前より歌上手くなったじゃん」

「そうですか!?えへへへへ、嬉しいなぁ……♪」

「千聖ちゃんもイヴちゃんも上達したねぇ。麻弥ちゃんも腕あげたなぁ」

 

 褒めて伸ばすタイプの彼は、年頃の女の子とマッチングして更に上昇志向を持たせる。非の打ち所がないし、これならガールズバンドパーティーでも活躍できるだろう。ポップさと技術力は、そこらへんのお遊戯アイドルより遙かにある。比べるほうが失礼なくらいだ。

 

 この子達のはじめてのライブをヒビキは覚えていた。アテフリ、口パクがバレたとき、散々な叩かれようであった。そこで本当に楽器を演らなければ、ということで麻弥のツテでヒビキが講師として呼ばれたのだ。スタジオワークを彼女と何回かやって仲良くなったその結果である。一年経たないうちにここまで起死回生し、むしろ初回ライブ自体が良い布石となったことから株爆上げのCDバカ売れ、しまいにはデイリーチャート一位までをかっさらうスーパーアイドルバンドとなってしまい、話題性も抜群だ。

 

「そういえば、話があるって」

「そうそう。ライブ出演決定しました!俺のバイト先のハコだけどね」

「おっ!いいっすねー。詳細は?」

 

 もちろん日程はまだだが、コンセプトは伝えた。なるほど、と前向きな5人は出演決定、と言わなくても恐らく出たいと言っていただろう。千聖でさえ乗り気なのだから。

 

「そうそう。これ、ボクも出演します!」

「え?ええっ?女の子……だけじゃないんですか?」

「オーナーから提案されたのよ。俺がギター、オーナーがベース。後はボーカルとドラムとキーボなんだよね。やりたい子いる?」

 

 すぐに全員が手を上げた。このやる気はなんだろうか。パスパレwithなんとかズになりそうな予感がしたが、それも悪くはないだろうな、と思うヒビキ。ギャグ漫画のような展開も悪くない。

 

 

 機材を持って事務所を出るとき、彩が一緒についてきた。一人残って自主練をしていたのを、ヒビキも付き合ったのだ。努力量がロゼリア達に負けていない。他の子たちも恐らく家で只管練習している。それでいて学業も成績が良いのだから、要領の良さが垣間見える。一緒に帰っているときでも、喉の開け方の調整はどうだとか、声帯の開閉コントロールの技術だとか、声量と声域の比例関係だとか、そんなことばかり話している。プロ意識の高いこの娘はよく育てられているな、と感心した。アイドル研究性時代に培った努力の大切さとど根性は、本当に見習うべきものもある。ひたむきに自分の仕事に向き合うその姿勢がファンを生み出すのは誰もがわかるだろう。

 

 途中で喫茶店に入って、お腹が減っただろうと思ってケーキを頼んで彩にごちそうする。アイドルは体型維持も大事、とのことだが、あれだけ歌っているのならケーキ一つくらいどうってことない。それに、基礎体力をつけるためのトレーニングを毎日していることも知っている。ヒビキがそれをやるように、と言ってから、一日も欠かさずやっているのだから。

 

「ローカロリーだし安心しなよ。これ1個で276キロカロリーは逆にすごいけどね」

「あ、美味しい!甘いけど砂糖の甘みじゃないですね、これ」

 

 最近、女の子に餌付けばかりしていないか?ヒビキのお財布はガバガバだ。いい加減に気をつけねばという彼の決意は、恐らく明日には消えているだろう。


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