BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

17 / 63
7

 

 いただきます、と目の前のごちそうを食べる前の挨拶を交わしてから、育ち盛りの4人は夕食にありついた。ふかふかしたクッションに座りながら、まずはパスタを一口。細めの麺と絡むホワイトソースの絶妙なハーモニー、そして魚介類が演出する壮大さが、口の中でとろけ合う。思わず口にして溢れる言葉は、美味しい以外になかった。きっちりアルデンテが歯ごたえにもうひとつアクセントを添えて、冗談抜きで店を構えられるレベルになっている。市販の材料だけでここまで仕上げられるレベルとは、お料理研究部恐るべし。

 

 冷蔵庫から缶ビールを取り出し、キンキンに冷えたグラスに注げば、ぐいっと一杯飲み干すヒビキ。そして、その料理の感想を聞くと、やはり絶賛の声が上がる。カルパッチョも食べてみて、と小皿に取り分けて、更にお好みでとオリーブオイルを出した。バルサミコ酢の酸味が野菜とスズキの甘さを際立たせた。更に、オリーブオイルをかけてみれば、まろやかな味になる。この感覚はおかしい。脳が食欲を優先し、味覚を通して更にフォークを進めさせる。途中で喉に通したスープも、内側から身体を温めて、クーラーの効いた涼しいこの部屋にいても微妙に汗ばんでしまう。

 

 途中でバケットを切り分けてテーブルに置き、そこでモカはカルパッチョと一緒に齧り付いた。やはり、思った通りの味。コンビネーションは抜群だ。

 

「今日から私は六角モカちゃんになります!」

「何を言っとるんや」

「私も六角リサになりたい」

「リサちー!?」

 

 胃袋を完全に掌握されてしまった。ヒビキが本当にお母さんに見えてくる。優しくて料理が得意で、なんでも出来る男の子。彼氏というよりはお母さんに近い。ひまりもだんだん恋心からその気持ちになってきた。ヒビキお母さんは今日も優しく美しい。この中でまだヒビキをマブダチと見ている蘭は、三人を見て面白そうであった。懐きまくる三人をビールを片手に手懐ける彼はやはり人気者だ。

 

 自分の作った料理を食べながら、今日もバッチシ、と自画自賛する。テレビがついていなくてもこれほど賑やかで楽しい。大人数で食事をすることが好きだから、ヒビキはこの時間を大切にしたいと思いつつ余所見をしながらグラスに手を伸ばそうとしたが、どうも空を掴んでいるように思える。あれ、とヒビキが視線をやると、リサがビールを呑んでいて、あっと間の抜けた声が漏れた。

 

「やべぇよ……やべぇよ……」

「えっへっへ、ひびにぃ〜♪」

「酒弱っ!ていうか、リサちー!ダメだって飲んじゃ!」

「あらあら、やってしまいましたねぇヒビキさん」

 

 顔が赤いまま、ヒビキの膝に倒れ込むリサ。そのまま猫のようにゴロゴロとしだした。ひまりとヒビキが頭を抱えるが、蘭とモカは笑ったままでいる。ほら、とレモン水をヒビキが差し出すと、とろんとした眼でそのグラスを見ながら、自分の唇をなぞった。

 

「のませて♡」

「自分で飲みなさいよあなた」

「えーいいじゃん〜♪くちうつしで♪」

「ひまりん、やってあげて」

 

 無茶振りをひまりにした。そこでまた蘭とモカが大爆笑した。レモン水で胃の中のビールをなんとか薄めてやればいいのだが、こうも面倒くさいとどうでもよくなってくる。このパスタにもアルコールを飛ばしはしたが白ワインが入っているが、そこでは酔わなかったのだろう。未成年の手の届く所でリサが呑むとは思わなかった。ヒビキは苦笑いをしだした。陽気に甘えて引っ付いてくるリサにコップでなんとか水を飲ませたひまりだが、彼女から見たらリサはとても妖艶であった。そのままひまりへと絡む対象が変わって、突然に胸を掴まれた。

 

「ぴゃうっ!?」

「んにゅ、やわらかいなぁひまりんはぁ」

「ヒビキ、これ止めなくていいの?」

「止める手段がわからねえ」

「モカちゃんの眼福になりますなぁ〜。おおっ、ひーちゃんの大きなメロンパンがどんどん揉まれていくぅ」

「酒乱だ……」

 

 

 酔って荒れたリサをソファに寝かせ、キンキンに冷えた水をテーブルに置いてから、ヒビキは残りのビールを呑み干した。他の三人は入浴中で、覗くなよと念を押されたが、覗くつもりもその気も全くない。広めのお風呂で今頃ゆっくりリラックスしていることだろう。

 

 バルコニーに出て、ジタンを咥えて火をつけた。外へと振り撒かれる紫煙は暗闇に消えていく。サンダル履きである足に灰が落ちないように気をつけながら、香ばしく旨味のあるこのタバコを味わった。小さな灰皿にこんこんと叩き付けて、吸い殻から灰を落とせば、ヒビキがいないのに気付いたリサがバルコニーに顔を出した。

 

「あら〜、タバコなんか吸っちゃって」

「流石にタバコはアウトよリサちー?」

「わかってるよ、臭いついちゃうしね」

 

 ちょうど一本吸い終わったところだ。ぐっ、と押し付け火を消してから、灰皿を持って室内に戻る。まだ少し千鳥足なリサだが、意識はちゃんと戻ってきたらしい。これでチクられたら捕まるのか、とヒビキは内心ヒヤヒヤしながらも、表向きは平常心を保った。水をくいっと飲んで、ヒビキを見る。なぜか彼女は無性にヒビキに甘えまくりたくなった。

 

「友希那が惚れたのもわかる気がするなぁ」

「だからリサちーも俺に惚れた、と。なんでやねんな」

「ふっふっふ、恋敵は多いようだけどもぉ、負けないよ」

「そうやってグイグイ来るのはなんでなのよ?」

「へへへ、お酒のせいかもねぇ」

 

 だんだんと服が開けていくリサ。何をしているんだこのJKは、とヒビキは思った。風呂から上がって着替えた蘭がちょうどそれを目の当たりにしては、リサを更に煽りだす。どうも今日はこの子達のペースに乗せられていて、調子が狂ってしまう。奥の手だ、とヒビキはすぐにリサの後ろに回って、肩周りのところに人差し指で軽く触れた。

 

「おっ、倒れた」

「六角流ツボ拳、睡眠拳……」

「不眠症に効果ありそうだね」

 

 くうくうと眠り出したリサをお姫様抱っこしてソファに戻した。処女のくせに、とヒビキが呟く。人の事言えるの?と蘭が突っ込むと、素直に言えないと答えてしまった。しかし、こんなに直接的に女の子に迫った覚えはない。勝手に冷蔵庫を開けて、自前のコーラをラッパ飲みしだす蘭を見て、お前、と言葉を失った。

 

「いつの間にコーラなんて買ってきた」

「さっき。今井さんに紛れて冷蔵庫に入れた」

「おいおい」

 

 色々と無法地帯だな、とヒビキはぼそっと言った。とはいいながらこんな可愛い女の子に囲まれて嬉しそうではないか。蘭のからかいを真に受けずに、ヒビキはリサが寝ていない方のソファにどかっと腰を下ろした。続いてヒビキに服を借りたひまりとモカがリビングにやってきた。風呂の大きさに感動しながら、にへへへと二人は近寄ってくる。いいお風呂だ、と背中をポンポンと叩いてヒビキにダル絡みしだした。アフターグロウってこんな奴らだったっけ、とヒビキは思い起こした。確かに、頭がお祭り騒ぎなやつらばっかだが、どこかでストッパーが掛かっていたはずだ、とも。しかし、何故だろうか。アルコールは本当に飛んでいるはずなのに。

 

「こんな可愛い子たちの残り湯に入れるなんてねぇ……」

「ヒビキさん、幸せものだよね。あ、一緒に入る?」

 

 ひまりは先程まで自分のセクハラに顔を真っ赤にしていなかったか。それが今では逆になっている。ふふふ、とからかいまくるが、しかしヒビキは悪ノリしだした。

 

「お前らの残り湯で明日の味噌汁作ってやろうかな」

「私達のダシが明日のお味噌汁ですか!あっはっは!」

「私は今日のスープがいいかなぁ〜。お味噌汁は、ひーちゃんのおっぱいで」

「出ないよ!モカのほうが出そうだけど?」

「処女のくせして何言ってんだお前ら!」

「そういうヒビキさんだって童貞なんでしょ?イケメンなのにねぇ!奥手だから、ふふふふっ」

 

 こんなゲスい会話の中でぐっすり眠るリサ。アフロは変態バンドになってしまった。残す巴とつぐみが毒されていなければいいが。シラフでこれは、昔のロックスターに段々と近づいてきている。荒れに荒れ、セクシャルトークがとても好きなバンドたちに。

 

 すっかり調子が良くなってきた三人が、勝手に壁の楽器を手にして弾き出した。コードも音もめちゃくちゃ、しかし外したと思った音が案外あっている。お前らはいつからプログレバンドになったんだ、と突っ込むも、カーペットの上で立ちながら弾く彼女達には届かない。蘭も楽しくなってきてしまって、自前のレスポールカスタムでそれに参戦しだした。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。