BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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Chapter.3 -爆裂鋼鉄打撃(チャイナドレス)-
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「あっ、あれは」

「お、落合……!?」

 

 休日のグラウンドで商店街対抗の野球大会にお呼ばれしたヒビキは、タンクトップ姿のままで右のバッターボックスに入ると、斜めにバットを構えた。おじさんおばさんがその構えを見た途端に、往年の強打者を思わせるような彼に期待を寄せる。晴天の下、迎えた状況は9回裏、4対1のビハインド。満塁ツーアウトの中、代打での出番のヒビキに恐れおののく相手チームだが、実力がよくわからない。敬遠すべきか、否か?ここは勝負してもいい。打たせて取ってしまえば試合終了、勝利で幕を閉じる。

 

 嫌なくらいにリラックスしているヒビキ。ここで、大胆にもバッテリーはど真ん中を狙う。綺麗なストレート、恐らく140キロ後半は出ているだろう。投げているのは元甲子園球児の57歳。年齢的にもそろそろ疲労が見えてくる頃だ。それをわざと見逃した。観客席にいるのはもちろんやまぶきベーカリーの三兄弟。リサも友希那も、そしてアフロまでいる。どうせ次はインハイ抉るシュートでくる、そう予想したヒビキは、次の球を待った。

 

「さーんかーんおーちーあい!広角打法ー!」

「レーフトーへラーイートへホームラン!」

 

 中日時代の応援歌とともに、まさにそれである内角捌き。強靭かつ柔和な手首を使って、簡単に向こう側へとボールを運んでいってしまった。満塁サヨナラホームラン、勝負を決める代打、六角。バットを放って悠々とダイヤモンドを走り、ホームベースを踏むとチームの皆から賞賛される。

 

 ――なんで俺、バット振ってるんだっけ。

 

 選手登録はされていなかったはずだ。お祭りがあり、その前に野球を見ていかないかと誘われたところまでは覚えている。そして、ピンチヒッター六角といわれたところでおかしいな、と思いながら、レザーブーツとゴテゴテのアクセサリーがついたベルトを巻いたライダースパンツで打席に立っていたのだった。

 

 胴上げから帰って来て、友人達からすごいすごいと褒められる。友希那に預けておいた水色のシャツを羽織る。胸元に光るマリファナのペンダントは、ヒビキの内心を表しているかのようだ。じゃあお祭り行きますんで、と仲間を引き連れて露店の出ている方に向かえば、案の定リサと友希那だけ置き去りにされていた。

 

「どうしてこうなった!?」

「えーいいじゃんヒビ兄。デートみたいで!ね、友希那?」

「ええ。ヒビキさんは嫌ですか?」

「嫌じゃないけど!あっユキちゃんそこ触っちゃダメ!?」

 

 いつもより可愛らしい服装の友希那、浴衣でバッチシ決めてきたリサ。これはなんてエロゲ?とヒビキは問い掛ける。退散していった沙綾達に呼ばれたポピパともあえば、四人からニヤニヤされるも、香澄は空気を読まずに特攻していく。

 

「友希那先輩に、リサ先輩?なにしてるんですか?」

「そりゃもちろんデート!」

「ウソつくなリサちー!」

「そうよ、ウソはいけないわ。愛の逃避行ね」

「おい!拗らすなユキちゃん!」

 

 どんどん話がわからなくなっていく。大変そうだな、と思うのは、外野から見ている花音。はぐみの誘いでハロハピのメンツも着ているのだ。ロゼリアのメンツだって、あこが誘って燐子と意外に乗り気であった紗夜が、そしてどういう経緯できたのかわからないが、パスパレもこの祭りに来ていて、ヒビキを見てはあれなにしてんだと面子内でこそこそしていた。

 

 いつものストイックな友希那とのギャップが酷い。デレデレしっぱなしな彼女を見た紗夜は、口をぽかんと開けて閉じられない。リサはまだしも、と思いつつも流石にキャラ崩壊がすぎる。ロゼリアが最近また上手くなっていると思っていたら、原因はこれなのか。別に構いはしない。馴れ合いは不要、と思っていた時期が彼女にもあったがすっかり丸くなってしまって、それのおかげかと思っていたが、それ以外にもあるらしい。そこで、あの、とヒビキが声を出す。

 

「タバコスイタイデス」

 

 

 即席で作られた喫煙所に一人で行った。あの二人はロゼリアと合流して楽しんでいることだろう。ゴロワーズを取り出して咥えるときに、リサに見つかった。ZIPPOを手に持つとリサにそれを取られ、火をつけてくれる。

 

「ついてきたの?」

「そりゃ、当たり前でしょ?私がヒビ兄を逃がすわけ無いじゃん?」

「なるほど?」

 

 ヒビキの吸うタバコの臭いは気にしない。紫煙が昇り、匂いつくよと言われても気にしない。それ以上にヒビキといる価値があるから。ギャルっぽいいつもの格好に比べると、コッチの方が似合っている。そう褒めればなおさらリサが喜ぶことはわかっていた。

 

 しかし、久しぶりに野球をした。代打での一打席であるが、昔父親に連れられて落合博満の引退試合を見た覚えがある。もちろん、野球は好きであるし、落合も好きだ。最近では横浜の筒香にお熱で、倉本の復調を心待ちにもしている。この前一人で横浜スタジアムに行った時に偶然TV中継に映ったのは、大学の友人に教えられた。音楽ばかりと思っていたが、料理に野球に、と尚更六角ヒビキの趣味の庭が広くなる。

 

「ね、Roseliaと一緒にライブやるって本当?」

「ん?ユキちゃんから聞いた?」

「その言いぶりだとマジっぽいね。うわー、楽しみだなぁ。あこなんかもう小踊りしてたし、燐子も嬉しそうだったなぁ」

「さよちんは?」

「なおさら練習しだしたよ?ヒビキさんの顔に泥を塗る訳にはいかない、って。憧れのギターヒーローだって言ってたし」

 

 以外にも可愛い一面があるものだな。紗夜が自分を憧れにしていたことは知っていたが、あんな真面目な性格にしてギターヒーローを自分にするとは。そんな憧れの存在が時々対面でギターを教えている事はさぞかし嬉しいことなんだろうな、と感じれば自分も嬉しくなった。でもやはり自分を見てほしい、と思うリサは、ぎゅっとヒビキの腕に絡みつく。

 

「あのさ」

「なに、ヒビ兄?」

「なんでそんなに大胆になれるの?」

「ヒビ兄が好きだから。他に理由いる?」

「いらないけど、おたえちゃんが」

 

 そうだ、ここは外だ。ニヤニヤしてこちらをみてくるたえがカメラを回した。悪ノリしてピースするリサにはもう何を言っても聞かなさそうで、夕闇にだんだん染まっていく商店街に再び戻れば、今度は友希那のターンになっていく。自分は幸せ者なのか、それとも。これは一度幸福論を復習する必要があるなとヒビキは思いつつも、涼し気な格好の友希那に手を引かれる。引っ張りだこである彼は、嫌な顔は全く見せない。先ほどの野球チームのおじさんおばさんに見られては、お熱いねぇ、とからわれながらも、友希那は全く気にしない。リサとは良き親友、良きライバル。人目のつかない休憩所にだんだん足を踏み込んでいくと、ヒビキはどうしたの、と声をかけた。

 

「こうやって、静かなところで二人きりになりたかったので」

「あ、そう。わかった」

 

 にっこり答えるヒビキ。先程買った飲み物を渡して、ベンチに腰掛ける。大きな声やお囃子がここまでも聞こえてきて、微笑ましくなる。この恋路の行く先を示すものはない。どこに転がっても恨みっこなし、そして万能の選択肢は恐らく二人彼女ルート。浮気でも何でもない、これが幸せな道なのだから。

 

「しばらく会ってないな、ユキちゃんのお父さんに」

「え?会いたいんですか?」

「久々にね。音楽やらないっていってるけど、まだやれるでしょ。あの人とやるの面白いからさ」

 

 趣味程度だよ、とそう言うヒビキ。業界に引き戻すつもりはない。娘が音楽をやっていることも嬉しい。そしたら、自分も音楽またやろうぜ、とのことなのだろう。なんのしがらみもなく楽しんでやればいいのだ。それを友希那の父親はやりたかったのだから。二世代揃ってヒビキに世話になりっぱなしだ。そういうところはどこかリサに似ている気がする。違う、ヒビキにリサが似たのか。違うのは性別と年齢、楽器の腕くらいか。

 

 ところで。ヒビキはまた口を開いた。

 

「ユキちゃんは今、ロゼリアにいて楽しい?」

「え?」

「心配なんだ、俺は。君がまた、音楽を楽しめなくなるんじゃないかって。ロゼリアが楽しいなら、心配はないけど」

 

 老婆心ながらとのことだろう。個々の技術は相当高まってそれでも上を目指すロゼリア。しかし、最近は楽しさしかないあのバンド。下手になるどころか上達しかない。心なしか笑顔が増えている。それを知っているはずだ。

 

「はい」

「そっか、よかった。ユキちゃんはどこか危なっかしいからさ。いつでも俺とかリサちーがいるんだから、なんでも頼ってくれよな」

 

 

 ここでも世話焼きなのか。惚れたのか安心できる存在なのか、よくわからない。しかし、惚れたのは事実なのだ。

 

 少しして、打ち上げ花火が始まるというアナウンスが流れた。皆で見ようや、そうヒビキは勧める。ロゼリアにまた合流してから、ヒビキはまた他のバンドに揉みくちゃにされる。そうしてなぜかパスパレに彼は取られ、取り返す暇もなく花火は打ち上げられた。


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