BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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「は?解散?」

 

 祭りが終わりに差し掛かった頃にヒビキの電話が鳴り響いた。DoPの所属レーベルからの電話であり、それを受話してみれば、衝撃的な一言がヒビキの耳に飛び込んだ。友希那がいつもの面子にまた合流して、そして一人、静けさで充ち満ちている公園でそれを聞けば、ヒビキはほーんと相槌を打った。どうせ自分は雇われギタリストなので気にしない、とは思ったものの、解散した後の他のメンツはどうするのであろうか。講師にでもなるのか、あるいは。新生SPACEのオーナーになるヒビキに声を掛けてくれたら、仕事は斡旋できるはずだ、と思いながら、あまり深入りするのをよした。どうせ自分に話を求められることはない、と割り切った途端に、ニュース速報としてメールやアプリの通知が一斉に暴れだして、ヒビキは狼狽しだした。

 

「ヒビキさん!ダムネイション解散って本当ですか!?」

「ぽいねぇ。ま、俺にはもう関係ないさね」

 

 もちろん、そのニュースはヒビキの事を知っている者にも届いていた。祭りに戻ってきたヒビキを心配したのか、たえが声を掛けた。達観したような視線と答えは、なぜか期待外れに終わる。なぜ、こうも平気でいられるのだろうかと彼女は思った。サポートだからなのか。それとも、やはり内情を知っているからか。話は一応聞いていた。内紛がいつも起こって収まらないと。サポートがあまり口出しすることじゃない、と割り切っているのもわかっていた。大ファンであるバンドだっただけに、喪失感と虚無感に襲われる。しかし、前向きにヒビキは考えていた。もっと自由に活動が出来る、と。プロの世界に身を置きっぱなしにしておく。しかし、これからはライブハウスの運営もやるのだ。それの準備と思えばいい。

 

「運営?」

「ああ、バアさんがSPACE畳むんだけど、俺が引き継いであのライブハウスを動かす。おたえちゃんもそのままバイトで働いてもらうよ」

「え、初耳なんですけれど」

「そりゃ、言ってなかったもん。そうやね、ポピパがSPACEでライブしてから畳む予定」

 

 身の回りの世界はどんどん変わっていく。ドライな思考がヒビキの頭を埋め尽くし、回転する。キレ者の頭脳だ、シャカシャカと次から次への行動予定が出てくるし、言う前に効率性などを計算してからの発言だからわかりやすい。この人の右腕を努めるのは私しかいないんだろうな、と聞いていながらたえは思った。ラブコメはリサたちに任せておけば十分である。右腕を務める弟子、なんだか聞こえが格好いい。更に心配してきてくれたのがパスパレの面子、特に彩であった。大丈夫大丈夫、と答えてから、次にくる電話は取材申し込み。ええ、とまた困惑しながらそれを取る。一つのバンドが消えて無くなるだけでこんなに大騒ぎになるとは思わなんだ。それもそのはず、メジャーでもインディーズでもオリコンのデイリーチャートの一位を獲得したようなバンドなのだから。しかし、その功績自体はヒビキが作ったものではない。前任のギタリストが作ったのだから。しかし、ボーカルとドラムの仲を取りなし続けていた結果、ボーカルのせいで鬱になり、自殺までしてしまったのだ。その後任として最近決まりそうになっていた矢先にこれだ。第三者が噂を面白おかしく引っ掻き回して話が事実になってしまった、それの一番の被害を被っているのはヒビキ。一回干されているのをいいことに、また原因がヒビキとか書かれる可能性が高い。

 

 麻弥はパスパレに入る前からヒビキを知っている。会ったのは大分前で、既にスタジオ業界では有名人であったヒビキと一緒に仕事をしたのは去年から。ヒビキが干されてこういう活動しか出来なかったのももちろん既知事項。ドラムの技術を、なぜかギタリストのヒビキから教わって高めた。その時の印象は、なんでこんな優しく頭の良い人が干されるのか、と疑問しか浮かばなかった。しかし、相変わらずどこ吹く風といった表情でタバコを吸いに行ってしまった。

 

「麻耶ちゃん、浮かない顔してるわね?」

「ああ……。またヒビキさんが叩かれまくるんだろうな〜と思うと、気の毒で気の毒で」

「また?以前もあったってことなの?」

「はい。それに関しては、恐らくロゼリアの湊さんが詳しいかと。彼女のお父さんのバンドのラストライブでキーボやってたんですけど、真相聞いてもメディアが曲解しまくってヒビキさんを悪者にしてしまったんですよ」

「そんな曰く付きの人がパスパレのトレーナーだったなんて……」

 

 パスパレの未来も尚更暗いわね。自分の保身に走りまくる千聖の小声は、もちろん麻耶には聞こえていた。最初のアテフリライブでバッシングされたパスパレの比ではないくらい、というか常人では普通自殺するくらいのゴシップをひたすら書かれ、業界の敵とまでいわれたヒビキのおかげで、パスパレの技術力は高まったのに。そんなことを言われるのは悔しくてたまらない。

 

「千聖さん?言っていいことと悪いことがありますよ。自分の聞こえる範囲でヒビキさんをディスるの、やめてくれませんか?」

「え?」

「パスパレの未来が暗い?何をおっしゃられる。あの人のおかげで名声が復活したの忘れました?」

「あのね。綺麗事ではやっていけないのが芸能界なの」

「恩を仇で返すようなことをこれからも言い続けるんでしたら、自分はパスパレやめます」

 

 眼が本気だ。楽しい時間が一瞬で冷えてしまった。千聖の顔が引きつり、マジギレしている麻弥をなんとか取り成すために他の三人が機嫌を取り出した。とにかく、ここまで情に厚い女の子とは思わなかった。心の導火線に一気に火が灯されては、消化活動に勤しむしかない。

 

「……ごめんなさい。そこまでのこととは思っていなくて」

「わかっていただければ自分は構いません。ですが、ヒビキさんのことをまたディスるようでしたら、その時は」

「ま、ディスりたきゃ好きなだけディスってもらって構わんよ」

「うわっ!?」

 

 すぐに戻ってきたヒビキが、後ろからヌッと現れた。驚いて尻餅をつく麻弥を支え、立ち直させると、ヒビキは千聖にニッコリ笑いながら口を開く。

 

「千聖ちゃんは賢いよな。自分の保身は確かに大事だからさ、俺が嫌なら別にそう言っても構わんよ?ダムネイションのベーシストをトレーナーにつけるかい?」

「えっ?」

「俺より辛いの、ダムネイションのボーカル以外なんだで。ボーカルのわがままでダムネイションが潰れた。これが現実さ」

 

 

 自宅に帰ってから自分の言動を振り返ってみるものの、生き残るにはこれしかないと思っていた千聖。あんなに怒り心頭の麻弥の気持ちもわかる。そして気付いていたら、PCでヒビキの事を調べていた。ウィキペディアだったり、麻弥の言っていたゴシップ記事だったりと、色んなものが出てきては、片っ端からその内容を見ていく。

 

「殺害予告まで?これは……ん?」

 

 そんな中でも、ヒビキを庇う記事は特に信憑性の強いものであった。なぜなら、それの内情を知っているバンドメンバーやマネージャーが書き下ろしているからだ。尚更芸能界の闇が深まる。しかし、やりすぎていたのも事実だ。キーボードを破壊して抗議は特にだ。しかし、なぜこんな事を知っていながら、事務所はヒビキをトレーナーに立てたのか。こちらも闇が深いと思った。実際は麻弥経由で立てられたのであるが。それを受け入れた事務所の所長がかなり柔和なのだろう。

 

「ええ……。あの人、黒塗りの高級車がなんたらかんたらって……。あ、これは違うわね」

 

 次第にヒビキの記事を見ていくと、干されてからの復活劇もとんでもない物があった。実力で黙らせる強引さがあり、それで眼に付けたマスコミに掌返しをさせたのだ。うわっ、と流石にドン引きする千聖の反応は正しい。やはり、大人の世界は汚い。しかし、今回の件については、ヒビキのヒの字も出てきていない。ということは、バンドの方が釈明をしたのであろう。これで心配は一つなくなった。千聖の顔が真っ青になる。麻弥にとんでもないことを言ってしまった、と改めて感じたのだ。保身に走ってはいる。そして、自分の卑劣さに段々と嫌気を感じてきた。話題の人物は、今日も呑気に料理に励んでいるが。


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