BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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「あんだけ啖呵切っときながら風邪かい」

「仕方ないですよ。それに、啖呵じゃなくてヒビキさんの傘になっていたんですから」

 

 翌日のパスパレのレッスンに麻耶の姿はなかった。病欠であって、代役でヒビキがドラムを叩くことになる。スローンを調節し、タイコのチューニングをポップ用に合わせるとウォーミングアップで軽くビートを刻み始めた。その次に事務所の倉庫に転がっていたツインペダルで連打を始める。最終的にはブラストビートに移行した。ドカドカ連打するドラムを皆初めて見て、軽く汗をかいたヒビキは平気な顔をして一曲通そうといった。

 

「しゅわりんどりーみん、頭からね」

 

 先程の激重なドラムとは裏腹、スティックでカウントを取り、ポッピーなドラムサウンドを叩き出す。軽快でステップしたくなるようなこのビート、これは麻弥と瓜二つだ。しかし、少しだけ難解なフレーズを入れているのはなぜだろう。頭抜き三連をAメロとBメロの繋ぎに入れる。少しだけ速度感が早まる。この技術はどこから持ってきたのだろう。テンポもブレないので大したことはないが。

 

「うっし。一曲通したけど……ベースがねぇ。迷いのある弾き方してない?」

「えっ?」

「テンポはあってるけど、リズムが不安定だし、とっ散らかってるよ」

 

 昨日の事を気にしている所為だろうな、とヒビキは思った。それもあるが、メインは違う。ヒビキが後輩のアイスティーに睡眠薬を入れたとか、コーランを燃やしてムハンマドを馬鹿にしたとか、黒塗りの高級車に激突してしまって示談の結果ヤクザに変な条件を突きつけられたりだとか、そんなゴシップを見まくっていた結果の寝不足である。あまりにも面白過ぎて、もはやこの人は害にはならない。おもちゃみたいな人間になってしまっていたのだと思うと、ヒビキの顔をまともに見れない。笑い転げてしまいそうだから。

 

「ごめんなさい、気をつけます」

「んでイヴちゃんは……ギターソロが終わったところがバッチシ合ってたね。他も言うことなし。日菜ちゃんはやっぱ自由すぎるゾイ」

「走ってる?」

「そこそこね。つーか耳栓してないの?しないと逆にドラム聞き取れないよ」

「えー……。わかった」

 

 ティッシュをちぎって耳に突っ込み、即席の耳栓を作れば、クラッシュシンバルの音量も心地良いレベルに下がり、格段に聞きやすくなる。そして彩ちゃん、とヒビキが次のアドバイスに回った。

 

「高域また出るようになった?」

「はい!実は、ハッカのアメ舐めたら鼻の通りが格段に良くなって。ファルセットもなんだか楽に出せるようになったんですよ」

「いや、あれヘッドボイスでしょ」

 

 だんだんと浜田麻里と化してきたアイドル。この子の成長は何が原動力なのか。ファンの応援にまともに答えたいからか。少年漫画の王道主人公みたいなキャラでもないはずだ。それに、コラ画像も大量に作られている。そういう面でも見方を変えれば愛されていると言えよう。それより、この歌唱力はお見事。頭の方が響くように裏声を使う、それをヘッドボイスという。これはもしや友希那を超えたのでは、と思うが、流石にそれはないかと勝手に完結させておく。今度はパスパレボリューションずだ、と言って、その調子を続かせるために少しのインターバルを取った。何度か曲を熟し、ライブのセットリストとも取れるような曲ばかりを通しては一発OKが連発される。

 

 

「消せないアドレス、Mのページを……」

 

 古めのガールズバンドの曲もレパートリーに入れているこのアイドルユニット。バラードも難なくこなすこの4人、気持ちも十分だ。麻弥が風邪ながらも頑張って練習を見に来ては、スティックのヘッドの重さを利用して優し目な音を出すヒビキの技術を見て、自分よりナチュラルな動作をする彼に少し憧れを抱いた。風邪を引いた原因は薄着で夜までいたかららしい。ちゃんと体調管理しないと、とヒビキに言われながらも、市販のよく効く薬である程度は良くなった。そして、やはり彩の成長をみるとパチパチと拍手する。

 

「どうしたんですか彩さん!すごいですよ!」

「アメのお陰で調子いいんだ〜♪」

「鼻通りがよくなったんですかね?千聖さんもオカズのスラップが凄くいいアクセントですよ」

「そうかしら?ふふ、ありがと」

 

 ふう、とスティックをおくヒビキ。そこにまだやりたい曲がある、とヒビキにいうのは日菜だ。チューニング重めにして、と言われて言う通りにすれば、日菜の弾くリフは思い切りのNWOBHMだった。ヒビキがそれを聞いて、どこで聞いたの、尋ねれば、お姉ちゃんがよく弾いてるのを聞いて覚えた、とのことだ。

 

「Iron MaidenのThe Trooperねぇ……」

 

 少しだけ付き合ってやろう。ヒビキはスティックを握り直した。その原曲は彼のスマホに入っていて、とてもアイドルのやる曲ではないことがわかる。スティックを振り回し、ドドンとタイコを爆音で鳴らしきった。耳栓をしていてもこの音は耳に突き刺さり、麻弥の求めるパワーの集大成がここにある気がした。そういえば、彼のドラムのフルセットは、直径28インチのバスドラ二発と15×6.5のスネアくらいしか覚えていない。タムもフロアもシンバルもメタル向けのものであったか。ヘヴィ&ラウドを目的としたセットだったことは覚えている。しかしどんなギグでも全力でこんなにやるのはヒビキくらいではないだろうか。絶え間ないツーバスの連打にリフの刻み。コンビネーションは抜群。どちらも天才と認めさせるにはちょうどいい。

 

「You'll take my life but I'll take your too!!」

 

 そして彼は太く高い声で歌い出す。そのまま走らずにワンコーラスやれるのだから、超人と言う他ない。この才能に嫉妬したい。しかし、才能というよりか努力量なのであろう。効率性重視の努力が実を結んだのだ。この練習メニューはまだ知らない。地道に努力してきた麻弥にも自信はある。しかし、ヒビキにはどこまでいっても勝てない気がした。

 

 

 練習が終わってから、千聖はヒビキに近寄る。昨日こんな記事ばかり見ていて寝不足なのだ、と説明した。自分の中傷かと予想を付けたが全然違っていた。どれもホモビデオのネタだったり、阪神が負けたのはヒビキが悪いとか謎の因果関係だったり、自分の名字が六角だからといって六角の漢字の面積を求めよとかいう奇問があったりと、ヒビキだけでなく皆を大爆笑させるには十分な材料だった。

 

「これ、印象悪いも何もないと思うんですけど」

「こんなの見ちゃだめだよ千聖ちゃん。っていうか、なんでこんなにやられてるんだ」

「ホントの事をしっかり書いた上でネタにされてるみたいです。パスパレ五人が六角ヒビキにしてそうなこと、っていう記事で調教っていうのは笑えましたが」

「笑えねえよそれ……」

 

 ドM認定されているのか、自分は。そんな要素を見せたことは一度たりともない。それに、ヒビキはちょいSだ。それをおおっぴらにした途端にまた笑いが巻き起こる。そうか、ヒビキはSなのか、と。

 

「ということは、今井さんは受けなんですか?」

「受けってなんだよ受けって麻耶ちゃん!まだ付き合ってないっての!」

「えー?リサちーと付き合ってないんだ?じゃあ友希那さんとも?」

「ないよ!ボクはまだフリーです!」

「だそうだよ彩ちゃん、イヴちゃん」

「私が狙ってる設定なのこれ?いや、でも……かわいいし料理うまいし優しいし、ありかも」

「私、ヒビキさんはサムライとして好きですよ?ショッギョムッジョです!」

「それ使い方違わない?」

 

 からかうのは主に日菜だ。しかし、誰も狙わないのなら自分が貰っちゃおうかなと言い出す。アイドルの自覚はまだない。だからこそこんなことが出来るのだろう。おふざけなら全然構わないし怒られもしない。そうしてヒビキにひっつく。どんどん敵が増えていくリサと友希那に麻耶は同情さえ覚えた。

 

 おふざけもつかの間、約束があるからとヒビキは一番に事務所を出た。待ち合わせ場所は駅前、巴とあこがばっちりそこにいる。これからスネア探しの旅をしにいくのだ。ヒビ兄おそーい、とあこはお約束のように言う。待ち合わせ時間ぴったりについているのだから遅くもなんともない。ヒビキはごめんごめんと心にも思ってないことを口にした。お目当てのモノが見つかればそこで割引か無料で引き取りか。軍資金は取り敢えず四万ほどらしい。あこは見に行きたいだけだそうだ。

 

「事前に調べたりとかした?」

「んー。余裕があればLudwigなんだろうなとは思ってる。LM402なら新品でも行けるし」

「ま、ハズレはないわな。あこは欲しいもんあったら言えよ?俺が価格破壊しちゃる」

「それいいの?」


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