BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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「それが、買ってもらったスネア?」

「そう!かっこいいでしょリサ姉?」

 

 翌日のRoseliaの練習で早速スネアとスティックを見せたあこはおおはしゃぎで、何度も紗夜に怒られていた。しかし、いつもとは違う、ラウドで重い音を響かせた途端に世界が変わる。イヤーサプをつけていても突き抜けてくるスネアにびっくりして紗夜が振り向いたくらいであった。チューニングの方法もヒビキの祖父にざっくり教えてもらって、音の粒の揃い方がとんでもなく綺麗であり、これだけでドラムがほとんど決まるような気がしてならない。紗夜も今日はESPではなくKieselを使っていて、音のキャラクターは少ししっとりとして、それに乗ってくるスネアの打音はとても心地よい。試しに合わせてみよう、とした曲はThe Trooper。この曲のリフが気に入っているらしく、ロゼリアのセットリストに入れたら意外とウケが良かったというものもある。ウォームアップに弾いていたとき、これやりましょうと言った友希那のおかげでのセットリスト入りだ。恐らく友希那とリサはヒビキの影響を受けて知っている。初見かと思いきや、1回通したときに二人共完璧にこなしていたからだ。アイアンメイデンは三人ギターがいて、燐子がその内の一人をキーボードで弾いてくれている。この曲でギターボーカルは無理だろう、と思っているが、次にやるときはヒビキが加わるのだ、完全な再現が出来る。

 

「あれ、グローブなんてつけてたっけ?」

「これも、ヒビ兄のおじいちゃんが選んでくれたんだ!滑り防止と手のダメージを減らすのに使ったほうがいいって。感触は全然変わってないのに、すごく楽だよ!」

「スティックも黒塗りだ……」

「あこ、ちょっと借りるわね」

 

 友希那がスティックを持つと、このスティックの固さをして、何か入っているなと気付いた。オーク材の中にはカーボンに依る強化スティック、それでもってチップは楕円でこっちはヒッコリー。これは誰でもいい音が出るのでは、と思って友希那がスネアを叩くが、スイートスポットから外れている気がした。あれ、と他の四人が目を丸くする。

 

「これは……あこにしか叩けないわね」

「あれ?おかしいな」

 

 あこがほいっと一打。断然、あこの方が音が良い。手首のスナップだけでなく、肩関節の柔らかさとその勢いで打ち出す彼女の動作はどこかで見たことがある。そうだ、ヒビキだ。忘れていた、ヒビキの弟子がたくさんいることを。鏡も揺れ出さんばかりの音圧で、そのチューニング方法でバスドラもタムもやってみれば、音の壁が地面からヌッと背後にそびえ立っているみたいである。レンタルで借りたエリミネーターがバスドラのアタックを強く強調すれば尚更メタル感が増す。スナッピーは42本のを少しキツめのテンションで張って、これが恐らく輪郭の明確化につながっているのだろう。今日の練習はもうメニュー自体が終わっており、そのメニューの延長でドラムとベースの練習をしていたのを見守っている最中、まりなが気になって様子を見に来た。

 

「お、いいねぇ。このフレーズはColorado Bulldog?」

「月島さんもくわしいんですね?」

「私、ロッカーなの。言ってなかったっけ?」

「いえ。月島さんとお話することがあまりないので」

「ヒビキくんばっかりに構ってると拗ねちゃうぞ?」

 

 冗談を飛ばすくらいには気さくなこのオーナー。余程あのプロジェクトに期待しているらしい。ヒビキがポスターを作成中らしく、今日は自宅に篭ってフォトショップやらなにやらでずっとデザインを練っているそうだ。一応午後からは来るとだけは聞いているらしい。

 

「そういえば、他のバンドとの顔合わせって済んでる?」

「まだ出演バンドが知らされてないんで、まだですね」

「わかった、そっちの方はセッティングしておくね!」

「ヒビ兄には頼まないんですか?」

「うーん。ポスターのこととか、Damnation of Philosophyの件もあるし、今はちょっとやめておこうかなって」

「ヒビキさん、気にしてるんですかね……?」

「実際の所、わかんない。でも、あのバンドは曰く付きが多いからね」

 

 あんまり気にしていなさそうな気もする。友希那とリサ、あこはそう感じていた。ダムネイションの話は普段から全くしない。ビジネスをやっていたからだろうか、愛着はそこまで持っていなかったということかもしれない。スタジオの終了時刻が来る前に足早に撤収して、ロビーでその話をしていると、Poppin'Partyの面子が現れた。次に使うバンドとは、この子達だったのか。皆涼しそうな格好で、いかにも夏という感じがする。

 

「あなた達は、ガルパに出るの?」

「はい!ヒビキさんから声を掛けられて、すぐに出演オーケーしちゃいました!」

「そう。見込みがあるということなのね」

 

 この5人を目の前にすれば伝わってくる、音楽を楽しむ気概。しかし、どの子も皆キャラが濃さそうだ。チョココロネのキーホルダーをギグケースにつけているりみが一番の実力者なのかもしれない。もしくは、たえか?

 

 それじゃ私達これから練習なので、と有咲が切り出してスタジオに入っていった。確か、アンプを二台借りていったところを見た覚えがある。どちらもヒビキのレンタル品、VHTのG-100-ULとHartkeyのkiloだ。常設されているものはアンペグの少し古めなベースアンプとMarshallのJCM2000かLaneyのGH100である。この機材を選ぶということは、何かこだわりがあるのだろうか、それとも単純に使いやすさか。その5人に聞いてみなければわからない。

 

 

 借りたアンプで軽くウォームアップをしだす5人、そのうちVHTを使うのは言わずもがな、たえであった。いつもはTriamp Mk3を使っているが他のバンドがレンタルで使っている。なので、今日はこのアンプを使うことにしたらしい。DiezelのHerbertという選択肢もあったが、あの暴れん坊なミドルはまだまだ使いこなせない。

 

 ぐっとネックを握るりみは、GEQをいじり、ローを締まらせながらも、存在感のある音を作り上げる。そこにベースオーバードライブを少しかけてから、フレットレスのViper Bassをバシバシと弾いていった。ESPは拝金主義だから、という声をよく聞く中でもこの竿が一番自分に合っているから使い続けているだけのことに過ぎない。ヒビキの部屋に行った時に弾いたCarvinも感触はなかなか良かった。その他にWarwickも弾いたことはあるものの、ゴリゴリのメタルサウンドであった。モデル名が、確かロバート・トゥルージロシグネイチャーだったか。後に動画サイトでその人の演奏を見たところ、深く歪んだ音に膝まで下げたベースを中腰で構える、バスケットボールの服装のような大男がウホウホとゴリラよろしく暴れまわっていたのを覚えている。ヒビキさんがその人好きだよ、とゆりが言っていた。確かに、こういうのを好んで聞く彼が容易に想像できる。

 

 準備はいい?と沙綾の確認。彼女はグローブはつけていない。今日のたえのギターはKramerのSSHモデル。ザグリの入っていないフロイドローズに、青と白のストライプが張り巡らされたボディ。ピックアップセレクターをリアに入れて、ぐっと親指を立て答えれば、引き出す曲は「ティアドロップス」。いつもよりジャリジャリとラウドに叫ぶこのギターに、香澄は魂の叫びを乗せた。

 

 

 チリリン、とドアが開かれる。少し髪が伸びただろうか、いつものグラデーションの毛先染めに、メガネをかけて現れたヒビキは、カウンターに行ってまりなにポスターのデザインを見せる。いつもと感じが違うヒビキに、リサと友希那は新鮮なドキドキを味わった。ちょうど12時半、午後から来ると言った通りだ。律儀にもpunctualな彼を日菜ももっと見習ってほしい。姉の願いは果たして届くのかさえ怪しい。カタカタとMacbookのキーをブラインドで叩きまくるヒビキは最早サラリーマンだ。広告代理店の人と勘違いしてしまうだろう。

 

「うん、このデザインでバッチリ!」

「でっしょー!後は、顔合わせの日時も決めましょっか。一応ハロハピとかには声かけてるんで。ロゼリアは都合いい日は?」

「もう夏休みに入っていますので、基本的には大丈夫ですよ。今井さんと宇田川さんは、部活の方は?」

「あー、午後からなら大丈夫だよ。3日後なら全休だけど」

「ハロハピもアフロもパスパレもその日はOKって言ってたんで。グリグリもオッケーらしいっす、ゆりっぺが部活休みだし」

「んじゃ3日後にするかな。場所はここでね?」

 

 ほーい、と返事をするとMacbookを閉じた。今日はシフトは入っていない。そして、ヒビキの仕事の早さはデキるサラリーマン。少しだけ息をつこうとリサたちの近くに座ると、あこにスネアの感想を聞かされる。

 

「めちゃめちゃ良いのコレ!ヒビ兄のおじーちゃんって凄いんだね!」

「まあな。歳食っても耳も身体も衰えないのは流石に怪物なんじゃねえかなって思うけど」

「ヒビ兄、おじいさんの年齢は?」

「今年で確か……97?」

 

 仙人か。あんなガッチリした身体で、痴呆とは無縁な老人がそこまで歳を食っているとは。バリバリ戦中の人間とは知らなんだ。もしや、ヒビキの祖父は黒魔道士なのでは。あこはそう疑った。きっと肉体強化魔法を永続使用しているに違いない。だから昨日葉巻を吸っていたのだろう。ダンディ溢れるあの爺さんの葉巻はとても芳ばしかった。

 

「ふふふっ!」

「走んな香澄!」

 

 そして、ちょうど練習が終わってスタジオから出てきた香澄が駆け抜けてくる。賑わしいな、とヒビキがニコニコしながら、ギグを背負った香澄を見てそう思った。

 

 と、その時にスタジオの廊下とロビーとの廊下に来たときに香澄がつまずいた。ちょうど段差になっている所、ロビーに行くと下がるようになっている。踏み出した後ろ足が香澄を前に飛び出した。顔が驚き、ヒビキが真顔になる。このまま避けると、後ろのリサに被害が被る。なら、受け止めるしかない。ジーンズを穿いた香澄の右内腿が、ヒビキの顔面に炸裂する。メガネが吹っ飛び、友希那の手に収まっていった。

 

「シャイニングウィザード!?香澄、そんな技どこで」

「そんなこと言ってる場合かおたえ‼」

「うわー、キレイに決まったねぇ」

「沙綾ちゃんも、呑気にしてる場合じゃないよ!」

「ヒビにぃぃぃぃぃ!ちょっと前にこんなの見たけどぉぉぉ‼」

「1!2!!3!!!」

 




今更ながらヒビキくんのご紹介……

名前:六角 ヒビキ(ろっかく ひびき)
年齢:22
誕生日:6月6日。6時6分6秒生まれ。
身長:187cm
体重:69kg
利き手:両利き(左利きを矯正した結果)
アイカラー:ネイビーブルー
好きなもの:音楽、食事(好き嫌いはない)、えんぴつ、お酒
嫌いなもの:無闇な争いや比較、シャーペン、害虫
趣味:家事、スポーツ観戦、喫煙、コスプレ
吸う銘柄:ゴロワーズレジェール、ジタンカポラル、ポールモール、赤マル、JPS、ダビドフマグナム、コイーバ(葉巻)

【詳細】
胎教に母親が聖飢魔IIを聞かせていた結果悪魔の数字が揃ったときに生まれた男の子。婿入りした父親の背中でステーキを焼く音を聞き育つ。3歳頃バイオリンを習い始め、母親のやっているバーの常連がギターを弾かせてみた所、思いのほか楽しくなってしまい、4歳頃にギターを始めた。左利きなのにも関わらずギターとバイオリンを右利きのように構えていたらいつの間にか両利きになってしまい、一日5時間の練習をしていたらいつの間にかプロレベルにまで成長、その後13歳からプロとして活動しだす。
座右の銘は「楽しむことが近道」。

詩船は母方の親戚。

ジャンルは特には問わないが、ヘヴィメタルが得意な模様。演奏できる楽器は多く、ギターやベースやドラムは勿論、キーボード、マリンバ、ハープシコード……しまいにはテルミンまでこなすど変態。得意料理はハッシュドラム、きんぴらゴボウ、エビチリ。

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