BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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 幸い双方ともに怪我はなく、少し歪んだメガネをかけ直したヒビキは香澄を逆に心配した。ブルーライトカット用のメガネなので大した額ではないし、弁償してもらおうとも考えていない。それよりも、彼女のランダムスターから変な音がしたのをヒビキは聞き逃さず、それをその場でチェックしてみれば、セレクターのミニスイッチがへし折れていた。香澄が真っ青になるものの、ヒビキは平然とした顔でこのギターを借りる。事務所に入ってヒビキが管理している箱を持ち出してくれば、ドライバーで後ろのバックパネルを開け、レンチでミニスイッチを外し、配線を切り、ハコの中からミニスイッチを取り出して設置した。このセレクターは配線ははんだ付けではなく、コネクタにしてある。それの規格に合うコネクタをピックアップのリード線にひっつけた。小さなクランプがそれを挟んで離さない。そして、元通りにビスを閉めて、レンチでナットを固く締めた。

 

 これで試しに、と店のMG10を借りてプラグインをすれば、問題なく音が出力される。手首のスナップを効かせて軽くピッキングすると、友希那とリサにはとても聞き慣れた曲が耳に飛び込んだ。これは、友希那の父親のバンドの曲。懐かしい旋律が、音作りは違うが今甦ってくる。ギターが直った感動と、良い曲に出会えた感動とが、香澄の心を満たした。

 

「ありがとうございます!いい曲ですね、これ!」

「でっしゃろ?俺がまだ高校生の時に聞いた曲でね、その時は身体がこの曲に反応したよ」

「あれ、湊先輩?どうしたんですか?」

「いえ……。なんでも」

 

 久々に聞いたこの曲。友希那の涙腺を刺激して、涙をコントロールさせなかった。リサがハンカチを渡してヤれば、黙って涙を拭いた。確信犯のヒビキの行動、それは友希那にとってとても嬉しかった。この曲が、私とヒビキさんを繋いでくれた曲だから。そう信じて疑わなかった。

 

 メンテしてもらえるのかな、とたえが言いながらご自慢のクレイマーを取り出してはお願いする。ささっと目を通してはネックの反りを直し、フロイドローズの調整までしてもらう。その片手間にりみのベースの音抜けについての相談を受けていた。ハイミッドをいつもより高めにしてみたり、などの答えを出しながらクレイマーの調整が終わり、またもやそれを弾いてみる。今度は特異すぎるワイドストレッチの3連ペンタトニックをリニアラインで弾いていく。そうだ、これは先程あことリサがやっていた曲だ。

 

「そのペンタフレーズ、よく指届くね?」

「ストレッチで弾くようにしてたら、自然に指が開くようになったのよ。まりなちゃんは弾けないっけ?」

「無理!」

 

 調子に乗るヒビキは、ネックを逆手に構えながら同じフレーズを弾いてみた。どうしてこんな大道芸みたいなことが出来るのだろうか、不思議でたまらない。そのままEruptionを弾き始め、綺麗なハミングバードピッキングが炸裂する。アンプの設定もあるだろうが、それ以上に抜けがとんでもなく良い。借りているピックはポリアセタール樹脂の1mm。これだけでは摩耗することはないが、いつも通りの平行アングルピッキングでまとめる奏法は見習うべきところだろう。

 

「いいんじゃない?80年代のハードロックみたいな音が出るならバッチシでしょ」

「こんなキンキンしてるんですか?」

「こんなもんだよ」

 

 クロスでギターを拭きながらたえに返す。さて次は、と構えていると、スタジオの掃除を頼まれた。シフトは入ってないんだぞ、と言いながらもさっさと彼はスタジオに消えていった。もうちょっとゆっくりさせてあげてもいいのでは、と思った女の子達にまりなはあっと声を上げた。こんな風に荒く使えるのはまりなくらいしかいないだろう。レンタルアンプのコードを纏め、エアコンからシンバルまで丹念に拭き上げ、モップで床をピカピカにし、そしてアンプを片付けるまで10分。ほいおわり、と戻ってきたらごめんとまりなに謝られる。それはそうだろう、シャイニングウィザードを食らった後での仕事はキツい他無い。いいよ全然と気にせず椅子に座った。隣の友希那はソレを見て、自分の膝をポンポンと叩いた。なるほど、と周りが察してはニヤニヤと顔を歪ませる。

 

「いやー、恋愛ゲームの主人公ですなぁ」

「いや、ここで膝枕って……」

「じゃあ、ヒビキさんのおうちに行きます?」

「えええ……」

 

 

 ヒビキの家ではなく、流星堂の方に一行は連れられた。ロゼリアのメンツが入ってもまだ広々としている。そうだ、ここで顔合わせのセッションをやろう、と香澄が言い出せば、それに乗り気になったRoseliaはすぐにセッティングをする。ポピパにとっては二回目のクライブ、そしてヒビキはなぜか友希那に膝枕され、リサはそれを少しだけ恨めしそうに見ていた。生ドラムはないの?と尋ねるあこだが、流石に蔵でも生ドラムはうるさ過ぎて使えない。ヒビキのドラムを持ってこようものなら大変なことになるだろう。28のバスドラムなど、運ぶだけでもしんどそうだ。

 

 準備はOK。先程練習していたティアドロップスを披露しだす。膝枕からすっくと起きて、真剣な眼つきでヒビキはその演奏を聞く。走り気味な香澄は相変わらず。しかし、テクとソウルは向上が見られた。その他の面子も、技術は素晴らしい。フレットレスのベースをあれだけ正確に鳴らせる自信はリサにはない。自分と違うプレイスタイルのドラム、沙綾の技術をあこは見過ごさない。電ドラということを考慮しても、ソフトな叩き方ながら音を響かせる。ポップに叩くならこのスタイルがいいのだろうか、とあこの勉強が始まった。強いヒットをしないのはあこも同じ。見つけたのは、手首の柔らかさ。そうか、あのリストを使って叩いているのか。

 

 一曲が終わる。六人の拍手が起こり、そこから友希那先生の技術指導が入った。

 

「戸山さんは、テンポキープはしようとしてる?」

「ええっと……」

「してないのね。それをすれば、もっとまとまった曲になるわ。楽しんで演るのは大事だけれども、周りに合わせて演奏するっていうのがバンド。一人だけ突っ走っていてはダメよ」

 

 優しくレクチャー。せっかくいい土台があるのだから、とさり気なくリズム隊を褒める。あんなに褒め上手だったっけ、とリサは友希那を見違えるように感じた。クールに決めていようとしても、ヒビキと音楽には嘘がつけない、情熱を持ってぶつかっていく。もしかしたら、Roseliaでは一番の熱血なのかもしれない。

 

 じゃあ次は、と紗夜の号令。沙綾とハイタッチして、あこはスローンに腰掛けた。スネアの音だけを切り、自前のスネアを持ち出す。そこで試し打ちをすると、ドライな沙綾とは違い、ダークでラウドな音がこだまする。沙綾自身、その音には憧れがあって、いつかメタルを、ハードロックを叩きたい、と思っていたので、あこの音はドンピシャリであった。流石に響きすぎる、と小さな身体の少女はやはりスネアを入れ、イコライジングを丁寧にしていった。

 

 

「おお……」

「めっちゃかっこいい……!」

「ありがとう、牛込さん。励みになるわ」

 

 BLACK SHOUTを聞き終え、開口一番りみが発した感想に嬉しそうに友希那が微笑む。こんなクールな女の子がこんなにも可愛らしく微笑むとは。拍手は止まず、互いを称え合い、そして切磋琢磨してより素晴らしいイベントにしていくことを誓う。

 

 ほぼヒビキは蚊帳の外だ。これが一番よろしい。発案者はそれを見て楽しめれば一番だ。しかし、そうは問屋が降ろさない。あこにスティックを渡される。アイコンタクトでわかる、次は俺だ、と。

 

「仕方ねえなぁ……」

 

 ドラムソロでもやるのか。しかし、紗夜はそのままギターを構えたままでいた。リサもである。その他は観客としてソファに腰掛けた。友希那だけ、マイクスタンドをヒビキの口元において。

 

「何やるか……Damnation of Philosophyでいい?」

「勿論!ヒビ兄、最後のダムネイションだと思ってやって!」

「ヒビキさん、よろしくお願いします」

「わかった。そいじゃ、"Genius Killer"」

 

 とてつもないハイテンポのツーバスが鳴り渡る。そこで、疑問に思う沙綾とあこ。ツインペダルはつけていないはずだ。なのに、バックビートの爆音連打。何をしているのか、検討がつかない。

 

 たえはワクワクしだした。ビビったのはポピパの殆どのメンツと燐子。この曲がダムネイションのオープニングナンバーであった。ツーバスから入り、ギターとベースのユニゾン。4本弦でのGdimスウィープから、どんどん転回していく。それを弾き倒す紗夜は、どれほどの練習量を積んだのか。決して簡単そうには弾いていないが、ミスは少ない。そして、ベースのノイズの少なさ。変態的なリズムキープと、ピックをストラップに挟んでからの指弾き。スリーフィンガーでジャガジャガと飛ばしまくっていく。

 

 勢いが衰えない。ヒビキのハイトーンボイスとともに、特徴的なタム回しと五連のバスドラ。そこで、不自然な足の動きに気づく。なるほど、シングルペダルを両足で踏んでツーバスっぽくしていたのか。謎が氷解するかと思ったが、次に謎なのが、スネアの音。バキバキした音は、どう設定したらなるのだろう。この人の技術は、果たしてナニをどう練習すれば、こうモノにできるのか?謎は深まるばかりだ。

 

「――ッ!はぁ、しんどっ」

「シンドイで片付けられるレベルの曲じゃねぇ!」

 

 呆然としながらも、ツッコミを入れられる有咲の体力も謎であった。


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