BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!! 作:パン粉
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クライブを堪能してから、各々の自宅の帰路に付き、徒歩で自分のマンションに帰ったヒビキはただいまと誰もいないのに言って電気を着け、夕飯の支度をしてくつろぎだした。DoPには未練はない。最後に演った曲をドラムで演るなんて全く思っても見なかった。その気遣いをしてくれた紗夜とリサには感謝している。食事を終えてソファで横になってスマホを眺めていれば、リサと友希那からメッセージが飛んでくる。それぞれに返信をして、いよいよ自分のバンドを立ち上げようとしていた。
メンバーは、募集すれば誰でも来るだろうと思っている。敷居が高くて、と断る人もいるだろう。ヒビキにとっては楽しめさえすればいい。前のバンドが破滅の哲学であったから、今度は創造する番だ。ジャンルはメタルに囚われないようにするつもりであるが、どうしてもメタルに偏りそうである。
『ヒビ兄となら、私はどこだって付いていくからね』
「良い子になったなぁ」
リサの方から言い出してくれる。Roseliaに集中しなければ怒られるんじゃないか、と思ったが、彼女の好意は無駄にはしない。友希那からもそういう言葉を聞いて、仲間は沢山いることを再実感した。誰も否定することはない、ただ受け止めてくれる。ヒビキが今までしてきたことが返ってきているのだ。
ちりんとまたスマホが鳴る。香澄から珍しくメッセージが届いていた。今日の事の謝罪と、感想だった。
『ゾクゾクしました!心が震えちゃって、眠れそうにないです!』
「キラキラドキドキはどうしたんだ」
笑いながらも彼女らしいやで済ますヒビキ。顔文字、絵文字をふんだんに使うヒビキの女子力は高まるばかり。これが女の子から同族認識される原因なのかもしれない。彼女はいたことがないが、女友達はめちゃめちゃ多く、男性からは嫉妬されることもあったがそれでも彼らも女の子扱いしてくる。一人称は俺なのに、コスプレなどに走ってしまうからこうなるのだ。ひまりのいう学園祭でのチャイナドレスはその一つ、コレを見習うバカはいまい。18の文化祭でやったそのコスプレ衣装は今でも着られる。
跳ね起きて、散歩でもしようと涼し気な格好で外に出た。サンダル履きのタンクトップにハーフパンツ。玄関の鍵を持ち、腕時計を見てみれば午後10時。最早人っ子一人いない道を歩き、街灯に照らされる公園でブランコに腰掛ける。夜空を見上げれば綺麗な星達と月の光。心が更にゆるゆるとリラックスしていく。そのまま眠ってしまっても心地良いだろうな、と思いながら。
「あれ?ヒビキさん」
「お、香澄ちゃん」
彼女は夜空を見に来たのだろうか。一人で歩いてきては、隣のブランコに腰掛ける。昼間はごめんなさい、と言われるもとっくのとうにヒビキは忘れていた。星を見に来たの、と聞けばはいと答える。
「ちっちゃいころ、ぶわぁ〜って、凄い流星群を見て。あれは、星の鼓動だと思って。それから私、星が好きなんです」
「へぇー。それ、ニュースになったやつだっけか。世界的に大規模な流星群の観測ってやつ」
当時既に小学生だったヒビキは覚えていた。母親が仕事をしている最中、ヒビキも手伝っていたときに客からすごいぞと言われて外に出て見れば、夜空に無数の光の筋が走っていた。子供心ながら感動はしていた。しかし、あれが星の鼓動だとは思っていなかった。
なるほど。だからキラキラドキドキ、か。彼女は今の自分がそうなっているのだろうか、ちょっと問い掛けたくなる。充実した仲間と共にバンドをやって、キラキラした生き方を選べている。ヒビキはキラキラもドキドキもない。メラメラ萌え萌えキュンだろう。
「ヒビキさんはどうしたんですか?」
「散歩。仕事ないし、涼しいし、いいよなぁって」
吸っていい?と香澄に聞くと、どうぞどうぞと言われた。ポールモールに火を着けて、最初の煙を吐き出すと、綺麗に直線を描いて霧散した。いつも吸ってるんですか、と言われればそうでもないとヒビキはいう。タバコは案外虫よけにもなるし、煙の臭いが気にならなければ嗜好品としてはそこそこ優秀だろう。心が緩みきってのほほんとしている中、星見酒をしたくなってくる。
「ビール買ってこようかな」
「あ、私も何か飲みたい」
「んじゃ、行く?コンビニ」
すぐ近くにコンビニはある。そこで酒とジュース、おつまみを買って戻れば、たえもそこに来ていた。眠れないから散歩しに来たと。ヒビキと同じか。プルトップを起こして、グビッと一口飲めば、最高の夏の味。非常に芳醇な感覚が口の中を満たす。こんな綺麗な星空を見て、可愛い女の子といて、ラッキータイムが永続中なのではと思った。ブランコの柵に座って、自然のビアガーデンを堪能する。どれほど素晴らしいことか。
「へぇ、ギターにうさぎが反応するの!」
「うん。BOOWYとか弾いてる時跳び回ってるよ」
「おたえちゃん、シブいなー。BOOWYって」
「すかんちとかも弾いたりしますよ。恋のマジックポーションとか素敵じゃないですか?」
「それを弾くとうさぎはどうなるの?」
「食欲が増すみたいだね。ご飯いっぱい食べるもん、オッちゃんとかは顕著に効果が現れるんだよね」
「なんやそれ、モーツァルト聞かせるみたいな感じかな」
これこそ青春している。タバコと酒とおしゃべり。しかしすぐにヒビキ弄りへと移行するのはどうしてだろう。友希那とリサの二刀流とからかいだし、香澄はそこでやっと理解した。女の子を侍らすような行動も態度も全く取っていないのにモテる。その中から誰を選ぶのかは気になるところではある。どっちに傾いているのか、誰を選ぶのか。そういったときにヒビキはやり返した。
「わかったわかった。じゃあ、俺がおたえちゃんがいいって言ったらどうするね」
「えっ?」
「おたえちゃんとつきあいたーい、いちゃいちゃしたーいっていっても、全くなんにもならんやろ」
「いや、全然構いませんよ?ウサギのお世話してくれるなら。お父さんとかお母さんもヒビキさんのことは気に入ってますし」
「ええ……」
その反撃は無意味に終わる。にやりと勝ち誇ったようなたえ。付き合うなら夜も大変ですよ、と付け加えながら。サラッと爆弾発言を残していく。呆れたようにタバコの灰が落ち、砂にまみれて消えて行った。ハーレム作りましょう、とたえが更に悪ノリしていく。リサ、友希那、ひまり、そしてあとは誰だ。たえも入るのか。ワンカップを呑み干してビニール袋にゴミを入れる。クレイジーガールばかり集まるのはなぜだろうか。自分がクレイジーだからか?リッチー・ブラックモアのようにギタークラッシュまでかます彼の勇姿はギターキッズの心をぐっと掴んで離さない。
「最近は有咲が気になってるみたいですし?」
「陰でヒビキさんの事、師匠とかセンセイとか言ってるし」
「ハーレム作るの簡単ですね。まりなさんとかもそうでしょ?後、パスパレの日菜ちゃんとかにも手を出したり」
「チミタチ、ボクヲドンナメデミテルンデスカ」