BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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 ――ポピパは、狂人の集まりでした。

 

 昨夜のことを回顧しながら、パスパレの練習を見ているヒビキはまっすぐとスタジオに立ち、ストレッチをしているアイドルを見ていた。いつも練習前には身体を解して柔らかくしている。そうすることで、ボーカルは声帯周りの筋肉が尚更ゆるくなって自在に動かせ、楽器隊のメンバーも手首や指の故障を防ぎ、ドラムに関してはそれに加えてパワーやスピードが本来のモノで叩ける様になるのだ。これの発案者はヒビキではなく麻弥。彩の声域を確保するための手段としてやりだしたら、他のメンバーもそれに倣い自ら進んでやっている。効果はテキメン、ギターとベースは特に指板を抑える左手の負担がそれなりに減る。元々、あまり低い位置で弾くと手首の角度がかなり無茶しているものになって壊れてしまうので、手首が自然な位置に来るように指導はしていた。それに加えてこのストレッチで中々の自由度が生まれる。キーボードも肩や首周りの筋肉をほぐすことでより演奏に強弱がつけられて、指のエクササイズをいきなり行うよりも血の周りが早くなって手が温められる。

 

 ウォームアップでやる曲がだんだんと謎の選局になっているパスパレ。彩も何の疑問を抱かずに楽しそうに歌っている。最近は千聖のリクエストで商業ロックを演っている。いつもウォームアップで変な曲をやろうとする度に麻弥の顔がおかしな表情を作り出すのも最近の魅力だ。最初はアテフリバンドと言われたくせに、今のパスパレはロゼリア以上に実力主義になっていないか。今、パスパレの演奏技術に文句を言う人はほとんど皆無と言って良いくらいだ。TOTOのAfrica、スローバラードながらこの雰囲気を出せるのは日本でも数少ない。そのうちの一つがパスパレとヒビキは買っている。リズムも正確、音を楽しみ演奏するその姿、自由すぎる日菜も音に身体やココロを委ねて演奏していけば、自然と楽曲にマッチしていく。

 

「これ、ライブでやれば?」

「セトリに入れます?」

「入れたらウケるとは思うけどなぁ」

「一応案には入れときましょう。他にもやる曲はありますし」

「あー、そういや黒ずきんちゃんとかもやるんたっけか」

 

 セットリストを決めているのはヒビキではない、プロデューサーだ。そのプロデューサーもヒビキに後を譲るなどと言っていて、今のセットリストを組んだ時ジャパメタ好きなおっさんだな、とヒビキが言えば仲良くなって意気投合してしまった。それ以来全面の信頼を置かれている。

 

 ソレ以外にパフォーマンスを考えておくれ、とも事務所から、そしてプロデューサーから依頼されていた。スタジオミュージシャンながらもパフォーマンスはど派手なヒビキにとって、自分のDNAをどう継承させるか。考える前に、麻弥以外は勝手にヒビキの映像を見てパクっていた。マイクを回したりピックを投げたり竿をぶん回したりキーボードを揺らしたり。なんだろう、仕事が一気に減った気がする。麻弥だけ前に出てくるようなことをあまりしたことがないので、それについては後々考えることにした。まずは新曲の完成を目指そう。

 

 

「ほえー。そんなスティック回しがあるんですね」

 

 一通り練習が終わり、麻弥に変わってヒビキがスローンにどすっと座ると、タムを叩いた反動でスティックを離し、宙に放ってそのままキャッチした。これくらいならまだ出来るだろうが、次にやるものが格段に難易度が跳ね上がっている。チャクラムのごとくスティックを回してハイハットを刻む、スティックを手のひらの上で回しながらリズムを取るなど、見た目はカッコイイものばかり。大道芸になりかけるこの技術、しかし実用的なものは以外にもあって。日菜にヒビキのフェンダーを構えてもらいドラムの前に立ってもらって、そこにダブルストロークで弦を叩きながらビートを刻む。息がぴったり合う二人なので、日菜のコードチェンジに合わせてさささっとスティックを叩きつけていった。

 

「ああ、これはカッコイイ!」

「いいねぇ!るんってくるよこれ!」

「でっしょー!」

 

 ズガダン、とキメフレーズを入れる。これだけでも金は取れる。しかし、やはり麻弥とヒビキの音の違いは顕著だ。メタルかポップか。ヒビキにポップのように叩いてくれといえば、確かに柔らかい音になる。そこにはメタルの髪の毛一本も見えてこない。

 

 もう一曲なんか遊びでやりたいなー、と日菜が唐突に言い出した。麻弥にドラムを変わってもらうと、今日はハードロックか、とヒビキが呟いた。なんでアイドルがハードロックをやるのか、全く意味がわからない。1弦10Fに指をおいた時点でやる曲がわかってしまう。アウトサイドピッキングでの3弦3連符。これは聞く立場でありたい、と千聖がベースをヒビキに渡した。この曲のレパートリーは何から来るのだろう。

 

Kill The King(王を殺っちまえ)、なんてアイドルが発して良い言葉じゃないっすよ」

「そんな乱暴な曲なんですか!?歌詞覚えちゃったけど、通りで違和感があると思った……」

「これは、サムライが討ち入りする曲ですね!」

「違うよイヴちゃん…」

 

 

 ノリノリで彩が歌うとは思わず、きっちり一曲通してから練習が終わった。レコーダーがさり気なく動いていたのと、事務所の役員がスマホを持って録画していたことをきっかけに、彩がそれをSNSにアップした瞬間に大炎上が瞬間的に起きる。悪い意味での炎上ではない。通知にメタルクイーン爆誕だとか日菜ちゃんに速弾きされたいだとか、サムライがいるぞ!だとか。麻弥のドラムを聞いてはまた応援するリプライもきて、「なんだよアテフリってうますぎたから勘違いされてんだろ」みたいなコメントまで来てしまった。それはそれでいいとして。ベースを返し、レッスンを終えて帰ろうとしたとき、日菜に拉致られ、今度はファーストフードに連れて行かれた。同じくギグバッグを担いだモカ、紗夜とエンカウントし、レジに向かえば花音がいた。ヒビキの顔を見たとき、もう彼には慣れたのか挨拶と愛想のいい笑顔を振りまいてくれた。レジ打ちをしている時に、少し豆の出来た手と肘関節の違和感を読み取って、ほほうとヒビキが声を漏らした。

 

「頑張って練習してるのはわかるけど、無理な動きしてないかい?」

「え、わかるんですか?」

「うん。肘痛いでしょ?今度練習見たげるよ」

 

 そんなことを言っている脇からモカのハンバーガー12個宣言。クーポンを使っているものの、ヒビキの財布からお札が消えていく。そのお札何処かで、と紗夜が横から感想を言う。そう、旧札だ。野口英世ではなく夏目漱石を持っている辺り、年齢を感じさせられる。勿論新札も混入しているが、二千円札など初めて見たのだろう、花音が少し困っていた。というか、なぜヒビキがいつも出しているのか。氷川姉妹は自腹なのに。ヒビキはシェイクだけ頼んで4人で席に座る。

 

「Roseliaとパスパレだ、わぁ」

「ご存知だとは、うれしいですね」

「青葉モカって言います〜。リサさんと一緒にバイトしてまぁす」

「六角ヒビ子でぇす、ホステスやってまぁす」

「それ、聞いたら湊さんが怒りますよ」

 

 釘を刺すのは忘れない。友希那どころでない、リサにも怒られそうだ。ひーちゃんにチクっとこうかなぁとモカにも銃を突きつけられるなど、周りに敵しかいない。ホステスよりもアイドルっぽいよね、と日菜の言葉がフォローになるのかはわからないが、そこは満場一致であった。なら女装してアイドルになろうかな、ともヒビキは言った。恐らくパスパレの事務所は歓迎するだろう。ヒビキはまだフリーランスの身でいるつもりでいるが。

 

 3個目のハンバーガーを早くも口にするモカ。彼女の胃袋はいつも思うがおかしい。小柄なのに大食い、それを目の当たりにする氷川姉妹も唖然としていた。飲み物追加でいるか?、とヒビキが聞いたらミニッツメイドをよろしくと言われたので、またレジに向かう。花音にオレンジジュースとコーラを一つずつ頼んだ。それもLサイズだ。

 

「そういや、最近は普通の格好してるよねヒビキさん」

「おかしくはないと思うけど……。ライブの時だけでしょう、おかしいのは」

「ファッションセンスは人並みだからねぇ。でも、ベルボトムにテンガロンって、思い切りウエスタンだなぁ」

「あ、滑車までついてる」

「どこで買ってくるのかしら、あれは……」

 

 ほい、とモカの前にコーラとオレンジジュースを置いた。わかってますなぁ、とモカが褒め、ご褒美に一つあげよう、と大きなチーズバーガーを貰っては、綺麗に食べ始めた。作法も完璧、厳しい親に躾けられたのかと思えば違うと答えたのはヒビキとモカ。親の真似をしていったらこんなになったのだ、とヒビキが言って、どんな親だと疑問に思うが、紗夜は既に会っているはずだ。この前の音楽祭のときのバーテンがウチのオフクロだで、と答えて。

 

「え、ウソ!?あの人、まだ30前半ですよね!?」

「ちょうど50やで。親父が47。姉さん女房ってやつ?」

「そのパパも、ステーキ屋さんでこの前来てたもんねぇ」

「六角一族って、アンチエイジングかなにか?」


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