BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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 タバコを吸い終わってからまた授業を再開し、終わった時間は20時ちょうど。皆ぞろぞろと一斉に帰るかと思いきや、残ったのは蘭とリサ、宇田川姉妹に友希那にひまりにモカ。この面子は最近見たことがあるな、とヒビキはデジャヴを感じ取る。話のきっかけを持ち出したのは蘭だ。そしてつぐみと紗夜、燐子がヒビキの家にやってきた。話す内容は恐らくGear of Genesisのオープニングライブイベントの事だろう。

 

「ガルパも大事だけどさ、ヒビキの店のお披露目もやらなきゃ」

「そうだな。でも、その話は明日でもいいんだぞ?疲れたろ、勉強で」

「明日やろうは馬鹿野郎。ヒビキさん、そういってなかったっけ?」

「言った覚えがないんですがツグちゃん」

「でも、こういう計画は綿密に練った方がいいですから……」

 

 燐子達のいうことも最もだ。しかし、あまり話し込むと帰りが遅くなる。そこだけ心配である。それ以上にライブをやりたいという気持ちを抑えられなかった、このバンドバカ10人衆の想いはしっかり受け止める。ヒビキの頭の中にある構想案はまだ漠然としているが、しかしこの時にRoseliaとコラボをするのは確定事項にしていた。そのことは既にロゼリアの彼女達に話していた。そしてその衣装を燐子に作って貰うつもりでもいた。採寸はまだしておらず、機会があるならいつかという話はしている。

 

 オレンジジュースを飲み、その後にひまりは話した。セトリも何も決めてはいないが、トリはヒビキで演るべきだと。つまりは、ロゼリアがトリになる。あこがそれを聞いてニコニコと笑った。それで巴が計画を察する。互いがバンドの方向性を理解し受け入れ応援しあっているから納得も出来た。バンドの合同練習の時に蘭と友希那が激突しあうかと思えばそんなことはなく、ソウルとテクニックを享受し合う関係へとなっていて、親友にすら発展していることに喜びを感じていた。

 

「日にちはいつ頃を考えてるんですか?」

「そうだな……。皆、いくつあれば準備できる?」

「私等は明日でもいいぞ?」

「ウチも大丈夫!ヒビ兄、決めたらその日を万全にするよ」

「んー。じゃあ、10日にしよう。りんちゃん、衣装は大丈夫?」

「大丈夫です。今日、ヒビキさんを採寸していいですか?」

「いいよ、むしろお願いします」

 

 燐子の才能におおっと驚くアフターグロウ。衣装製作までバンド内で済ませるとは、凄い集団である。しかし、ヒビキには元々黒い服装がなかったか?モカがスマホでその該当のライブの画像を見せる。

 

 上から下まで真っ黒で、革パンにレザージャケット、胸元に黒い髑髏のチョーカー。そしてインナーも黒の刺繍。手首には鎖を千切ったおもちゃの手錠を掛けていて、今より大分髪が長く淡い。これはウィッグだと言い、現物をテーブルの下の収納BOXから取り出してかぶってみせると、写真の物と寸分も変わらない。妖艶で淫靡な雰囲気が写真から溢れているが、目の前の人はただ可愛い。ひまりとリサは見とれ、紗夜があらと少しだけ笑った。こういうものもあるよ、と取り出す別のウィッグは水色のショート、脇の部分は少しだけくるりと巻かれている。

 

「コレは……日菜にそっくりですね」

「っしょ?目がもうちょい黄色になれば日菜ちゃん二号!」

「でも、カラコンがピンクだからちょっと違うな。丸山さんとか似合うんじゃないか?」

「ふっふっふ……。あるんだなー巴の言ったやつのが、本人とのツーショだけどね」

 

 ライブの話は一体どうしたのだろう。話題が逸れまくって今どこにいるのかわからない。蘭は呆れて溜息をついた。自分は肩の力を入れ過ぎなのかもしれないと考えれば、彼女も思考を少しだけ休めた。

 

 

 話の後に残ったのはリサだけだった。友希那は疲れて家に帰ってしまい、ヒビキが泊まればと気を遣ったが遠慮してしまった。今は二人きりのチャンスとすると途端にドキドキしだすリサを他所目にヒビキは部屋の掃除をしていた。テーブルの消しカスを綺麗に箒とチリトリで取れば、アルコールを巻いて清潔な布巾でさっと拭う。ヒビ兄、とリサが声をかけると振り向いて、そこでリサはヒビキに抱きついた。

 

「今日はうんと甘えたいな〜、なんて……」

「別に構わないけど?」

「えっ」

「今日は勉強頑張ったもんね。そのご褒美。ま、俺でいいんならの話なんだけども」

「私は、ヒビ兄"だけ"がいいの。それで、ヒビ兄には私"だけ"でいてほしいの」

「何がリサちーをそうさせるんだか」

「ヒビ兄の背中を追ってたらそうなるんだよ」

 

 ひまりも友希那も惚れた理由はそれだ。しかし、それで惚れないのは蘭や巴など。それ以外にも何かがあるのだが、上手く言葉で表し辛い。意地悪ではないヒビキはそこに気づくも突っ込まなかった。そうやって憧れて伸びていくのは嬉しい。

 

 リサがもし彼女なら。スタイルはいいし、気立てもいい。可愛い女の子で、ギャルな外見とは裏腹に家事が得意とかなりの優良物件である。そして超のつく一途。他の男のツバがつかないうちに取っておくのが一番いい。と、他人目線で見てみたヒビキ。未だ恋には発展しなさそうだ。何度か唇を奪われてはいる、次は貞操を気にしたほうが良さそうと言いながら、ソファに座る。なにそれ、と言いながらリサも隣に腰掛けた。

 

「好きになってくれるのは嬉しいけど」

「けど?」

「俺は誰にも惚れてはいないよ」

「ドキドキはしてるでしょ?」

「キスされた時は、流石に……」

 

 そこでにまにまと笑うリサの思惑通りになっている。もう少し落ち着いた子になったのかと思ったら正反対で、友希那たちも驚いている事だろう。このアグレッシブな性格はギャル特有なのであろうか。それともリサだけがそうなのだろうか。女の子は知っているつもりであったヒビキだが、ここはやはりまだ恋愛経験の無さが物語っている。女子力だけなら負けないと言ってもいいだろう。

 

 べたべたとくっついてくるリサ。そこを邪魔するのはインターホン。主はひまりとモカであった。そこに遅れて有咲とりみが呼び込まれる。有咲は今日は呼んでいなかったはずだが、どうしたのであろうか。やはりたえの言う通りにヒビキに惚れたのか。とりあえず四人とも家に上げた。

 

「どしたの?」

「リサさんばっかりにヒビキさんをあげるわけにはいかないの!」

「ひーちゃんと同じく〜。りみりんと有咲ちゃんはわかりませーん」

「私は練習に……。有咲ちゃんは?」

「甘えに来た」

「え?」

「だから、甘えに来た。香澄やおたえばっかり、ヒビキさんと遊んでてずるいと思ったから」

 

 なんだこいつは。ヒビキはそんなようで見た。有咲はいつものような口を叩かない。なんでこんなハーレムを形成してしまったのだろう。どこで道を間違えてしまったのだろうか、考えてもわからない。友希那は帰ったし、仲間はずれにしているようで悪い気もするが、人が流石に多すぎる。男一人に美少女5人、何かがあっては皆の親御さんに申し訳ない。

 

 これでセッションできるメンバーじゃん、とリサは言った。ドラムはヒビキが叩けという暗喩か。それにしてはベーシストが3人と中々の供給過多、久々にギターを弾かせてほしいと思ったが仕方ない。それにまだセッションをする訳ではない。

 

 夜中の22時を時計が指し示す。夜更け前と言ってもいい時間、ヒビキはこの5人と遊ぶ体力はもう無く、ははは、と言いながらワイワイ騒ぐ女の子の中で寝落ちした。

 

 

「それで、有咲ちゃんもヒビ兄が好きなんだ?」

「好きっていうか……まあ、信頼してる男性ではあります」

「有咲ちゃん顔に出てるよ〜。それが恋してるっていう証拠ですなぁ」

「青葉さんだって惚れてるんでしょ?」

「もちろん。ひーちゃんもだよ〜」

 

 夜の女の子の話は恋バナと相場が決まっている。勿論話題はヒビキについてだ。ソファで気持ち良さそうに寝ている当人は寝顔も女らしい。可愛い顔と穏やかな空気、疲れたヒビキの気持ちを他所目に見つめる女の子達。この中からの争奪戦はいつか始まることになるのか。ライバルは多い。しかし、負けるつもりなど個々人にはサラサラない。勿論、皆ここで寝るつもりでいる。

 

「ウチらと話す時は甘めなんだよなぁ、ヒビキさん」

「ね。Poppin'Partyに期待してるってことなのかなぁ」

「ま、それもあるかなー。燐子が言ってたけど、たしか有咲ちゃんってヒビ兄から教則貰ったんだよね?」

「はい。もう4周はしてますね……」

「あ、それってツグも持ってたやつかな?ヒビキさんが書いた本!」

「濃いーやつだよね?」

 

 恋と音楽を一緒に話せるというのはまずないだろう。こんなにも音楽バカでヒビキにぞっこんなのだ、互いを認めあわないわけがない。そうして5人はずっと口を閉めずにいた。


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