BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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「なーんか、メンツが増えてませんかねぇ……?」

「細かいことは気にしないほうが」

 

 翌朝、起きたヒビキの目の前には香澄とたえに沙綾がいた。朝食にパンを持ってきてくれた沙綾には感謝しつつも、ポピパの天然ギタリスト二人は勉強道具を机に広げており、頑張るなぁと有咲がつぶやいた。他のメンツも感心しており、そういやとヒビキも思い出しては書斎からレポート用紙と分厚い群論の参考書を運んでおもむろにレポートを書き始める。なんだこれは、とひまりが興味を持ってその参考書を開くと、頭の痛くなりそうな内容で、全文英語で書かれている。

 

 とんでもない処理速度を誇るヒビキ。二人が一枚ノートを仕上げる時にはヒビキのレポート用紙は三枚目が真っ黒になっていた。活字と数式、論理記号の羅列は高校生には理解できまい。四枚目を仕上げたところで終わりとヒビキが紅茶を入れ出した。

 

「30分くらいかかったなぁ」

「あ、ホントだ。ジャスト」

「んで?今日は勉強会するの?もしくは練習会?」

「どっちもやりたい!ヒビ兄がやることなら全部したい」

「あはは、リサさんぞっこんですね」

 

 リサと友希那がこうなのは皆知っていたし、ポピパがみんなヒビキをお兄ちゃんと見ていて惚れていることも知っていた。惚れるというよりか、憧れのほうが強いのかもしれない。昨日の授業でスポンジの如く知識を吸収した香澄はこの時点で数学の課題を終わらせたといい、有咲が少しだけ驚く。嘘だろと疑いノートを見てみれば完璧に終わっていた。途中の式や論述は高度なものであった。うわ、とヒビキを見てこの人確かにバケモンだと再確認する。そこで更にたえも終わったと言い、ポピパの夏休みはすべてバンドへ費やすことが可能となった。夏休み前半の日、朝10時半のできごとである。

 

 そこでヒビキのスマホに着信がかかる。丸山彩――ヒビキの愛弟子の一人からだ。今日はパスパレの練習は入っていない筈だ、と手帳を確認しながら通話しだす。どうやらスタジオからかけているようで、千聖の楽しげな声とよく抜けるベースの音がディレイがかって聞こえた。

 

「おはよ〜。どうしたのかね」

『おはようございます!千聖ちゃんが合同練習したいっていってたので。Gear of Genesisのオープニングライブの打ち合わせも兼ねて、やりませんか?』

「だってさ。どうするみんな?」

「やります!」

 

 ポピパは決まり。リサもひまりやモカもOKとのこと。場所はGoGでいいか?とヒビキは聞いたら、パスパレはどこでもついていきます!と元気な声が帰ってきた。よし、そうヒビキは言う。自前の愛機を持ってきた香澄とたえにりみはいい。しかし、他のメンツのためにある程度ここの機材を持っていかねばなるまい。ならば、とギグケースを用意すれば好きな竿を選べ!とリサ達に言う。一応あちらにもある程度機材は置いているが、ここで弾きたいものを選んでもらっても大差ないだろう。

 

 リサはSpector、ひまりがSugi、そしてモカがSaitoを手にした。んじゃとヒビキは自作のギターを引っ提げて、自分の第二の城へと向かった。

 

 

「彩せんぱーい!」

「香澄ちゃん!Poppin'Partyのみんなも!うわー、うれしい……」

 

 学校が同じということもあるし、それに既に顔を合わせているのもある。ハコの鍵を開けて機材準備をしては、無料のプレライブということでかなり簡易的にポスターを貼ってみた。パスパレのセットリストがヒビキに手渡されて、ほうほうと彼は頷いた。彼女達のプロデューサーが組んだものであり、7曲すべてがキラーチューンである。これをオープニングバンドに持ってきたら後がやり辛いだろうな、とヒビキは考えるもすぐにそれが間違いだと気付いた。ポピパもロゼリアも、そしてアフロにハロハピも全員が怖気付かないメンツのバンドだということに思い出してしまったのだ。

 

 上着を脱げば、タンクトップから出る右肩にGoGのロゴが入っていた。カラフルなそれはスタンプであって、入れ墨ではない。手の甲にもいつの間にかそれがあり、綺麗に映えている。ミキサーを卓に置いてあるメモ帳を見ながら弄り、サウンドチェックでパスパレが一つ一つ楽器の音を出した。そこのAXE使っていいよとヒビキが言うが、日菜にはまだ使いこなせないようで、Egnatorの方にプラグインして丁寧な音作りをしていった。抜けのよく太いサウンドを作る、それがギターとベースの基本だ。日菜はミドルを上げ、千聖は中低域を強調し、トレブルで抜け感を調整する。PAから出てくる音の調整はすべてヒビキにおまかせだ。適宜メモを取っては的確な支持を出していく。やはりこれはアイドルバンドというジャンルに収まらない。その完成度はリサが驚くほどであり、日菜がこちらにウインクをしてやっとアイドルだと認識するくらいだ。この指導をイチからしたのはヒビキ、やはり教える人がうまいと出来は違う。

 

「千聖ちゃんの後ノリは敢えてやってる?」

「はい。ちょっとだけずらしてみたら面白いかなって。どうでした?」

「いいね!麻耶ちゃんもよく対応できてる」

 

 褒めて伸ばすことを怠らない。ヒビキは次にポピパをステージに上げる。そんなときにハロハピのメンツと紗夜が集まってきた。段々と賑わしくなってくるライブハウス、それに釣られて他のお客さんも入ってくる。リハ感覚であるが、楽しく演奏している彼女らにお客さんも大喜びだ。更にはメイクスマイルを届けるハロハピまでも大暴れしだす。これが無料だというのだからなんとお得なことだろう。

 

「んで?残るはひまモカとリサに、紗夜ちゃんか」

「ええ。一人忘れてますけどね」

「紗夜ちゃん?」

「ヒビキさん、あなたがやらないで誰がやるんです?」

 

 ――マジか。

ヒビキはそう口に出した。ドラムは沙綾がアドリブで叩いてくれるらしい。じゃあ、とメンツを分けることにした。ひまりとモカに沙綾、そしてボーカルとキーボードはヒビキが取る。次にバッキングが変わって、ヒビキとリサと紗夜。しかし一体何の曲をやろう。それがまず思い浮かばない。まあいいや、取り敢えずアドリブでやればいい。楽しむことが第一だ。

 

 自作のギターを手にした。ヒビキのラックシステム――Axe Fx II XL+とVHT 2902、それに大学の友人に作ってもらったワイヤレスシステムを起動する。12インチ4発のキャビネットを一つ、その前にBeta57を立てて、Macbook ProでAxeを調整しながら大勢の客を掻き分けてPA卓をいじる。ここまで離れてもレイテンシがない。モカがきっかけの音を弾き出すと、ひまりと沙綾がロックにプレイしだした。フロイドローズのアームを一瞬だけダウンする時に3弦2F近くのハーモニクスポイントに触れ、一気にアームアップした。途端、スピーカーからギターの叫びが劈く。

 

「やまぶきベーカリー音楽部、爆誕ッッッッ!!」

「え?このメンツそうなるの?!」

「どうも、清掃員の六角ヒビキです」

「試食担当、青葉モカで〜す」

「店主の山吹沙綾!」

「沙綾もノるの!?カルくない!?」

 

 ツッコミ担当はもちろんひまり。ステージ上に戻ってきては、有咲がキーボードで参加していた。ツインギターの醍醐味でもやるか、と考えて弾き出すと、飛び出るメロディはかなりオーソドックスなGメジャーペンタトニック。このスピードならモカも付いて行けるとし、Gメジャーキーのドミナント、Dメジャーペンタを弾く。そこにひまりが寄ってきて、三人くっつきながら演奏をする。そして、ベースやギターとユニゾンする形で有咲と沙綾も遊びだした。

 

 暴れる五人。そこでヒビキのアームダウンでブレイクする。そこからやる曲があまりにも意外すぎて、皆が口をぽかんと開けてしまった。

 

「沙綾ちゃん、有咲ちゃん!Alcatrazzやるで!Stripper!!」

 

 テクニカルなギター、しかしpoppyな雰囲気がどこか残る。リフを弾き出すモカ、もたらず演奏するのは皆が練習を積んでいる証拠。そこにヒビキが音を合わせる形で弾いていく。

 

 頭を振り、指板を見ずにプレイするヒビキはいつになく輝いている。観客席で見ている紗夜やリサは次が出番だと言うことすら忘れて見とれていた。エスカレートしていくテンションは、左手のみでの演奏になり、マイクスタンドを掴んで太くてハイトーンなボーカルを聞かせていく。

 

「A dark and crowded room!Warm beer that's stale‼」

 

 グラハム・ボネットの様にはいかない。だからこそ、自分の持ち味を活かす。難しいフレーズを踊り歌いながら弾く。モカもそれについていくが、やはり技術力と表現力の差は天地ほどある。ダボダボのチノパンにタンクトップでスポットライトを浴びるヒビキは、マイクスタンドを持って有咲に絡み出した。キーボードの前に置き、高さをすぐに彼女に合わせてハモる。頬が触れそうな距離には皆が嫉妬し有咲がニヤリと悪い笑みを浮かべた。

 

「Ohhhhhh!!Stripperrrrrr!!!!」

 

 仲の良い兄妹のような仕草。有咲の前に出した指板を彼女は左手で抑え、ヒビキは右手でキーボードで弾く。たえと香澄を見ていた有咲はギターのコードの押さえ方を把握しており、それで出来る芸当であった。この曲も教則本に載っていた曲で、速弾きのアドリブアイデアとして提示されていたページが鮮烈に頭に浮かび、指を運ばせていた。低音弦を刻み、本来ないキーボードソロの時間を取る。その間にマイクスタンドを持って有咲の紹介をしながら店主のもとに近寄った。

 

「On Keyboard!!Arrrrisa!!Ichigaaaaya!!!!」

「やまぶきベーカリー会計担当!ヨロシク!」

 

 スティックを一本借り、ライドシンバルを刻むヒビキ。有咲のメロディックなソロにノッて、オカズまで決めてからグリスをし、沙綾を指差した。

 

「On drums!!山吹沙綾!」

「パン作りなら負けないよっ!」

 

 ツインペダルは最近練習したのだろう、三連でうまく刻みながらタム回しを見せだす。この輝くプレイスタイルは麻耶と花音を釘付けにした。スティックをクラッシュシンバルに叩きつけて観客席に飛ばす、巴のプレイの真似をしてからヒビキのスティックを受け取った。ツインペダルの5秒限定超足連打、そしてスティックの先にはひまりの姿。

 

「On bass!!元気担当、上原ひまりーっ!」

「いっくよー!」

 

 チョッパーベースを連発し、ヒビキと飛び跳ねながら楽しむひまり。ヒビキもそれにノッてギターでチョッパーを仕出した。パーカッシヴな響きはリサの耳に、りみの心に刻み込まれる。ジャキジャキしたこの音はひまりにしか作れないのではないか、そこでもひまりの個性は出まくっている。モカが小走りで近づいて来ては、ひまりと背中合わせで一所懸命にフルピッキングでギターソロを取った。

 

「自慢の幼馴染!ギター、青葉モカー!」

「モカちゃんに触れると火傷しちゃうよ〜♪」

 

 スウィープなどは使わず、リニアラインのメジャースケール速弾き。そこにヒビキはリズムプレイに徹底した。ザクザクと刻み、コードをバンバン弾くと、みんなが合わせてくれる。そこがまたたまらなく楽しくて、アームを握って変化をさせるもコード進行や音を壊したりしない。センターに陣取っていた二人が真ん中を開ければ、ヒビキがそこに割り込み、めちゃくちゃにアーミングしだした。

 

 股間の位置でアームを擦りながらひたすらぐにゃぐにゃと狂ったように暴れる。弦を切らないギリギリのアーミングで、指板に両手を置けば複雑なタッピングをやりだす。この進行はどういう形なのか。フットスイッチでディレイをかけて幻惑させるソロ。この一曲だけでお腹いっぱいにさせてしまえるくらいのクオリティ。会場は笑顔と熱気に充ち満ちている。あとはこれを更に爆発させてやるだけだ。

 

 一曲がとても長く感じられる。そのままギターとベースは入れ替わり、紗夜とモカ、リサとひまりがハイタッチした。あの紗夜がノるとは珍しい。ヒビキは紗夜とリサに目を合わせた。微笑む紗夜、ウインクするリサ。そしてドラムが沙綾……といったところで、観客席から飛び入りの参加が入る。ヒビキには見慣れた顔、そして紗夜やリサ、たえも何度も液晶越しに見た男。沙綾が彼を見ておとなしく代わる。ジュラルミンが入ったスティックを握り、高速でチューニングを合わせた。ニヤリ、とヒビキとその男は笑う。破滅の哲学、そんなバンドで二人は出会ったのだから。

 

「ビッキー、行くで!」

「おうさ、Mさん!紗夜ちん、リサちー、有咲ちゃん!やる曲わかるよな!?」

「もちろん!"Genius Killer"!」

「これをやるために来たのですから。ヒビキさん、存分に舞いましょう」

「キャラじゃねえけど、やるぜ……!」


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