BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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「そんな大騒ぎすることじゃないでしょ、ほっぺにチューなんて」

「大騒ぎすることなんだよらぁん……」

 

 蘭のすました顔とその態度に、ケーキを食べる手を止めずに残念そうな顔をするひまり。モカも少しだけ頬を膨らませているが、ならヒビキに二人共してくればいいと蘭が煽った。ヒビキ、と呼ぶと、アコギを抱えて近寄ってくる。そうしてひまりとモカを焚き付ければ、モカが奥せず頬にキスをして、意を決してひまりもそうした。別に唇でなければ、とヒビキは平気そうにしている。先程の香澄やたえもニコニコと笑っているだけだ。頬は親愛の証、とヒビキは知っている。それでしているのだ。そうして何百回も外国人にキスされているのだから。

 

 和ましいですね、と紗夜はポテトを片手に微笑む。むっ、とリサは頬を膨らませた。ハロハピの面子と写真を撮れば、薫は王子様のようにヒビキの手の甲にキスをする。これ自体はあまり憧れもしない。仕返しにとヒビキは薫をお姫様抱っこしだした。こんな事は今までなく、にこっとヒビキは薫に微笑むと、彼女は珍しく赤面した。幼馴染の千聖がそれを見て大笑いしだす。

 

「どんなに頑張っても女の子なんだよね、薫ちゃん」

「やめて……降ろしてくれ……」

「ほら千聖ちゃんシャッターチャンスだよぉ」

「ヒビキさん、最高です!」

 

 ぱしゃぱしゃと三枚ほど写真を撮ってから薫を解放してやった。どんな女の子でも可愛らしくさせる天才なのであろうか。コスプレイヤーとしてでなく指導者としても秀でていて、そして女の子のようになることもならせることもできる。この能力が喉から手が出るほど千聖は欲しがった。降ろしてからぽーっと虚空を見据える薫は、すぐにヒビキの方に顔をやっては眼をキラキラと輝かせる。

 

 彼こそが私の唯一の王子様、ゆりかごとなってくれる。それが嬉しいとばかりに語り出し、更にリサはむくれた。ヒビキがこちらにやってきては妬いているのかと思わせつつも、彼の首に手を回して、ぐいっと引き寄せる。そして、何度めかはわからないキスを、大勢を前にして大胆にやってみせた。

 

 ひまりやモカの勇気を一瞬にして飛び越えた。しかし、日菜はずるいと言ってこちらに踏み寄る。唇を離したリサとヒビキの間に透明に光る一筋の橋が繋がるが、日菜はそれを無視してヒビキの唇を奪い出した。

 

「ひ、日菜……!」

「ほら、ボヤボヤしてるから盗られちゃったよ、ひまり。モカも」

「続いてリサちーにも!」

「ファッ!?」

 

 驚き呆れるヒビキ。そのままリサの唇を日菜が奪った。眼の前で妹の暴走を見届ける姉は、頭を抱えてやれやれと呆れた。その他大勢は口をぽかんと開けていて、蘭はひまりとモカの攻めの遅さを嘆く。昨日夜這いでもして襲っておくべきだったんだ、と付け加えて。

 

 キマシタワー、と麻弥が呟いた。ヒビキはそそくさと事務所に逃げる。ぬっふっふ、とたえが悪い笑みを浮かべては、ヒビキのハーレム拡大及び士気上昇に乗り出した。もっともっと彼を恥ずかしがらせたくはないか。唇だけでいいのか、貞操は欲しくないのか、と。風紀委員の紗夜の頭痛の種は増えるばかり、リサと日菜はそれにノり、続いてポピパとひまりにモカも、そしておふざけ大好きな蘭も便乗した。もはやスイーツパーティーはそっちのけ、花音と美咲にパスパレと紗夜はただ見守るしかない。ヒビキがモテるのが悪い、そして彼自身の気持ちを表明しないのがもっと悪い、と。

 

 花音は行かなくていいの、とこころが問う。気持ちの片隅ではヒビキに惚れているのではないかと推理するこころ、それに花音はえっと驚いた。確かにドラマーとして憧れている。しかし、これが恋心なのだろうか。恋というものを今まで経験したことがないのは皆同じだ。なら、みんなが恋をしているということが疑わしくなっている。だからこそ、紛れて参加してもいいのでは、というのがこころの考えであった。それでこころもたえの暴走計画への加担を決心した。

 

「これ、湊さんがいたらどうなるんですかね……」

「さあ……。あの人も加担してしまうのでは……?」

「大和さんもそう思いますか?そうなるのが目に見えてしまうから、怖いです……」

「氷川さんの中の何かが壊れていってる……!」

 

 

 おふざけも適度にしてパーティーをお開きにした。掃除を済ませてハコから出て鍵を締めれば、ヒビキを待ってくれていたのはリサだけであった。他の女の子は門限や家の事情で帰らざるを選なくなったのだ。貸したベースは両手に持ち、そのまま家に帰る。もちろんリサもヒビキのマンションに上がった。

 

 今日は楽しかったよ、そうヒビキに告げる彼女。汗ばんだ身体がエアコンの冷風に反応して涼しいが、まだライブの興奮は冷めていない。緊張はいつものこと、しかし普段より緊張と楽しさが多かった。あの太いネックを握って超絶プレイをミスなくこなした自分が今でも信じられないくらいだ。Spectorを受け取るヒビキは、まだ少し震えているリサの頭を撫で始めた。

 

「頑張ったね。日々の練習、努力が今日という日に花開いた。俺は嬉しいよ」

「ヒビ兄のおかげだよ。あたし一人じゃこんなプレイできなかった。今でもまだヒビ兄には届いてないから、まだそれが悔しい……かな」

「何を言ってんのさ。俺に届いても意味ない、リサはリサのベースを創れてるじゃないの」

 

 音楽は競争じゃない。音を如何に表現して楽しむかだ。ああ、そういえば友希那にも同じことを言っていた気がするな。そして、自分のベースを創れているということは、もうヒビキに一人前として認められていることと同じなんだと気づいた。それが何よりも嬉しく、思わず涙がこぼれだした。やりきったという清々しい表情のまま泣く彼女にヒビキは微笑み、そして抱き締めてやった。

 

「これで……友希那の夢の手助け、できるよね?」

「当たり前だろ?ユキちゃんはリサを必要としてる。ロゼリアのベースは、ユキちゃんの女房役は、最初からリサしかいないんだから」

「ひびにい……ありがと」

「俺は何もしてないよ。ただ、涙の落としどころを貸しただけよ」

 

 ニッコリ笑いながらもリサの涙が止まらない。タンクトップがびしょびしょになるがヒビキは気にしていない。好きな男の胸に抱かれての嬉し泣き、なんて素敵なことだろう。優しい声音に心の広さ、それにどうしてもすがってしまうのは悪いことなのだろうか?リサはこのスペースに甘えていたいと、ヒビキの隣にずっといて、こうして撫でられていたいと思った。嬉し涙も止み、少し赤みの帯びた綺麗な眼を見ては、ヒビキが優しくハンカチで涙を拭いてやった。

 

 ご褒美をあげなきゃなと言って、先程貸したベースをリサの横に置いた。NS-4、スルーネックに質実剛健な造りのベースは、リサがネックが太いと言ってはいるものの、ヒビキの家に来ると必ず使うベースだ。この素晴らしい一本から繰り出されるリサの世界、それをヒビキはずっと聞いていたかったという。いいの、とリサが聞くとヒビキは首を縦に振る。これは、彼女へのご褒美と誕生日プレゼントでもあるのだから。

 

「今月でしょ、誕生日?それのプレゼントも兼ねて」

「ヒビ兄ぃ……!嬉しい……!」

 

 先程の涙から一転、笑顔を振りまいてヒビキに抱きつく。今日は色々と抱きつかれる一日だ、とヒビキは柔らかい身体をぎゅっと抱きしめた。

 

 

「へぇー。りみりん、そういうこと言われたんだ」

「うん、『競争じゃないんだから、自分の表現したいものを表現できるようになればいい』って。私のベースは世界を創り掛けてるって」

 

 近くのファミレスで打ち上げの続きをしていたポピパとひまりにモカ、そして蘭がヒビキについて話し続けている。蘭は何度もその話を聞いていて、それが出来るのがプロなのだとも胸を張っている姿も覚えていた。この前のベースのレッスンで言っていたことだから、ひまりとモカもきっちり耳にしていたはずだ。その中で自分の世界を表現できている人間をひまりは聞き出していた。

巴と蘭に友希那、あこやパスパレとハロハピは既にその域なのだという。幾ら技術があろうと、音楽で表現を欠いてしまっては意味がないときっぱり言い切っていた。

 

「おたえちゃんと有咲ちゃんはもう出来てるって言ってたよ。おたえちゃんに関してはもう踏み込める隙間がないとか」

「花園ランドとか言ってるくらいだしねぇ。世界……私はあんまり意識してなかったなぁ」

「ヒビキの口癖なんだ。世界を創れって。私からみたら、山吹さんも戸山さんも世界を創れてるし、Poppin'Partyっていうバンドが『キラキラさせて歌わせる』っていう表現を既にできてると思う」

「美竹さんに言われたら、増長しちゃいそう!」

「蘭でいいよ。あたしも香澄って呼ぶから」

 

 ここでも友人を作る蘭、キラキラとした眼で彼女にひっつくと、蘭はヒビキの気持ちが少しわかった気がした。なるほど、女の子に好かれるとはこういうことか。

 

 それよりも、とキスの真相を知りたい有咲は少しむくれて話し出した。ああ、この娘もヒビキの目に見えない毒牙にやられて心を奪われたのか。つまりは音楽馬鹿なのだ、と蘭は自分の中で勝手に評価を下した。ひまりに負けない、チュニックから覗く大きな胸。蘭はこれも揉んだら柔らかそうだなと邪な思念を抱いて彼女の話を聞く。

 

「からかいでしょ、香澄とおたえのほっぺチューは」

「いえ?」

「えっ」

「ヒビキさんじゃないとしないよ!それよりも、リサ先輩のまうすつーまうすの方がすごい!」 

「あああああそれだよそれ!なんであんな大胆なんだあのギャルさんは!」

「あんたら、頭にブーメラン刺さってるのわかってる……?」

 

 ひまりは胸を揉ませた。モカは頬にキスだけ。しかしそれより過激であるポピパ。蘭は冷静に突っ込んだ。しかし、それに更にぐさりとひまりが横槍を入れた。

 

「吸うのは私の胸とヒビキさんの竿だけでいいって言ってなかった?」

「ほぉ……?ひーちゃん、それは確定情報?」

「間違いないね、喫煙所にいたのは蘭とヒビキさんだけだし!」

「聞いてたんだ……。竿とはいってないんだけど、竿って何を意味してるのかわかってる?」

「え?ベース?」

「とぼけちゃってぇ……」


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