BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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熱色スターマインいいっすねぇ
メタルっぽいんだけどメタルではないって所が面白いし、イントロからAメロに行く時とブレイクが特に好きです

個人的にはリフをもっと刻んでほしかったな……くらいかな。


9

 

 

 翌朝にリサを家まで送っていき、そのままCiRClEへ出勤しようとした時に友希那に捕まる。そのまま一緒にバイト先に行きながら、彼女にリサを襲っていないかどうかを確かめられたが、ヒビキは断じてそんな事をしていないときっぱり答える。寧ろ最近のリサだとこっちが襲われるのでは、と思い返す友希那だがそういうこともなかった。

 

 CiRClEに着いて事務所で水を一杯呑んでから在庫管理なりなんなりをして、レジを締めて予約表を見る。友希那が個人練習で既にスタジオを抑えていたのを確認すれば、だからついてきたのかと納得した。入るスタジオのマイクをチェックし、アルコール消毒をしてから彼女を案内する。そういえばしばらく友希那と二人でライブをしていなかったな、と思い出した。なら、オープニングライブで二人でアコースティックなものをやろう。あとで自分の家に呼んでやればいい。おそらくそうするとまたリサが来るだろうな、と考えながら。

 

 しかし、噂をしていなくてもリサがやってくる。ストーカーでは、とヒビキが思うが、綺麗なキャミソールに着替えてメイクもバッチリ、後ろに続く紗夜とあこに燐子。時間は11時、予約は12時からRoseriaS。

 

 ――ん?

 

 このキャピタルSはなんだ。まりなの顔をヒビキが見ると、察しろという表情。もしや。あこが得意げな顔をしていて燐子はうっすら笑っている。紗夜は腕を組みながらリサと一緒にこちらを見た。

 

「SixのS……?俺か!?」

「そういうこと♡」

「勤務時間中やぞ……」

「いいのいいの。この前ヒビキくんにシフト外勤務してもらったし」

「……まあ、まりなちゃんが言うならいっか」

 

 レンタルのギターで自分が弾きたいものを探すが、そういえば自分のロッカールームに置きっぱなしにしていた一本があったのを思い出した。戻ってギグケースを掴みフロントでケースを剥いてみれば、鮮やかな碧色のギターが眼に入る。リバースヘッドに特徴的なボディトップ、ピックアップはベアナックルで、フィックスドブリッジというコンポーネントとしてはかなり万能な一本。紗夜がその実物を見たときには驚きを隠せなかった。

 

「スカーブセン‼実物はじめて見ました……」

「ポーランド行った時に買ってきたんよ。調整済みなのよねこれ」

 

 SkervesenのRaptor。日本に輸入代理店は存在しないレアモノで、チューニングをささっと合わせているときにもその音抜けの良さが伝わってくる。これだけ音の輪郭が立っていれば、楽器をやらない人間でも特徴を掴むのは容易い筈だ。ヒビキの大きな手はしっかりした頑強なネックをすっぽりと覆い尽くしてしまう。事務所の机からピックを3枚ほど取ってきてから、彼の目つきが変わった。

 

 鋭く、切れ長な眼差し。ぎらぎらと光る眼光。その身に纏うオーラはロビーにいる人々を圧倒する。それがリサには懐かしく感じられた。そうだ、友希那の父親の解散ライブ以来だ。あのころの超攻撃的なヒビキが復活したのだろう。牙を折られていたのか、ずっと隠しながら研ぎ続けていたのか分からない。もしかしたら後者の方が可能性が高いのかもしれない。鳥肌が立っているからだ。まりなの顔が驚きながらも期待に笑みが含まれているのを誰もが気付いていた。Damnation of Phyrosophyの時にはこの顔をずっと見せていなかったのもある、だからこそ余計に新鮮であった。がっしりとネックを掴んでは、ウォームアップがてら事務所から引っ張り出してきたMG-2を弾き倒し始めた。

 

 昨日のプレイよりも圧倒的に速いピッキング、滑らかに動き続ける左手のフィンガリングは完全に同調している。いつものフルパワーヒビキだと思えば、これでもまだ余力を残しまくっているようだ。彼にしては珍しいレガートのプレイを練習し出して、バイオリンのごとく美麗な旋律を奏でる。ハーモニックマイナースケールを引いているという事もあるかもしれないが、エレキギターがオーケストラの一つのパーツとして捉えてしまえるほどのクオリティ。これが本当にウォームアップか、と疑える内はまだ完全な人間だと思える。速いだけではだめ、それを活かせる表現――それはすなわちメロディ――をしなければならない。その信条はここでも保たれている。

 

「うっし!指あったまった!」

「今日のヒビ兄、魔王みたい!妾のこの左眼に宿りし悪魔も高ぶり続けておる……!」

「それはそれは。ありがたき幸せでありますぞ、魔帝あこ殿」

「あっ、いつものヒビ兄だ」

 

 ギターを持った時だけトランスフォームしているのか。あこの中二病ワードにいつでも付き合えるところを見るとそうなのかもしれない。しかし目つきは先ほどと変わらずだ。アツくなってきたと言って灰色の薄いジャケットを脱げばGear Of GenesisのTシャツが顔を見せ、少しだけ太くなった腕の筋肉が披露された。あれほどアンプヘッドやキャビネットを運んだりしていれば筋肉もつく。個人練習を終えスタジオから戻ってきた友希那がヒビキを目にするや否や、何かの楽しさが彼女の体を走り回った。いつもと感覚の違う彼、それに懐かしさと更に強まる恋心。おつかれ、とにっこり笑う彼はいつもの優しいヒビキと寸分も変わらない。バンド練習の時間まであと15分ある、それまでに彼といろいろと話をしたいが、少しだけヒビキは席を外し、まりなが5人と話し出す。

 

「やばいね、今日のヒビキくん。ナイフみたい」

「ええ。でも、懐かしいです。7年位前は、ヒビキさんってライブ中はずっとあの雰囲気でしたから」

「そっか、友希那ちゃんもリサちゃんも知ってるもんね。それだけの価値がRoseliaにはあるってことなんだろうね」

「そうだったら嬉しいな。ヒビ兄のレクチャーあってのウチらだし、逆にウチらがヒビ兄の顔に泥を塗るわけにはいかないですし……」

「蒼いバラに、七色の旋律ですか……。やらいでか、ですね」

 

 おまたせ、とヒビキが大きめのドリンクを6つ持って戻ってきた。カフェモカ5つにアイスキャラメルラテを彼女たちの目の前に置いて。

 

 

 

「あこ、スネアもっとガンガン来ていいぞ!紗夜ちんはフィンガリングちょい荒いな」

 

 いつもの友希那のアドバイスよりもやわらかいがガンガンと演奏についての指摘をヒビキは止めない。友希那自身が一先ず歌をストップして聞いてみれば、確かに彼の気付いたところはすべて的確なものである。それにシフトするための解決策を必ず提示して、すぐに練習に戻らせる。いつもよりも少しスパルタさが増しているものの、それに心折れる子がいないのはヒビキを信頼しているからだろう。友希那の耳にはヒビキの演奏にはリズムのずれや粗さが全く聞こえない。それに追随してリサの成長が著しい。アンプのボリュームノブはそこまで高くはないが、手元のコントロールをちょいちょいい弄って適時にトーンを変えていく。多彩な奏法を覚えた彼女はとてもブランクが感じられず、ましてや自称している初心者が嘘のように聞こえてきた。きっちりあこのドラムのカバーをしている点、曲の土台を絶対に壊さない点。これ以上のベーシストはなかなか見つからないだろう。自慢の幼馴染として、そしてRoseliaのベーシストとして、リサを絶対に離したくない。その気持ちを見抜かれたのか、リサはこちらを見てウィンクしてきて、友希那はにこりと笑った。燐子とヒビキはしっかりとそれを見届けており、やはりこの5人は最高のメンバーなんだなと実感する。

 

 紗夜にフィンガリングのコツを伝授し終えれば、またもや楽器隊だけで一曲通してみる。"熱色スターマイン"、この五人で仕上げた曲に、ヒビキが少しだけ手を加えれば、メロディックさの増した音楽へと変貌する。リズムギターに終始務めるヒビキ、そこに先ほどのアドバイスとアレンジしたギターソロを組み合わせれば、心を揺さぶる頂点知らずの世界が広がる。頂点を掴みとるだけでは物足りないだろ、そうヒビキが言って友希那が出した答えは。『頂点を突き破る』であった。自分たちがその座に君臨するのではない、どんどん頂点のレベルを上げ続けてしまうのだ。

 

「いい……。これよ、これだわ」

「んじゃ、ユキちゃんも一緒にやろうぜ!ぶっ飛ぼう」

 

 今度はヒビキもツインリードで暴れるらしい。マイクを掴んで、燐子のピアノのトーンに更にシンフォニックなコードをぶつけるヒビキ。そこで転調した瞬間に紗夜とヒビキの極悪なリフが入る。

 

 Aメロで紗夜がひたすら刻み続けているのに対し、アドリブと感じさせるようなマイナースケールで彩り続ける男。そこから暴走特急とならずに、曲をしっかり広げていく6人。一人、圧倒的にぶっ飛んだオーラを纏って弾き熟すヒビキに感化される友希那が、限界知らずのアドリブシャウトを放つ。

 

 ギターソロへの御膳立てはばっちりだ。紗夜がのびのびと超絶シュレッドをぶっ放し、そこにユニゾンするヒビキ。5thビロウスケールなんて発想、紗夜には思いつかなかった。口頭で話しただけなのに弦飛びのタッピングを軽々しく決めてしまう。外にうっすらと漏れていく曲、そこに集まる野次馬。あこの叩くバスドラにヒビキが足を掛けながら、テンションコードを重ねてシンフォニック感をあらわにする。そうしてアームダウンで自分へバトンタッチの合図がくると、ほとんど手グセのホールトーンを紗夜の1.75倍のスピードでタップしていく。目の前にする鬼のプレイ、これを見て悪魔に魂を売ってギターテクニックを手に入れたと言われても誰も疑うまい。シールド一本だけでVHTのCH.3での歪み、ブーストを少しだけかけているのにこの音の説得力はさすがプロというべきか。

 

 リハなのに、尋常でない熱気がスタジオの外に漏れる。人だかりが監視カメラの視界を奪い、6人の勇姿を録画することを許さない。完璧にやりきった精鋭たちは、誰もが賞賛に値すると言ってもおかしくない。

 

「想像以上ね……」

「君らだったらこのくらい出来るんだよ、絶対。自信持って音楽しんで、世界作り出してよ。俺にそれを見させてくれ」

「という事は……今まで、自信を持てなかったからあれで留まってたってこと?」

「自惚れではないけど、他のバンドよりもかなり高いレベルで留まってたってかなり贅沢ですね?」

「氷川さんに同意見です。本当に天井知らずになっちゃうんですね、私達の本気……」


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