BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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 ――規模が違いすぎるだろう。

 

 こころの豪邸に到着した一行は口をぽかんと開けた。大きすぎる門、数え切れない使用人、そして豪華な装飾。ヒビキでさえもこのラグジュアリーな空間には驚かざるを選なかった。お金持ちと言っても、これほどとは。大きすぎて頭を抱えるヒビキだが、リビングだかこころの部屋だかわからないスペースに連れ込まれる。黒服のお付きの人ももちろんおり、何一つ不自由なく暮らせそうなこの家。だからバンドをやっているのかと気付いたが、ジャンルを作り出せてしまう点は天才という他ない。自身を過小評価する癖のあるヒビキは、こころは自分よりも遥かに才能豊かだと確信していた。

 

 キレイに片付いているし、どこかで音楽の匂いがする。ここで話し合いをしたりしているのだろうか。紅茶を出されて、香りを嗅げば高級品なのがすぐにわかる。フォートナム&メイソン、イギリス王室御用達の紅茶で、一口目で彼の思考を吹き飛ばしてしまう。最初に味わった時は小学生で、母の店の常連の客がくれ、飲んだ途端にかなりの衝撃が走ったのを覚えている。教養を積んだヒビキには、この紅茶をありがたく思えてしまう。

 

「食事もまだなのよね?」

「そういやヒビキ、アンタ朝から何も食べてないでしょ」

「あのリンゴ以外何も口にしてない」

「タバコは吸ってたじゃないですか?」

「あれ食事じゃないやろ……」

 

 ここではタバコは吸わない。ニコチン中毒でもないので禁煙などヒビキには簡単であった。それとは別に鶴ならぬ弦巻の一声で食事の用意がなされ、その間に招かれたヒビキ達は本日何度目かわからない驚きの感情を露わにした。

 

 皆のイメージのようなごちそう、これは漫画かアニメだろうか?今日はクリスマスか何かだったっけ、ととぼけてみせるものの、特にこれと言った行事はない。こころの誕生日も過ぎているし、リサの誕生日もそうだ。待ち受けるはモカの日。しかし、こころが気づいたのは、ヒビキは何も祝われてないということ。GoGのオープニングライブはお祝いとしてもいいのかもしれないが、ちゃんとしてやらなければという心遣い、とのことだろうか。自分がいつ誕生日を教えたのかは覚えていない。もしかしたらネットからなのかもしれない。

 

 6月6日、午前6時6分6秒。こうも悪魔の数字が並ぶと呪われていると思いたくなるが、ヒビキは無宗教だしこの場にいる者皆がネタは知っているが本気にしていない。誕生日だったら、と蘭は思い出して自分のカバンから直方体の箱を3個ヒビキに渡した。それを受け取った彼は、パッケージを見て呆れ、溜め息をついた。

 

「お前な……」

「ちょうどこれから使うでしょ。001のサ○ミ」

「誰が使うか!」

「使わないの?ナマはマズイよ」

「バカ!そういうことじゃないって言ってんの!」

 

 とはいいつつもちゃっかりヒビキはそれを受け取った。モノの内容を知っている女の子は顔を赤らめ、無知な子は頭に?を、リサと友希那にたえや有咲達は生でも……と言えば、ヒビキの心労は加速する。蘭もそれに乗っかり、自分も要らないわ、ととんでもないナイフを突き刺した。

 

 現実逃避だ。まずはこのごちそうを堪能しよう。自分の味とどういうふうに違うのかを調べることにヒビキは楽しむことにした。

 

 

「ヒビキの方が美味しいわね」

「ええ……」

 

 食事を終えてからこころが無邪気に発した言葉は、恐らく厨房の料理人にクリティカルヒットを食らわせるような威力を誇っていた。高級なものをずらっと並べられて、あまり食べ慣れていないのにも関わらず美味しいと感じたヒビキのイメージも破壊される。しかしこころの一声に賛同したのはヒビキ以外であった。なぜだろうかと会議もどきが始まるものの、食材の有効利用と大ざっぱさ、そしてこころ以外はヒビキの庶民の味に慣れているし、こころは逆であることを結論付けていいのでは、そうリサが言った。

 

 露店の食べ物などは全く馴染みがなかった彼女だから、そういうものほど新鮮味を感じ、美味と思うのだろう。意外とジャンクフードも好きなのかもしれない。そんな中でヒビキはドタバタとした今日を振り返っては、疲労の所為かあくびを一つ。それも、大きなあくびであった。口を手で隠せばわからないのは、ヒビキの口が小さいからだろう。

 

「眠いの?」

「もう9時回りそうだしな。眠みは凄いよ」

「泊まっていっちゃえばいいじゃない!」

「いいの、こころちゃん?」

「皆で寝るの、楽しそうだし!」

 

 寝る場所はどこにするのか。まず第一、ここで寝られるスペースが作れるのか。杞憂に終わるとは思うが。

 

 すぐさま別の部屋に案内される。そこは和室、敷布団が人数分用意されていて、ヒビキはこの用意周到さにやはり呆れてしまった。その前にお風呂だ、とひまりが言えば、皆が大浴場に連れて行かれる。流石に男がそこに混ざるわけにはいかないので大人しくしていると、お手伝いの方の気遣いで外に出してもらい、涼しい風に当たる。

 

 備え付けのベンチに座って、髪も染め直すか、と愚痴っている時に、一人はぐれて有咲がこの場にやってくる。もう入り終わったのかと尋ねると、まだと言われた。

 

「残念でしたね、映画」

「ごめんな、俺は全くショック受けてないんだ。寧ろ、彩ちゃんが出たほうがパスパレの宣伝になってベストなんじゃないかなぁって」

「つーか普通そうですよね。ヒビキさんには映画の主題歌とかをオファーするもんでしょ」

「それなんだよなぁ。一応曲は作ったけど、パスパレがやるっていう方向になってるし、ならハナからそうしろよ、ってね」

 

 隣に座る有咲がヒビキの左肩に持たれかけた。疲れたのか、もしくはタダ甘えたいだけなのか。どちらにせよとやかく言うつもりはないし、ツンデレっぽい彼女が自分にはデレデレでいるのも嬉しくはあった。有咲も、自分の可愛い弟子であるのには違いがない。

 

 左手で有咲の頭をぽんぽんと叩く。にへらと歪む彼女の顔は安堵の表情も混ざっていた。ポピパを組むまでは一人だったのだろうな、そうヒビキが察した。良いお友達が出来てよかったじゃんか、とは言わない。わかりきっていることを言っても仕方ない。

 

「オープニングライブ、ありがとね。その前のリハも付き合ってもらっちゃって」

「ヒビキさんの為なら、何だってしますよ。惚れた弱味……じゃないですけど」

「そんなこと言っていいのかー?俺は答え出せねぇぞー?」

「いいんです。どうせ、一人に絞られるなんて期待してないですし、そうしなくていいですから」

「つまりは……?ハーレムのままでいけと?」

「そういうつもりですよ?」

 

 それでいいならいいが。誰とも付き合うつもりも、ハーレムでいちゃつくつもりも全くない。しかし、惚れた弱味なら、と思ってヒビキは一つ提案をした。

 

 ――俺とバンドやらない?

 

 

「直々にオファー!?」

「ああ。やっぱ実力派だからなー、私」

「それって凄い事だよ有咲!ヒビキさん、自分からバンド組もうなんて言わないもん!」

「あたしもあんま聞いたことないなー。巴はある?」

「ない。蘭は何回かヒビ兄と組んでたけど、あれはどうなのか……」

「大方人数の埋め合わせなんじゃね?」

 

 有咲も風呂に入ってから、用意された浴衣を着てお約束の女子会トークが開催される。確かにあの実力は誰もが認めていて、燐子が録画されていた有咲のパフォーマンスを見て賞賛の拍手を送っていたことは記憶に新しい。音選びのセンスはクラシック寄りであるものの、燐子のピアノから得た技術というよりかはオーケストラの方からもらっているものが多い。ヒビキの教則本の影響もあるのだろう。

 

 その著者は今風呂に入っている。そういえば、蘭の姿が見えない。ハロハピは帰ってきている。ひまりやモカにつぐみも巴と一緒に帰ってきた。ということは、そういうことだ。

 

「混浴してるってこと?蘭ちゃんたちと?」

「だな。弦巻さん、ここってお風呂一つしかないですよね?」

「ちっちゃなやつが2つと、さっきの大浴場が一つ!ヒビキも大きな方に行ったんじゃないかしら?」

「ま、ヒビ兄だからいいか。……待てお前ら、どこへ行くんだ」

「お湯のおかわり!」

 

 巴の安堵をぶち壊すような行動を他のメンツがしだした。つぐみがあたふたしだすものの止まらない。それでも大丈夫だと思えるのはなぜだろうか。というか、ヒビキと自分も風呂で語り合いたいと思っているのはなぜか。昔、ヒビキが中学生の時に皆で風呂に入った覚えもあるし、大して意識もしていないからなのか。

 

 ケツ持ちのために結局皆で二度湯する。脱衣所には、綺麗に畳まれたヒビキの服が籠にあった。ガラリとタオルを巻いて入れば、特に何もおかしな行為すら無く、身体を洗い終わってさあ浸かろうというヒビキの姿が。

 

「どしたの巴」

「あ、いや……。他の子達が一緒に入るって」

「もう浸かってるよ。つぐちゃんも二度湯?」

 

 広い背中、スラリとした後ろ姿。きれいな脚とお尻は女の子と見間違うほどだ。そしてタオルを湯船に沈めるのはマナー違反だぞ、とヒビキが釘を刺した。

 

 ――混浴ってなんだっけ。あれ女の子でいいんじゃね。

 

 湯船にザブザブと入っていくヒビキの近くには蘭やリサに友希那、しかし家族と普通に一緒にお風呂に入っているだけ、特に変な意識もしていないようだ。髪をかき上げて眼を瞑るその顔は、よく漫画で見る銭湯での満足シーンに他ならない。心配して損したな、と巴とつぐみは思った。ヒビキはやはり奥手なのだろうか、もしくは同性愛者か、自分たちがそう見られていないだけか。

 

「それで、こう指を動かしてると、腕の細かい筋肉が強くなって」

「そうそう!フィンガリングに凄い効くよね!」

「リサ先輩もやってるんですか?」

「うん!」

「通りで、最近4フィンガーも上手くなったのね」

「えへへ……。努力の賜物!」

 

 じわじわと集まる女の子達、楽器の演奏と風呂でのトレーニングしか話していない。その話題がだいぶ長くなりそうだった。ヒビキもそこに加わっては身になる話ばかり。当初来た目的をつぐみと巴は忘れ、練習方法を聞き入っていた。


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