BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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 翌朝5時にリサは目覚めた。風呂から上がってすぐにみんなが寝ていた覚えがある。隣の友希那はぐっすり夢の世界に入っていて、すぐに2つ、誰もいない布団の存在に気付いた。恐らく、というか確実にヒビキだ。あとのは誰だろうか、順番に数えてみると、たえもいない。二人そろって何をしているのか気になって、浴衣のままで部屋から出てみると、しんとした廊下から艶めかしい声が北の方から聞こえる。なんだこの声は、と気になり顔を赤らめて音源を辿っていくと、鏡貼りの部屋の中、座っているたえの背中を押すヒビキがいた。二人とも浴衣のまま柔軟体操か。リサにおはようをいう二人に、なにしてるのと問うてみる。

 

「朝のストレッチは健康にいいんだよー」

「特に股関節周りの筋肉をほぐすのは大事ですよ。朝からここを伸ばすと歩くの楽なんですよ」

「へ、へえ……。おたえちゃん?」

「はい?」

「ぱんつ見えてる……」

 

 はだけた浴衣から、リサの角度から白い布が見える。ということは、鏡像でもヒビキにみられるという事。しかし、ヒビキに対して見られても何も感じないのだろうか、ブルース・ディッキンソンよろしく"それがどうした"と言わんばかりの表情。次にたえが押す側に変わって、ヒビキは股を180°きれいに開いた。そのままべたりと胸を床に付け、その上にたえが座り、30秒を数え上げる。そのままたえと会話しだすが、話題は音楽のことばかり。Gマイナースケールからダブルドミナントに転回してどういうスケールを選ぶのかとか、ファンクビートでどういうフレージングが好きかとかいろいろ話をする。この人たちには恥じらいがないのか、とリサは思うが昨日裸で一緒に風呂に入っている自分が言えるセリフではない。後ろに一回寝たと思いきや、後ろの手で思い切り身体を押して跳ね起きる。身体能力の高さは頭を打っても変わらないようだ。

 

 リサちーもやる?と誘われたが断った。そのかわり、病人は寝てなきゃダメでしょと言われ、手を引っ張られる。そんなに気にすることないのにと昨夜巻きなおした包帯を取ると、腫れていたり切れていたりはなく、ぴんぴんしていた。ここは腫れてないんですよね、とたえがヒビキの股間を指差すが、余計なお世話だと苦笑いしながら答える。

 

「え、ヒビ兄まさかその歳でイン――」

「言わせねぇよ?」

「大蛇だったり、二本あったり?」

「あるわけないだろ!」

「ビッグマグナムには違いない……」

 

 たえの悪乗りはR指定になりそうだ。試してみますか、と彼女は自分のショーツに手を掛け、下にずりおろそうとする。その手をヒビキはすぐさま取って、こらと困った顔をしながら注意する。

 

 最近のJKはとんでもない性意識だ。恐れてしまうのも無理はない。自分に好意を持っているからといってこんな暴走行為を無視するわけにはいかない。舌をちろりと出していたずらっぽく笑うたえにヒビキはため息をつかざるをえず、リサも苦笑いしだした。まったく、と腰に手を当て眼を瞑る彼。今だ、とたえはヒビキの首に抱き付いた。その光景をリサは眼を丸くして確認した。

 

「スキアリ!」

「ええええええ!?」

「このままちゅーしてもいいですか?」

「俺、毎週キスされてる気がする……」

「ヒビ兄毎週ってどういうこと!?」

「ゆりちゃんにこの前奪われたし……むーっ」

「あー、やっぱりレモンっぽい」

「おたえちゃんも!?」

「エロいことまでしなければ大丈夫……ヤらなきゃセーフ……」

「ヤっちゃいます?」

「しません!」

 

 

 壮大な朝食を済ませてから朝帰りということではあるが、特にやましい事をしたわけではない。今朝のあの一件は少しだけインシデントと考えてはいるが、仕方ない。リサと友希那はロゼリアのミーティングがあるから、と言って、今朝のやりかえしなのかヒビキにキスをしてからリサは手を振り離れていった。友希那は段々と今のままキスをしてもいいのではという考えに染まりかけている。ヒビキの頭の中ではどうしてこうなったとしか浮かんでこないのである。その中でニヤニヤしている蘭とたえ、むっと膨れているのはひまりとモカに有咲だ。他の子も確かにちょっと不機嫌そうではあるが、ヒビキははあとため息をつくしかなかった。

 

 この後はポピパがヒビキの家に行くとのことだ。沙綾がなんとかストッパーを務めてくれるからいいはずだ、と思いきや蘭とひまりにモカまでも来るらしい。なにをするつもりだ、取って食うつもりかとヒビキが恐れるが、巴とつぐみは苦笑いをするだけだった。千聖と彩はロケ現場に、ハロハピはこのままバンドの練習との事で、四面楚歌ではないか、とヒビキは力なさそうに笑う。

 

 ――食われる!

 

 貞操のピンチ。餓えた獣の眼をしている7人、まさか沙綾までもが狂っ(イカれ)てしまうとは思わなんだ。状況を楽しんで傍観する蘭をヒビキは恨みだすが、蘭は肩をぽんぽんと叩いて聞こえるようにつぶやいた。

 

「避妊はしなよ」

「何言ってんだおめーはよ!18にもなってない娘に手を出すのはアウトなの!」

「手を出されるのはセーフと。つまり……」

「そういうことだねひーちゃん」

「りみりん!ストッパーになってくれ!」

「え?ストッパーなんていらないんじゃ?」

 

 何か悪い夢を見ているのか。もしくは、自分の頭がおかしくなったのか。ヒビキはどちらかわからなかった。囲まれベタベタ触られて、もうこれは開き直るしかないのか。わからないが、理性だけは保たねばなるまいと立って耐える。しかしすぐさま、ひまりや有咲からキスのおねだりをされ、断ろうにも無理矢理唇を奪って行く彼女達に青年は一人頭を抱え続けた。このまま逃げてしまいたい。塵芥となってしまいたい。

 

 そうしながらも家について、皆を家に上げては、彼女の親たちから一斉にメールが来た。どれも"うちの娘をよろしく"としか無くて、親公認でこんなことをしているのか、と狼狽える。その中で一通、宅急便のメールがあり、その後すぐにインターホンが鳴った。印鑑を持って玄関に向かい、ダンボールを受け取ってリビングに持っていく。ヒビキだけでなく他の女の子が中身を期待して、カッターで綺麗に開けてみれば、1つは小さな箱、そしてもう一つは新品の黒いジャケットが入っていた。

 

 ビニール包装を開け、くるっと背中を回す。手触りは牛革、薔薇に囲まれている髑髏に剣を突き刺した刺繍が目立つ。厨二病感あふれるジャケット、しかしこれが7万円ほどするらしいから驚きだ。

 

「この箱は?」

「エフェクター。俺のシグネイチャーが遂に出た」

「え?シグネイチャー!?」

「そう。"HexiaGear Distortion"っていって、クランチからメッチャ歪むディストーションまでいける代物!」

 

 いつからそんなものを開発していたのか。気になった蘭が箱を開けて見れば、やたらと機能が満載である。歪みセクション、イコライザーセクション、センドリターン、そしてノイズゲートまでついている。実用的なこのペダルの音はまだ聞いていない。目的はヒビキを犯すことからギターを弾き倒すことに変えようか迷い出すが、蘭のその(よこしま)な考えを最初から見抜いていたヒビキはしっかりとその目論見を破壊した。

 

「誰を犯すって?」

「心を読まないで」

「お前の考えてることなんてわかる」

「たく……。インポの癖に偉そうに」

「いや違うから。つーかそんな言葉女の子が発しちゃいけません!」

「だよね、出して良いのは喘ぎ声だよね」

「蘭が喘ぐ……イメージ沸かないなぁ」

 

 ひまりの悪ノリは中々可愛いものであった。しかしこれに乗っかってくるポピパとモカは尚更エグい。右腕じゃ我慢できない、つがいを作ろうだとか、私と一緒にホットドッグ作ろう、パンは用意するからホワイトチョココロネを作ろうだったり、新しい盆栽をやるために種蒔を、白い流れ星が見たい……。

 

 ――いい加減にしとけよ。

 

 ヒビキがニコニコしながらドスの聞いた声を発した。その背中には鬼が見え、黒いオーラをまとってジリジリと踏み寄ってくる。やばい、と蘭とモカが気づいた。ヒビキを怒らせてはいけない、それは知っていたはずなのに。発情した女の子達の背筋は凍り、若干名ちびってさえいた。

 

「もっと自分を大事にしなきゃ駄目だよねぇ……」

「ひいっ!?」

「大人のお兄さんをからかって楽しいかな?ふふふ……」

「えっ、なにこれは……」

「反省、しなきゃだね?」

 

 落ち着け。ヒビキを止めるべく蘭は間に入った。手を出すわけでもない。彼は怒る時、笑顔を常に絶やさずに近寄って論破してくる。その表情を崩すことはない。だから怖いのだ。テーブルにあるジタンを一本取り出して口に突っ込み、モカがすぐに火をつける。次第に怒りのボルテージが下がっていき、ほっと女の子は胸を撫で下ろした。ソファにどかっとヒビキが座り、一見落着、かと思いきや。

 

「お説教1時間コースね」

 

 地獄の始まりはこれからである。


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