BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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Time Lapseをフラゲしたので初投稿です。


9

 

 

『父さんにごっこ遊びはやめろって言われた』

『心配したんだからな……』

『心配なんてしなくていいよ巴、絶対私はここに戻ってくるから――絶対にあのクソオヤジ見返してやる‼だから練習するよ』

『お、おう……?』

『蘭こっわ!瞳孔開きかけてるから!落ち着いて‼』

『あ、ごめん。……そういやひまり、ヒビキに手伝ってもらうのっていい?』

『え?ヒビキさんに?いいけど……』

『蘭ちゃん、何を手伝ってもらうの?』

『作曲。オヤジの顎元にガツンと思い切りアックスボンバーぶちかます感じのね』

『エモいですなぁ……。エモって言うよりかはパンク?』

 

「……なつい」

 

 高等部に入学してばかりの出来事がまさか夢に出てくるとは思わなんだ。自宅のベッドで眼を覚ました時間は7時頃。厳格な父親は既に起きていて、朝食を摂ってから華道の稽古をする。その時間中に父に最近のバンド活動について聞かれる。

 

「大分ヒビキ君のところに行っているようだが。バンドの方はどうなんだ?」

「皆ヒビキの家に集まってるから。そこで練習したり、作曲教わったりしてる」

「あまり迷惑をかけるなよ。それと、私が認めたことだ、必ず最後まで貫き通せよ」

「私が誰の娘かわかる?父さんの娘だよ、そんなのは当然でしょ」

 

 前よりかはそれなりに親子の仲は良くなった。母親はバンドを組み出した時から賛成してくれていて、最近の変わり様はヒビキのおかげとしていた。夜中にヘッドホンを使ってのギター練習をしている中でも、母は夜食だったり曲のネタなどを提供してくれる。それにはとても感謝していたが、父親はまだ一回しか自分のライブを見ていない。それも、ヒビキと一緒にやっていたときのものだ。

 

 ――これ以上文句は言わせない、決意を拳に乗せてあの堅物の顔面をぶん殴る。そのためには実力付けるのが一番。

 

 巴たちの眼の前で吐いた言葉は未だに覚えている。あの巴がたじろぐぐらいの気合を纏っていて、しかしつぐみが一番それに賛同してくれた。粗暴な言葉遣いではあるが、魂を感じ取ってくれたあの4人は間違いなく親友。そうして、実力主義ではない、感じることを第一としながらも、力は相当なものを手にしていた。

 

 リビングに戻って、ふとテレビに眼を向けた。千聖と彩の映画のコマーシャルが流れ、そのテロップには"主題歌作曲六角ヒビキ監修"の文字。嗚呼、身近にいる幼馴染はここまで出世してしまったのか、と少しだけ寂しくなる。そんな中、ドアホンが鳴らされて、蘭が玄関に行けば珍しくヒビキが訪ねてきてくれた。

 

「どうしたの」

「こいつ渡しに。こんにちはお父さん」

「こんにちは。久しぶりだね、ヒビキくん」

「そうですねぇ。お電話で3ヶ月前にお話したっきりですもんね」

「そんなに経ったかね?それより、外ではなんだから上がってくれないか。私も君と話したいことがあってな」

「俺……あー、私にですか?」

「あまり気を遣わんでくれ、いつも通りで構わんよ」

 

 ハードケースを持ってきた彼、あの大きさは恐らくギターだろう。父がヒビキを客間に迎え入れて、蘭も入りなさいと言われたのでそちらに付いていった。クリームのワークパンツに錦鯉のTシャツはやはりどこかちぐはぐしている。その上から狼が月に向かって吠えるジャケットを着て、眉間のシワが若干取れて穏やかな表情の父は、アコースティックギターを取り出していた。あれ、と蘭は何か違和感を感じる。いつの間に父はギターを始めていたのだろうか。色々気になったヒビキは、幼馴染の父親に聞き出す。

 

 

「ギター、始められたんですか?」

「納得した以上、理解もしたくてね」

「意外と可愛い一面もあるんですね?それで、コードから始めたってところですかね」

「流石、なんでもお見通しなんだな。Fが抑えられないのだが」

 

 久しぶりに父のあんな顔を見た気がする。自分はお前を少しでも理解しようとしているぞ、と示したいから呼んだのだろうか。確かに父のフォームはぐちゃぐちゃながら、ヒビキの魔法のレクチャーがすぐに矯正させて綺麗にFを抑える。持ってきたハードケースの中身を使えばいいとは思うものの、オタノシミにしたいのだろう。

 

 いつの間にか自分も、ギブソンのアコギを持ち出していた。ヒビキに借りていたアストリアスを返し、フィンガーピッキングで綺麗にヒットしていく。父にはまだ早い、とピックを渡せばぎこちなくピッキングしていく。ヒビキは流暢なピッキングのやり方を教えて、もう初老といってもおかしくない父にするすると呑み込ませていった。

 

 

「それで?そのケースの中は?」

「開けてみ」

 

 蘭の部屋でヒビキはケースを渡した。バックルを二個開き、FRPの軽く丈夫な上蓋をぐいっと持ち上げる。

 

 ダークレッドのバーストカラーが映える、キルトメイプルトップの大きなボディと大きなヘッドは香澄のランダムスターにも似ているが、こちらはより鋭角的だ。Deanのロゴ、Fishmanのアクティブピックアップ、そしてフロイドローズ。間違いなくDeanのRazorbackである。

 

 ベッドに腰掛けてそれを持つ。座って弾きづらいが、なぜかネックはしっくりきて、プレイアビリティは抜群にいい。指でコードをストロークすると、メイプルの持つ硬さとコリーナのはっきりとしながらも暖かみのある音が、腹部を通して伝わった。おお、とヒビキがいうと蘭はニヤリと顔を歪ませる。

 

「これで、あたしが弾けってことだよね」

「ぬっふっふ、ご名答。この前の客がお前にってくれたもんだ。お前がアームを使うかは知らんけど、変形はお前に似合ってる」

「使いたい時には使うよ。ありがと、これでヒビキの隣に立てる」

「お前から言い出した分、俺を満足させる様に弾いてみせろよな」

「任せなよ、存分にやってあげるから」

 

 拳を突き合わせ、笑顔を交わす。幼馴染の縁もあるが、相棒としての縁も長い。紗夜やたえとも相当なクオリティを出してくれるが、ヒビキが一番合わせやすいのは蘭なのだ。早速練習を、というと車で来たヒビキは蘭を乗せてリハスタへと直行する。そこにはヒビキの機材と選抜メンバーがいて、友希那は蘭の姿を見ると快く歓迎してくれた。上下関係はわきまえるものの、リサから見れば二人はもう立派な親友となっている。ドラム選抜の沙綾はそれを見ながら、少しでもパワーを増すためのハンドグリップを只管やっている。

 

 7人編成でのバンド、そこに一人、サンプラーで美咲がまた呼ばれる。段々と大所帯になってきたこのバンド、何を目指しているのか若干わかった気がする。蘭は早速Razorbackを取り出して、チューニングしだした。

 

「曲作るゾ」

「じゃあヒビ兄、早速ネタをちょうだい!」

「うむ。キーはD#。沙綾ちゃんのバスドラとタム回しから始まる。Midiあげたよね?」

「はい、ばっちし練習してきました!」

「蔵で練習してたのそれか!」

 

 単純なバックビートではない。三連符で踏まれるバスドラのリズムに、リード楽器と変貌する要因のタムタムはキャッチーなフレーズで、そこにリサがベースでハーモニクスを出した。Spectorのネックを揺らして無理矢理ビブラートを出し、スネアで止める。そこで蘭は、聞いていた音源のようにアームをダウンしてから3弦の2F周りのハーモニクスポイントを叩いて、思い切りアームアップした。

 

 音作りの影響もあるのだろう、高域がかなりに綺麗に出て叫び出す。そこで日菜がリフを弾き出せば、ヒビキはコードを弾いて、そこに有咲のスケーリング、そして美咲のウィンドの音源が乗り出した。

 

 友希那がマイクを取る。楽器隊の方を向いて、リードを務める蘭の隣に立って、一緒に歌いだした。

 

 

 

「いいですね。ハロハピの時とジャンルは違うけど、こういうのも楽しいし」

「だな。後は私がもうちょいフレーズの引き出しがあれば」

「市ヶ谷さんは貪欲なんだね?。今でもフレージングのネタ、かなり多かったと思うけど」

「まーね。でも奥沢さんも凄いじゃん、私にはDJなんて無理だ」

 

 一曲作り終わったところで休憩を入れ、レコーダーの音源を頼りにヒビキは記譜しだした。スラスラと書いていくそのペンのスピードは流石本職というところ、速弾きのところでさえも手は止まらない。

 

 ここはショパンのノクターンを入れたでしょ、と彼に聞かれれば、ニコッとして首を振る。クラシックフレーズを勉強中の有咲にはそれを分かってもらえるだけでかなり嬉しかった。その中でペンを止めて、有咲の弾いたフレーズをヒビキは完コピしてみせる。おお、と美咲が拍手をして、そこからこういうネタも用意しまっせとふざけるも、リストの練習曲を入れてみる。そこで有咲の眼はキラキラ輝いて、知識欲と好奇心を隠すこと無くさらけ出した。

 

「紗夜のギターもいいけど、日菜のも面白いわね。ヒビキさんのお弟子さんなだけあるわ」

「ユキちゃんに言われると照れるなぁ。でもあたしはお姉ちゃんと同じ3番弟子だから、まだまだだよ」

「あれ?一番弟子って誰?」

「アタシですね。付き合いは無駄に長いし。2番目はポピパのたえかな」

「あ、そっか。蘭はヒビ兄の幼馴染って言ってたもんね」

「おたえも蘭ちゃんのことは姉弟子って言ってたし、かなり好いてたよ。今度セッションどう?」

「いいね、やろう」

 

 どんどん音楽の輪が広がる。ぼっちとはもう誰にも言えない。社交性は恐らく無いと言ってもいいが、反骨心と熱い魂は他の人間を揺り動かすのだ。それこそが蘭の原動力。それを忘れずに彼女は今日も暴れゆく。


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