BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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Chapter.6 -血まみれミッドナイト(悪魔と仮面)-
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 暑い夏がすっかり姿を消してしまい、早朝はほんのり肌寒いくらいの気温となった。木枯らしはまだ吹かずにいるが、それも時間の問題だろう。その澄んだ空気の中で日課のジョギング中のたえは、色を失いつつある木の葉を見ては物思いを馳せる。Poppin'Partyの今後もあるが、またGoGで大暴れしたくもある。気持ち良い汗をかいてから、家に戻って登校の身支度をする。ギグケースも忘れずに、花咲川女子へと今日も元気良く出席した。

 

 授業を受けて、放課後は皆で集まって、そしてGoGに皆に向かう。今日はどのようなバンドだったかを頭の中に浮かべながら、ヒビキノートを見てPAをいじる。その時、あるバンドのコープスペイントがやけに脳裏に残っていて、これだと思ってはヒビキに声をかけた。

 

「は?聖飢魔II?」

「はい!やりませんか?やりましょうよ!」

「ちょっと待って。メンツは?」

「私とヒビキさんと……」

「いないやん」

 

 ノリの良いやつが必要だ。顔面を白塗りにして、ツインギターで和を感じさせるフレーズを弾く。ドラムとベースは堅実ながらもオリジナリティ溢れるバンドだ。その人選をたえは探っていくことにし、今日来ていたポピパにも声を掛けた。

 

「聖飢魔IIって、蝋人形の館?」

「そうそう、昔からお母さんと聞いてたりしてたから」

「子は親に似るもんなんだな……。でも唐突じゃね?」

「今に始まったことじゃないでしょ、有咲」

「ま、そうか」

 

 Warwickのベースを握って、お呼ばれしたバンドと一緒に暴れるヒビキを後ろの方で見ながら話し合う。高めに構えた彼が舌で弦を弾き出しておおっと会場のボルテージが限界突破する中で、やっぱりこういうノリがやりたいならヒビキを入れるしかないと思ったのは五人全員同じだった。キーボードフレーズすらベースで再現してしまう辺りは超絶過ぎると思える。

 

 ――ボーカル、ヒビキさんだ!

 

「ヒビキさんに歌ってもらおう!」

「ええ……?ギターじゃなくて?」

「ギターは私が弾くから」

「おたえー、聖飢魔IIはツインギターだよ?」

「香澄もやるんだよ」

「うん、やる!あとは紗夜先輩も誘って!」

「乗るのかなぁ……」

 

 ステージでのパフォーマンスが終わって、ヒビキは竿を肩から下げたまま5人に話し掛けた。そこで決まったことを聞いて、色々と手回ししてみるか、と話をした。

 

 ヴィンテージ風な曲をやるなら巴のドラムがいい。そしてキーボードは燐子。ベースを誰がやるか、というのが悩みどころである。愛しのリサ先輩は、と有咲が少しからかいながら言うものの、少しだけギャップがほしいとヒビキは考える。リサはいかにも、なのだろう。

 

「千聖ちゃんがいいかも」

「千聖先輩……やるのかな?」

「やらなかったらりみりんがやるから!」

「え、私?」

「チョココロネ1ヶ月でどうだ?」

「やります!」

 

 餌付けはヒビキの得意技だ。腕を振るって、と沙綾が張り切るが、俺が作るよと彼女を制した。そうだ、一時期やまぶきベーカリーで働いてもらっていたことがある。六角家全員が手伝いに来てくれて、身体の弱い母が感涙していたのはずっと忘れられないし、バンドをやめてしまった原因がそれなのだがPoppin'Partyでまたドラムをすんなりとやれるようになったのも彼のおかげであった。前のバンドにはかなり迷惑を掛けてしまいポピパに入るときに申し訳無さでまごついていたものの、仲間たちが寧ろやれ、対バンさせてくれと背中を押してくれたこともまだ記憶に新しい。

 

 全てのバンドの出演が終わって、仕事をしながらそれの計画を話し続け、計画初日はまずまずのところで幕を閉じた。

 

 

「白鷺さんは断りましたか」

「ごめんなさい、流石に事務所にやめろと言われてしまって……」

「それはそうですよね、アイドルですし」

 

 昨日話題に上がったメンバーが昼食の席を共にした。それでりみのベースが決まり、中々ガタガタコンビが出来上がってきてしまう。話が千聖から回ってきた花音もそこにいて、本当はやりたかったという感情を読み取ってはふふふと笑いかける。ベースならはぐみも使ってやってほしかったし、ギャップを狙うなら薫のギターでも面白かったのではと発言するあたり、花音は中々のアイデアウーマンと察する。

 

 やれてSlipknotあたりだ、とも言われたらしい。千聖の事務所が全く意味不明だとその場の全員が思った。寧ろそちらの方がやばいのでは、とバンドを知っている紗夜と花音は悩む。

 

「それで、氷川さんは」

「勿論やります。前からRoseliaでやりたかったんですけど、湊さんが乗り気ではなかったので」

「言ってましたね……。でも湊さんも『赤い玉の伝説』ならいいとはおっしゃられてましたよ」

「またコアな曲を……」

 

 内容は知っている人ならわかる、それなりに下ネタの入っている曲だ。だが、特にボーカルが高難度の曲であり、最後のシャウトは友希那が辛いというほど。それならとヒビキに声をかけたのはたえの手柄であろう。あの人なら……と言う前に既に皆が実力を察していた。

 

 次にやる時はSlipknotで、と念を押すのは千聖であった。9人はメンバーが必要なのだが、それを知っていっているのだろうか。GoGでしかやれないような気がするものの、メタラーの紗夜はそれもやろうと返事をする。

 

 そして、午後の授業を受け終わり、紗夜は弓道部の練習をしっかりと熟して帰宅しようとする。校門にはヒビキと巴が居て、巴からはあこの事で礼を言われた。妹の方はあのように痛い子なのだが、姉はかなりしっかりしている。自分のところと似ているな、と少し思うが、日菜は痛くはないし、時間にルーズなだけだ。少し前まではコンプレックスを抱いていたものの、日菜は天才ということを認めつつもやはり自分のほうがギターが上手いなと思い込んでいる。それに、コーチが目の前にいるスーパープレイヤーなのだから上達が早いのは当然なのだろう。

 

 そこに、ちょうど部活帰りなのだろう、ゆりと香澄の妹の明日香が通りかかる。ゆりはヒビキを見つけては歩く速度を早めて腕に抱きつき、明日香が自分の姉と似ているなと思う。自己紹介を済ませて、今度は明日香が姉の世話への礼を言った。

 

「いつもご迷惑をおかけしているようで。少し人懐っこいだけなので、良ければこれからも姉のことをよろしくお願いします」

「ご丁寧にどうも。香澄ちゃんと違って落ち着いてるね?」

「よく言われます。姉にはもっと落ち着いてほしいのですけれど」

「あはは、でもそこが良いところなんだよ。ヒビキさんもそう思いますよね?」

「まあね。それに、うちのライブハウスでいつも手伝って貰ってるし」

 

 校門で長話をするのもまずい。今日も車で移動していて、機材車の定番・ハイエースに5人を乗せた。鍵が通常のものよりも頑丈で、ヒビキがドアを開けてやればその席に巴と明日香に紗夜が座る。助手席にゆりが座っていて、いきなり抱きつくのではないか、と巴が心配になったものの流石にそこまで馬鹿ではないと信じて、ヒビキの丁寧な運転に身体を預けた。

 

「宇田川さんがドラムですか?」

「はい。ライデン湯沢との共通点を探していったらアタシに行き着いたらしくて」

「ワンバスのツータムで、大口径のドラムセットを使ってるとなると……確かに。ジョン・ボーナム好きなんですか?」

「そりゃもう!あのパワーと手数を両立してるのって、凄くないですか?」

「あの、あんまりドラムわからないんですけど、それって凄いんですか?」

 

 明日香が話に入ってくる。凄いぞ!、と巴が推すものの上手く説明ができない。そこで、運転しながらヒビキが説明をし出した。

 

 力を重視するとスピードが保てないし、シンプルなフレーズしか叩けない。かと言ってテクニックやスピードをメインに叩くと音量が小さくなってしまう。言うなれば、1500mの自由形を50m自由形のマックスで全て泳いでしまうのとほとんど同じだ。

 

 水泳部の明日香はそれを聞いてすんなりと理解できた。ゆりと一緒に帰ってきているから、自分が水泳をやっているとわかったのだろう。また、シャンプーはしたものの僅かに塩素の臭いもするから、それも手掛かりになっているはずだ。更には歩き方と座り方で専門種目を当ててしまう。

 

「バックでしょ?少し後ろに身体の重心が寄ってるし、歩く時に頭がずれてないのと顎がすって引けてるから」

「六角さんって千里眼でもお持ちなんですか?」

「よく言われるけど、ちょっとだけ人を見る眼が細かいんだよ。やってる学問の性質上ね」

「数学?」

「残念!物理でした」

 

 

 アパートに車を停めれば、明日香と入れ変わって香澄がランダムスターを持ち車に乗り込んだ。事前に連絡はしてあり、練習を営業終了後のCiRClEでやるとのことだ。燐子、たえ、りみも乗せて店に着き、紗夜にはヒビキのクロちゃんを貸した。疲れている中で少しだけ集中しながら、まずは楽器隊が呼吸を合わせる練習を行う。

  

 香澄ちゃんはアドリブできないんだっけ、とヒビキが心配するものの、有咲にちょこちょこ教わったりヒビキの教則本を買ったりしているから少しはできるようになったらしい。じゃあAで3コードセッションだ、と言えば巴がビートを刻みだし、コード進行をりみが作り出す。

 

 コードを弾いてリズムを作り出し、各人が互いの顔を伺うように演奏しだす。速弾きなどのテクは今は締まっておこう。シンプルにカッティングなどでノリを産み出し、燐子がまずはお手本となるメロディを弾き出した。

本当に短いフレーズではあるものの、やはりピアノの素養があるのでクラシカルなフレーズを弾いてくれる。そこに滑らかにたえが繋げて、レガートを意識したのかハンマーオンとプリングを多めにしてブルースチックに弾いた。

 

 さて、と紗夜がバトンを受け取る。フロイドローズを緩やかに動かし、アーミングを多用した。キーを外しかねないギリギリの領域で音程変化を狙い、小刻みにアームをいじりながらピッキングをする所謂クリケット奏法なども交えた。その下準備を受けて香澄はスライドがわりにマイクスタンドを用い、華を添える。そうして、ネック側を向くピックをくいっと持ち上げて、逆アングルという持ち方でピッキングをしだす。クリーントーンでありながら、ハムバッカーの出力と相まって太めの音が出ていく。そう言えば、この前香澄はこのギターのピックアップを変えていたのだった。フロントにはSH-16、リアにSH-14と中々目の付け所がいい。印象としては前よりもクリアに、そしてパワーが少し増している。

 

 少し歪ませて弾いてみれば音の違いは歴然だ。高さの調整もしっかりとしたのだろう、音が潰れず、かなり前に飛んでくる。それをたすきとしたのかりみまでもがリードを仕出して、連発のサムピングを食らわせだした。

 

「皆うまくなったなぁ……」

「成長度合いで言えば戸山さんがダントツですね」

 

 弾きながら紗夜から褒められては照れる香澄、そして仲間意識が高まる7人。かなりいい人選とヒビキは自画自賛してしまった。


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