BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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手首のストレッチをしていたら左手の親指から手のひらまで傷めたので初投稿です。
当分は6弦を抑えられないどころかネックを持つのが辛い。


3

 

 

 スタジオ練をする度にメンバーの連携は上がっていった。一回だけそれぞれのバンドのメンバーを呼んで感想を聞かせてもらえば、誰もが文句なしだと言ってくれていた。それで、ミサはいつにするかと聞かれたとき、CiRCLE で近々だとヒビキは答えた。

 

 そのハコで、今日はPoppin'Partyがトリを務めるライブイベント中に、ヒビキはタバコを外で吸っていた。PAを他の子たちに任せて自分は小休憩を、と促されたのでこうしている。ハイライトの煙がもくもくと空に立ち昇っていく中で、ハコの中からライブのそれとは違う音が聞こえ、吸殻入れにタバコを入れてはすぐにそっちに向かう。

 

「どしたの?」

「オーナー!」

 

 いかにも柄の悪そうな男達が、チケット代すら払わず、女の子の身体ばかりを触っているらしい。それを注意した女子スタッフが絡まれ、手を焼いていると言ったところだ。身長はヒビキのほうが圧倒的に高いが、ガタイはそちらの方が良い。しかし、ヒビキは臆さない。

 

 ぐっと輩たちに踏み寄る。睨み付けられ周りが萎縮するものの、ヒビキは引かなかった。

 

「お遊戯会に金払う必要なんてねぇだろ!せめてこの女共で楽しませろや!」

「帰れよ、あんたらみたいなのは客じゃねえから。警察呼んで――おぉ、危ねぇな!」

 

 拳を振り回されるものの、そんな大ぶりでは当たらない。ヒビキの身軽さはそれを容易にいなし、逆にその拳を取って自分側に引き寄せ、足払いをかけて軽々と転ばせてみせる。

 

 柔道か何かか、しかしこのような軽業では男達は止まらないのはわかっていた。次は右のローキック。丁度倒れかけた男に誤爆させるように誘導すれば、それは案の定顎に入り、意識をふっとばす。何やってんだか、と呆れた目でそいつらを見るが、後一人残っていることに気がついた。ローキックを放ったやつもまだ戦闘態勢にある。

 

 観客として見に来ていた巴と蘭はその様子を見ていた。ヒビキ一人で大丈夫なのか、と周りが騒ぐ中で安心しきっているのはその二人。寧ろその男たちに同情すら覚えてしまう。あいつの腕っ節は相当なものだ。それこそ、プロレスを伊達に好んでいる訳ではない。単純に殴る蹴るだけではヒビキは倒せまい。ミドルキックをタイミングよく捕まえては、身体を回転させて膝を破壊する――ドラゴンスクリューをお見舞いして、相手に苦悶の表情を浮かばせた。そして痛みに地に伏せてしまった瞬間にこめかみ部分に指を一本ずつ優しく突き入れる。

 

「あ」

「六角流ツボ拳だ。平和だなー」

「あれ、時々してもらいたくならない?」

「わかる。快眠出来るからいいよなぁ。ひまりが一回食らったときに全然起きないで大変だったことがあったの思い出した」

「ヒビキがおぶっていったんだよね。赤ちゃんみたいに可愛い寝顔してたの、懐かしい」

 

 いびきをかいて寝だす男。こいつは何をしたのか、と唐突に不安になって逃げ出そうとしたが、出入り口には既に警察が張っていた。その三人を連れてパトカーに行けば、ヒビキはふうと息を吐き、また喫煙所に戻る。こういう仕事をキッチリすると、ヒビキのファンは男を筆頭にどんどん増えていった。

 

 本当に悪魔かと思えるその力はいつも彼女たちを不思議に陥れていた。喫煙所に向かってタバコを吸い直し、終えてから会場に戻ろうとした瞬間、香澄がマイクを握ってリングインコールもどきをし出した。

 

「赤コーナーより、"Devil from the darkness"六角ヒビキ入場!!」

 

 重めのリフとタム回しはヒビキの脳裏に焼き付いているそれと同じフレーズであった。HOLD OUT――武藤敬司の初期入場曲、それに悪ノリしてヒビキはステージに向かって歩いていき、前方宙返りをしてステージに上がった。そのままウルフパックを手で作り、"イャァァァ!"と叫び出す。

 

 ほしみちゃんが脇から出てきて、いかにも最初からヒビキが弾くと分かっていたようにAxe Fx II XL+とキャビネットが用意されていた。Fryetteの2902パワーアンプにワイヤレス接続されたほしみちゃんをチューニングして、何をやるかと聞いたら最近のお気に入りらしい曲を香澄がコールする。

 

「Trysail‼"Adrenaline!!!"っ!」

 

 アニソンかよ、とヒビキは笑った。一応流行ったりした曲は一通り耳を通していて、弾けるようにはなっている。そして、困ったらアドリブという逃げ道があるのはヒビキならではの特技がある。

 

 イントロでたえとオクターブ奏法をかました。ヒビキが1つ下で弾いて、りみと正面切って向き合えば彼女がネック同士ををこすりつけて、ぎゅいいっとスクラッチ音を鳴らした。

 

 速弾きのテクニックは特に要らない。スケールをリズムに沿って弾いていくだけ、時には三連符でジャカジャカとコードをカッティングしたりとしてアクセントをつける。更には、タッピングハーモニクスまで使ってポピパを飾り付けし、よくこんなに綺麗にハーモニクスを出せるなとたえは感嘆してしまった。

 

 

「ほしみちゃんって凄いんだなぁ」

 

 ステージが終わった後でほしみちゃんを握りしめた香澄は、その鳴りとはじめてのアームユニットに感動していた。自分のランダムスターではアームもネックベンドもしていない、唯一やれるのはキルスイッチ奏法だけだ。この前にスイッチを増設してもらい、それをポチポチと押せば音が途切れるものである。

 

 そろそろもう一本ギターが欲しい。ランダムスターも素敵だが、それ以外にも――例えばたえが弾いているストラトシェイプだとか、蘭が最近弾き出したレザーバックだとか、そういうものが欲しい。そろそろお小遣いと、GoGのバイト代がかなりいい額に貯まってきた。そうだ、機材購入をしよう。

 

「ヒビキさん、今度デートしませんか?」

「デート?いいよー」

 

 ギターを持っていた時の香澄の眼は目的を語っていた。ヒビキはニコニコ笑って、その日はまたもやこの前の戦利金ーーロトの当選金を持っていこう。

 

「香澄!抜け駆けはずりぃぞ!」

「有咲の手が遅いんだよ、ぬふふっ!!」

「ムキーっ!絶対乱入してやるからな!」

「いつでもうぇるかむ!」

 

 バカ騒ぎばかりのこのバンドは今が一番楽しいだろう。ほしみちゃんを受け取って弦の脂をウェスで拭ってから倉庫にしまえば、蘭が香澄のギターについて話していた。異常なレスポール押しに新手の宗教かと勘違いしてしまい、しかもいつの間にかヒビキの白のレスポールカスタムとザック・ワイルドモデルを持って聞かせていて、JCM800をフルドライブさせてまでいた。

 

 勝手にやられると困るんだよなぁ、という言葉とは裏腹にその光景を楽しく感じてしまう。さり気なくそこから抜け出した有咲がヒビキの袖口を掴んでジト目でそちらを見る。ヤキモチ焼きの可愛い女の子だ、と笑う傍目で沙綾もくっついてきた。ヒビ兄、といいながら。

 

「!?」

「あれ、沙綾もヒビ兄って呼んでたっけ」

「最近お許しが出たの。もう付き合いも大分長いしね、蘭たちには負けるけどさ」

「そんな経つのかー」

「ヒビキさん!どういうこと!?」

「沙綾ちゃんちのお手伝いに昔からいますのよアタシ。それと家庭教師」

「ずるいずるいずるい!」

 

 巴は子供っぽい立ち回りの有咲を見てくすくすと笑う。愛され上手のヒビキ、自分もそこに行く日がいつか来るのだろうか、と少しだけ考えながら。そういえば、つぐみと自分はまだヒビキに堕ちていない。他のバンドもかなりの堕ち率を誇っているが、増えるに違いない事は目に見える。

 

 蘭からレスポールを返してもらい、ダイナミックヴィブラートをかましてはギタリストに尚更精進を決意させる。スーパープレイとは基礎がしっかりと成っているから映えうる、いわば家のようなものだ。通常のヴィブラートだってヒビキは出来るし、速度や揺れの大きさもコントロールできる。太い音に憧れるならセッティングを見直し、ピッキングを考えてみる。唐突のワンポイントアドバイスを香澄はシナプスの一つ一つに染み込ませた。

 

 

 そうして家に帰ってメールチェックをした後、すぐにヒビキはベッドで意識を失った。聖飢魔IIのカバーバンドをやるならと衣装と白粉を探さなければいけないのに、それすらも忘れてぐっすりと寝落ちを決めてしまう。それとは対象的にエース氷川は相変わらず練習の虫で、日菜が夕飯の時間だと知らせるためにノックをしても降りてこないくらいであった。トイレに行こうと一旦ギターを置くと、扉の前に食事と日菜の「練習頑張ってね」のメッセージがあり、用を足してから食事をしつつ練習を続ける。

 

 隣の部屋の日菜は熱心にギターに打ち込む姉を誇らしく思った。自分の暗記能力は確かに便利であるけれども、それゆえ物事に長く打ち込めない。紗夜を見下すわけでは決してないものの、だから彼女を誇らしく、そして好きでいるのだ。コンプレックスを抱かれること自体は仕方ないのかもしれないが、しかしそれを努力で埋めるなんてことは常人では出来はしない。普通はすぐに諦めるだろう。

 

 多分この熱中度合いはヒビキのせいだ。雑誌のヒビキを見てはずっと憧れ続けていた、ゆえあの人に追いつきたい、あの人の隣に立ちたい、あの人のギターを追い越したい。競争心なのだろうか、しかし当人に会ってからは大分柔らかくなって、そして我が道を行く今のスタイルに落ち着いた。

 

 そんな日菜もヒビキの教示に助けられている。暗記は得意でも頭の動かし方とフィジカル・メンタルマネジメントはズブの素人、そしえ馴れなければやれないモノはその道のりまでを最短のルートで教えてもらえたりしている。ここは既に紗夜にかなり分を譲っていた。

 

「日菜ー?お姉ちゃんにお風呂入ってって言って」

「一緒に入るからいいよ!」

 

 ドアをノックして、今度は彼女が出てきた。母親の声は聞こえていたらしく、バスタオルと着替えを持って、日菜に「夕飯はありがとう」と優しく笑ってお礼をした。そして日菜を待って、二人で仲良くバスタイムを過ごしては充実した一日を満喫したのだった。




聖飢魔IIのネタについて……

一応構成員の方は次のようになっております。

Vo.デーモン六角閣下
Gt.エース氷川長官
Gt.Sgt.ルーク花園参謀
Gt.ジェイル戸山代官
Dr.ライデン宇田川殿下
Ba.ゼノン牛込和尚
Key.怪人白金様

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