BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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「戸山さんのギター……」

「バイト代ですっ!えへへっ」

 

 リハスタで真聖飢が練習する時、ジェイル戸山が新たな槍を手にすると、エース氷川とルーク花園が眼を丸くした。メチャクチャな改造を施されたWolfgangは最早EVHが絶対に手にしなさそうなスペックであり、中にはCreation Audio Labの内蔵バッファが入っている。ヒビキが持ってきたDiamondのPhantomにぶち込んで、ロックナットを緩めてクリーンチャンネルでチューニングをしようとする。チューナーはKORGのDT-10、元々半音下げで使うようにセットアップしてあったのだろう、裏のスプリングハンガーを弄らずにそのまま弾ける。

 

 チューナーを切ってEmを弾いた。その時に鳴るのは、若干歪んだ音。あれ、と香澄が首を傾げアンプのチャンネルを見るが確かにクリーンチャンネルだ。当たり前だろ、とデーモン六角は笑う。そして香澄からギターを受け取ってはリアのピックアップの高さを下げた。

 

「このPUはかなりパワーが強いから、クリーンも歪み気味になるんよ」

「なるほど。ってことは、歪みのチャンネルで、半音下げだと……?」

「香澄、ブリッジミュートして刻んでみて」

 

 たえから言われた通りにしてみた。ガツンガツンと固く重い音がキャビネットから飛び出した。ライデン宇田川はうわっと驚き、ゼノン牛込はメタルの心を煽られ、怪人白金様は音圧に少したじろぐ。そのままダウンで刻むリフを聞けば、ヒビキはマイクを持って叫びだした。

 

 痛みを殺せ、これこそ劇薬。どこまで上の音域が出るのか、皆はそれが不思議であった。確実に友希那よりも広い声域で、しかも太い。ユダヤ神父のボーカリストも真っ青なそのボイスは、プロレベルでもなかなかいない。お遊びはそこらへんにして、と切り上げれば、セットリストの確認をして一通り通してみる。

 

「中々しんどいセトリですね……」

「Fire After Fire、アダムの林檎に……悪魔組曲作品666番変ニ短調、これやるのか……。フルで?」

「フルじゃない。序曲から省略してDEAD SYMPHONYまで。勿論天地逆転唱法も。頭に血が登らない程度にね」

「あとは蝋人形に赤玉ですね。やりますか」

「つーわけでよろしく紗夜ちん」

 

 

 絶叫が済んで、ヒビキは首に下げていたストップウォッチを切る。45分で終了しており、時間的にはちょうどいいくらいだ。それにしても、香澄のWolfgangはどうしてこんなに音が抜けてくるのか。紗夜が何度も彼女のギターを見て、音で振り返っていた。アンサンブルの中で崩さず死なずの音作りは素晴らしい。

 

 流石にここでは派手なパフォーマンスはやらなかったが、ヒビキがやることだ、何かしら度肝を抜いてくれるはず。何をするつもりかはわからないが、しかし紗夜とたえには大体想像はついていた。巴にもこの曲の中でひとつだけおかしなことを元々するモノがあるのはわかっていた。

 

 暑い、とクーラーを効かせる香澄。上着を脱いでGoGのTシャツが出てきて、ヒビキはそれを見て喜んだ。自分のハコが愛されているんだなということが実感させられるし、ヒビキ自身にも信頼をおいているということがわかる。白系統の服を身にまとっている今日のヒビキは、悪魔とは程遠い人物とイメージさせられる。丈の長いジャケットを羽織り、胸の大きく開けたシャツをきて、裾が垂れたパンツを穿いている。明るく照らす電灯の下だと少しだけ反射してまばゆい。

 

 気になったところを指摘しあい、自分も反省するところはかなりの向上心を持っている証拠である。修正すべきところをまたプレイしだしてはちょこまかと直し、そうして時間いっぱいまで練習して、ロビーに戻った。すると、あこと花音、薫に千聖が居て、他にまた誰かを待っているようであった。

 

「あれ、あこ。これから練習?」

「うん。ヒビ兄と!」

「えっ?」

「これかぶればわかるんじゃないかな、あこちゃん」

 

 仮面を花音が渡す。それで巴が察した。なるほど、あのバンドをやるつもりなのか、と。しかし、ギタリストもDJもいない、と言っている時にモカと美咲が来た。そして、遅れてきたのはつぐみ。ということは、ボーカルはヒビキということか。

 

 よしじゃあ入ろう、とヒビキは仮面を被った。またもやリハスタに入るが、今度は薫からギターをもう一本受け取っている。あのハードケースに香澄は見覚えがあった。この前見たばかりで、ヒビキが購入したのか、と思うとギターコレクターの彼としては当然なのだろうと納得してしまう。 

 

「Slipknot、だよな」

「アイドルがスリップノットって……すごいですね」

「紗夜先輩も先輩もやりたそうな顔してますよ?」

「花園さん、人の事言えませんよ」

 

 店から出ておしゃべりをすれば、やはりそのことに持ちきりだ。紗夜いじりはたえからやりだすが、しかし彼女はノリがよくて、それにたえにもいじり返しだすところは頭の良さや人当たりの良さが見受けられる。Roseliaの初期の頃はかなりクール、というか氷のように冷酷さすら感じさせていたのに、それが氷解してしまったのは何かあるのだろう。燐子も人見知りは激しく引っ込み思案ですらあったが、やはりヒビキという緩衝材がそれを和らげてくれた。

 

 恐らくヒビキだけではないだろう。あこの無邪気ながらもひたむきな心と気持ちはヒビキとはまた少し違うものだ。リサの母性や面倒見もあって、馴れ合いは不要としながらも仲の良さとグループとしての団結力が強まっている。この3人が居なければ早々に瓦解していたはずだ。

 

「氷川さん、柔らかくなりましたね」

「元々シャイなだけだと思いますよ、白金先輩もそうだったんじゃ?」

「そうですね。今も少しありますけれど、でも大分……」

「その点りみりんと似てますね!」

「牛込さんもなんですか?プレイは派手なのに」

「どっちも派手ですよ?」

 

 

「うぉーい、真聖飢……え?」

 

 ライブ当日、各員戦闘服に身を纏い、燐子は仮面を、そして他は顔にペイントを施していた。楽屋に入ってそろそろだぞとまりなが声をかけようとした時にその異質さに声を失い、猫のような顔の香澄がはいと元気よく返事を、そしてほとんど半裸でありながらも肩パッドとマント、そしてエナメルのパンツを穿いたヒビキは手製の手型マイクスタンドを持って外に出る。

 

 角を生やしたりみの顔を紗夜が筆でサラサラと塗る。あっという間にゼノン石川和尚のフェイスペイントが出来上がり、紗夜も自分で手早くペイントをしてはエース清水長官の顔になる。本家本元と違うところは皆が可愛い女の子で、その元々の可愛い顔が隠せていないというところか。恐竜の尻尾を生やした巴は、襟の立っているベストに動きやすそうなレギンスを穿いている。スティックをくるりと手の周りにまとわりつかせるようにスピンさせれば、よーしと言ってその場に立った。皆愛機を2つずつ持っての出演らしい。やりすぎだとまりなが言うが気にしない。トイレに行っただけらしいヒビキは楽屋に戻ってきて、水を飲んでまりなに話しかけた。

 

「これだけでも(ゼニ)取れるでしょ」

「意外性は十分過ぎるよね。でも、よく皆抵抗しなかったね?」

「え?なんでですか?」

「えっ」

 

 おかしなことを言うな、と皆がまりなを見る。つまりは、みんなバカなのだ。こういうバカは誰からも愛される。わははと笑うまりなは、ステージに向かうメンバーとハイタッチをする。この7人、全く緊張をしていない。お祭り気分で居るのだろう。

 

 そうして少しすれば、どうしたことか千聖が手提げかばんとベースを持って入ってきた。今日は出演が無いはずだ、とまりなが言うが、オーナーから特別出演許可を貰ったらしい。そしてそこには友希那も乱入してきた。あっ、とまりなは察する。

 

 事務所にやめろと言われたはずだが、しかしまりなはこういうことには寛容であった。二人共手早く着替えて、そして千聖はさらにフェイスペイントをして、自前のBossa OBJ-5を握る。友希那はそれを見て、本当にこの人はアイドルなのかと疑う。

 

「白鷺さん……?いいの、本当に」

「アイドルというのは、どんな仕事でも人を笑顔にしなければいけないんです。だから、これで聞いている人が笑顔になるなら、私はやります。大丈夫です、この理屈で事務所もOK出してくれましたし」

 

 

 ギターが三人というだけでも多い中、誰も埋もれること無くこのステージが盛り上がる。最初のオープニングナンバーで誰もが熱くなり、アダムの林檎のギターソロで、香澄が気持ちを思い切り出す演奏をすれば、大拍手が巻き起こる。ギターを始めて一年も経たないのに、ここまで急成長を遂げたのは天賦の才がある。

 

 ドゥハハハ、とヒビキが高笑いしながら次の曲へ行く、その前に袖からダミアン湊陛下が飛び出してきた。紗夜が驚くものの、すぐに説法からコーラスへと移る。

 

 様子を見に来ていたリサと有咲ですら顎をぽかんと開けている。序曲から次のDead Symphonyへと行くのはお決まりの進行、しかしまだ信者としてはあまり詳しくない有咲は何をするのか知らない。もしや、とリサは友希那の動向に注目した。

 

 手型のマイクスタンドにマイクを突き刺した。やたら短いシャフト、それに倣って友希那も2点支持のマイクスタンドを下に向ける。顔を見合わせて、手を叩きあうと、そのまま二人は三点倒立をしだした。

 

「はぁ!?何やってんの!?」

「友希那が……壊れた……」

「湊さんすごいすごーい。ひーちゃんも混ざれば?」

「無理だって!」

 

 ヒビキはエナメルのを、そして友希那は上はタイトなブルゾンに下がスキニーレザーだ。そのまま脚で拍子を打ちながら歌い出す。

 

「ダイ、ダイナマイトで、腐った――」

「あ、頭をぶっ、ぶち壊せ!尖ったナ、ナイフで――」

「ハ、ハラワタを切り刻め!」

 

 ノリノリの中での天地逆転唱法。見る人からは三点倒立だが、実際は二人が地球を持ち上げて歌っているという事実。ワンコーラス歌ってヒビキは首のみで跳ね起き、友希那の後ろに立ち、そのまま脚を戻した友希那の腰に手をやってお姫様抱っこをした。そこでおおっと歓声が上がり、リサは彼女が三点倒立から戻れないのを察し、彼女を起こせばまたド派手なコーラスが始まる。

 

 もはや照明さえこのバンドの味方だ。紗夜に近寄れば背中合わせで友希那が吼え、そしてヒビキはぐるぐると回りながら歌う。そうして、次の曲「蝋人形の館」へと入っていくのだった。

 

「この悪魔達への餌食になることを心より喜ぶがいい……!?」

「我ら地獄より来たる我ら使徒が、諸君らをこの冥府の蝋人形へとしてくれよう!――私は、ゾッド白鷺!」 

 

 ヒビキは唖然とした。いや、ヒビキだけではないだろう。観客みんなが驚いた。偶然来ていた麻弥は口が開きっ放し、日菜はるんってしてきた、と大喜び。そして、片手にベースとギターを一本ずつ持ち、ギターの方はヒビキに渡した。

 

「え?俺弾くのこれ?」

「ええ。閣下に弾いて欲しい人!」

 

 全員がYesの答え。仕方ない、とヒビキは渡された赤いランダムスター――香澄がウインクしてこちらを見ている――を吊り下げれば、チューニングを半音下げに合わせ、そして曲は始まる。

 

 あんまり今回は出過ぎないように、と抑えていたのに香澄がわざとアンプのボリュームを上げた。歌いながら、サビで脚を上げつつちゃんと弾いているところから、職人技が光る。ギターソロまで任されたヒビキは忠実に弾いてみせた。

 

「生きたまま蝋人形のごとく――」

「震えて眠れ!明日はもうないさ!」

 

 

 100人あまりを蝋人形へとした挙句、ラストの赤い玉の伝説を歌い出す。勿論友希那とのツインボーカルで、香澄のランダムスターを丁寧に扱いつつ元気よく歌う。

 

「産まれたままの、茜の縁取りは」

「凶器のようにィ!研ぎ澄まされて!」

 

 抜群のコーラスワーク。滑らかに歌う友希那、そして情動のヒビキ。顔を寄せ合い、友希那が持っているマイク一本で歌う姿はデジャビュを感じさせる。サビから一転してのキーボードソロでクールに決める、怪人白金様。Roseliaの時よりも気楽にプレイしているように見えるし、メロディックなソロを忠実に弾いてみせる。

 

 今回はリズムギターに専念しよう。突然ギターを渡されたものだからヒビキはそう決めていた。しかし、他3人からソロを弾けとジェスチャーされ、ええっと戸惑うものの、すぐに腹をくくった。

 

 燐子がソロを終わらせる前に改造したMarshallの1959SEのイコライザーを動かし、抜けのよく、太い音に変える。そして、静の部分が際立つギターソロ。泣きと呼ばれる、コブシの効いた弾き方はヒビキ特有のものだ。ピッキングノイズは最小限に、そして流動的なヴィブラートをしては友希那にバトンを渡す。

 

「風車は回る……陽炎の中……」

「ゆぅらゆらぁ……風に吹かれて」

 

 最後のフレーズまで綺麗に決める。ここからまた、友希那はヒビキにバトンタッチした。途中までコーラスをしっかり入れながらも、課題と言える怒涛のシャウト。

 

 

「さらば!伝説の!紅い……!」

「玉ァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 ぶっとい声での、長時間のスクリーム。揺れるその声はまるでサイレンを思わせる。このフレーズを聞けば、観客は段々と真顔になり、その技術に平伏すだけであった。それはリサたちも例外ではない。

 

 まだまだ余裕だ、と言わんばかりのヒビキ、ラストフレーズを弾き、竿部隊は集まる。友希那とヒビキ二人を取り囲むようにして、各々の決めポーズを取った。

 

「往生せぇや……‼」

 

 終わった瞬間。ヒビキのドスのきいた台詞とともに、大喝采が巻き起こり、赤幕が降ろされた。


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