BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!!   作:パン粉

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 CiRClEでのガルパのリハを終えたヒビキは、いつものように煙草を吸いに外に出ていた。ジタンの小さなスライドの箱を開けて、短い煙草を一本取り出してゆっくりと吸い出す。壁に寄り掛かりながら旨味の凝縮されたそれを味わう最中、まだまだ元気なJKは爆音を鳴らして楽しんでいる。

 

 トリはPoppin'Partyであって、ヒビキ達は中頃。グループ名は"チョココロネ食べ隊"。りみいじりもここまで来るのかと思いきや命名者はりみ本人だ。おまけにTシャツまでチョココロネのプリントのもの。そのTシャツとベルボトムでギターを弾くという、なんとも不思議な光景である。そこでまた変なセットリストを組んでくれたのだから尚更異色と言えよう。

 

「Def Leppardって、こころちゃん……」

「凄いよね、選曲。びっくりしちゃった」

 

 まりながお茶を持ってきた。一つをヒビキに渡せば、ありがとうと言って彼が口をつける。ふう、と渋めのお茶に合うジタンの旨味を堪能しては、本番までの爆発を楽しみにしていた。他のバンドもリハが終わったようで、オーナーに集められたあとに、昼食に行こう、とまりなに誘われた。ついでだ、と食べ隊で出かけていく先は弦巻グループのレストラン。というかいつも使っているファミレスである。こころの顔パスで中に通してもらえば、個室の方へと案内された。

 

「ドリンクバー、6つ?」

「あとビール!ヒビキくんは呑む?」

「いやーごめん、呑んだら弾かないって自分ルールで決めてるんだ」

「大丈夫大丈夫!やっぱ偉いね、そのストイックさ見習わなくちゃなあ」

「でもノンアルがあれば大丈夫よ」

「かしこまりました。ドリンクバーは上から自由にお使いいただいて構わないとのことですので、どうぞ。ノンアルコールビールと……ビールは黒ラベルですが」

「おっ、最高だね!」

 

 注文を受けてすぐに瓶が運ばれた。大瓶とノンアルコールビールの注がれたグラス。隣に座ったりみが間違えてヒビキのグラスのものを呑んでも大丈夫だ。ついでにドリンクバーにコーラを注ぎに行くと、彼のファンが店からマッキーを借りてTシャツにサインをせがむ。

 

 店の邪魔にならないように外でならとヒビキは言った。何人かが外に出ていく様子を見てこころ達は謎目かしく思うが、戻ってきた彼から話を聞いては納得した。心遣いは一人前。冷たい飲み物を喉に流してふぅとリラックスしだす。いつでも気の抜き方をコントロールしているあたり、ステージングの数の差が出るのだろう。グリグリがやっとその技術を身に着けてきたところだそうである。一人だけ、二十騎ひなこという例外は居るが。

 

 その例外がやってきた。ゆりがこちらを見つけてはマルのようにひっついてくる。おいおいとリィに七菜は呆れ、ひなこはりみを捉えてハグをしだした。

 

「店の迷惑になるから!やめよ!」

「仕方ないですねぇ〜」

「ヒビキ先生、まったねー!」

 

 またねと言いながら隣の席に来るのは矛盾していないか。注文した料理が来たと同時に座り、燐子の頼んだパンケーキセットと麻弥の野菜多めのクリームパスタが置かれた時には後ろからひなこのハグをヒビキが食らった。

 

 みんな楽しそうに、とまりなはにこやかに見守る。こころもその笑顔を見れて幸せそうだ。グラスを各自取って乾杯をして、まりなとヒビキは喉に勢い良くビールを流し込んだ。

 

「ぷはぁーっ!いいねこれ!」

「まりなちゃんもほどほどにね」

 

 つまみがわりに頼んだフライドポテトをつまむまりな。ヒビキは自分のチーズチキンをかじりながら、ステージのための体力を養った。

 

 

 CiRClEに戻ってきてミーティングを終え、いつもの癖でフロントに立とうとしてしまう。今日はパフォーマーなんだからと後輩バイトに言われて彼らにそこを託し、自分たちの出番を待つ。その中でトップバッターのAftergrowの楽屋に呼ばれては、モカがヒビキにひっついてきた。

 

「あ〜、落ち着くー。ヒビキさんの匂いだー」

「犬かよ」

「へへへー、ヒビキさんの犬にならなってもいいよー」

 

 ニコニコしながら上目遣いをする姿は、喜びに尻尾をぶんぶんと振る犬のようだ。よしよしと頭を撫でながら、そういやと彼女たちのセットリストを見る。

 

「どの年代狙いなんだこれ?"That is how I roll"がオープニングなのはわかる。その次"Hey-day狂騒曲(カプリチオ)"も納得。だけど、"限界Lovers"って……」

「疾走曲やりたいんだー!その後"Scarlet Sky"に、締めで"True Color"!」

「つぐみの構想なんだ、それ。二曲続けてのツーバスバックビートは中々しんどいけど、かなり楽しい流れだと思わないか、ヒビ兄?」

「気持ちはわかるな。つぐちゃんも中々派手で、いいね」

「ありがとうございます!」

 

 ふふふと微笑みを見せて、頑張ってねとつぐみを勇気づける。ライブ中にあたふたしないようなおまじないもかけて。

 

 つぐみの後ろに立って、肩に手を置いた。深呼吸をしてもらう間に、首の根辺りを親指で押せば、つぐみの力が抜けていった。カッと眼を見開く彼女、そしてゆっくりと息を吐くと、ぱぁっと顔が明るく輝く。いつも明るい彼女だが、今日はそれ以上に眩しく、そして自信と余裕が共在していた。これこそ六角流ツボ拳の真髄だ、と蘭が確信する。

 

「ヒビキさん!今ならなんでもやれそうです!!」

「うんうん。それじゃ巴、そこに寝てー。お前にゃスタミナ持続のツボ押しちゃるから」

「どこのツボ押すのかは教えてくれよなー」

「足裏からアキレス腱」

 

 続いての施術。ずくっと両足に指を突き入れる。先ほどとは全く違う勢いだが、全く痛くないと巴はニコニコしながら言う。そして3秒で施術を終えれば、身体が温まってきて、ギアが一段階上がったような感覚になっていた。

 

 ここはツボ押しクリニックか。蘭は突っ込む。ひまりにモカもそれにあやかってズボズボと突かれてマックスモードに、蘭は呆れながら笑った。お前は良いのか、とヒビキに言われるも断る。この緊張感とワクワクを保ち続けていたい。

 

「んじゃ、Afterglow。行ってくるよ」

「はいよ。全員、爆発してこい」

「うん。ありがと。あ、そうだ。ヒビキ、屈んで」

 

 蘭はきりっと吊り上がる眼を笑わせた。楽屋から出ていくメンバーに背を向けて、ヒビキに言う通りにしてもらえば、その顔を引き寄せて、自分の唇と重ね合わせた。

 

「これでよし」

 

 

 全力投球でのステージ。トップバッターはアツアツに会場を熱するのが役目だ。それをやりたがるこの5人は、既に自分達が燃え上がっていた。

 

 鬼気迫るドラミング、大音量のリードギター。ベースは地面を揺るがせ、キーボードは流れるように音を紡ぐ。そしてその上に乗せる魂の咆哮。蘭はとっくにこの状況に酔いしれていた。

 

「今日……。このおっきな舞台で、皆と燃え盛れて、本当に嬉しいよ」

「おっ、蘭がMCか。珍しい」

「巴やりたい?マイクあげよっか?」

「いやいや、お前がやれよ。アタシはドラムでお腹いっぱい」

「お腹もいっぱい、パンツも濡れ濡れってことで」

「おいコラ!」

 

 下ネタをバンバン出していく蘭は、男ウケが何故か良い。アホっぽい会話だが、いかにもロック、という感じだ。ひまりの胸も揺れてきたし、つぐの指がモカと一緒にその胸を、と言いかけたところで巴のストッパーが作動する。バスドラとクラッシュを思い切り引っ叩いてかき消したのだ。

 

 仕方ないなぁ、と大爆笑に包まれる場内。そして、蘭は切り替えた。Razorbackを置き、長年の相棒である、ワインレッドのギブソン・レスポールカスタムを握った。高音フレットからゆっくりとグリッサンドして行く。そして、6弦2Fまで来た時に、ピッキングハーモニクスをかました豪腕ビブラートを披露し、会場がざわついた。

 

「ウチらと、ここの皆とが逢えたっていうのは、本当奇跡だと思ってる。今日はありがと――って言いたいとこだけど、これからまだまだあるんだよね。とりま、ウチらはこれでバトンタッチだ。今日のこの、皆の心は目に焼き付けたよ。そう……"True Color"」

 

 Dメジャーが鳴り響く。下降のアルペジオにメジャー9thの音を入れながらのイントロは蘭が思いついたものであった。少しアップテンポながらも彼女たち渾身の泣き曲。この一致団結、固く強く、太い絆を、この曲で表すべく。

 

「ホントの声を聞きたいんだ――」

 

 この5人だけの曲ではない。これは、ヒビキにもつながっている。そう、小さな頃から見守ってくれて、今でも傍に居てくれる。愛する"義兄"へと。




◆ここでの蘭の機材紹介(ギターオタク向け)

・竿

1.Gibson Les Paul Custom 1974
指板:エボニー22F
ネック:マホガニー、セットネック
ボディ:メイプルトップ、マホガニーバック
カラー:ワインレッド
ピックアップ:PAF
コントロール:2V2T
ブリッジ:チューンOマティック
ナット:牛骨
ペグ:シャーラー

備考:ヒビキの友人から2万で買い付けた物。ギターの価値を知らず、また倉庫に眠っていたらしく誰のものか分からないものであったよう。弾き込まれてあったが、ヒビキにリフレットとネック整備をしてもらって即戦力として使えるようになった。元々あまり傷のなかったボディが蘭の猛練習によって傷だらけになっている。パンケーキ構造と呼ばれるボディはヒビキの持っているものと同一、しかもシリアルがヒビキの白のレスポールカスタムの一個後。

2.Dean Razorback
指板:エボニー22F
ネック:マホガニー、スルーネック
ボディ:5Aキルトメイプルトップ、コリーナバック
カラー:ダークレッドバースト
ピックアップ:Fishman Fluence
ブリッジ:フロイドローズ
コントロール:3Wayセレクター、マスターボリューム、マスタートーン、キルスイッチ
ペグ:グローバー

備考:5章9話にてヒビキから受け取ったギター。GoGのオープニングライブにて感動したということから蘭に送られた一本だが、明らかにレギュラーラインのものではないレアな一本。ボディのサイズを除けば弾きやすさにおいてはピカイチ。アクティブピックアップによってノイズレスでパワフルな音、フロイドローズをフローティングにしているにも関わらず分厚い音が出てくるので蘭は気に入っている。

3.ヒビキ作ストラトシェイプギター "まな板"
指板:ハカランダ24F
ネック:パープルハート、デタッチャブルネック
ボディ:スワンプアッシュ
カラー:無塗装のままバーナーで焼いた杢目ウキウキカラー(ヒビキ命名)
ピックアップ:Bare Knuckle Aftermath
ブリッジ:フロイドローズ
コントロール:プッシュ-プッシュ式マスターボリューム
ペグ:シャーラー

備考:ヒビキのクロちゃんの原型となったギター。あまり耳にしない材をネックにしている。蘭がヒビキの家に来た時に「要らねえからやるわ」と言われて持って帰った。名前の由来は"無塗装だから、腹が減ったらまな板として使えるから"。
作中で最強クラスのスペックを持つ。なお蘭が松○工房に見せた所『よく高校生でこんな70万くらいしそうなギター買えたな』とのこと。制作費は7万(木材は知り合いの家具屋さんから、ピックアップはヤ○オク)ネック仕込み角や弦高、弦間などはベスト。蘭はあまり使いたがらない。理由は「いい音出すけど面白みがない」

・アンプ

1.MarshallJCM800 2203 Custom

ハイゲイン化を成された、最近のリイシューもの。ヒビキ提供。
EL34管4本に、プリ管ECC83を2本足した。分厚く抜けるサウンドが特徴。

・エフェクター
1.Ibanez TS808 Tube Screamer
往年の名オーバードライブ。吊るしでそのまま使っている。
JCM800の歪みに更なる抜けと音圧を出したい時に踏んだり、クリーンでブースターが欲しいときに使う。

2.Empress Effects Buffer
シールドを長くすると、高域がどうしても削られてしまう悩みを解消するために買ったもの。試奏時に「いいじゃんこういうの、好きだなぁ(川内並感)」という形で買ってしまった。

3.MXR Analog Chorus
「クリーントーンにちょっとしたスパイスが欲しい」とのことで中古で買った3340円のエフェクター。筐体はボロボロだがガリなどとは無縁であったので愛用している。

4.Jim Dunlop DB-01 Dimebag Signature Wah
ダイムバッグ・ダレルシグネイチャーモデル。メタル向きかと思いつつも中々どうして万能に仕上げられていて、クライベイビーよりも調整の幅が広いのでこちらを蘭は使っている。前の所有者のヒビキのタバコによってペダル部のラバーが溶けているが、「これいいじゃん(マーティ並感)」として逆にそれを気に入っている。

5.Boss DD-3
単なるデジタルディレイ。モカにプレゼントされた。蘭はお返しとしてt.c.electronicのFlashbackを上げた。

6.自作のパワーサプライ
「ヒビキに夏休みの自由研究を手伝ってもらった時に作った。アイソレーテッド回路組み込んで、30Vの700mAまで対応できるようにしたら、実用性溢れるいいサプライになっててびっくり。正直濡れた」

◆その他
シールドはモガミ、ピックはHercoのナイロンピック1mmです。

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