BanG Dream!ーMy Soul Shouts Loud!! 作:パン粉
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羽田空港でジタンとゴロワーズ、ピースを1つずつ買い、持ち込んだセブンスターを1本吹かそうと喫煙所に行く。残り10本となったセッタのほのかな甘みを堪能しつつブラックコーヒーを喉に流し込んで、空の旅の準備を終えれば、空港にはヒビキの見送りに女の子が来ていた。リサと友希那、あこにAfterglow。他のバンドはライブだったりで忙しく、メールでヒビキの応援をしてくれている。
ありがとね、とヒビキは彼女達にお礼を行った。水臭いぞ、と巴は言いながら笑い飛ばす。まるで当然だろと言っているような雰囲気が彼女たちにはあって、友希那とリサに関してはそれが義務とさえ思い込んでいるようなフシがあった。
「ヒビ兄、風邪とかひかないでね?」
「大丈夫大丈夫、ナントカは風邪ひかないから」
「だからさ、さり気なくあたしを馬鹿扱いしないでくれないかな」
「美竹さんは私達と同じ音楽バカってことじゃないかしら」
「優しい湊さんにあたし惚れそう」
「やっぱりバカじゃないか」
ヒビキはケラケラ笑う。友希那も蘭も丸くなったもんだ、と思いながら、行ってきますを言って、キャリーバッグを引きずる。荷物を預け、金属探知機をクリアし、エコノミークラスのシートに乗り込む。展望区画へと移動した女の子達が手を振っているのがなぜか確認できて、彼は嬉しくなった。
隣の席には、赤ん坊を連れた若い夫婦が座る。じっとヒビキを見つめる生まれたばかりの幼い生命にヒビキはにこりと優しく微笑んだ。するとあちらも笑ってくれて、手を伸ばしてきてくれる。長く細い人差し指をを伸ばして立てればぎゅっと握ってきた。人に懐かれるのは得意でもあり、子守だってお手の物だ。蘭のオシメだって変えていたのだから。
機内食の味も悪くない。そして、隣の赤ん坊もかなり大人しく、度々ヒビキの膝に乘ってくる事もあったが、よしよしとあやしながら素敵な空の旅を楽しんだ。
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カリフォルニアの空港についてからバスに乘って、レコーディングスタジオに入る。長年の付き合いになるエンジニアと他のパートの男性とハグをし、中年男性がヒビキを案内して倉庫に連れて行った。
「新しいギターだ。お前の新エンドース先"Genesis"からのギター。これだけのモンはなかなかないぜ」
ギターがヒビキをお出迎えする。26Fほどの細いネック、シンプルなピックアップ構成だが、ヒビキの要望に全て答えている。幅広の、バラ柄のベース用ストラップが埋込み式のロックピンでがっちり固定されていて、実際に下げてみれば少し重めであるが、ヒビキにはちょうどいい。身体にフィットするようにコンターは心持ち深めだ。
他にも既に届いていた機材も確認し、これから長い付き合いになるギター"
FryetteのUltralead、そしてMarshallの1959カスタムを用意してもらっていて、ロールアウト的な兼ね合いも含めて1959に直結で突っ込む。
しっくりと手に馴染むネック。立ち上がりが早く、抜けもいい。クリーントーンが今まで弾いた中で一番澄んで聞こえている。サスティンもよく、これ以上のものは現状入らないだろうとヒビキは最高評価を下した。自分で作ったギターも愛着が湧いていて使いやすいのだが、これはそれの更に上を行く。音も作りやすく、まさに"怪物"。伊達にそのモデルを名乗っているわけではない。
これ一本でレコーディングも出来てしまう。とにかくヒビキの好みにドンズバなのだ。気に入ってしまったものを使い続ける彼の性格だから、この仕様をずっと求めるのであろう。市販するならば70万はくだらないし、大量生産できるものでもない。
アンプをFryetteに変え、バッキングを取る。分厚いその音はオーバーダブが必要ないくらいだ。先に録ってもらったドラムとベースに合わせ、正確で冷徹なギターを弾き倒す。その顔は、新しいおもちゃを貰った無垢な子供のように朗らかであった。
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4曲ほど取り終えてからホテルに戻る。持って帰ってきたキマイラを抱き締めながら壁掛けの時計を見れば、夕食時と言ってもいい時間。この愛機をなるべく離したくはないが、財布を取りギターは部屋に置いて鍵を閉めて食事へと向かった。今回の仕事仲間から教えてもらった美味しい肉料理の店に行けば、真っ先に店員の女の子が顔を見せた。開いている席を見つけて座れば、メニューを開いて一番惹かれたものを注文する。
料理を待っている間、ヒビキより年上の青年が6人ほど入ってきた。彼を見ては目の色を変えてそこに直行する。もちろん彼らはメタル小僧、そしてギター小僧で、背中には各々の竿を携えていた。ギグケースから愛機を取り出してはヒビキにサインを、そして一斉に握手を求める。
「ヒビキ!ここで会えるなんて幸せだよ!」
「ははは、俺も君達と出会えたのは幸運かな。いつも応援ありがとうね」
「当たり前だろ!俺達はアンタでギターを始めたんだから!」
「ほぇー。そいつは嬉しいな。こんなに影響力があるとは思ってなかった」
「何言ってんだよ。こっちのGITから講師の招待を受けてるくせに!有名だぜ?アンタを取ろうと躍起になってるって」
「へぇ。日本を離れる気はサラサラないんだけどねぇ、君達には悪いけどさ」
「だろうなぁ」
ついでだからその男たちと同席して、一緒に肉を楽しむ。カリカリのパンに、マトンのステーキとかぼちゃのスープを味わい、男たちのギターを弾き倒した。店主もヒビキを知っていたらしく、今度のライブイベントにも顔を出すらしい。アンプまで出してもらえば、アメリカといったら、とヒビキが思う曲のリフをかき鳴らしだした。
あまりパンクを弾かない彼には珍しく、NirvanaのSmells Like Teen Spiritを原曲よりも遥かに綺麗に弾いてみせた。ノイズまみれのパンクもいいが、こういう上品なのもいいだろ、と言わんばかりの顔で。アレンジは好きにやれば良い、というのは万国共通らしい。受けも良いし、他の客の盛り上がり様もなかなかだ。なら、と今度はスラッシュメタルをプレイしだす。SlayerのRaining Blood――これもまた綺麗に、しかしキレッキレのリフはより鋭さを増している。
――ここで弾いた曲をキマイラで弾いたらどうなるんだろう?
頭の中には新武器のことしかないそうだ。あの強烈なトーン、ドライブした途端に暴れだす魔獣。あれを早くお披露目したい。爆音で耳を犯し尽くされたい。それほど惚れ込んでしまったのだ。それが顔に出ていたのか、ギター小僧は首を傾げたままであった。もちろん、嬉しかったのも事実だが。
酒が入った状態ではプレイをしないのはここでも貫き通す。帰りにバーボンでも買って、キマイラを肴に一杯やろう。どれだけ惚れ込んだのかわからない。今日はこの一本だけでお腹いっぱいなくらい満足していた。明日はこれでギターソロも取る。それを考えればかなり楽しみだ。明るい店内でそればかり、しかしスマホの通知でヒビキは一旦ギターを置いた。友希那とリサ、蘭からであった。
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ホテルのベッドでグラスを傾けながらリサたちとネット通話をする。レストランで大騒ぎした写真も送ってから、必殺の一本を見せつけようとする。
『いつもより上機嫌じゃない?』
『ヒビキさん、呑んでるんですか?』
「結構ね。新しい機材も手に入ったことだし」
『気になりますね……』
「でっしょー紗夜ちん!俺のエンドース、シグネイチャーだもん」
『え……っ!?初耳なのですが!?』
「そりゃ情報解禁まだなんだもん。でも紗夜ちんとかになら見せてもいいかな。拡散はまだ待っててね?」
カメラをキマイラの方に向けた。少し黄色味がかった白のグラデーションはボディ材のバール杢をより際立たせている。薄く緑がかったネック、そして長めのネック。リサはそれを見て声を上げた。
『リグナムバイタじゃん!!』
「すごいっしょ?」
『幻想的な一本ですね……。綺麗で素敵です』
「音も抜群にいいんだでこれ!」
『ボディ材は?』
「アフゼリア。なかなか聞かない名前でしょ?」
自慢大会は夜通し続けられる。そのギターを速く手に取ってみたいのは紗夜も同じであって、日菜が乱入してきてはずっとるんるんと彼女らしい表現方法を繰り返していた。
この子達だと酒が進む。今回はリサが酔う危険もないから安心だ。ヒビキ自身は酒に強いから、明日に残すというヘマもないだろう。こんなに心の踊る日は久々だ、と言えば、紗夜を除いて皆が少しだけむくれていた。
ギターオタク向けのヒビキの新ギター紹介
Genesis Chimaira(キマイラ)
ヘッド:リバースヘッド
ペグ:オリジナルチタン製、配列は2:4
ネック材:リグナムバイタ、ミディアムスケール
指板:リグナムバイタ26F+0フレット
ボディトップ材:バックアイ
ボディバック材:アフゼリア
ボディカラー:ダークホワイトバースト
ピックアップ:Genesisオリジナルハムバッカー
コントロール:マスターボリューム、タップスイッチ兼用マスタートーン、トーンキルスイッチ、ボリュームキルスイッチ、3WAYトグルスイッチ
ブリッジ:Genesis製チタンベアリングフロイドローズ
ネックジョイント:スルーネック
・詳細
ヒビキのシグネイチャー第一号。アクティブでもパッシブでも使えるサーキットに、立ち上がりが早く、ラウドながら芯が太く抜けるサウンド。サスティンの持続時間も既存のギターとは段違い。弱点は重いくらいだが、3.96kgと数値で見たら軽い。