随分とまあファンタジーな世界じゃないか(仮) 作:倒錯した愛
旅立ちの話をしよう。
ついに30歳を迎えた、人間であれば中高年の贅肉オヤジになってしまったが、私は淫魔、年を取っても老けはしない。
14歳頃から身長153cm・体重46kgをキープしたまま成長が止まった、古参の淫魔においては、成長が止まった年を境に成熟したと見られることが多いそうだが、一般的には40歳を超え経験を身につけてからだという見方が多い。
だが、それは淫魔の中でもサキュバスなら、という話、ここ数百年の間にインキュバスの数がごっそり減り、サキュバスは増えどインキュバスは減る一方であった。
インキュバスの一般的に成熟と見なされるのは30歳とサキュバスに比べて若いのだ、成熟を迎えた淫魔は精を得るために人間界へ行って男(インキュバスの場合女)と性行為をする必要がある。
ついでだが、体の方にも変化が出る、成熟するとツノが生え始め、少し尻尾が長くなる。
母のように経験が多い淫魔は、精を得る必要がさほどなく、あるとしてもおやつくらいの感覚で男を食う程度だ。
最悪、精を得ることができずどうしようもない時は同族同士の性行為でも沈めることはできる、ただ精を得たいという欲求を性的欲求に置き換えて満たしているだけで、早いうちに精を得なければ気づかぬうちに餓死することもある。
私もそうはなりたくない、だから今日までいろいろと準備を行ってきた、魔王城にインキュバスであることと人間界へと行くこと、その間の給料についての手紙を送っておいた、母もなんとか説得した。
「というわけで、母さん、人間界に行ってくるね」
「うわあああん!グスタフ行かないでえええ!」
訂正、説得できていなかった。
昨日はいいって言ってくれたんだが…………心配されるのは嬉しいが、命が危ないのではな………。
「大丈夫だよ、ほんの2、3週間くらいだから」
「明日でもいいじゃないの!そ、そうだ、今夜はお母さんとセックスの練習にしましょう?ね?それからでも遅くはないわよ?」
「「「「「「!」」」」」」
家の前でそういう事を大っぴらに言わないで欲しいんだがな…………周りの目がいt………いや、鼻伸ばしてやがる、なんて奴らだ、人妻だぞ、魔王の。
人妻の前にサキュバスで何百という男を食ってきているが、人妻だぞ、一応、魔王の。
「うーん、でも実戦が一番だと思うし、母さんみたいに協力的なエサ…………女の子ばかりとは限らないからさ」
「じゃ、じゃあ、お母さんがグスタフの欲しい時に適当な女持ってくるから、ね?グスタフは家を出てかなくてもいいでしょ?苦労しないでしょ?」
淫魔の母親としてそれはどうなんだ…………っというか字面がすごいな、誘拐を公然で暴露とは。
「旅なんて面倒じゃない?それも1人で、寂しいわよ?人間界は危険がいっぱいなのよ?ここなら、お母さんと一緒で寂しくないし、道に迷わないし、危険なんかないわ」
申し訳ないが、これ以上のニート生活は精神と肉体が惰弱になるのでNG。
「だから、ね?一緒にいましょう?一緒に、ずっと、ずーっと一緒に━━━━」
「僕も、母さんと一緒に居たい」
母って実は結構深く病みかけてるんだよなぁ…………愛が重い。
まあ私は重い愛は大好物なんだが。
「!、でしょう!?そうよね!お母さんと」
「でもね、僕は淫魔だから、自分で精を得ないといけない、動物で言う『狩り』なんだ、狩りができない動物は…………死ぬんだ、いつまでもエサがあると思い込んでしまうから」
「お、お母さんはちゃんと生きた、ピチピチの、それこそちょっとは抵抗してくるような女を連れてくるわ!」
魚かよ……………。
「でもそれだと、母さんの子供だって胸張って言えない」
「グスタフはお母さんの息子よ!誰がなんと言おうと、グスタフは私のかわいい子供なの!」
そう叫ぶ母に素直に嬉しく思う、前世ではここまで愛されてはなかったから、嬉しいものだ。
「ありがとう、でもね、僕は淫魔として、母さんに胸を張れるようになりたい」
「グスタフ…………」
「ごめんね、母さん、僕どうしても人間界を見てみたいんだ」
真摯に訴えるように、母を見据える。
やがて根負けした母は、ため息を吐いて私を抱きしめた。
「わかったわ、お母さんも負け…………3週間に一回は、帰ってきてね」
「うん、わかった」
今にも泣き出しそうな母、抱き合った状態から離れようとする、すると、母の手が離れる事を惜しむように私の服の裾を掴んだ。
「絶対よ?」
「必ず、帰ってくるよ」
「うん…………」
「心配しないで、母さん、僕を信じて、ね?」
「う"……うん………」
涙を浮かべ、プルプルと震えてしゃくりあげ始める母に、そっと口づけをした。
「ん………」
「!!……グスタフ…………」
間違えて口にしてしまった、なんとか誤魔化そう。
「約束、だよ」
「約束…………うん、約束、守ってね?」
「破ったりしないよ、じゃあ、行くね」
最後に短めのハグをして別れる。
母の涙目の姿で心に傷をつけつつ、別れを告げるべくレティの元へ向かった。
3時間ほど歩き、森を抜け、薬草屋のある村に着いた。
薬草屋に入ると、レティが何やら作業をしていた。
「グスタフじゃないの、どうしたの?」
「実は、伝えたいことがあって」
淫魔として成熟したこと、精を得るために人間界に行くため2、3週間留守にする事を伝えた。
「ふーん…………私の告白を無視して人間界の女とエッチしに行くんだ?」
「告白って…………レティのは勘違いだよ、僕は淫魔だから、フェロモンにあてられて好きだって錯覚してるだけだよ」
「いいえ、勘違いなんかじゃない、だって、グスタフと一緒にいるだけでドキドキするんだもの、この気持ちは本物よ」
「……………仮に、本物だったとしても僕はレティを受け入れないよ」
「どうして?」
「浮気、するよ?公然と、それも必然的にね━━━レティを差し置いて人間界でいろんな女の子といろいろと楽しんじゃうよ?そんな夫、嫌でしょ?」
レティは面倒見がいいから良妻になりそうではある、それでも受け入れない理由は、夫である私、インキュバスが本能的に浮気性もため、いくらレティでもそれは耐えられないだろうからだ。
数週間に一度帰ってくるにしても、その数週間は人間界で女を食いまくって帰ってくるのだ、最愛の夫がキャバクラに行くのを黙認する妻の気持ちは男の私には想像し難いが、辛く、気持ちのよくないものであることはわかっている。
「それでもいい」
「え?いやいや、良く考えてよレティ」
「よく考えての結果よ、私はグスタフが好き、じゃあグスタフは私のこと好き?」
「レティのことは嫌いじゃないけど、でも結婚したいかって言われてもよくわかんないよ」
正直なところ、血縁関係のない姉弟のような関係であって欲しかった、結婚については今は誰ともしたくはないな。
成熟してすぐ結婚とか、高卒で結婚するようなものだ、ろくな収入も何もないこの世界でそれはいかんだろう。
「じゃあ、せめてキスしてよ」
「ねえ、僕は淫魔なんだよ?淫魔にキスされた人がどうなるかはわかるでしょ?」
「ぬぐぐ…………わかった、かわりに抱きしめて」
粘膜接触はさすがにまずい、淫魔の体液は強力な催淫効果を持つ媚薬、私のはその中でも魔王という父とトップレベルのサキュバスの母の子、正直な不味いとかヤバイとかのレベルではない。
「いや、布越しに体に触れるだけでもアウトだからね?」
「……………握手」
「んーー…………できなくはないけど、それでも十分危ないんだけどなあ……」
「………………ぐすっ」
「あー、もう!はい!10秒だけ!」
「うん!」
差し出した手に何故か指を絡められる、これは…………恋人繋ぎか。
「ふふっ…………あったかい」
握手といったのに両手で握りこむようにされているんだが………。
「幸せそうな顔しちゃってさあ…………はい、10秒〜」
「あ…………ぅ……」
パッと手を引っ込めると残念そうな声を漏らすレティ、すぐに表情を引き締めて私の顔を見る。
「帰ってきたらまた話そう、ね?」
「わかったわ…………いってらっしゃい、帰ってきたら、早めにこっち来て」
「うん、わかった、帰って来たら必ずレティに会いに行く」
「ん、早く行きなよ」
シッシッと手を払うように言うレティ、私は何も言わず振り返り、村を後にした。
ふぅ………………私の旅行のつもりなんだがなぁ。
こうも愛されると心が痛んで仕方ない。
━━━━━レティはこの比じゃないんだろうけど。
「…………グスタフの、ばか…………ぐすっ…………ば、ばがぁ………っ……ひっ………ぐっ、えぁぅ………………あぁぁぁぁばがぁあああああああああ!」
「………………坊主よぉ、おめぇ………罪だぜこりゃあ…………あんないい娘を、泣かすなんざ、ゼータクってもんだぜぇおい………」
各種族の見た目…………と言ってもまだ3種しか出てないけど。
・淫魔
皮膚の色は青、くるんと一回転したツノが二本生えている。
シッポは先端がハートになっている(サキュバス、インキュバス両方)。
下腹部(子宮の上あたり)にハートマークがある。
人間への擬態時はツノとシッポ、ハートマークが消え、肌の色は自由に決められる。
・単眼種
人間と変わらない見た目をしている。
人間でいうところの両目の間、眉間のあたりに目の中心があり、顔の3〜4割程度は大きな目が占める。
サイクロプスと比べ目が大きいため威圧感があるが、心優しい者が多く、頭も良い、かわいい。
・ヴァンパイア
吸血鬼、弱点や特性はよく知られている。
魔界では弱点が半減される(太陽に当たってもステータスが下がるだけ)。
また、魔界では吸血する必要がない。
魔王の側近でグスタフの魔力測定をしたのがこいつ。