随分とまあファンタジーな世界じゃないか(仮) 作:倒錯した愛
亀更新は変わらないので、謝罪がわりの二連ダァ!!
思春期とクエストの話をしよう。
恋多き生命、人間。
恋に生き、愛を求めるロマンチックな生き物。
時に美しく時に残酷なそれらは、どんな場所でも男と女がいれば発生してしまう厄介なもの。
私自身、愛も恋も不要な生物、淫魔として生まれ落ちたが、やはり興味は尽きぬもの。
特に、イセリナとリクのは。
商店が看板を掲げ、今日も今日とて人を呼び込もうと声を上げて品物を売る中。
イセリナも同様に店の売りである下級ポーションや解毒草の限定値引きを宣伝して客を寄せていく。
値引きされたらしい下級ポーションが飛ぶように売れていくのを遠目に見ていると、クワを持ったリクという少年までもが下級ポーションを購入しているのが見えた。
下級ポーションの購入者は軒並み剣や斧や槍を持った冒険者と呼ばれる屈強な男女であったため、その中にクワを持ったヒョロイ男がいれば嫌でも目立った。
イセリナが言っていた通り、彼女を意識しすぎているあまり、銅貨数枚を取り出すのにもかなり焦っている様子。
クスクスと笑いながら下級ポーションを渡すイセリナと、赤面し目を逸らしながらポーションを受け取るリク。
二人のやり取りは見ていて飽きない、リクのあの慌てふためきようは酒の肴にでも出来そうなほどだ。
想いを伝え、結ばれてほしいとは思うが、この面白い光景が見られなくなると思うと少し躊躇する。
兎にも角にも、朝から大繁盛のイセリナ道具店であった。
しばらく観察してから、イセリナが食事中に教えてくれた冒険者組合というものに行ってみることにした。
巨大国家から小さな村まで大小様々な形であるという冒険者組合、そこでは冒険者登録や依頼の登録と引き受け、成功報酬の引き渡しなどが行われる。
王国の城下町にある組合には貴族や教皇などからの依頼も来ると聞くが、この村では精々が山菜や薬草の採取か、害獣の駆除くらいしかない。
それでもやはり大切な収入源、若者から年寄りまでさまざまな装備の冒険者たちが掲示板の前で依頼の取り合いをしていた。
主に、報酬の多い害獣駆除の系統を。
「どけ!金貨2枚の害獣駆除クエストは俺のもんだ!」
「ふざけんな俺のだ!」
「この間に俺はこっちのを……」
「あっ!てめぇ!何隠しやがった!」
「べ、別に!?銀貨15枚の害獣駆除クエストなんて知らないぜ!?」
「いっただきい!!」
「「「てめえごらあああああ!!!」」」
掲示板前はしっちゃかめっちゃかの大賑わい、イセリナ道具店の繁盛ぶりにも劣らない活気があった。
見たところ金貨2枚の害獣駆除の依頼が最高報酬のように見える。
野犬退治で金貨が2枚か…………うま味な依頼ではあるが、そんなに金が必要なものなのか?
あるに越したことはないだろうが、こんな辺鄙な場所で稼がんでも良いだろうに………。
それはそれとして、組合の建物に入る。
建物は家屋をそのまま使っているような生活感ある内装で、いくつかの丸テーブルを冒険者たちが囲って寛いでいる。
まだ朝なのに酒を飲んでいる者までいた。
酒臭い冒険者を素通りしてカウンターにいる若い男に話しかける。
「失礼、冒険者登録はここでしょうか?」
「おう!あんさんが登録するのかい?」
「えぇ、なにかと便利と聞きましたので」
冒険者組合への登録は、いわば住民票の取得のようなもので、いざという時の身分証明に大いに役立つとイセリナが教えてくれた。
依頼を受けるにしろ受けないにしろ、入っていて損はないそうだからだ。
「じゃあ、こっちの魔術契約書にサインを」
そう言って出されたのは羊皮紙らしきもので作られた契約書。
文字は読めるため何が書いてあるかは理解できるし、魔術、ということから脱会の難しさが伝わってくる。
契約内容を何度読んでも特にデメリットもないようなので、普通に名前を描く。
書き終えると髪が一瞬光り、文字の部分が宙に浮かんで掻き消えた。
「これで登録のほうは終了だ!」
「これだけですか?」
「これだけさ、あとは向こうの掲示板から受けたいクエストの依頼書をこっちに持ってきたら俺が受理する、クエストが完了したら成功報酬を手渡す、そんだけ、簡単だろ?」
「へー……実際に初めて見ましたが、意外と簡単なんですね」
「昔はめんどくさい契約書を何枚も描いてたらしいけど、今はこれ一枚でオーケー、あとは、クエストをあんさんが解決して、あんさんが成功報酬を受け取って、俺たち組合がそのおこぼれをもらうってわけ」
なるほど、そうやって運営しているのか。
今のところ考える限りではそれなりに真っ当な組織のようで一安心。
「ありがとうございます、では私はこれで、頑張ってください」
「おう、あんさんもクエスト行くなら気いつけてな!」
カウンターの爽やかなお兄さんの威勢の良い声をバックに、組合の建物から出る。
掲示板では未だ取り合いが続いている……これでは当分近づけないだろうな。
諦めて近くの木の近くに腰を下ろす、そよ風と木漏れ日がちょうど良い気温を保ち、待ち時間すら快適にしてくれる。
目的に向かって突き進むだけじゃない、時にはこうやって休み休み行くのも旅の醍醐味。
時間はたっぷりある、焦らずゆっくり行けばいいじゃないか。
魔界とはまた違う癒しのひと時、遠くに聞こえる喧騒を子守唄に微睡みを感じていた。
しばらく経つと、掲示板から波が引くようにサッと人が退いた。
どうやら害獣駆除の依頼は誰かが勝ち取ったようで、一喜一憂する冒険者たちが組合の建物入り口にいた。
掲示板を見やると、薬草の採取から草刈りまで草木に関係する依頼は多様にあった。
どれもが精々銅貨5枚程度で、まるでファンタジーRPGゲームの最序盤の小遣いクエストを見ているような気分になる。
手持ちの金はまだまだ余裕があり…………というより、淫魔である母はそれこそ性を搾り取った後でいくらでも金やら財宝やらをもぎ取れって来れるため、実際には家にはかなりの額の金がある。
持たされた金は1ヶ月は複数の女と豪遊して馬車で帰ってこれるほどには入っているが、母が稼いだ(稼いだとは言っていない)大事な金なのだ。
大金を貸してくれた母のためにも、考えて使っていかねば。
とはいえ、今のところ使った金額は銀貨が数枚と言ったところ…………気にするには、いささか早すぎたかもしれない。
そんなことよりも、今は依頼を見よう。
………………ピンとこない依頼ばかりだ。
これは確かに、害獣駆除と比べると報酬というより完全に子供のお小遣いの金額では、時間がかかる採取や草刈りを受けたがらない気持ちがわかる。
生活がかかっている冒険者たちには無駄にできる時間はないのだから。
「私にはありますが……」
そう呟いて、適当に依頼書を取る。
「…………偶然でしょうか」
内容は『薬草と解毒草の採取』、依頼主は、イセリナだった。
「……ま、これもお勉強のひとつでしょう」
依頼書を持って組合の建物に入り、カウンターの爽やかなお兄さんの前に出る。
「お、さっきの兄さんじゃないか!」
「さっきぶりですね」
「何か聞きたいことでもあるのかい?」
「こちらの依頼を受けたいのですが」
「どれどれ……イセリナちゃんのとこか」
そう言ってカウンターのお兄さんは、私が出した依頼書を確認してスタンプを押した。
押されたスタンプの文字が浮かび上がり搔き消える、サインの時と同じ魔術による契約のようだ。
「はい、確認終わり、それじゃあ頑張って集めてきてね」
これで依頼は受諾完了らしい、なんと便利なことだろうか。
魔術……使えたらきっと便利なものなのだろう。
あいにく私のMPはクソザコだが……。
ちなみに、魔法と魔術は読みが違うだけで意味は同じものだ。
人間界に来てからよく聞くが…………魔術、と呼んだり書いたりする方が人間的には高尚な言い方や読み方なのだろうか?
「ありがとうございます」
「気をつけてな」
さて、依頼も受けたことだし……ぶらぶら散歩でもしながら、薬草と解毒草を集めるとしよう。
ギルドの受付の兄ちゃん(23)
気の良いお兄さん、資金難から店を畳んで受付になった。
小さな村の中の少ない癒し。
イセリナとは交流もあるが、恋愛感情はなく、妹として接する。