機動武闘伝Iストラトス   作:Easatoshi

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第4話

 

 

 

 

           「ISを動かせる男 少年格闘家、織斑 一夏」 後編2

 

 

一夏の前に姿を現したそれは、

言うなれば白銀と比喩するにふさわしいISだった。

 

薄暗い古ぼけた電灯の点滅する中においても存在感を放ち、

自ら光り輝いているかのような錯覚さえ感じさせる。

一点の曇りも無い白き機動鎧が、コンテナの中で膝を突き佇んでいた。

ISの周囲には、台座を連想させるような白い

機械のリングが本体を囲うかのように設置されている。

わざわざIS本体と同じような意匠が取り入れられている辺り、

これも稼働時にはパーツの一部として動作するのだろう。

兵器と呼ぶにはあまりにも美しいその造形に、一夏は息を呑んだ。

 

その上、あの女の乗っていた後付装備を過剰に装着し、

弾を防いだ凹みや擦り傷が所々見られた打鉄とは違い

こちらは弄られた形跡も無ければ、兵器として

実際に運用されたであろう細かい傷や錆び、

補修の痕跡等が全く無い。 新品同然なのだ。

 

コンテナに書かれていた通りこのISの開発元は

恐らく倉持技研だろうが、あんな物騒な連中が

持っているあたり盗品である可能性が高い。

それも世界を席巻するISに関しては

一夏自身も関心がある為、ある程度の機種は網羅しているが、

目の前のこの機体に関しては全く記憶に無い。

 

じゃあこの機体は何なのか思考にふけろうとした時、

一夏はISの脚部に文字が小さく刻まれているのを見つけた。

影がかかって見づらいが、アルファベットや数字らしき

文字が書かれているのが見て取れる。

何とかかれているのか見ようと腰を屈め、

何気なく一夏はそのISの脚部の装甲に手を当てた。

 

その瞬間だった。

何の前触れも無く一夏の視界が白一色に染め上げられたのは。

突然の出来事に一夏は狼狽するも、直後どこからともなく

絵や文字とも言えぬ膨大な情報が脳内に流れ込む。

それも苦痛を伴わず、乳児が両親の会話から

言葉を学び取るかのごとく当たり前に。

 

(形式番号:XJP-43、

正式名称:白式(びゃくしき)、

各国の開発するISのような遠距離攻撃手段は切り捨て、

かつて第1回モントグロッソにて猛威を振るった

IS『暮桜(くれざくら)』の意匠を汲んだ試作品……)

 

Xと言う頭文字は軍用兵器をはじめ、正式採用一歩手前の

実戦さながらの試験的な運用による、選評を行っている段階の

装備に割り当てられる仮ナンバーであり、

正式装備として運用するのに問題が無いと判断された

物だけが、この頭文字を取り除き採用を許される。

 

そしてモントグロッソと暮桜なるワード、

前者はISの世界一のパイロットを決めるべくして

2016年を最初に3年に1度行われる、IS対ISの格闘大会。

後者の暮桜はモントグロッソの第1大会にて、ライフルやミサイル等の

遠距離攻撃に特化した装備が幅を利かせる中、

唯一近接戦闘のみで見事優勝を果たしたISである。

 

「はっ!!!」

 

そこまでの情報を読み上げた所で一夏は正気に戻る。

情報が頭になだれ込んでいる際に無意識に後ずさったのか、

手で触れていたIS……情報が正しければ白式と言うのか、

機体から3m近く離れていた。

 

頭を横に振って朦朧とした意識を振り払うが、

しかし次に起こった出来事で一夏は更に驚愕する。

白式を取り囲んでいた同じ意匠の

汲まれたリングが完全に消え失せていたのだ。

 

一体どこに消えたのか?

そう思って一夏は手を差し伸べようとするが、

ある程度伸ばした辺りで壁に手を当てたかのような、

しかし実体の無い感触を覚える。

見ると何も無い筈の空間に一夏の手が

触れた部分だけ一辺辺り3cm程のハニカム状の

ホログラフが手を遮っていたのだ。

 

「おい、なんだよこれ!」

 

一夏は慌ててハニカム状のホログラフに

体当たりするが、ホログラフはしなる事無く

タックルの衝撃を吸収する。

この威力を跳ね返されたら普通仕掛けた側が

転倒して尻餅をついてもおかしくは無い。

だが力一杯ぶつかった筈なのに一切反動も無く

堅い何かに接触したと思えば痛みも何も感じない。

 

だが一夏は諦めが悪かった。

今度は光輝唸掌を放って壁を破ってやろうと

足を大きく開き、指をそろえた右手を下げ……

 

肘を後ろに下げきった辺りで何かが接触した。

一夏は背筋を凍らせながらも

肘の当たった部分を見ようと油の切れた

歯車のようなぎこちない動きで首を向けると、

 

そこにはやはりホログラフが発生し、

肘を下げようとする一夏の動きを阻害していた。

 

(まさか!!)

 

表情は青ざめ、心拍数は否応無しに上がる。

今自分の置かれている状況を確かめる為、

一夏は逸る心を抑えながら、

ゆっくりと横方向にも腕を伸ばしてみた。

 

すると一夏の思った通り、腕はある程度伸びた所で

感触のない壁のような物に阻まれていた。

四方に手を当ててこのようなホログラフが

発生すると言う事は、おそらく360度どの方向を

向いてもこの見えない壁は存在する可能性がある。

 

 

つまり一夏は……閉じ込められた。

 

 

(冗談じゃねぇ!!)

 

このISに仕掛けられた罠だとでも言うのか。

こんな所で足止めを食っていては、

折角稼いだ時間がムダになってしまう。

あと数分もすれば増援がこの倉庫に到着し

打鉄ではなく生身の人間による制圧が始まる。

身動きの取れないこの状態で

そんな真似をされたらいくら弾幕さえ回避できる一夏でも

今度こそ成すすべなく一方的に殺されてしまう。

 

焦りを押さえきれない一夏は見えない壁を何度も叩く。

それが無駄な行為だと分かっていても、

目先に身の危険が迫っているのに何もしないでいろと言うのは

今の一夏にとってそれは無理にも等しい。

 

「くそっ! どうすりゃいいんだ!?」

 

焦燥感に駆られながら、ふと天井を仰ぎ見る。

 

「ん!?」

 

一夏は大きく目を見開いた。

何故なら、一夏の目には台座から消えたリングが

右回転しながらゆっくりと下降して来たのが見えたからだ。

 

「こ、これは……?」

 

頭上に突如現れたリング。

しかも先程見た形とは異なり、上下に2分割されたのか

下半分が見当たらない。

どこに行ったのか気になって辺りを見渡してみると、

リングの下半分は何と一夏の足元に置かれていた。

こちらは上のリングみたく回転してはいないが。

しかもこのリングの内径、一夏を閉じ込めている

ホログラフの壁と全く同じ内径であり、

どうやらこれが壁を発生させている装置となっているようだ。

 

状況判断をしている内にリングが一夏の頭を通し、

首元の高さにまで下降した時、

リングの内側から首に掛けて突如粘性のある青い膜が出現し

一夏の肉体にまとわりつき始めた!

 

「ぐえっ!!」

 

首元に発生する強い圧力。

予想しなかった感触に一夏は苦痛に顔を歪ませる。

しかし苦しむ一夏を無視するかのように、

リングはお構い無しに回転しながら下がり続け、

粘膜は一夏の肉体をリングがくぐり抜けた分だけ纏わりついてくる。

 

(くっ!! これはきついッ!!

しかも何なんだ!? 俺は服を着ているのに

この粘膜、素肌に直に張り付いてくるぞ!?)

 

ゴムのペーストが苦痛を感じるほどに全身を強く圧迫しながら

素肌の毛穴にまで浸透するかのような感覚、

拘束具を付けられてるかのように一夏は身動きが取れない。

服を着ているのだから地肌に膜の感触があるのは

おかしいとは感じていたが、どうやらリングを

潜り抜けた箇所から一夏の服を、IS特有の機能の1つである

量子化によって分子レベルで消滅させ、

素肌を晒した上に膜で肉体をコーティングしているようだった。

 

(畜生!! こんなもんに全身を縛られてたまるか!!)

 

一夏はありったけの力を込め両腕を上げようとする。

するとどうした事か、リングの内径に引っ張られて

テントさながらに張り詰めていた膜が、

一夏の体躯にあわせ、脇の下や二の腕を巻き込み

体のラインをかたどりながら剥離する。

引っ張られる箇所が減った事で腕にかかる抵抗が減り、

勢い余って一夏は両腕を勢いよく振り上げる。

 

「くっ!!」

 

腕周りが完全に引きちぎられると、纏わりついていた膜が

一夏の四肢の内側から5本指に至るまで包み込み、

ラバースーツのように関節と言う関節をしっかりと形作っていた。

 

「どうなってんだこれ!?」

 

叫びながらもリングは既に膝の辺りまで下がっており、

膜は上半身と同じ要領で内股にも食い込んで

しっかりと一夏の体のラインに合わせてスーツを形成していた。

これではまるで一夏を拘束するというよりは、

自身の意思を無視して無理矢理着替えさせているようなものだ。

 

そしてリングが足元まで下り切って、下部に置かれていたリングの

下半分と合体、本来の形に戻る。

一夏も足元の窮屈な感触を長々と味わうつもりは無く、

粘膜がしつこく引っ張るのを我慢して、頑張って片足ずつ上げる。

やはり膜は足のかかとからつま先に至るまで

包み込んだ後、綺麗に剥離できた。

だが足の指の間にまで膜が入り込まなかった為、

靴下やストッキングを履いているような感触に近い。

 

「……ふう……」

 

体の圧迫感が急激に抜けきった事で一息つく一夏。

膜はスーツをかたどった今も一夏の体を少しばかり締め付けるが、

リングを潜り抜けている時の、全身をアナコンダに

締め付けられるかのような強烈な圧力は無く、

 

「お、これは……」

 

一夏は肩を回したり腰をひねるなどして動き易さを確かめるが、

むしろこのスーツは伸縮性に優れ、一夏の動きを阻害しない。

いきなり全身を包み込みはじめた時は焦ったが、

中々悪くない感触に一夏は安堵する。

 

しかしそれも束の間、全身をスーツに包み込まれた直後、

今度はIS自体が発光、量子化が始まり瞬く間に無数の光の粒となった。

 

「今度は何だ!?」

 

思わず身構える一夏。

すると光の粒は一夏の周囲を取り巻くと、

なんと一夏の体を高さ1mの空中に浮遊させ始めた。

 

圧迫感の次は浮遊感、

おもわず両手両足をばたつかせて抵抗を試みるが、

 

 

次の瞬間、量子化していた白式のパーツが

脚部から順番に一夏の体に装着される。

 

「い!?」

 

足元を大きな脚部で覆うと続いて胴部、

背後から左右に腹部をホールド、肩や腕周りにも

量子化していたパーツが展開、装備される。

 

そして先程一夏の体をコーティングしていたリングは

今度は左右に2分割し、一夏の両肩周りを守る盾のように浮遊する。

最後に頭部、胴をホールドした時と同じように

後頭部から左右に掛けて回り込み、圧着する。

 

その瞬間、一夏の五感がはっきりと研ぎ澄まされると共に、

 

≪モビルトレースシステム、セットアップ……

 脳波、血圧、心拍数、呼吸、体温、代謝機能、オールグリーン≫

 

一夏の体調を詳細にスキャンした結果が無機質なアナウンスと共に、

白式の周囲にホログラムウィンドウを多数展開させる。

 

当の一夏はわけが分からなかった。

ISに触れた途端脳に情報が流れ込み、ISを囲っていた

リングが自身をこんなスーツに包み込み、

挙句の果てにはIS……白式が自身に装着された。

これではISが自分自身に反応した事にならないか?

男である自分が、女にしか動かせない機動兵器を。

 

そんな馬鹿な話があるまい。

きっとこのISは自分を動けなくする為に

 

試しに一夏は白式の両手両足を動かしてみることにした。

 

「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

足腰を落とし両腕に力を込め、上に振り上げ腰元に素早く引く。

重苦しいどころか寧ろ快調に動作する。

 

「ふんッ!! 覇ァッ!!」

 

右正拳突き、その姿勢のまま手首をひねる。

力強いIS独特の金属の擦れる機動音を上げる。

 

「せいっッ!! ふんっ!! 波っ!! はぁッ!!」

 

右、左、右、左のジャブのコンビネーションの後、

右足を豪快に蹴り上げ、続けざまに左手を振り下ろす。

クリア。

 

「はっ! ぬおおおおおおおおお………………!!!」

 

両足を広げ、胴体を閉めこむようにして肩を閉じ、

両腕を交差させ力を溜める。

 

「ハァッ!! おおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

腕を開き開放、右手を前方に突き出し素早く左回りに1回転。

 

「はああああああああああああああッ!!!」

 

百獣の王を髣髴とさせる雄たけびを上げ、決めの姿勢をとる。

動作は全く問題ない。

それどころかこの白式、一夏の動きに

遅れる事無く完璧についてこれている。

 

一夏は確信した。

このIS、白式は自分の意志で動かせる。

俺は世界で初めて、ISを動かせる男になったのだと。

 

「まいったなこりゃ……」

 

先程の勇ましい一連の動きとはうって変わり、

両手を開いて覇気の無いため息を吐く一夏。

まさかこんな土壇場で、世界を揺るがしかねない事実が発覚してしまうとは。

何度も説明している通り、ISは女性にしか動かせない。

これは世界各国共通の一般常識である。

だが一夏は今この場でその常識を実にあっさりと覆してしまった。

もしこの事が世間に公表されたりしたらどうなるやら。

 

しかしISを動かせると言う事実は

今この場においては頼もしい限りであった。

これから攻めてくるであろう増援はもちろん、

打鉄を操って執拗に追い詰めてきたあの女だって

倒せないまでも時間稼ぎをすることは十分に可能だろう。

勿論ISに関してはマスメディアに公表されている程度の知識だけで

実際に操った事など当然無いずぶの素人であるが、

それでも生身でいる事に比べれば幾分気が楽なのも事実。

 

ISと言う機動兵器が手に入った。

ならば次は当初の目的であった武器を探そう。

一夏がそう思った瞬間、先程一夏の周りに

無数に展開されたのと同じ要領で、大量の

ホログラムディスプレイが表示される。

表示されている情報は一夏の体調だけでなく、

白式の仕様や装備の情報についても書かれていた。

 

そう言えばISのコアには学習能力と言う概念があり、

パイロットとの付き合いを通して戦闘経験を蓄積、

自己進化すら実現してしまったと言われている。

そうなると当然、ISにはパイロットの意思を

読み取る機能が備わっているのは分かっていたが、

まさか少し考えただけでここまで具体的な情報を示してくれるとは、

ISの思考能力は侮れないと一夏は思った。

 

ISの賢さに感心しながらも、一夏はウィンドウの情報を

読み取っていくと、その内の幾つかに興味深い情報を見つける。

固定装備として白式の両腕に内蔵され、

状況によっては両手剣としての実体化が可能な白兵戦用特化装備。

 

「アーティフィシャル・オーラ・ジェネレーター……

 通称『雪片弐型』(ゆきひらにがた)」

 

アーティフィシャル・オーラ・ジェネレーター(人工気力発生装置)、

人間の体に流れるオーラ……即ち『気』を

IS用の攻撃エネルギーとして転換する装置で、

通常実弾兵器やレーザー兵器など、

武器自体の性能に依存する事が多い兵器の中で

これは特に使い手の特性……とりわけ精神力の強さに比例するものだ。

心身ともに優れたパイロットほどその性能をフルに発揮できるが、

その分ムラっ気が激しくパイロットによって威力が大きく左右されてしまい、

さらに高コストで量産に適さない事から、過去にこの装置の

前身である『雪片』がたった1機、白式のモデルとなった

暮桜に装備されただけで開発が打ち切られてしまった。

 

「その後継機がこの白式に……!!」

 

更にISの装着前に一夏の首から下の全身を包んだ青いボディスーツ。

これは市販されている従来のISスーツの上位互換に当たる性能を誇る、

正式名称は『ファイティングスーツ』と言う。

強度こそそのままであるが、人体に流れる電気信号を増幅させる効果があり、

素肌でISに触れるよりも信号の伝達が高速になる為、

それに伴いパイロットの動きに対するISの追従性能を

大幅に向上させる事に成功している。

 

量産型のISとISスーツの組み合わせだと0,01秒、

特定のパイロットにカスタマイズもしくは専用に作られた機種なら0,002秒、

この白式のモビルトレースシステムなら、0,0000……中略、

つまり事実上の0を達成している。

尤も、恐ろしく窮屈で訓練を受けていない一般人が身につけると、

苦痛どころか最悪複雑骨折を招く場合もあるが。

 

一応他の装備が無いかデータベースを探ってみるが、

申し訳程度に牽制用の小口径アームガンと

煙幕弾が数本装備されているだけだった。

だが一夏にとってそれだけ武器があればむしろ十分であった。

 

そもそも一夏の修得した武術、流派東方不敗は肉体面のみならず、

気の力を持っておよそ生身では考えられない

膂力を発揮する事を目的とした武術。

絶好調の時ならば、ISから発せられる

馬力さえも上回る力を出す事も出来る為、

通常のISの仕様ではかえって一夏の動きを阻害してしまう事さえある。

その為、箒との付き合いで学んだ剣術を除き、下手に銃器類の装備は

一夏にはかえって邪魔になってしまう事もある。

尤も得意とする格闘技及び気の力を存分に扱える雪片弐型と

反応速度を極限まで引き上げるモビルトレースシステムの組み合わせは

一夏にとっては願ったり叶ったりであった。

 

「これなら勝てる……!!」

 

ついさっきまで時間稼ぎが出来れば上等と思っていたのに、

これらの情報を目にした途端、

完全勝利へのビジョンが明確に映る。

ISを振りかざして執拗な追い込みを掛けたあの女に

一矢報いる事が出来ると一夏は思った。

 

―――その時、ISに内蔵されている

五感強化用のハイパーセンサーを通して一夏の耳に

シャッター越しに多数の足音が聞こえてくる。

このタイミングでこの足音の数は間違いない、

一夏達を仕留めんとせん増援達が到着したのだ。

 

(来たかッ!!)

 

気を引き締め、一夏はシャッターの方を振り返った。

 

 

 

 

 

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……………………

 

 

 

 

 

「よし、後は警察の到着を待つだけだ」

 

古い設備だが、この通信室の機械は十分使用に耐えうるものだった。

しかもご丁寧に使い方のマニュアルまで残されていた上、

その中にはこの近辺の無線を扱っている会社の周波数まで書かれていた。

おかげで所定のバスが姿を消して困惑していた

バス会社に連絡が取れ、なし崩し的に警察にも

現状が伝わったのであった。

少し話が出来すぎているような気がしないでもなかったが、

箒は結果オーライと言う事で片付けた。

 

して箒は通信用のヘッドセットを身につけていた為

下の階で一夏がどんな様子で荷物を漁っているかは知らない。

とりあえず自分の役目は果たした。

後は襲撃に備える為一夏の手伝いをするべきだ。

箒はヘッドセットを通信機械の上に置こうと背筋を伸ばす。

 

「ん!?」

 

その瞬間、箒は凍りついた。

この通信室は窓際に通信機械が置かれている為、

椅子から立ち上がれば容易に外の景色を見渡す事が出来る。

 

件の外の景色には、ついに到着した敵の増援が

倉庫のシャッターの前でひしめいていた。

一夏達を包囲して集中砲火した、数十名の敵が。

そしてその数十名の一番後ろに、打鉄を着用した

オータムと名乗っていた女が堂々と立っていた。

今度こそ逃げられないと言う自信の表れか、

全身から威圧感と言う名のオーラが立ち込めているように見えた。

 

 

すると集まった増援の内数名がシャッターに駆け寄ると、

なにやらシャッターに四角い粘土状のブロックを貼り付ける様子が見えた。

箒はその物体に見覚えがあった。

 

昔彼女がテレビにて気まぐれで見た、ハリウッドの

アクション映画の再放送、丁度特殊部隊が立てこもる犯人を

制圧すべく、ドアを強引に破り強行突入するシーン。

その際に特殊部隊は同様の物を貼り付けて、

 

ドアを爆破、その勢いでドア付近にいた犯人をも吹き飛ばしたのだ。

間違いない、あれは指向性のプラスチック爆弾だ。

それも威力が広範囲に散って人質等を巻き込まないように

火力を調整した『ブリーチングチャージ』なる物だ。

 

あんなもので強行突入されたら最後、

一夏は反撃のチャンスすら与えられずに

ワンサイドゲームに持ち込まれ、穴だらけの死体になる。

それどころか突入時の爆風に巻き込まれて

そのまま昇天と言う可能性も否定できない。

 

爆弾を設置し、数歩引き下がる様子を見ていると、

ふと外のオータムと目があった。

狼狽する箒を見てご満悦なのか、オータムは箒を

盾にする提案を思いついた時のような、

胸糞の悪くなるような嫌らしい笑みを浮かべた。

 

こうしてはいられない、箒は慌てて

通信室の出口のドアへと足を進め、

 

 

「そんなに焦んなくても今出てやるよ」

 

 

今1階にて使えそうな物を物色している

聞き覚えのある少年の声が施設内に、

及び施設の外にまで響き渡り、箒は思わず足を止める。

 

 

 

 

 

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……………………

 

 

 

 

オータムをはじめ周囲を取り囲む増援達を沈黙が支配する。

今聞こえた声。 それは男と言うには少々若々しい、

彼女達にとっては忌々しい事この上ない少年の声だ。

 

「……どう言う事だ」

 

オータムは混乱した。

逃げたあのクソガキとやらは第7倉庫にて

立てこもり、警察が来るまでの時間稼ぎをするつもりである。

そうなるとそれを阻止する為に自分達が

倉庫を包囲し、ISではなく生身の人間にて制圧する為に

踏み込んで来る事は理解しているだろうと思っていた。

 

そしてその考えはあたっていた。

だが腑に落ちない。 何故か。

 

そう、突入してくる事は頭で分かっていても

なぜその直前の、突入するタイミングを

見透かしているかのようなあの一声をかけてきたのか。

それもシャッター越しに伝わるような大音量で。

 

嫌な予感がする。

オータムはさっさとあのシャッターを

爆破して突入するように部下に指示を飛ばす。

 

指示を受け、無言でうなずいた男の一人は

ブリーチの起爆用のリモコンに親指をかけ、

先端のスイッチを押そうと――――

 

 

 

 

した所で、倉庫のシャッターが内側から前面に大きくひしゃげ、

貼り付けたブリーチが吹き飛んでコンクリート地面を滑った。

 

「何ッ!?」

 

オータムが驚くも、引き続きもう一発、

大きな衝撃が内側からシャッターに叩きつけられる。

するとシャッターは完全に枠から外れ、

押し出しの勢いを受けて前面に倒れこんだ。

爆弾を仕掛けて退避していたのが幸いだったか、

倒れこむ重量級のシャッターに潰されたものはいなかった。

しかし倒れこんだシャッターは先の集中砲火よろしく

多くの土埃を巻き上げ、それを吸い込んだオータム達は思わず咳き込んだ。

 

「ゲホッ!! ゲホッ!! 畜生!! 何だってんだよ!!」

 

咳き込みながらも、埃が目に入らないように

薄目で土埃のカーテンに薄く遮られたシャッターの入り口に

視線をやりながらも悪態をつく。

 

 

「だから言ってるだろ。 今出て行くってな」

 

 

そして少年の声と共に、人間と言うには一回り大きな

シルエットが、大きな足音を上げてこちらに歩いてきた。

その足音は、今自分が着用しているISの

機動音の種類に非常によく似た音だった。

 

 

それもその筈、

 

舞い上がる土埃の中から現れたのは、

ISを着用した少年……織斑 一夏その人だったのだから。

 

オータムのみならず、周囲にいた仲間も絶句した。

 

「な、なんだよオイ……何でだよ……」

 

開いた口が塞がらず、しどろもどろに指を刺すオータム。

彼女にしてみれば一夏がISを装備している事が信じられないでいた。

何故なら、ISは女性にしか装備できない。

それゆえ自分を含む多くの女性は女尊男卑になった。

その常識を根本からひっくり返されたからだ。

 

「お前男だろ!? 何で男のお前がISを動かす事が出来るんだ!?」

「さあ、なんでだろうな……だが」

 

相手のいない軽くジャブ、ストレート、回し蹴りを放つと、

臨戦態勢に入ったといわんばかりに身構える一夏。

オータムに注がれるその目つきは、

先程自身が一夏に向けた猛禽類の目つきよりなお鋭い、

大胆不敵な漢(おとこ)の目であった。

 

「これで条件は五分五分だ。

 あんたらには悪いが勝ちに行かせて貰うぜ!」

 

あくまで不敵な笑みを浮かべ、余裕の態度を見せる一夏。

 

「……どうやらてめぇを侮りすぎてたみてぇだな」

 

一方で舌打ちをしながらも、先の読めない一夏の存在を

実感せざるをえなくなり、心底嫌そうな顔をするオータム。

 

「こうなったらこっちもマジで行かせて貰うぜ!!

 てめぇなんざ地面這い蹲ってんのがお似合いだッ!!」

 

そして腰に下げていたアサルトライフルの照準を、

ISを着用した一夏に向ける。

 

 

「そうか、なら行くぞッ!!」

 

 

一夏も気合万端、身構えたまま腰を低く落とすと、

 

 

「ISファイト……」

 

 

アサルトライフルを構えるオータムに、

 

 

 

「レディィ……!!!」

 

 

 

腰のばねを生かし、一気に飛びかかったッ!!!

 

 

 

 

 

 

「 ゴ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ ッ ! ! ! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                     続く

 

 

 

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