穂「どーーしよー!!!!!!」
太陽が屋上を熱く照り付けるそんな放課後。
バカの代名詞、穂乃果が頭を抱えながら叫ぶ声が響いた。
というかほぼ全員が落ち込んでいる様子である。
というのもだ。
先程学園祭で講堂を使用するために生徒会室で恒例行事だという講堂使用権をくじ引きで決めていたのだが、我がアイドル研究部部長の矢澤パイセンは見事に驚きの白さと言わんばかりのハズレ玉を当ててしまったのだ。
ホント使えねェ……。
ニ「だ、だってしょうがないじゃない!くじ引きで決まるなんて知らなかったんだから!」
腕を組んだニコさんが言い訳染みたことを言いながら開き直る。
凛「あー!開き直ったにゃぁっ!!」
ニ「うるさーい!」
花「ううっ……!なんで外れちゃったのぉっ!?」
花陽はフェンスを掴みながら涙を流していて、
穂「どーーしよー!!!?」
真「まぁ、予想されたオチね」
希「ニコっち…ウチ、信じてたんよ……?」
真姫は髪の毛先をクルクル回しながら素っ気なく返し、希さんも珍しく両膝を抱えていた。
ニ「うるさいうるさいうるさ〜いっ!!!! 悪かったわよーっ!!」
ここまでくると流石のニコさんも謝罪するしかなかったか。
蒼「ニコ。さあ…お前の罪を、数えろ…」
盾「ニコちん、捻り潰してもいいよね?答えは聞いてないけど!」
蒼燕はニコさんに指をさし、体を半分ずつ見せながら言って、盾は軽快なダンスをしながらリュウタロスの名言を言う。
コイツら言動はあれだが、敵意が半端無い。
ニ「ちょっ!? 待ちなさいよ!?」
ニコさんも薄々感じ取ったのかビビっている。
虎「ニコ……」
そんな時、虎亜がニコさんに話しかける。
ニ「虎亜…!あんたならニコの気持ち、理解してくれるわよね!?」
ニコさんは虎亜に希望を持った眼差しを向ける。
それに対して虎亜はいい笑顔でこう言った。
「さぁニコ、お前の体で実験を始めようか?」
ニ「ちょっ…!?」
信じていた虎亜に裏切られたニコさんであった。
と言うか言い方が卑猥だな。
女の子の体で実験をするとか。
絵「気持ちを切り替えましょう。講堂が使えない以上、他のところでやるしかないわ」
絵里さんが手を叩いて、沈んだ気持ちに手を差し伸べる。
蒼「……本音は?」
絵「ニコに運命を託した私がどうかしてたんだわ……。出来ることならハイパークロックアップして『ウンメイノー』をしたい気分よ」
ニ「ちょっ!? 絵里!?」
本音をぶちまけた絵里さんはメンバーの中で最も悔しそうで、カブトのネタをぶっこんでくるほど。
俺?
俺はどっかでこうなることが分かってたから。
決して一方暴力《ボコラレータ》したいとは思ってない。
盾「でも体育館もグラウンドも、運動部が使ってるよ~?」
海「ではどこで……」
困り顔の海未に、ニコさんが言う。
「……部室とか?」
部室の中で踊るニコさんが『いっくよー!!』と言う、情景を想像する。
虎「狭いだろ…」
ニ「むぐぐぐ……」
虎亜が却下する。
確かに狭い。
9人で踊るとなると相当キツイ。
しかも客もそンなに入らない。
宣伝も兼ねてるンだ。
狭くて客足が見込めないのは無しである。
今度は穂乃果が案を出す。
「あっ!じゃあ、廊下は?」
廊下でブラスバンドみたいなことをする穂乃果たちを想像する。
穂『μ’s…ミュージックスタート!!』
竜「バカ丸出しだな」
侮蔑を込めて却下する。
ニ「そうね」
ニコさんが俺の意見に同意すると、穂乃果が文句を言う。
「ニコちゃんがクジ外したから必死で考えてるのにー!?」
うるさい穂乃果はほっといて俺は考える。
9人が充分に踊れて、客もたくさん呼べて、それなりに広い場所。
………あったわ。
たった1つだけ確実なとこが。
竜「ここでやるか?」
俺が屋上の床を指差して言うと、意図が理解できたのか、それに穂乃果も乗る。
「竜ちゃんの言う通りだよ!ここに簡易ステージを作ればいいんじゃない!? お客さんもたくさん入れるし!」
希「屋外ステージ?」
こ「確かに人はたくさん入るけど…」
ことりが渋るが、穂乃果はめげずに言う。
「何よりここは、私達にとってすごく大事な場所!ライブをやるのに、相応しいと思うんだ!」
凛「野外ライブ、かっこいいにゃー!」
穂乃果の発言にノリノリな凛。
運動好きな凛にとっては外で思いっきり踊る事は結構嬉しい事なのかもなァ。
絵「でも、それなら屋上にどうやってお客さんを呼ぶの?」
海「確かに……ここだと、たまたま通りかかるという事もないですし……」
真「下手すると、1人も来なかったりして」
花「えぇー!? それはちょっと……」
次々に不安な声が挙がる中、穂乃果はそれを吹き飛ばすような事を簡単に言ってのけた。
「じゃあ、おっきな声で歌おうよ!!」
ニ「はあ~、そんな簡単な事で、解決できる訳…」
「校舎の中や、外を歩いているお客さんにも聞こえるような声で、歌おう!! そしたら、きっとみんな興味をもって見に来てくれるよ!!」
ニコさんの言葉を遮りながら穂乃果は言う。
穂乃果の中では何の不安も疑問もないンだろう。
だから自信をもって言える。
絵「ふふっ、穂乃果らしいわ」
穂「えっ?……ダメ?」
絵里さんは笑う。
それも心地良さそうに。
絵「いつもそうやって、ここまできたんだもんね。μ'sってグループは」
穂「絵里ちゃん……えへへ♪」
あァ、そォだァ。
いつだって穂乃果のこォいう根拠ゼロの言葉でやってきたンだ。
今回も一緒。
穂乃果の言葉を信じる。
ただそれだけだァ。
茜「決まりだな。ライブはこの屋上にステージを作って行うぞ」
希「確かに、それが1番、μ'sらしいライブかもねっ」
凛「よぉーし、凛も大声で歌うにゃー!!」
絵「じゃあ各自、歌いたい曲の候補を出してくる事。それじゃあ練習始めるわよ!!」
客を呼ぶのには苦労するだろうが、そこは俺たちが頑張ればいい話だ。
こうして学園祭のライブの場所は屋上でやる事になった。
ーーーーーーーー
絵「えぇ!? 曲を!?」
翌日の部室での打ち合わせの席で、穂乃果からの提案を絵里さんが反芻する。
穂乃果は「うん」と応え、続ける。
「昨日真姫ちゃんの新曲聴いたら、やっぱり良くって。これ、1番最初にやったら盛り上がるんじゃないかな~って」
絵「まあね。でも、振付も歌もこれからよ。間に合うかしら?」
「頑張れば何とかなると思う」
絵里さんの問いに穂乃果は迷うことなく答える。
それに対し、絵里さんは苦笑を浮かべる。
海「でも、他の曲のおさらいもありますし」
花「わ、私、自信ないな……」
穂乃果なら何とかなるかもしれないが、それとこれとでは問題が違う。
海未の言う事も間違っていないし、花陽みたいに精神面でもそう思うのも無理はない。
それでも穂乃果の勢いは止まらないようで。
「μ’sの集大成のライブにしなきゃ。ラブライブの出場が懸かってるんだよ!!」
希「まあ確かに、それは一理あるね」
「でしょ!? ラブライブは、今の私達の目標だよ!そのためにここまで来たんだもん!!」
竜「……穂乃果?」
何故だ?
穂乃果の言っている事は決して間違いではないのだが、何故か今の穂乃果の発言に少し引っかかりを覚えた。
なンだァ……この違和感は?
花「ラブライブ…」
穂「このまま順位を落とさなければ、本当に出場できるんだよ!たくさんのお客さんの前で歌えるんだよ!」
俺の感じた違和感とは裏腹に、話はどンどンと進んでいった。
穂乃果は立ち上がり、メンバー達を見渡して続ける。
「私、頑張りたい。その為に、やれることは全部やりたい!駄目かな?……ねぇ、竜ちゃん」
穂乃果は急に俺に訪ねてくる。
竜「お前……覚悟はあるンだろうなァ?」
穂「うん!!」
チッ……明るい顔で即答しやがって。
竜「なら好きにしろ。他に反対のやつは?」
俺は穂乃果の意見に賛同し、メンバー達に尋ねる。
誰も異を唱える者はいない。
竜「だってよ」
俺は穂乃果を見上げる。
穂「皆……ありがとう」
メンバー達は少し呆れたような、でも嬉しそうに笑みを零している。
これでこそμ’sだな。
そンな雰囲気が部室を満たしている。
ここで絵里さんが穂乃果に念を押す。
「ただし、練習は厳しくなるわよ。特に穂乃果。あなたはセンターボーカルなんだから、皆の倍はきついわよ。分かってる?」
「うん!全力で頑張る!」
竜「頑張りすぎて体を壊すなよ」
「分かってるよ!!」
ホントかよ…。
結局変な違和感の正体は分からなかったが、そこはしっかり俺が穂乃果の監督をすりゃ良い話。
めンどくせェがな……。
ーーーーーーーーーー
学園祭のライブで歌う曲を決めてから、穂乃果の頑張りようが目覚ましい。
暑苦しいくらい張り切っていて、授業中は眠そうなくらいだ。
海未にちゃンと寝てるのかどうか、聞かれるくらいに。
それに比例して、段々ことりの元気が無くなってるような気がする。
そして学園祭前日の練習の時。
虎「じゃあ、一旦みんな休憩取れ」
穂「ダメだよ!もう1回やろう!」
虎「はぁ!?」
虎亜の休めの言葉に、異を唱える穂乃果。
ニ「ふわぁぁ…!もう足が動かないよ~」
穂「まだダメだよ!! さあ、もう一回!!」
ニ「ええぇぇ!? またぁぁぁぁ!?」
穂「いいからやるのー!!」
ニコさんは柵にしがみつき、穂乃果がニコさんを立たせようとする。
いつもと逆だ。
見かねた俺が、穂乃果をニコさんから引き離し言う。
「おい穂乃果。いいから休め」
「大丈夫!私、燃えてるから!」
「そう言う問題じゃない。周りを見ろ。みんな疲れてる」
周りを穂乃果に見させる。
海未達も肩が上下していた。
1年の中で体力がある凛ですら、座り込んでしまっている。
穂「…………」
それを見た穂乃果は、少し冷静になる。
竜「分かったなら休め…」
穂「……うん」
それを確認したメンバーも休憩に入る。
竜「なあ、穂乃果」
穂「何?」
竜「ことりの様子が最近おかしくないか?」
俺でも分かるくらい最近のことりの様子が変だ。
穂乃果なら気づくはずだが……。
穂「そうかな?いつも通りだよ?」
竜 「……はっ?…お前……それ本気で言ってンのか?」
穂「うん。なんかおかしかった?」
竜「…………」
おかしいだろ…。
俺でも気づくのに、なンで俺よりことりと付き合いの長いお前が気づかない?
そう思ってると、朱雀と盾が来て、
朱「ちょっと、いいかな?」
俺を連れて3人で隅の方へ行く。
そこで朱雀から言われた話は、ことりの留学の件についてだった…。
竜「マジ……?」
盾「嘘でしょ…?」
朱「ホントだよ…。僕から言うのは何だったけど、一応君たち二人にはね…」
俺と盾はただただ驚くばかりだった。
同時に、何か嫌な予感がした。
主に穂乃果とことりに関して……。