のんびり天使は水の中   作:猫犬

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くやしくないの?

一番手はSaint Snowで、やはりこのライブに出るからかレベルは高かった。続いてAqoursの番になり、緊張していないか心配だったけど、控室で何かあったのか緊張はほぐれているようだった。まぁ、直前にあのパフォーマンスを見たからか呑まれかけているようにも見えるけど。

 

「大丈夫だよね?」

 

僕は一人呟くと、曲が始まる。結果として僕の心配は杞憂だったようで、ミスもほぼ無く、はたから見れば一番の演技だといえた。でも、ちょっと空気に呑まれたからか、はたまたランキング形式だからか、いい結果を残そうという意識が前に出ている気がした。それに、いつもと何か違う違和感があり、今日のライブよりあの日歌っていた『夢で夜空を照らしたい』の方が好きだったかな?どうして、こんなに違く聞こえるんだろ?

 

そうして、計三十組の演技が終わり、観客の投票を経て、入賞者が即発表された。Aqoursは入賞できなかった。まぁ、いきなり入賞できるとは思ってなかったからそこまで驚きは無かった。

 

 

会場の出入り口付近で皆が出てくるのを待っていると、にこさんとまた会った。

 

「二組目のAqoursって、沙漓の知り合い?静岡だったけど」

「そうですよ」

「そう。詳しい結果を知ってるけど知りたい?順位と投票数」

「いいんですか?部外者に言って」

「あんたが他言しなければ問題ないわよ」

「じゃぁ――」

 

 

「沙漓ちゃん、どうだった?」

「はい。良かったと思いますよ」

 

にこさんは別件があるからと別れて、少し待っていると千歌さんが駆けて来て、早速感想を聞かれたから、簡単ではあるけどそう伝えた。千歌さんは満足そうに頷いた。皆もちゃんと演技ができたことへの安堵と共に、何処か満足のいくものじゃなかったのか暗かった。

 

 

そして、場所は変わって何故かタワーの中。なんでここにきたんだろ?観光だよね?まぁ、もう少し東京に居ても問題ないからいいけど。

 

「おまたせー。わー、なにこれ、キラキラしてる!はい、どうぞ」

「うん、ありがと」

「全力で頑張ったんだよ。私はね今日のライブが今までで一番で気が良かったと思う」

「でも、」

「それに、周りは皆本選に出ているような人たちだよ。だから、入賞できなくて当然だよ」

「それは……でも、あれくらいできないと」

 

千歌さんはアイスを持ってくると、落ち込んでいる空気を和らげようと振る舞う。まるで、空元気で無理しているかのように。

 

「でも、ルビィもそう思う。まだまだだって」

「マルも……」

「何言ってるのよ。あれはたまたまよ。天界が放った」

「なにがたまたまずら?」

 

ヨハネもこの沈んだ空気をどうにかしようとするけど、ヨハネはヨハネでそれなりに堪えているみたいだった。

すると、千歌さんの電話が鳴る。

 

「高海です。はい、はい、わかりました」

「誰?」

「うん、今日のイベントの人。何か渡し忘れたものがあったみたい」

「……」

「だから、今日の場所にもう一度来れないかって」

 

はぁ、用件はたぶんあれだよね?そうなると、裏方の僕は行かない方がいい気がするかな?それに、あの結果を皆と一緒に聞く勇気はないから。

 

 

~千~

 

 

「ごめんね。呼び戻しちゃって。でも、一応参加グループには渡す決まりになっているから。悪く思わないでね」

 

また今日の会場に戻って来た。沙漓ちゃんは用事があるとかでここにはいない。

スタッフの人に呼ばれると、申し訳なさそうにして封筒を渡された。そして、まだ仕事があるのか、そそくさと戻って行った。その際に、「そう言えば、なんで今年も動員人数と投票人数で投票が一人少なかったんだろ?」とか呟いていた。なんのことだろ?

 

「なんだろ?」

「開けてみよ?」

 

私たちはこの封筒が何かわからず、とりあえず開けてみる。そこには今日参加したスクールアイドルの名前と数字が書かれていた。見た感じ、今日の投票結果のようだった。

 

「Aqoursは何位?」

「ちょっと待って」

 

Aqours……Aqours……一枚目には無いや。そして、二枚目をめくり、

 

“30 Aqours”

 

「三十位」

「最下位、か」

 

二枚目の一番下。Aqoursはそこに書かれていた。全部で三十組ある中で三十位。つまりビリ、か。

 

「投票数は?」

「うん」

 

そして、問題の投票数に目を向ける。

 

“30 Aqours 0”

 

「0人?」

「「「「「え?」」」」」

 

私たちは目を疑った。誰も私たちに投票していなかった。あれ?じゃぁ、沙漓ちゃんは?沙漓ちゃんも観客として見ていたはずだよね?私の疑問はみんなも思ったようだった。

 

「待って!沙漓は?沙漓も投票しなかったって言うの?」

「そう言うことになるね」

 

沙漓ちゃんすらも投票してくれなかった。そのことが私たちの中で渦巻いた。

 

「お疲れ様でした」

「Saint Snowさん……」

 

すると、Saint Snowの聖良さんが私たちに声をかけてきた。

 

「素敵な演奏でした。ですが、もしラブライブを目指すのなら……諦めた方がいいかもしれません」

 

そして、聖良さんはそう言って歩き出し、

 

「バカにしないで!ラブライブは遊びじゃない!」

 

理亜さんも目に涙を浮かべて去って行った。

 

「泣いてたね」

「うん」

 

私たちよりすごかったSaint Snowであの結果。それに比べて私たちは……。

 

 

~☆~

 

 

「沙漓!どういうことよ!」

 

皆が家に戻ってくると、ヨハネはさっそく怒鳴った。うん、嫌な予感はしてた。やっぱり、用件は結果だったみたい。

 

「順位は低かったですか?」

「うん、最下位で……0だったよ」

「……そうですか」

 

僕は知らない振りをしながらそう言った。結果はどうあれ、皆は僕がAqoursに投票していないと分かっているから。言っても、どうせあれだしね。

 

「うん、僕は投票していないよ」

 

僕は極力感情を表に出さないようにしてそう言った。皆には僕を非難する権利はあるから、何を言われたって仕方ない。

 

「なんで、投票しなかったのよ!」

「うん、どのスクールアイドルもいい感じだったからね」

「でも、そこは入れるのが……」

「善子ちゃん」

 

ヨハネは僕への怒りをあらわにし、梨子さんが止める。たぶん、みんな僕に対して何か思っていると思う。

 

「なんで、Aqoursに投票しなかったのよ!なんで……なんで……」

「……ごめん」

 

ヨハネは僕に当たっても仕方がないと思ったのか次第に声を出さなくなった。あー、空気が重い。謝っても、過ぎたことはどうにもならない。

 

「みなさん、そろそろ電車の時間……よ?」

 

すると、奥からお母さんが電車の時間だと伝えに来て、この空気に首を傾げた。お母さんが来たことで、この微妙な空気のまま荷物を取りに行き、

 

「「「「「「お世話になりました」」」」」」

「ええ。また、いらっしゃってくださいね。沙漓、何時でも戻って来ていいのですからね」

「はい」

 

家を出て内浦に戻るために秋葉原を立った。はぁー、この空気なんとかしたいけど方法が無い。そもそも、僕にはそんな力なんてないんだから。

 

 

電車に乗ると、僕はあえてみんなから距離を取って席に座る。近くにいる訳にはいかないし、悩んでいるから。

 

「私は良かったと思うけどな」

「千歌ちゃん?」

「頑張って努力して、それで東京に呼ばれたんだよ?だから私は良かったと思うかな?」

 

電車に乗ってしばらく経つと、千歌さんはそう口にした。そんな千歌さんを見て曜さんは口を開く。

 

「千歌ちゃん……千歌ちゃんはくやしくないの?」

「……ッ!」

「くやしくないの?」

「……それは、ちょっとは。でも東京で、みんなであそこに立てた。だから、私は満足だよ」

「……そっか」

 

誰から見ても千歌さんは無理をしていることがわかった。でも、それを口にすることは誰もしなかった。したら、きっと何かが崩れてしまう予感があったから。

 

 

~ヨ~

 

 

私たちは電車に揺られて沼津まで戻ってきた。ロータリーには千歌さんのクラスメートが待っていた。電車に揺られていた間に重い空気はだいぶ無くなったけど、沙漓はあれ以来一言も口にしていない。そして、今も少し離れた位置で見ていた。まぁ、私もあれだけ時間があれば頭は冷えたけど。

 

「どうだった?東京は?」

「すごかったよ」

「ちゃんと踊れた?」

「うん、ちゃんと踊れたよ」

「そっか。良かった」

 

そして、千歌さんは質問攻めに遭い、

 

「おかえりなさい」

 

生徒会長が来てそう言った。おそらくルビィのことが特に心配で来たようだった。その心配は当たっていた。

 

「お姉ちゃん……うぅ」

 

ルビィは耐え切れなくなったのか生徒会長に抱きつくと泣いた。今まで我慢していたから仕方がない。よくここまでもったと思う。

 

「うぅ……うぁぁん」

「よく頑張りましたわね」

 

生徒会長は頭を撫でて落ちるかせようとした。そして、少し逡巡した。

 

「少しお話をしましょう」

 

生徒会長は何か伝えたいことがあったようで、だれも拒まずに頷いた。

 

 

 

「得票数は0でしたか」

「はい」

「あら?沙漓さんの投票は?投票してくれなかったのですか?」

「「「「「「……」」」」」」

 

近くの川の石段に私たちは腰かけると結果がどうだったのか聞かれ、話すとそう言った。そして、沙漓も投票を入れなかったことを疑問に思ったのかそう口に、みな言葉を詰まらせた。それで、察したようで話を変える。

 

「決して、あなたたちはダメだったわけではありませんわ」

 

そこから、スクールアイドルが今やどういったものとなっているか、二年前に統合の話が浦女にもあったこと、生徒会長と果南さんと理事長で二年前にスクールアイドルとして活動していたことを話され、東京のライブで歌えなかったことが告げられた。

私たちは静かにそれを聞いていた。

 

「そんなことが……」

「あなたたちは歌えただけ立派ですわ」

「じゃぁ、私たちの活動に反対していたのも」

「ええ。こうなる可能性がありましたから」

 

生徒会長はそう言うと、どこか寂しそうな目をしていた。二年前を思い出すかのように。

 

「千歌ー」

 

すると、千歌さんのお姉さんが迎えに来てくれた。

 

「お姉ちゃん」

「みんな、おかえり。乗って、送って行くよ」

 

千歌さんのお姉さんは私たちのことを何も聞かず、いつも通りに接してくれた。たぶん、私たちに気を使ってくれたんだと思う。

そして、荷物を載せると千歌さんが乗り込もうとし、

 

「千歌ちゃん。スクールアイドル、辞める?」

「……」

 

曜さんは千歌さんに聞いたけど、返事をせずに乗ってしまった。それから、梨子さんたちも乗り込むと車が走り出した。

残ったのは私と曜さんと沙漓。

 

「じゃぁ、お疲れさま。今日はちゃんと休みなよ」

「はい。そうします」

「はい。お疲れさまでした」

 

曜さんはそう言って家に帰っていった。すると。私たちも家に向かって歩き出す。さて、じゃぁ、そろそろ。

 

「沙漓、そろそろ本当のことを話してもらうわよ」

「何のこと?」

「投票しなかった……いや、できなかった理由を」

「……いつ気付いたの?」

 

沙漓は淡々とした調子でそう言う。まぁ、そういう訳で沙漓は否定しなかった。

 

「そうね。沙漓の性格から言って、何の理由もなくそんなことをすると思わないから。電車に乗ってる間にそう思ったの。ま、他のグループに投票した可能性もあるけど」

「言っても何の意味もないよ?」

「それでもよ」

「そっか……ヨハネは今回の投票の方法をどこまで知ってる?」

「たしか、客の投票よね?」

「うん。チケットに付いている半券が投票権の役割をしているんだ」

「チケット?半券?あれ?でも、たしか沙漓のチケットは……」

 

投票券がチケットに付いている半券だと聞いて、私は思い出した。沙漓のチケットは……

 

「うん。風に乗って何処かに飛んで行ったよ。みんなの見てる前でね」

「そうよね。じゃぁ、替えの物は無かったの?」

「それは無いよ。チケットは枚数分全てはけてたからね」

 

沙漓は確認作業のように、そう言った。やっぱり、しなかったんじゃなくてできなかったんじゃない。でも、だったらなんで?

 

「じゃぁ。なんでそれを言わない訳?私が沙漓の家で言った時にそう言えばあそこまで空気が……」

「それじゃダメなんだよ。だって風に飛ばされたのは僕の責任。それにね、たとえ今日、風に飛ばされていなくても投票をしなかったと思うんだ」

「え?」

「いつからかわからないんだけど、僕はアイドルの曲を聞いても、好きという感情はあっても、これだ!って感じで響かなくなったんだ。もう、そうなって数年経つよ。去年も一昨年も投票はしていないし」

「じゃあ、いままでも……Aqoursのことを……」

 

沙漓は唐突にそんな話をした。スクールアイドルが好きだけど、心には響かない。じゃぁ、なんでアイドル研究部に?それにAqoursにもなんでいる訳?

沙漓の言葉は言い換えれば、いままでのAqoursの曲も実際には響いていなかったってこと?つまりどうでもよかったってこと?そんなことって……。

 

「ううん。Aqoursは別だった。千歌さんたち三人での初ライブの時に、最初は他のグループと一緒かな?って思ってた。でも、実際はすぐに引き込まれて、これだ!って感じになって、これからも聴いていたいと思った。そして、ルーちゃん、マルちゃん、ヨハネも加入して作った『夢で夜空を照らしたい』のライブでも引き込まれたの」

「そう……じゃぁ、なんで今日のは?」

「今日のはね。なんでか響かなかった。でも、なんでそうなのかわからなくてね。だから、電車に乗ってからずっと考えてた」

「だから、一言も話さなかったのね。それで、理由は見つかったの?」

「ううん、全く。だから。みんなにも申し訳なくてね。理由が分からないのにダメになって、それでみんなを暗くしちゃって。そう言う訳だから、夜も考えてみるよ」

 

話をしているうちに、私たちは家に着き、沙漓は部屋に入ろうとする。

 

「沙漓――」 

「――じゃ、また明日」

「……また明日」

 

 

~☆~

 

 

「うーん。これはどうしたものか……それに、千歌さん大丈夫なのかな?」

 

僕は珍しく、六時前に目を覚ましていた。色々心配事があって寝付けないのが現状。大変眠い。そして、そんなタイミングでSNSに連絡が来る。

 

『沙漓、これを見たら連絡頂戴』

 

なんだろ?こんな時間に?

 

『こんな時間にどうしたの?今日は練習休みでしょ?』

『ちょっと、話したいことがあって。外出れる?』

『うん、ちょっと待ってて、着替えるから』

 

着替えてから外に出ると、マンション前にヨハネがいた。

 

「どうしたの?」

「天命が降りたのよ」

「堕天使なのに天命?」

「それはいいの!」

 

ヨハネはカッコ良さ気なポーズをしながらそう言った。正直、なんで呼びだされたのかいまだによくわからない。

 

「それで、天命って?」

「存続の危機。海岸。集う」

 

ヨハネは簡単に事情を話した。つまるところ、偶然ついさっき起きて嫌な予感があるから、占ったところそう言った予言めいたものが出て、心配だから千歌さんたちのもとに行くというものだった。それと、やっぱり昨日の千歌さんの様子が引っ掛かっているとのこと。たしかに無理してたなぁ。てか、僕も思ってたし。

でも、僕が行っても空気が悪くなるんじゃ?いや、あれだけど。

 

「どうせ、自分が行っても何もできないからとか思っているんでしょ?それを決めるのは沙漓じゃないわ」

「じゃぁ、誰?」

「私たちよ。沙漓はいままで散々私を連れまわしたのだから、今日は私に連れまわされなさい」

 

ヨハネは身勝手にそう言った。僕の事情なんてお構いなし。まぁ、それでこそ堕天使(ヨハネ)だけど。それに、それくらいしないとダメってわかってるんだろうし。

まぁ、行くだけ行って、遠くから見てればいっか。

 

「ちょっと待ってて。荷物とってくるから。それと、ヨハネも学校に行くものも持っておきなよ。あっち行った後にここに戻って来るのも大変だから」

「そうね。ちょっと戻るわ」

「うん、バス停で」

 

ヨハネにそう言うと、ヨハネは荷物を取りに戻って行き、その間に僕も部屋に戻って学校に行く用のバックと制服を畳んで詰めた袋を手に取り、

 

「あっ、これも持ていかなきゃ」

 

机に置いていたノートパソコンも一緒に鞄に入れる。

家を出るとちょうどヨハネも出て来て、タイミングよく来たバスに乗り込む。ほぼ始発だから誰も乗っていなかった。

 

「それで、理由は見つかったの?」

「うん。その結果、すごく眠い。それに、どう話したものかって」

 

ヨハネは昨日考えていたことが解決したのか聞いたから、僕は首を縦に振ってこうていする。結局、どうして昨日のが響かなかったのかわからなかったから、あの時の動画を見直した。そして、どうしてだったのかわかった気がした。でも、それをうまく伝えられる自信は無い。

 

「そう。こっちもなんとかしないとね」

「ん?心配してくれるの?」

「心配するわよ。普段マイペースなあんたがここまで悩んでるんだから」

 

ヨハネはそっぽを向いてそう言う。堕天使なのに人の心配をするって、やっぱり優しいよね。それから、ヨハネは気持ちを切り替えるためにかたわいもない話を振って来て会話をしていた。

ヨハネと話していると、こんな時間なのにバス停で止まり、

 

「あれ?善子ちゃん、沙漓ちゃん?」

 

そこは曜さんの乗るバス停であり、曜さんが乗ってきた。なんで曜さんが?と思ったけど、曜さんも千歌さんが心配で朝一で会いに行くつもりのようだった。

 

「まさか、二人も同じことで考えていたなんてね」

「まぁ、仲間ですし」

「……」

 

曜さんが乗り込んでから、僕は一言も発さなかった。昨日のこともあるから話辛いし、恨んでいると思うから。しかし、そんな僕の考えてることなんて知らない風に曜さんは僕に話しかける。

 

「沙漓ちゃんもそんな感じ?」

「はい」

「そっか。ありがとね」

「……」

 

まるで、昨日のことなど無かったかのように曜さんは僕に接する。なんで、そんな風にできるんだろ?無視するなり、文句を言うなりあると思う。

そんな思いが僕の中で渦巻いていた。だから、僕は我慢できず聞くことにする。

 

「曜さんはなんとも思わないんですか?僕がAqoursに投票しなかったことに」

「沙漓!」

「いいの。Aqoursを近くで見てきたのに、こんなことをしたのに……恨んだりしないんですか?」

「……うん。恨んだりしないよ」

 

ヨハネはこのタイミングでする話では無いと思ったのか僕の名前を呼ぶけど、僕は止まれない。聞かないといつまでも分からないままだから。こういう反応をされるのは嫌だから。そんな僕に、曜さんは静かにそう言った。恨んでない?なんで?

 

「確かに最初はどうして投票してくれなかったんだろう?って思ったよ。でもね、家に帰ってから、ホームページを見たらそこに書いてあったから。あの投票システムのことが。それで、わかったよ。チケットが風に飛ばされたから投票できなかったって」

「でも、それだけじゃ――」

「それに、私たちのライブは他のグループと比べたら見劣りするものだったかもしれないしね」

「曜さん……」

「まぁ、そう言う訳で、別に沙漓ちゃんに対して恨んだりはしていないよ。それは私たちの練習量が足りなかっただけだからね」

 

曜さんはそう言ったけど、きっと納得はできていないんだと思った。でも、それを抜きにしても、今まで過ごした時間からもう気にするのをやめたようだった。それと同時に自分たちの力不足もあると思っているようだった。

でも、僕のこれは曜さんたちの責任じゃないから。何というか申し訳ない気持ちになる。はっきりとした理由がうまく言えないから。それでも、こう言ってくれている曜さんに対してこのままにしておくなんてできない。

 

「……ッ!曜さん。実は……」

「ううん。今は言わなくていいよ。それに、本当のことは皆の居る前で言ってほしいかな?」

 

しかし、曜さんは僕が口にする前にそう言って止められてしまった。それから、誰も口にすること無く時間が過ぎていった。そして、千歌さんの旅館前のバス停で降りると、千歌さんと梨子さんが海の中にいた。何事?

僕たちは階段に荷物を置くと、

 

「あれ?」

「なんでこんなところに?」

 

ルーちゃんとマルちゃんも歩いてきていた。たぶん考えることは同じだったみたい。そして、

 

「せっかくスクールアイドルをしてくれたのに……だから、だから、」

「ばかね。みんな千歌ちゃんの為にやってるんじゃないよ。みんな自分の意思でやってるんだよ」

 

そんな会話が聞こえてきた。梨子さんは僕たちのことに気付いていたのか、僕たちの方を見る。それにつられて千歌さんもこっちを見る。

 

「いこっか」

 

曜さんはそう言って、ヨハネたちと一緒に海に歩き出していった。僕はなんでか歩けなかった。たぶん、僕には行く権利なんてないんだと思う。あと、やっぱり今更ながら何か言われるのが怖い。

 

「そんなとこにいないで、行くわよ」

 

そんなことを思っていたら、ヨハネは歩き出さない僕に気付いて手を握る。

 

「ヨハネ?」

「そんなところにいないで行くわよ。あんたはいつも一歩引き気味なんだから、時にはちゃんと自分の思っていることを口にしなさい」

 

ヨハネはそう言って引っ張って、海の中に入って行く。そして、千歌さんを囲むように集まった。

 

「皆と一緒に歩こ?一緒に」

「うわぁぁん」

「今から0を100にするのは無理かもしれない。でも、もしかしたら1にすることはできるかも。私も知りたいの。それができるのか」

「……うん!」

 

どうやら、千歌さんはすでに梨子さんに言いたいことを言って、梨子さんもそれを聞いてちゃんと答えたようだった。そして、風が吹くと同時に雲間から太陽が覗く。皆は太陽を見て笑顔になる。あぁ、やっぱり、これだったんだ。

 

「千歌さん……みんな、じつ……って、うわっ」

 

僕は昨日のことを謝って、ちゃんと言おうと口を開くと何かが僕の目にくっついて視界が真っ暗になる。僕はバタバタしながら目に付いたものを取ると、

 

「あれ?」

 

それは、あのイベントのチケットだった。それも、

 

「あっ、風に飛ばされた僕のやつだ」

 

チケットの端っこにヨハネのサインの書かれたやつ。こんなところまで飛んでくるものなのかな?みんな、僕が何か話そうとしてからのこれだから視線が集まる。ヨハネはチケットを見て察する。

 

「チケット?って、もしかして……」

「えーと……はい。これが無いと投票できなかったんで。それと――」

 

それから僕たちは海から上がって、僕は昨日ヨハネに話したことを伝えた。投票が物理的にできなかったこと。スクールアイドルの歌が心に響かなくなっていること。でも、Aqoursの歌は響いたこと。なんでか昨日は響かなかったこと。

みんな僕の話を聞いて暗い顔をする。まぁ、これだけ聞けばそうなるのはわかってた。だから、ここから先はまだ話していないこと。

 

「それで、わかったんです。どうしてそうだったのか」

「わかったの?」

「うん。昨日の曲はみんな心の底から楽しんでいなかったんです。だから、だと思います」

「楽しんでない?」

「これはただの僕の思ったことだから、違うかもしれません。でも、昨日はみんないい結果を残そうということに意識がいっていたと思うんです。そのせいで心の底から楽しめていなかったと」

「……うん。そうかもしれない。私はみんなを引っ張らないと、って焦ってた」

「これは、ある人が言っていたんです。アイドルはお客さんを楽しませる、笑顔にさせるモノだって。僕はそれに加えて、まずは自分自身が楽しまないと誰も楽しませることはできないって思うんです」

「自分自身が楽しむ?」

「だから、また見せてください!僕の好きなAqoursの……みんなの心の底から楽しんでいる歌を。僕はAqoursのファンですから!」

 

僕は思っていることをありのまま伝えた。これでいいのかな?まぁ、これで何か文句を言われたらその時かな?

 

「うん!任せて」

 

でも、僕の心配した通りにはならなかった。千歌さんがはっきりとそう言ってみんなも頷いたから。ふぅ、これで何か言われたら正直たぶん何も返せなかったと思うからよかった。

 

「というか、沙漓ちゃんが初めてちゃんと思っていることを話してくれたような?」

「そうでしたっけ?」

「まぁ、そうだね」

「そうずら」

「確かに」

「そう言えばそうかも」

 

すると、皆が僕ににじり寄って来る。あっ、まずい。嫌な予感がする。

 

「あっ、逃げた」

 

だから、僕はこの場から退散しようとその場を離れた。しかし、僕の逃亡を予期していて少し離れた位置に移動していることに気付かなかった。

 

「沙漓、逃がさないわよ!堕天龍鳳凰縛!」

「やーめーろー」

 

だから、僕の目の前に移動したヨハネに捕まった。ヨハネ、それはコブラツイストなのでは?僕はジタバタ暴れたが、どこで覚えたのか振り解けなかった。

そして、そんな僕たちを見て五人は笑っていた。うん、やっぱり僕はシリヤスよりこういうのんびりとした日常の方が好きかな?あっ、もう無理。寝不足と運動不足で視界が……。

 

「ちょっ、沙漓?さりー」




次回は近々投稿予定です。
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