のんびり天使は水の中   作:猫犬

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日常回です。
梨子ちゃんが犬を克服しようとする話です。


二年生と沙漓

「ナポリタン、おまちどうさま」

「よっと。うどんあがったよ」

「こっちの食器は洗い終わってるから、よそって出しちゃいましょう」

「そうだね」

 

僕と二年生三人はせかせかと三津シーパラダイスで働いていた

千歌さんは応対、曜さんは調理、僕は皿洗い、梨子さんはできた料理を皿によそうのを担当して回していた。

正直、今日だけのバイトだけで飲食エリアを任せるのは平気なのかな?

 

「次はうどんねー」

「りょうかーい」

 

僕たちが三津シーでバイトをしている理由は貰える部費と衣装の材料費がつりあっておらず、このままでは次の曲の衣装が作れない恐れがあったからだった。

そんな中曜さんが見つけてきたのが今日だけの三津シーのバイトだった。ちなみにルーちゃんたち三人はこの場にはいない。というか、このバイトの定員が四人でこうなった。

 

「というか、この前は“0”を“1”にしようって決めたのに、こんなことしてていいんですかね?練習しなくて」

「一日くらいなら平気だよ。それに、資金がないと衣装の材料も買えないしね」

「そうだよ。それに、今日は元から練習は無しの休みの日にしてたし」

「別に資金集めなんて僕だけに任せてもいいのに……」

「一人だけにそんなこと任せられないよ。それに、浦女は基本的にバイト禁止だし」

 

マネージャー的立ち位置の僕一人に資金集めを任せればいいのに、三人ともその意見は否定する。

そして、曜さんが言った基本バイト禁止がある訳だから、どうせ僕の提案は通らないんだけど。今回のバイトだって衣装代の補てんという名目でアイドル研究部の活動ってことにしてるし。たぶん、普通にやれば黒澤先輩に止められるオチが見える。理事長に直接通すのもありではあるけども、たぶん未然に阻まれるだろうし。

そんなわけで、僕一人では無理なのでした。

 

「さて、そろそろお客さんも増え始めるだろうし、忙しくなるよ!」

「そうだね」

「頑張るわ」

 

曜さんがそう言ったことで、気持ちを切り替えると僕たちは仕事をこなしていくのだった。

 

 

「ひっ!」

 

閉園時間を迎えた後、僕たちはショーステージの掃除作業に移っていた。一日限りで、やたらと時給がいいと思ったら、まさかこういうことだったとは。いや、人数が多いし問題は無いけど。

そして、床掃除をしていたところでアザラシがやって来て、ご飯をあげることになった。ちなみに僕は離れた場所にいる。アザラシの方が逃げていく可能性があるしね。近づかなければまだ警戒される可能性がないという状態がある訳で、僕はそれを信じて近づかない。近づいて逃げられたらいやだし。

梨子さんが小魚をあげようとしたところで、梨子さんがアザラシの顔を凝視するなり、悲鳴に似た声を上げた。そして、急に声を上げたことでアザラシは興奮し、梨子さんに近づくと梨子さんは逃げ、アザラシは梨子さんの持つ小魚が欲しいから追いかける。

 

「うわっ」

「アオッ」

 

そして、梨子さんは一直線に僕の方にやって来て、アザラシはそばに来ると急ブレーキをした。

 

「もう、やだ……梨子さん。小魚を早くあげてくださいな」

「あっ、うん」

「アオォ」

 

梨子さんは小魚を投げると、アザラシは少しジャンプして空中キャッチをすると、次なるエサを求めて曜さんたちの方に行く。

 

「アザラシって少し犬に似てるよね」

「それはわかりかねますね」

「あはは。沙漓ちゃんも大変だね。動物が好きなのに、好かれなくて」

 

梨子さんはさっきの僕の発言がアザラシに怖がられたからだと思っているようだった。半分は合ってるけど、もう半分は外れてるんだよねぇ。

 

「梨子さんが自然に僕を動物避けに使ったことが……」

「あ」

「こうして、アザラシにも警戒されることが判明したのでした」

「沙漓ちゃん?」

「ふふふふふ」

「さりちゃーん」

 

 

~千~

 

 

「ワタちゃん、こっちに来ないよね?」

「平気じゃないかな?隣に沙漓ちゃんがいるし」

「曜さん、自然に僕を動物避けにカウントしないでくださいな」

「でも、現にワタちゃんには前に警戒されてたよね?」

 

三津シーのバイトが無事終わり、チカたちは松月に来ていた。すぐに帰るのもありだけど、せっかくだから行きたいと三人で言ったからここに来た。梨子ちゃんとしては、ワタちゃんがいるから極力来たくないらしいんだけど。

 

「もしかしたら今日は警戒されない可能性があるじゃないですか」

「沙漓ちゃんはポジティブだね」

「でもワタちゃん来ないね」

「あっ、いた」

「ひっ!」

「今日こそ!」

 

すると、奥からトコトコとワタちゃんがやってきた。身構える梨子ちゃんに、リベンジに燃える沙漓ちゃん。そして、のんびりとそれを眺めながらケーキを食べるチカと曜ちゃん。

 

「るーるるるー」

「沙漓ちゃんはそれをしないと気が済まないの?」

「気分ですので」

 

沙漓ちゃんは椅子から立ち上がると姿勢を低くして手を差し出し、曜ちゃんのツッコミに返答しつつ近づく。

 

「わうっ!」

「にゃっ!」

 

そして、吠えられたことで沙漓ちゃんは変な声を上げて尻餅をつく。なんで、そんな声が出たの?そして、ワタちゃんは梨子ちゃんの方に逃げてくる。さっきまでは沙漓ちゃんが隣にいたけど、今は隣から離れているせいで遮るものはない。

 

ガタッ

 

梨子ちゃんは椅子の上に体育座りをするような形でワタちゃんを避ける。確かに、ワタちゃんは小さいから椅子の上にいる限りは絶対に襲われるなんてことは無い……はず。

ワタちゃんに吠えられて拗ねてる沙漓ちゃんと震えるように椅子の上に座っている梨子ちゃんを見ると、立ち上がってワタちゃんを抱っこする。

 

「梨子ちゃんはあいかわらずなんだね」

「ワタちゃんはこんなに可愛いのに」

「小さくてもダメなのよ!犬にはその鋭く尖った牙があるんだから」

「梨子さんってどうしてそんなに犬がダメなんですか?」

「あっ、復活した」

 

曜ちゃんと一緒にワタちゃんを撫でながらそんなことを言うと、いつの間にか復活した沙漓ちゃんは梨子ちゃんに対してそう問う。

それによってチカと曜ちゃんも「そういえば」みたいな顔をして梨子ちゃんの方を見る。

 

「いやー。あはは」

「梨子さんはいいなぁ。犬に好かれて。僕は好かれないのに……」

「で、沙漓ちゃんはまた拗ね始めた」

 

梨子ちゃんは言っても仕方のないことなのか苦笑いを浮かべて誤魔化し、沙漓ちゃんは拗ね始める。

 

「梨子ちゃん、教えてよぉ。それとも思い出したくないほどのことがあったとか?」

「そう言う訳じゃないんだけど……はぁ」

 

ここまで来るとどうしても知りたくなり、ワタちゃんを床に降ろすと近づく。困って助けを求めるように曜ちゃんを見るも、曜ちゃんも知りたいのかじーっと梨子ちゃんの方を見て、誰も助けてくれない状態になる。

 

「そんなに楽しい話じゃないよ?」

「でも、梨子ちゃんのことを知りたいから!」

「うんうん」

「じゃぁ、話すね」

 

そうして、梨子ちゃんは渋々と言った感じで話し始めたのでした。

 

~梨~

 

 

あれは私が小学生低学年の頃だった。その頃からピアノを習っていて、その日も近くのピアノ教室で練習していた。

 

私は外で遊ぶよりも部屋の中で遊ぶほうが好きで、だから部屋の中でお絵かきをしているような女の子だった。ある日、ピアノを演奏している音楽番組を見てその音色に心を打たれ、興味を持った。それから、お母さんに言うとお母さんは私の意思を尊重してピアノ教室に通わせてくれた。それから、私はピアノを弾き始め、ある日お母さんが大きなピアノを買ってくれて、家でも弾き続けた。私はピアノを弾いているのが楽しく、ピアノをうまく弾けるとお母さんと先生が褒めてくれてうれしかった。

 

「あっ、ワンちゃん」

 

その日の練習を終えた私は途中の公園で寝転んでいる犬に気付き近づいた。いつもはお母さんと一緒だったんだけど、その日はお母さん一緒じゃなくて一人だった。

 

「ワンちゃんさーん」

 

ベンチのそばで寝転がっているのは中型犬で、今思えば近づくべきじゃなかった。あの犬には首輪が無くて野良犬で、でもそんなことには気づかずに興味本位で近づいたことで、顔を上げて私を見た。

でも、犬の方は私を一瞥しても動くことは無くて、だから私は撫でようと手を伸ばした。

 

「ガウッ!」

「きゃっ」

 

そして、もう少しで触れそうになったところで犬が動き出す。犬は私に触られるのが嫌なのか一吠えしたことで私は驚いて身を引いた。その際に尻餅をついてしまう。

犬は立ち上がるとのそのそと近づいて来ると、時折口を開いてチラチラと鋭い歯が見え、

 

「グルル」

「いや……」

 

私はその鋭い歯に恐怖を感じて、動けなくなる。対して、犬はじわじわと近づいてくる。そして、飛びかかろうと犬は地面を踏みしめ、私はこのまま襲われるのだと恐怖して涙がこぼれる。

 

「うぅ……」

「あっ、ワンちゃん!」

 

しかし、犬が動く直前に私よりも一、二歳年下に見えるこげ茶の長髪の女の子が走ってきたことで犬の視線がそっちに向く。私はこのままじゃあの子が襲われると思うが、私の心配は無駄に終わった。

 

「ワウッ」

「あー、また逃げられちゃった」

 

何故か犬は少女がさらに近づくと後退り逃げていった。どうしてあの女の子から逃げていったのかわからないけど、とりあえず助かったことに安堵する。

私は涙を拭いて立ち上がると、助けられたことに対してお礼を言おうと口を開く。しかし、女の子は今私に気付いたのかハッとする。

 

「えーっと……さよなら」

「え!?」

 

女の子は一目散に逃げるように去って行き、私一人公園に取り残された。どうしてあの子が逃げるように去って行ったのか分からず、私はとりあえず家に帰ったのだった。

 

 

~曜~

 

 

「それ以来、私は犬を見るとまたあの時みたいになるんじゃないかってなって……」

「だから梨子ちゃん犬がダメになっちゃったんだ」

「うん」

 

梨子ちゃんから犬がダメになった原因の話を聞いたことで、私は納得した。そんな怖いことがあれば、確かにダメになったのも納得かも。

 

「もし、あの時あの女の子が来てくれてなかったら襲われて、怪我したかもって思うとね」

「そっか。それにしても、その女の子も気になるね。梨子ちゃんを見て逃げるように走り去って行ったって」

「もしかして恥ずかしがり屋さんだったのかな?」

「さぁ?でも、その子とはそれ以来出会ったことが無いんだよね」

「そんなことがあって犬がダメになったんですね。僕も幼い頃から動物から逃げられてたんですよねぇ」

 

沙漓ちゃんはケーキを食べながらそう言う。すると、隣に座っている千歌ちゃんは腕を組んで考えるような素振りをして、「うぅ」と唸っていた。あっ、なんかする気かな?

 

「うーん。でも、いつまでも犬がダメってのもねぇ。できれば克服したいとか思わないの?」

「いつまでもこのままじゃダメだとは思うけど、やっぱり怖いし……」

「そっか。じゃぁ、梨子ちゃん。特訓しよう!」

「え?」

 

すると、千歌ちゃんが少し考え込んでそう言った。いつも通り唐突な発言に梨子ちゃんは驚きの声を漏らす。私もまさか千歌ちゃんがそんなことを言い出すとは思わなかった。ちょくちょくしいたけを梨子ちゃんにけしかけていた気もするけど。

 

「しいたけなら人を噛むことは無いから安心して練習できるし」

「はいはーい。僕もしいたけちゃんモフりに行っていいですか?」

「沙漓ちゃん、しいたけでもリベンジしたいんだ」

「いいよ、沙漓ちゃんもがんばろー」

「おー」

「お、おー」

 

こうして、梨子ちゃん犬克服作戦が開幕したのでした。

 

 

~梨~

 

 

「本当に噛まないよね?」

「平気、平気。しいたけは人を噛んだりしないから」

「でも、のしかかりはしますよね」

「まぁ、それでもするのは舐めるくらいだし……」

 

千歌ちゃん家の前に来た私たち。玄関前にはしいたけちゃんが小屋に半身出した状態で寝ており、私は恐る恐る近づく。

いつまでもこのままではダメだという自覚はあるから、頑張ろうと思うけど、あの時の恐怖がよみがえって来てあまり近づけない。

三人は少し離れた位置から見守ってくれているけど、怖いものは怖い。

 

「うーん。厳しい戦いになりそうですね」

「そうだね」

「しいたけ、おとなしくしててね」

 

三人はそんなことを言い、私はじりじりとゆっくりと近づいて行く。

しいたけちゃんは私がジリジリ近づいても、千歌ちゃんの言いつけを守っているのか一切動かない。だから私は頑張って腕を伸ばしてしいたけちゃんの頭を触れ、

 

「やった!梨子ちゃんがしいたけを触れた!」

「うん!やったね、梨子ちゃん」

「いいなぁ」

 

しいたけちゃんに私から触れたことで千歌ちゃんと曜ちゃんは喜びで大声を出し、沙漓ちゃんは羨ましそうにしていた。

しかし、ここで私に悲劇が……

 

「わうっ!」

 

二人が大声を出したことでしいたけちゃんが反応して立ち上がる。私は腕を伸ばした状態で固まり、しいたけちゃんの頭の毛に手がうずまる。

そして、

 

「わぅぅ」

「きゃぁー!」

 

しいたけちゃんは私に向かって跳びかかってきたのだった。

やっぱり、犬は無理ー!

 

 

「うぅ、ひどい目に遭った」

「あはは。でも、しいたけは噛まないことが分かったでしょ?」

 

千歌ちゃんの部屋でタオルを使って顔をごしごし拭きながら呟くと、千歌ちゃんは苦笑いを浮かべてそう言う。しいたけちゃんに飛びかかられた私は、顔をしいたけちゃんにひたすら舐められてしまった。噛まれることは無かったけど、べたべたに。

 

「いいじゃないですか、梨子さんは。僕の場合は近づいただけで逃げられて触ることもできないんですから」

「沙漓ちゃんの場合は一体動物に何したの?」

「うーん。特に覚えがないんですよね。気づいた時には動物が近寄らなかったので」

「沙漓ちゃんの動物に好かれない体質がうらやましいよ」

「僕的には梨子さんの犬に好かれる体質がうらやましいですよ」

 

沙漓ちゃんは千歌ちゃんのベッドの上に座って足をパタパタさせて私を羨ましがる。言った通り、私は沙漓ちゃんの体質が羨ましい。あの体質があれば、犬に近づかれることもないだろうし。

 

「二人とも無い物ねだりはやめなよ」

「無いからこそ欲しいんですよ」

「そうよ!」

「まぁ、その気持ちは私もわかるけど」

「それで、梨子さんは犬嫌いを克服できたんでしょうか?」

「どうだろ?しいたけからは逃げる様に離れちゃったけど」

「無理!無理!やっぱり犬は無理!」

「ダメっぽいね」

 

私はしいたけちゃんに舐められたことを思いだすと、首を振って否定する。噛まれないとしても、襲われたことに変わりないわけだから!

 

「うーん。しいたけなら難易度が低いと思ったのに」

「まぁ、気長にやるしかないですね」

「えっ?まだ、これ続くの?」

「「うん」」

「はい」

 

三人は同時に頷き、私は嫌になる。これからもこんな感じで色々やらされるってことなのぉ?

 

「わっ!」

「わっ!なんで、しいたけちゃんが?」

 

唐突に部屋に現れたしいたけちゃんに私は飛び上がると、ベッドの上に逃げる。その際に沙漓ちゃんの後ろに行く。

 

「梨子さん……だから、自然に僕を動物避けに……はっ!」

「沙漓ちゃん、何を思いついたの?」

 

沙漓ちゃんは普通に動物避けにされたことに対して、半目で私を見るも、何か思いついたのかそんな表情をする。

なんだか、嫌な予感がするんだけど……。

 

「今ならしいたけちゃんを触れる気がする……」

「はい?」

「ふぇ?」

「ん?」

 

沙漓ちゃんの発言に私たちは首を傾げ、その間にものそのそと沙漓ちゃんはしいたけちゃんに近づく。あっ、離れたらしいたけちゃんが来ちゃう。

 

「るーるるるー」

 

沙漓ちゃんの声にしいたけちゃんは反応し、のそのそと近づき、

 

「わんっ!」

「うわっ!」

 

背を低くしていた沙漓ちゃんの背中を踏んでそのまま私の方に跳んで来て……

 

「いやぁー!」

 

私の悲鳴が旅館に木霊したのでした。

 

「わぁー。しいたけ、ベッドの上に上がっちゃダメー」

「モフモフー!」

「曜ちゃん、しいたけを引き剥がすのを手伝って」

「了解であります!」

 

沙漓ちゃんは私を襲っているしいたけちゃんを撫でようとにじり寄り、千歌ちゃんと曜ちゃんは私からしいたけちゃんを引き話そうとするのでした。

 

やっぱり犬は無理だよ!




結局犬の克服ができない梨子ちゃんでした。まぁ、このタイミングて克服するわけにはいかないので。
結局、梨子ちゃんが犬がダメな理由は明かされてないので、これは想像ですのであしからず。
では、ノシ
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