のんびり天使は水の中 作:猫犬
「夏祭り?」
「うん。沼津の夏祭りのステージで歌わないか?って」
あれから数日が経ち、休日のある日。千歌さんは旅館の受付をしているから動けず、とりあえずミーティングと称して集まっていた。そこで話されたのが夏祭りのことだった。沼津だし、見る人は多いかな?話に聞くと結構大きい祭りらしいからAqoursの名前を広めるのにはいいと思う。
ヨハネは東京で堕天使ショップに行った事で、堕天使方面に精神侵食されたっぽいから長椅子に寝ころびながら反応する。
あの海に集まった後、そう言えばと僕はAqoursのファンだから0じゃなくて1なんじゃ?と聞いたら、Aqoursのメンバーなんだから無効じゃない?と言われてしまった。うん、なんとなくそんな気はしてた。
そして、海でのあの日以来、僕の部のスタンスが微妙に変わっていた。と言うか、お姉ちゃんが園田海未だと判明したからか、µ’sのことを聞かれることが多々あった。でも、µ’sの誰かに会わせてとは誰も口にしない。たぶん、それは迷惑になるってわかっているからだと思う。ちなみにAqoursメンバー以外には言ってない。言う必要も無いし。
「私は練習に集中した方がいいと思うけど」
「千歌ちゃんは?」
「うん、私は出たいかな?」
「そっか」
「今の私たちの全力を見てもらう。それでだめなら、また頑張る。それを繰り返すしかないかな?」
「ヨーソロー。賛成であります!」
「ギラッ」
「それにね、私はスクールアイドル……みんなと一緒に踊るのが好き。だから、皆とライブをしたい!」
「そうだね」
千歌さんは思っていることを口にした。あの日以来、千歌さんはため込まずに思ったことをちゃんと口にするようになった。だからか、Aqours全体の空気も以前より良くなり、一層結束が固くなったと思う。
「千歌ちゃん、練習行っていいわよ」
「いいの?」
「ええ。みんなを待たせてるんだから」
志満さんが奥から来ると、千歌さんと受付を交代してくれた。というか、たぶん受付に人はいなくてもいいと思う。呼び鈴もあるし、しいたけちゃんも表にいるから、何とかなりそうだし。
そういうわけで、海岸に出た。
「それにしても、果南ちゃんはなんでスクールアイドル辞めちゃったんだろ?」
「言ってたでしょ?東京のライブで歌えなかったって」
「そうだけど……でも、それで諦めるタイプじゃないんだよね」
すると、千歌さんは果南さんのことを思ったのかそう言う。あー、そう言えば、まだ果南さんは話していないんだった。でも、約束だから僕から言うことは無いかな?
「もう少し、わかればいいんだけどね」
「……そうだ!ルビィちゃんは何か知らない?」
「そっか、ダイヤさんの妹だから、家で何か……」
「ピギィ!」
もう少し情報が欲しいという話になり、ルーちゃんに話が振られる。確かに、ルーちゃんなら何か聞いていそうかも?でも、スクールアイドルのこと隠してたし……。
すると、ルーちゃんは何故か逃走した。
「逃がさないわよ。堕天流秘技、堕天龍鳳凰縛!」
「ピギャー」
「やめるずら」
「はい」
逃走したルーちゃんをヨハネは追いかけて拘束する。拘束したヨハネをマルちゃんが止める。ヨハネのあの技って、やっぱりコブラツイストだよね?
「ルビィが聞いたのは、鞠莉さんと話をしていたことで。逃げるがどうとかしか」
拘束から解かれたルーちゃんは言っていいのかわからないながらそう話した。逃げるねぇ。
「逃げる、か」
「逃げるねー、何のことだろ?」
「さぁ?」
「やっぱり、直接聞きに行く?」
誰も、何から逃げるのかがわからず首傾げる。その結果、直接聞きに行くという意見が出たけど、たぶんはぐらかされると思う。皆もそう思ったのか、この案は却下され、どうしたものかといった空気が流れる。
「それに、今の時間はお店の仕事中だろうから邪魔になるよね?」
「とりあえず、練習しません?果南さんたちも心配ですけど、こっちも夏祭りに向けて練習しないとですし」
「それもそうだね」
「それと、直接聞くのはあれなので、まずはこうするのはどうですか?」
どうして解散したのか、果南さんから聞いている僕は、でも下手なことは言えないので、ある提案をした。他言がダメなだけで、皆が探すのは問題ない……はず。
~千~
翌朝。私たちは淡島に来ていた。沙漓ちゃんの提案は果南ちゃんを尾行するというものだった。理由は諜報活動の基本は張り込みと尾行だからとのこと。そうなのかな?
早朝だから、眠い。皆も眠そうにしている。沙漓ちゃんに関してはここまでどうやって来たのかわからないレベルで、目がほとんど閉じたような状態。たぶん、何処かに座ったら寝そう。たぶんこれ伏線。
「本当に果南ちゃん毎日、ここを走っているんだね」
「マルは眠いずら」
皆それぞれの反応をし、果南ちゃんが走り出したので私たちもばれないように追いかける。
果南ちゃんは一定のペースで走り、何処か楽しそうだった。でも、一定のペースとはいえ、やたらと速いから追いかけるのだけで一苦労。やっぱり、毎日走るとこうなるのかな?
淡島周りのコースで、半分ぐらい来たところで振り返ると曜ちゃんはまだまだ平気そうで、梨子ちゃんと善子ちゃん疲れが見えるけど何とかなりそう?ルビィちゃんと花丸ちゃんは途中で力尽きそうだった。でも、みんなついて来て……あれ?沙漓ちゃんは?と思ったら沙漓ちゃんの姿が見えなかった。私が振り返って疑問顔をしたことで皆も振り返り、みんな沙漓ちゃんがいないことに気付いた。
「沙漓ちゃんは?」
「沙漓なら、走れないから、待ってる、って」
善子ちゃんは聞いていたのか、息を切らしながらそう言った。だったら、先に皆に言っておいてほしかったよ。そうして、淡島神社の階段を果南ちゃんが登り始め、私たちも登った。一番上に着いて振り返ると、少し下で梨子ちゃんと曜ちゃんがいて、ルビィちゃんたちはもう少し下にいるようだった。
果南ちゃんは神社の前でステップを踏む。とても綺麗なステップで。今日気が向いたから踏んでいるというよりは、定期的にやっていそうな感じだった。振り向くと、皆登り終え、果南ちゃんのステップに目を奪われていた。そして、
「なんで、沙漓ちゃんはあんなところに?」
沙漓ちゃんは木々の隙間からこぼれる日の光の当たる位置にレジャーシートを敷いて寝ていた。いや、なんでそこで寝てるの?果南ちゃんの位置からだと見えなそうだけど。
パチパチパチ。
果南ちゃんが止まったところで、何時の間にかそこにいた鞠莉さんが拍手をする。あっ起きた。
「やっと、復学届をだしたのね。逃げるのを止めたのかしら?」
「それは父さんの怪我がもとで、退院したからね。でも、復学してもスクールアイドルはやる気は無いから」
「私の知っている果南は、どんな失敗しても諦めず笑顔で何度でも挑戦し、成功するまで諦めなかったわ。それに後輩だっている」
鞠莉さんは果南ちゃんともう一度スクールアイドルをやりたいようだった。だから、その為に説得を試みる。私だって、果南ちゃんとスクールアイドルをやりたい。
「だったら、千歌達に任せればいいでしょ?私は……鞠莉がここに戻ってこないで欲しかった」
「……果南」
「じゃぁね」
果南ちゃんはそう言って後にした。私たちは階段にいる訳で……
「千歌……それにみんなも……練習頑張って」
果南ちゃんは私たちがここに居ることは追及せず、階段を下りて行った。やっぱり、果南ちゃんはスクールアイドルが嫌いなのかな?
「あなたたち……練習頑張ってね。それと、果南のことよろしくね。あと、あの子も」
鞠莉さんもいつもと違って低めのテンションでそう言うと、一回沙漓ちゃんを見てから帰っていった。やっぱり、さっきの果南ちゃんの言葉はきつかったのかな?
すると、レジャーシートを畳み終えた沙漓ちゃんが私たちのもとへやって来る。
「うーん。不穏な空気ですね」
「そうだけど……沙漓ちゃんはなんで、あんなところにいたの?」
「えーと。果南さんを追いかけるのは不可能なので、たぶんここに来ると思って待っていようと思い、それでレジャーシートに座って待っていて。そしたら、鞠莉さんが来て。少し話をしてたら、鞠莉さんが「眠かったら寝ていなさい」って言ったのでお言葉に甘えて寝ました」
「はぁー」
なんというか、うん。マイペースだね。それに、前まで理事長呼びだったのに、鞠莉さん呼びになってるし。
「それにしても、果南さんはちょっとひどいと思います」
「さすがに可哀想ずら」
「逃げてる、か」
「梨子ちゃん?」
「ううん。なんでもない」
話は変わって、どうして果南ちゃんがあんなことを言ったのかという話になった。みんな果南ちゃんが鞠莉さんに言ったことは流石に可愛そうと思ったようだった。私もそう思うけど、果南ちゃんがただ突き放すとは思えないんだよね?何か理由があるのかな?
梨子ちゃんは梨子ちゃんで何か考えているけど聞いたらはぐらかされちゃった。
「そう言えば、沙漓ちゃんは何か聞いてないの?鞠莉さんと話してたんでしょ?」
「話したと言っても、どうしてこんなところにいるかとか、今日は暖かいですねとかですよ」
「そうなんだ。何か知ってるのかと思たんだけどなー」
~ダ~
今日から果南さんが復学する初日。鞠莉さんと果南さんが教室ではち合わせた結果、鞠莉さんが果南さんに問い詰めて一触即発な状態に。はぁー、なんでこうなるのやら?
「果南!スクールアイドルをやってもらうわよ!」
「嫌だ!私は絶対やらないよ!」
「なんで嫌なのよ!」
「嫌なものは、嫌なの!」
「なんでよ!」
「なんでも!」
鞠莉さんがあの時の果南さんの衣装を出して、そう言うと当たり前ですけど拒否をする。
そして、衣装を掴むと窓際に寄って投げ捨てる。流石に投げ捨てるとは思わなかったから、私と鞠莉さんは驚いた。
「放して!」
「放さない!」
それからは取っ組み合いに発展し、騒ぎを聞きつけてか他の学年の生徒が廊下に集まっていた。その中には千歌さんたちの姿もあった。何故か曜さんは先ほどの衣装を手に持っていた。わざわざ拾ってきてくれたのでしょうか?
そして、千歌さんは教室に入って来るなり、
「いい加減にーしろぉー」
大声で怒鳴った。まぁ、幼馴染が喧嘩をしていれば止めたい気持ちになるのはわかりますけど。
「いつまでもよくわからない話を……隠してないで話なさい!」
「千歌……千歌には関係ないでしょ?」
「関係、あーります」
「ですが」
「果南ちゃん、ダイヤさん、鞠莉さん。後で部室に来てくださいね」
「でも……」
「い!い!で!す!ね!?」
「「「はい」」」
私たちは千歌さんの迫力に負けて、頷くとホッとした様子で胸を降ろした。
「すごい。上級生に向かって」
「あっ」
どうやら、無意識でやったことのようで今更自分がしたことに気付いたようでした。どこまで、ハチャメチャなのやら?
~鞠~
「あの日、東京のイベントで歌えなかったのではなく、歌わなかったのですわ」
ちかっちに言われて部室に集められた私たちはそこでも果南と喧嘩し、今はダイヤの家に来ていた。善子のあの技は一体何なのやら?そして、第一声でダイヤはそう言った。どういうこと?私たちは会場の空気に負けて歌えなかったでしょ?
「鞠莉さんは覚えていませんの?あの日、鞠莉さんは練習のしすぎで足を怪我したことを」
「それは……」
あの日、確かに私は足を挫いていた。少し痛かったけど、踊れないことは無いからと伝えたはずよ!
「私はそんなことして欲しいなんて一言も」
「ですが。もし、続けていたらどうなっていたか。最悪、事故になっていた可能性も」
「でも……」
それは果南とダイヤの想像でしかない。もしかしたら事故にならずに踊り切れたかもしれない。
「じゃぁ、なんでその後はスクールアイドルを辞めたんですか?」
「そうだよ。怪我が治ったら続けてもよかったんじゃ?」
「そうよ。花火大会に向けて新しい曲作って、ダンスを、衣装を完璧にして。それなのに……」
「果南さんはあなたのことを心配していましたのよ。あなた、留学や転校の話が出るたびに毎回断っていましたよね?」
「当たり前じゃない!」
「果南さんは思ったのです。このままでは鞠莉さんの未来の可能性が奪われてしまうんじゃないかと」
「まさか、それで?」
果南が心配していた?そんな素振りなんて。
それに留学や転校?そんなのどうでもいいわよ。果南の方が大切なんだから。私の未来は私のモノよ!だから、私が決める。それなのに、果南は勝手に決めつけた。
だから、私は立ち上がる。
「何処に行く気で?」
「果南をぶん殴る」
今すぐ果南に一発入れないと気が済まない!こんな大事なことを黙って、勝手に決めて。
でも、ダイヤは私を止める。なんでよ!ダイヤは果南の味方な訳?
「おやめなさい。果南さんは誰よりもあなたのことを見て来て、心配していましたのよ。あなたの気持ちを、立場を誰よりも考えて」
果南が誰よりも私のことを考えていた?だったら、なんで何も言ってくれないのよ!どうして……
「どうして言ってくれなかったの?」
「果南さんはちゃんと伝えていましたよ。態度で、時に言葉で。しかし、あなたのことを考えて本当の気持ちだけは隠して。だから、次はあなたがちゃんと果南さんに伝えて下さい。それでしたら、私は行くことを止めませんわ」
ダイヤはそう言うと、それ以上は何も言わず、私の選択に委ねた。果南に私の気持ちを伝える?やってやろうじゃない!
そして、私はダイヤの家を出て浦女に向かって走った。部室に着くと、消えずにかすかに残ったあの日の“歌詞”が残っていた。
走っている間、私はあの日のことを思い出し、この歌詞を見て果南との日々を思い出す。そっか、私は果南のことが……。
~☆~
「果南さん……」
「どうしたの?こんなところまで。みんなは?」
僕は一人果南さんを追いかけて果南さんのもとにやってきた。最初は果南さんの家に行ったけど留守だったから、もしかしたらと思って淡島神社に来たらそこにいた。
「今頃、ダイヤさんからあの日の真実でも聞かされていますよ」
「そっか。なんで、沙漓ちゃんはここに?」
僕と果南さんは雨が降りだしたから、社の屋根の下に入って雨宿りをする。
果南さんはそんな気がしていたのかあまり驚かなかった。僕が一人でここにきたのは、一つは前に果南さんの口から聞いていたから。そしてもう一つが
「果南さんのことが心配だからです」
「心配だった?」
「はい。本当は鞠莉さんのことを大切に思っているのに突き放してしまったから、傷付いてるんじゃないかって」
「まぁ、ね。でも、鞠莉も鞠莉だよ。私がどんな気持ちであの日歌わなかったか、どんな気持ちでAqoursを辞めたか」
果南さんは暗い表情をしながらそう口にする。果南さんの思っていたことを聞いた以上、確かにそう思う。でも……
「果南さんの気持ちはわかります。でも、鞠莉さんの気持ちは?」
「鞠莉の気持ち?」
「はい。果南さんが鞠莉さんを想うように、鞠莉さんも果南さんのことを想っていると思います」
「そんなことないよ。あの頃、鞠莉はリベンジがとか勝ち負けしか気にしなかったから」
「でも、それすらも鞠莉さんの気持ちの一部なんじゃないんですか?果南さんに接する鞠莉さんはどう見ても果南さんとただ一緒に居ることを望んでいるようにしか見えませんでした。たぶん、リベンジとか勝ち負けは一緒にいる為の口実ですよ」
僕は思ったことを口にする。それが正しいと思うから。すると、僕のスマホに通知が来て、確認すると、ヨハネからだった。
『鞠莉さんが浦女に行ったから、果南さんを浦女に連れて来て。お願いね』
ヨハネからの連絡は、簡潔にそう書かれていた。なんで、果南さんと一緒に居ること知ってるの?まぁ、タイミングはばっちりだけど。
「というわけで、行きましょうか」
「ん?どこに?」
「はい。真実を知りにです」
~果~
「どうしていってくれなかったの?果南が私を思うように、私も果南のことを考えているんだから。正直将来なんてどうでもよかった。あの時、果南が歌えなかったんだよ。放っておけるはずがない!」
パンッ!
沙漓ちゃんに連れられて浦女に連れてこられた。真実って?バスに揺られていると、鞠莉から浦女に来てと連絡が来た。いや、もう向かってるし……というか、沙漓ちゃんと鞠莉の共犯?と思ったけど、沙漓ちゃんは鞠莉からは連絡を貰っていないと言った。つまり、誰かから連絡は貰った訳か。そして、浦女に着く間に雨は上がり、部室には一人で行ってと言われた。たぶん、そこは私たちに気を使ってくれたんだと思う。
そして、鞠莉と面と向かった結果が今。
鞠莉は言いたいことを言い切ると、私の頬を叩いた。正直叩かれるとは思ってもみなかった。でもそれ以上に……将来がどうでもよかった?私が歌えなかったから?だから、留学も転校も拒んだって言うの?
「私が、私が果南を思う気持ちを甘く見ないで!」
鞠莉が私を思う気持ち?そんなの分からないよ!
「だったら、ちゃんとそう言ってよ。リベンジとか負けたくないとかじゃなくて、ちゃんと言ってよ!」
一度だって、鞠莉が本当に思っていることをちゃんと口にしてくれなかった。だから……だから……。
「だよね。だから」
すると、鞠莉は自身の頬を私に向ける。きっと、私に叩けって意味。だから、私は手を振り上げ……鞠莉のことが気になってダイヤと一緒に鞠莉のホテルに忍び込んだあの日を思い出した。そっか、私たちの関係はあの日から始まったんだった。だから、今することは、叩くことなんかじゃない……
「ハグ……しよ」
仲直りをすることなんだ。
「果南……うあわぁぁん」
「う、うぅ」
私たちは抱き合って思いっきり泣いた。今までの時間を埋めるかのように。
どれくらいの時間が経ったのか、私たちはお互いに泣き止むと、外はだいぶ暗くなっていた。
「仲直り出来たみたいですね」
まるで狙ったかのように沙漓ちゃんが外から現れると、そう口にする。どこかで聞いていたのかな?
「あっ、盗み聞きはしていませんよ。近くには居ましたけど、話の内容までは聞こえませんでしたし。でも、静かになったから済んだと思ったので」
「そっか、なんかごめんね。心配かけて」
「いえいえ、二人が仲直り出来て良かったですよ。それに、勝手に心配していただけですし」
「それもそうね。で、沙漓は何を企んでいるのかしら?」
沙漓ちゃんは飄々とした調子でそう言うと、鞠莉はニヤニヤしながらそう聞いた。何?何か企んでいるの?
「まぁ……いえ、ここは単刀直入で。お二人ともAqoursに入ってください!」
「うん!もちろん」
「もちろんよ。でも、私たちだけじゃダメよ」
「もちろんです!ダイヤさんも引き込みたいですね。あそこまでしてくれたんですから」
私と鞠莉は沙漓ちゃんのお願いに即決で頷いた。そもそも、Aqoursは私たちが名付けた名前だよ?だからこそ、ダイヤも入らなきゃね。それに、沙漓ちゃんの浦女でやりたいことも叶えてあげたいし。
そして、校門を出ると、
「もちろん、果南さんも鞠莉さんも、そして、私たち七人も手伝いますよ」
千歌がダイヤにそう言っていた。なになに?人の名前を出して。手伝う?なにを?すると、ダイヤは私たちを、そしてダイヤの後ろにいた五人を見ていた。ルビィちゃんはあの曲の衣装を持って、一歩踏み出す。
「親愛なるお姉ちゃん。ようこそAqoursへ」
どうやら、ダイヤの勧誘は千歌たちがしてくれたみたいだね。でも、何を手伝うの?
~☆~
あれから時が経ち、果南さんたちも加わり夏祭りの舞台にAqoursは立って、二年前の夏祭りに向けて作られた“未熟DREAMER”が披露された。みんな今まで以上に楽しそうにパフォーマンスをしていた。うん。やっぱり、僕の好きな心に響くのはこれだね。楽しそうにパフォーマンスをしているAqoursのステージ。そして、浦女に来てやりたいと思ったことも叶った。
そして、Aqoursのステージが終わり、皆が降りてくる。
「沙漓ちゃん、どうだった?」
「もちろん、今までで一番輝いてましたよ!」
「うん!」
千歌さんは僕を見つけると、一番にそう聞いたので、ありのまま答える。千歌さんは満足の答えが得られたからか、嬉しそうだった。
すると、果南さんがそう言えばと思い出したように言葉を口にする。
「そう言えば、私たちのグループ名もAqoursだったんだよね」
「え?そんな偶然が?」
「うん、私もそう思ったんだけどね」
果南さんは口にしながら、少し離れた位置に立つダイヤさんに視線を向ける。
「皆乗せられたんだよ、誰かさんに」
「ん?ダイヤさんが?」
「な、なんのことですか?私にはなんのことやら?」
「そう言えば、あの日、ダイヤさんが砂浜にAqoursって書いてましたね」
「ちょっ、それは言わない約束で」
「いえ、約束はしていませんよ。千歌さんたちが戻って来て逃げていきましたし」
僕がそれとなく言ったら、ダイヤさんにツッコまれた。でも、口止めされていないし。あの日はたしかダイヤさんが逃げるように去って行ったし。まぁ、言わない方がいいと思ったから今まで口にしなかっただけで。
すると、梨子さんが疑問顔をしていた。
「あれ?でも、あの時沙漓ちゃん知らないって……」
「あっ」
「つまり、知っていて隠していた?」
「そう言えば、お姉ちゃんに果南さんと鞠莉さんのことを聞いた時もいなかったような」
「おおかた、事前に果南さんに聞いていたのでしょう」
「ダイヤさん、それは言わない約束です!」
「約束していませんわ」
すると、何故か矛先が僕の方に向き、さっきの意趣返しのつもりか、ダイヤさんがネタバレをした。まずい……。
「つまり、沙漓は色々知っていながら隠していた訳ね」
「いやいや、果南さんたちの過去は言わない約束だったから……にゃー」
「逃げた!」
なんとなくこの状況がまずい気がしたから、僕は逃走を試みる。猫の如く。
「沙漓、逃がさないわよ!」
そして、ヨハネが追いかけてくる。くっ、少し離れた位置だから祭りのお客さんに紛れるのは困難。紛れられれば人混みで逃げ切れるのに。
「秘技、堕天龍鳳凰縛!」
「その技は見切ったよ!」
ヨハネがいつも通り、鳳凰縛でとらえようとしたけど、一回喰らって、二回そばで見てたから、対処法はわかっている。ヨハネが僕の身体を掴んだ直後、羽織っていたパーカを脱いで脱出する。いわゆる変わり身の術?よかった、浴衣を着てこなくて。持ってないけど。
そして、ヨハネから距離を取る。一応、多少の運動は何とかなる。今日はちゃんと睡眠もとったし。
「はい、捕まえた」
「あっ」
しかし、ヨハネに気を取られていると、いつの間にかいた果南さんに捕まった。ヨハネと違ってソフトタッチだけど、何故だか逃げられない。
「はいはい、暴れない。そもそも、私は沙漓ちゃんに教えたばっかりにこうなったんだしね。だから、沙漓ちゃんの事は許してあげて。誰にも言わないように私が言って、ちゃんと約束を守ってくれたからさ」
「うーん。果南ちゃんがそう言うなら」
すると、果南さんが言ったことでか、僕が隠し続けていたことは不問となった。なんと、果南さんのおかげで助かった!
「でも、ダイヤのことを隠していたことは知らないかな?」
「あれぇ?」
「かなーん、ダイヤー、屋台を見て回ろっ?」
「うん!」
「ええ、そうですわね」
「さぁ、ちゃんと説明してもらうよ?」
「ナンノコトカナ?」
「沙漓ちゃん、教えるびぃ」
「あと、ダイヤさんが部長のこともね」
「あれ?なんで知ってるの?」
「いや、気づくでしょ……」
「はいはい、こっちに行こうね」
「さぁ、話してもらうずら」
「お祭りぃ」
アニメだと淡島から弁天島神社のコースでしたが、それだと沙漓が先回りできないので、淡島周りのコースにしています。
次回はきっと、明日投稿します。ノシ