のんびり天使は水の中 作:猫犬
「しっかりね」
「お互いに」
「がんばるびぃ」
「東京に負けてはいけませんわ」
「そろそろ行く時間だよ」
「うん」
「チャオ」
「がんばって」
「ファイトずら」
「行ってらっしゃいです」
梨子さんがコンクールの為に東京に行く日。僕たちはその見送りに来ていた。
合宿の途中で梨子さんから話され、みんな梨子さんの気持ちを汲んで了承した。その間に曲は完成し、振付の練習も進んでいた。
「梨子ちゃん、次のステージは一緒に歌おうね」
「もちろん!」
梨子さんが改札を抜けて外から見えなくなると、みんなも動き始める。
「さぁ、私たちも戻りますわよ」
「ですね」
「千歌ちゃん?」
「……うん、頑張ろうね」
歩き出す僕たちに、いつまでも梨子さんの方を見ている千歌さんに気付いて曜さんが声を掛けた。やっぱり、なんか違和感があるような?
そして、学校に行くと、何故かプール掃除をすることに。なんでも、手配がうんぬんかんぬんだとか。そう言う訳でプール掃除をするのだけど。
「デッキブラシといえば甲板磨き!だから、これです!」
「曜ちゃん……」
曜さんはそう言って何故か船乗りの格好をしていた。姿が見えないと思ったら、それに着替えてたんだ……。
そこから、つつがなく進み、無事掃除が終わった。
「綺麗になったね」
「そうだ!ここで練習しようか」
「それいいわね!」
果南さんがなんとなしに提案すると、新曲の立ち位置に集まる。今回は千歌さんと梨子さんのダブルセンターな訳で……。
「あれ?」
梨子さんがいないから形が変だった。僕はプールサイドから足をパタパタさせて見ていた。
「どうする?フォーメーション変える?」
「ですが、今から変えるのは……」
「じゃぁ、誰かがここに入る?」
このフォーメーションをどうするかと言う話になり、誰かが梨子さんの代わりに入るという話になった。すると、何故か僕に視線が集まる。なんで、僕をみんなで見るんだろ?
「そうだ!沙漓ちゃんが入れば!」
「いやいや、なんでですか?僕踊れないから、今までずっとサポートに徹してたわけですし。それに、エントリーしているメンバー以外は出られませんよ」
「そっか、そうだよね」
あーびっくりした。まさか、僕に振られるとは思ってなかった。そして、振出しに戻ると、果南さんは千歌さんと息の合うのが重要と思ったようで、曜さんを見る。皆も同じ結論に至ったのか、曜さんを見る。
曜さんは皆の視線を受けるとハッとする。
「私?」
「うん!」
こうして、満場一致?で曜さんと千歌さんのダブルセンターになることになりました。はてさて、どうなるのやら?時間的にも相当厳しいし。
「あっ」
「ごめん」
「うーん、曜ちゃんならいけると思ったのに」
場所を屋上に移し、二人の練習が行われていた。しかし、息が合わないのかぶつかってしまう。かれこれ十回目。
「私が間違えちゃうから」
「ううん。私も曜ちゃんと歩幅がずれちゃうから」
何度も、どちらかが遠慮しているのかミスが起きてしまう。皆も心配そうに見ていた。
「二人とも安定しませんね」
「そうね」
「なんか、いつしかの二人みたいですね」
僕は鞠莉さんの隣に座ってそう言う。たぶん、鞠莉さんも曜さんの様子がおかしいことに気付いていると思う。
「沙漓もそう思うのね」
「はい。どこか千歌さんに遠慮しているような」
僕は鞠莉さんにしか聞こえない声でそう言った。こういう話は大声でするものじゃないし。練習はそれからも続いた。しかし、どうも安定せず、夕方になると解散になった。詰め込み過ぎても身体に良くないとのこと。
「全リトルデーモンよ。私に力を!」
「D賞です」
「堕天のD……」
場所はまたまた変わって、コンビニに寄り道。ヨハネが引いたくじはD賞だった。まさか、ここでも不幸が起こるんだ。それとも堕天のDだから不幸じゃないのか?
三年生三人は用事があるとかで学校に残っていて、千歌さんと曜さんは外で練習中。でも、一向に二人の歩幅は合わないみたい。
「千歌ちゃん、ちょっと梨子ちゃんとやってた時みたいにやってみて」
「でも……」
「いいから」
曜さんは千歌さんにそう提案すると、踊り始め、驚くべきことにうまくいった。見た感じ、曜さんが梨子さんの動きをまねた感じかな?
「おお、天界的合致!」
「成功したずら」
「これでなんとか」
三人は成功に喚起する。確かに成功したし、これでライブは一応なんとかなるのかな?でも、やっぱり曜さんは寂しそうな顔をしていた。
~鞠~
六人を送り出し、私たちは生徒会室に来ていた。そこは案の定たくさんの書類が詰まれていた。他の生徒会メンバーも最後の大会やコンクールであまりこっちに来れていない現状。ダイヤは自分でなんとかするって言ってたけど、どうせ後で私も見る書類もいくつかあるから問題ないわね。
そして、書類を手に取ると、一枚の紙が床に落ちる。それはスクールアイドル部設立の用紙でちかっちと曜の名前が書かれていた。あら?
「ああ、それは最初の設立願いですわね。まぁ、あの頃は二人でしたから突っぱねましたけど」
「そういえばそんなこともあったって言ってたっけ」
「でも、この二人が最初のメンバーだったとはね。てっきり、最初はちかっちと梨子だと思っていたわ」
「まぁ、そう思うかもね。今の様子を見れば」
最初の設立願いがこの二人だったとは思わなかったわ。今の様子もあれだしね。というか、やっぱり二人もぎこちなさに気付いていたのね。
そうなると、私がやるべきことは……。
「と言う訳で、鞠莉さんには曜さんのメンタルケアに行ってください」
「え?私?果南じゃなくて?」
「まぁ、私よりは鞠莉の方が適任かな?二人のことを昔から知っている私が行くのも手だけど、今回の場合はたぶんその方がいいから。それに、後で行くつもりでしょ?」
「あら?なんで分かったのかしら?」
「鞠莉、顔に出てたよ」
「そう」
私が考えていることを見透かしたかのようにそう言うと、私は生徒会室を追い出された。まぁ、二人がそう言うのなら、ちゃんとしなくちゃね。
やってきました沼津。どこかで寄り道をしていたようで、途中で曜が見つかった。さぁ、どうやってsurpriseしようかしら?ハグ?それともワシワシ?やっぱり、ここは曜の胸を。
「おおぉ、これは果南にも負けず劣らぬ――」
「きゃぁー」
私は曜の胸をがっしり掴んで揉む。見立ての通り、果南にも負けじと劣らぬものだった。しかし、そんな犯罪行為をする私は気づいたら宙を舞っていた。Oh曜はこんな技も使えたのね。っと、関心している場合じゃないわね。そして、私はコンクリートの地面に尻餅をついた。
「アウチッ!」
「鞠莉ちゃん!?」
投げ飛ばした後に曜は投げた犯人――私を見て驚きの声を上げた。Surpriseは成功かしら?うぅ、痛いわね。
「ちょっと話したいことがあるから、いいかしら?」
私はそう言って、水門に来た。外で話すような内容でもないしね。
「ちかっちとはどう?」
「千歌ちゃんと?」
「ええ。うまく言ってなかったでしょ?」
「あー、でも、あの後うまく行ったよ」
そう。あの後も練習していたのね。でも、まだ曜の顔がすぐれないから、きっとまだ本音で話せていないわね。
「いいえ、ダンスでは無く、ちかっちが梨子に取られりゃって嫉妬fire~しちゃってたでしょ?」
「嫉妬?……うん、もしかしたら」
「まぁ、ここはぶっちゃけトークする場所よ。だから、私でよければ相談に乗るわ。それにちかっちと梨子に話せないでしょ?」
曜は否定すると思ったけど、何故だか認めた。自分で気づいたのかしら?
「私ね。昔から千歌ちゃんと一緒に何かやりたいと思ってたんだ。だから、千歌ちゃんと一緒にスクールアイドルができるって時、すごくうれしかったの。それから、すぐに梨子ちゃんが入って、みんなが入って。だからね。千歌ちゃん、本当は私と二人は嫌だったんじゃないかって」
「why何故?」
「私って、なんか、要領がいいって思われてて、だからそういう子と一緒にってやりにくいんじゃないかって」
結局は曜の思っているだけで、ちかっちの思っていることは分かっていない。本当に嫌だったのか?やりにくかったのか?
なんだか、前の喧嘩をしていた頃の果南と私のように想いが並行している状態。
「えいっ!」
「いたっ」
だから、そんなことを考えているようにチョップした。気持ちを切り替えるために。
「なに一人で勝手に決めつけているの?曜はちかっちのことが大好きなんでしょ?だったら本音でぶつかった方がいいよ。大好きな友達に本音を言わずに二年間も無駄にした私が言うのだから、間違いありません!」
だって、本音でぶつからなかったから私たちはこじれた。もう、あんな思いをする人はいなくていいのよ。
「そっか。そうだね。明日、千歌ちゃんと本音で話してみるよ」
「そう。頑張ってね」
きっとこの二人ならちゃんとできると思う。私はそう信じたい。
「うん。それにしても、沙漓ちゃんにもばれたけど、私ってそんなわかりやすいのかな?」
「あら、沙漓も何か言ってたのね」
「うん。あっ、でもどんな話をしたかは言わないからね!」
「いいわよ。別に言わなくて」
沙漓まで気づいて何かしてたって言うのは驚きだけど、あの子って人の機微に敏感なのかしら?私と果南のときも、果南の方で動いていた訳だし。
~曜~
合宿の二日目の早朝。私は寝返りを打ったことで目を覚ました。まだ、辺りは薄暗く、もう少し寝ていても問題なさそうだった。
あれ?千歌ちゃんが居ない。それに梨子ちゃんも。それと、沙漓ちゃんもいないし。沙漓ちゃんはまた、しいたけの所かな?それにしても二人ともどこに?昨日の夜も寝静まった頃に外に二人で出ていたし。
また今日も外かな?そう思うと気になって、みんなを起こさないように気を付けて、外に出た。しかし、そこに二人の姿は無く……
「あれ?曜さん。こんな朝早く?にどうしたんですか?」
堤防に沙漓ちゃんが腰かけていた。いや、沙漓ちゃんは何してるの?私は沙漓ちゃんの隣に座り、二人の居場所を聞くことにする。
「千歌ちゃんと梨子ちゃん知らない?」
「いえ、起きた時には居ませんでしたよ。外にいるのは、暑いから涼んでるわけですし」
「そっか」
沙漓ちゃんも二人の居場所を知らないか。じゃぁ、戻ろうかな?
「二人のことが気になりますか?」
「まぁね。二人とも大切な友達だからさ」
すると、沙漓ちゃんは海を見ながらそう呟いた。だから、私はそう返す。本当のことだし。
「そうですか。僕には二人が何か隠しているように見えるんです」
「……ッ!」
沙漓ちゃんは唐突にそう言った。私も二人が何か隠している気がしてはいたけど、沙漓ちゃんも気付いていたとは。沙漓ちゃんは知っているのかな?ダイヤさんの時も果南ちゃんの時も知ってたし。
「先に言いますけど、今回は本当に知りませんよ。言わない約束もしていませんし」
沙漓ちゃんは私の考えていることを先読みして告げる。そっか、本当に知らないんだ。知ってたらどれだけよかったか。って、知ってたら口止めされているかな?
「曜さんは誰かに嫉妬はしますか?」
「嫉妬?」
すると、沙漓ちゃんは唐突にそう言った。どうして、ここで嫉妬の話になるんだろ?すると、首を傾げる私に沙漓ちゃんは話を続ける。
「例えば千歌さんに。あるいは梨子さんに」
「そうだね。二人が仲良くしているとモヤモヤすることはあるかな?でも、よくわかったね。私が嫉妬に似た感情を持っているって」
「まぁ、僕も似た感情を持っていましたから。だから、なんとなくそんな気がしたんです」
言われて気付いたけど、たぶん私は二人に嫉妬をしている。千歌ちゃんと仲良くする梨子ちゃんに。梨子ちゃんといるとやたらと楽しそうな千歌ちゃんに。
沙漓ちゃんはどこか自嘲じみた顔をする。沙漓ちゃんも嫉妬って誰にだろ?善子ちゃんかな?あっ、でも過去形だからたぶん違うか。
「誰に嫉妬していたの?」
「お姉ちゃんと関わる人全てにです」
「えっ?」
思っていた人物では無かったことに対して驚きの声を漏らしてしまった。それくらい意外だった。
沙漓ちゃんはそこから言葉を続ける。
「僕が誰にもお姉ちゃんのことを言わないのもそれが理由ですよ。お姉ちゃんを知ればお姉ちゃんに近づきたがる人が現れる。そしたら、お姉ちゃんは優しいから断れずに会ってしまう。そしたら、お姉ちゃんはその人に興味を持って、僕を見てくれなくなるかもしれない。そう思っていたんです」
「そうなんだ」
「どう思いますか?そんな不確定な理由だけで、誰にも言わないんですよ?変だって思いますか?それとも軽蔑しますか?」
「どうなんだろ?でも、それは普通だと思うよ」
沙漓ちゃんの言葉を聞いて、私はそれが普通だと思えた。大切な人が離れてしまうことを恐れる気持ちはわかるから。
すると、唐突に沙漓ちゃんは私を見る。
「まぁ、これはだいぶ前までの話で、今はだいぶマシになったと思いますけどね」
「そうなの?どうして平気になったの?」
「はい。そう思ってたのがお姉ちゃんにばれまして。そしたら、お姉ちゃんに怒られてしまいました。それと同時に、僕はたった一人の妹だから、何があってもそれは変わらないって言ってくれたんです」
「良かったね。あれ?でも、そうなると今でも、お姉さんのことを言いたがらないのはなんで?」
沙漓ちゃんの話を聞いて納得したけど、そうなるとそんな疑問があった。解決したのなら、別にいいんじゃ?
「あっ、でもそう言ってもお姉ちゃんとの時間がとられるのは嫌なので言わないんですよ?」
沙漓ちゃんは笑顔でそう言った。いやいや、これ本当に解決したって言えるのかな?
「まぁ、つまり、僕が言いたいことは。言葉にしなきゃ相手には伝わらないってことです。お姉ちゃんが口に出して話してくれたから、解決したわけですし」
「口に出さなきゃ解決しない?」
「そうですよ。だから、思い切って聞いちゃうのも一つの手かもしれませんよ?まぁ、それをどうするかは曜さん次第です。そうだ!さっきの話は誰にも言わないでくださいよ。言ったら、曜さんのこと千歌さんに言っちゃいますからね」
沙漓ちゃんはそう言って、話を締めた。口に出す、か。それと、地味な脅迫して来ちゃったし。
「あっ、帰ってきた」
それから、のんびりと海を見ながら私はどうすればいいのかを考え、沙漓ちゃんも海を見ながらのんびりと涼んでいた。
そして、沙漓ちゃんがある方を見ると、自転車に乗った二人がいた。どこに行ってたんだろ?
「おかえりなさいです」
「おかえり……」
とりあえず、私はそう口にした。そして、
「二人ともどこ行ってたの?」
きっと答えてくれないと思いながら私は二人に聞いたのだった。
結局、あの日、二人がどこに行っていたのかはわからなかった。聞いても、秘密としか言わなくて。今思えばきっとピアノコンクールに出るかラブライブに出るかの相談をしていたんだ。
鞠莉ちゃんに悩みを聞いてもらい、少しは気持ちが晴れたかな?明日こそ、千歌ちゃんに本当の気持ちを聞こう。せっかく相談に乗ってくれた鞠莉ちゃんの為にも、自分の身の上話をしてくれた沙漓ちゃんの為にも!
「結局、話せなかった」
そう意気込んだけど、やっぱり千歌ちゃんの口から聞かされるのが怖くなって、結局聞くことができなかった。私はベランダに出て、スマホを見る。やっぱり、ここは壁を背に一対一の状態で聞くのがいいのかな?それとも変装してさりげなく聞く?それとも、キャラを作って……あぁ、ダメだ。どれで聞いても結局怖いものは怖い。
すると、唐突に電話が鳴る。着信は梨子ちゃんからだった。
「もしもし」
『曜ちゃん?今話できる?』
「うん。どうかしたの?」
『曜ちゃんが私のポジションで歌うことになったって聞いて。ごめんね。私のわがままで』
「ううん、ぜんぜん」
『無理に合わせちゃダメよ。千歌ちゃんもそう思ってるから』
千歌ちゃんが思っている、か。たぶん違うよ。千歌ちゃんが思っているのは梨子ちゃんで私なんかじゃないよ。
「ううん、そんなこと無いよ。千歌ちゃんのそばには梨子ちゃんが合ってるよ。梨子ちゃんといるといつも楽しそうだし」
『そう思ってたんだ。でも、千歌ちゃん前に話していたんだ。千歌ちゃん、曜ちゃんの誘いをいつも断ってばかりで、だから、スクールアイドルは曜ちゃんとやり遂げるって』
「そうなんだ」
千歌ちゃんはそう思ってくれていたんだ。でも……それも昔の話でしょ?今は……。
『だから、曜ちゃんはどうなの?千歌ちゃんとスクールアイドルをやり遂げたい?』
「やり遂げたいよ。私だって、そう思ってたんだから」
『そっか、だったら大丈夫だよ。千歌ちゃんと曜ちゃんは互いに思っているんだから。あっ、もうこんな時間。じゃぁね』
「うん。じゃぁね」
私はそう言って通話を切る。お互いに思っているから大丈夫、か。本当にそうなら……
「曜ちゃん!」
あれ?千歌ちゃんの声がするや。でも、千歌ちゃんがここにいるはずがない。私の家と千歌ちゃんの家は離れているんだから。
「曜ちゃん!」
え?また聞こえた?
私は慌てて川の見える方に移動するとそこに千歌ちゃんがいた。
「千歌ちゃん?どうして?」
「練習しようと思って。考えたの曜ちゃんは自分のステップでやった方がいいって。合わせるんじゃなくて、一から私と二人で!」
言われて分かった。きっと千歌ちゃんも同じように悩んでいたんだって。それなのに、私は自分のことを棚上げして……。
千歌ちゃんとちゃんと話したい!私はそう思い、家の中に戻った。その際に梨子ちゃんがくれたシュシュを持って外に出る。でも、顔は合わせづらくて私は後ろを向きながら手探りで千歌ちゃんに触れる。千歌ちゃんは汗だくで服も汗で濡れていた。
「千歌ちゃん、汗が」
「うん、バスも終わってたし、美渡姉も志満姉も忙しくてね。だから自転車で」
千歌ちゃんはこんなに遠くまで自転車で来てくれたそれだけでうれしくて。それと同時に、こんなに思ってくれているのに千歌ちゃんを疑って……。
「私、バカだ……バカヨウだ」
「バカヨウ?」
千歌ちゃんは首を傾げているのかそう言い、私は千歌ちゃんに抱きついた。千歌ちゃんは私がいきなり抱きついたことに驚いていた。それと同時に私は自分恥ずかしさと、うれしさで涙が溢れた。
「曜ちゃんどうしたの?何で泣いてるの?」
「いいの!」
それから、私は落ち着くまで泣き続けた。千歌ちゃんは私が落ち着くまで離れず、背中をさすってくれた。
「曜ちゃん、落ち着いた?」
「うん、ごめんね。急に泣いちゃって」
「ううん。気にしないよ。でも、どうして泣いたのかは教えてほしいかな?」
どれくらい泣いたかわからないけど、涙が止まると、千歌ちゃんはどうして私が泣いたのか聞く。まぁ、いきなり泣けば理由も気になるよね?
「うん、千歌ちゃんは私といるのが本当は辛いんじゃないのかって最近思って。それに、コンクールのことを私には相談してくれなかったから、私は頼りないのかなって」
「そうだったんだ。ごめんね。梨子ちゃんのコンクールのことは梨子ちゃん自身が決めるって言ってて、不確かな状態で話したらみんなに心配かけちゃうって思って……でも、そうだよね。言わない方が心配かけちゃうよね」
「ううん。私が勝手に思い込んじゃったから」
そっか、コンクールのことを話さなかったのは、心配かけたくないって思ったからだったんだ。それなのに私は勝手に頼りないから言ってくれないと思いこんじゃって。
それから、私は千歌ちゃんに対して思っていたことを打ち明けた。私も千歌ちゃんと一緒に何かやりたいと思っていたこと、千歌ちゃんと梨子ちゃんに嫉妬していたことを。千歌ちゃんは静かに聞いて受け止めてくれた。
「そっか、曜ちゃんもそう思っていたんだ。チカもね、曜ちゃんに嫉妬してたんだ。曜ちゃんの周りにはいつも人が集まるから……それに私は何の取り柄もなくて普通だから、曜ちゃんのそばにいるのはダメなんじゃないかって」
「千歌ちゃん……」
「でも、曜ちゃんの話を聞いてわかった。曜ちゃんはチカのことをちゃんと想ってくれてたって。だから、私も平気」
千歌ちゃんも私に対してそう思ってたんだ。知らなかった。やっぱり、本音は口にしないと伝わらないんだね。でも、もう大丈夫。
「それにしても、曜ちゃんがチカに嫉妬してくれたなんてねぇ」
「もう!その話は終わったでしょ?さぁ、練習しよ?」
「うん!」
千歌ちゃんが面白い話題を手に入れたから面白がる。うぅ、今更ながら恥ずかしい。私はそんな恥ずかしさから、練習を提案して話を逸らすと、千歌ちゃんは笑顔で頷いた。そして、早速ステップの練習をした。最初はやっぱり合わなくて、でも次第に合うようになり、お母さんが連絡したことで志満姉が軽トラに乗って千歌ちゃんを迎えに来る頃には完全に合うようになっていた。私たちが一から作ったステップで。
次の投稿は何事もなければ、明日投稿予定です。