のんびり天使は水の中 作:猫犬
私が東京にある園田家に来たのは小学生になる少し前のことだった。
お父さんとお母さんは家に起きた火事でいなくなったと聞いた。
私はそれを聞いた瞬間、あの時のことを思い出し、泣き喚いた。あの時の恐怖、お父さんとお母さんが襲われる瞬間を見たことへの哀しみ。そして、二人の死。私が心を閉ざすのには十分すぎた。
私も火事のせいで煙を吸っていて、燃え落ちた屋根に足を潰されて大けがをしていたらしいけど、手術が成功して足の怪我はどうにかなった。でも、身体の中の器官の一部は損傷したらしくて激しい運動は身体への負担が大きく、できないと言われた。
「沙漓ちゃん、今日から私たちが家族よ」
行く当てが無くなった私は、ここで拒絶したらどうなるのかを恐れておとなしく頷いた。そして、東京の家に連れてこられた。東京の家は元いた家よりも大きく、私は驚いた。そして、家に入ると、柱に隠れながらそっと見ている女の子がいた。それが従妹の海未ちゃんだと分かったけど、海未ちゃんは恥ずかしがっているのか柱から動こうとはしなかった。私はそのまま家を案内され、私の部屋に案内された。
部屋に入ると、私はベッドに横になり、そのまま部屋に引き籠った。もしかしたら、どの人もあの時お父さんとお母さんを襲った人に見えてしまい、また襲われてしまうのではと思ったから。
みんなはまだ整理がついていないのだと判断して、無理には部屋を開けようとはせず、それとなく促しつつ出てくるのを待つつもりだった。だから、部屋の外には食事の時間になると呼ばれ、でも出るのが怖かった。そして、部屋の前に置いておくからと言って部屋の前から去ると、部屋の前には料理が置かれていた。
私はそれを食べたら満腹になったからか、眠気が来て、緊張の糸がほどけたのかベッドで眠り、両親と笑っている夢を見て目が覚めると、現実に引き戻されて泣いた。
その次の日。私は部屋に引き籠っていると、唐突にノックがされた。最初はまた、食事の時間なのかと思ったけど、時間的にはそんな時間では無かった。
「……大丈夫?」
その声はとても弱弱しく、海未ちゃんなのだと分かった。でも、人と会うのが怖いのは続いているから出ることもせず、声も出なかった。反応がないから諦めたのか、すぐに去って行き、それからも度々続いた。
そうして三日ほど過ぎ、私はほぼ部屋に引きこもっていた。家が広いおかげかトイレ等で部屋を出ても会うることは無かった。
でも、その日だけは少し違った。トイレから戻ってくると、ちょうど部屋にやって来ていた海未ちゃんと偶然会ってしまったから。
私は慌てて逃げたけど、運動がまともにできないのと、引き籠っていたせいかうまく走れず、追いかけてきた海未ちゃんは私の腕を掴んだ。その瞬間、あの時の光景がフラッシュバックして私はうずくまった。
突然起きた私の異変に海未ちゃんは驚いていた。
「痛くしないで……いじめないで……」
私はあの時の恐怖を思い出して繰り返し呟き、怯えた。ただただ、あの時の恐怖が思い出された。
そして、
「……こわくなーい、こわくなーい」
海未ちゃんはそんな私を抱きしめると背中をさすって落ち着かせようとした。それは昔から泣いた時にお母さんがしてくれたものと一緒で、だから私はただ泣いた。そんな私を放さずずっと背中をさすって、落ち着くまで一緒に居てくれた。
そして、落ち着くと海未ちゃんはいつまでも廊下に居ることに抵抗があり手を引いて自身の部屋に招き入れた。
「大丈夫?」
「……うん」
ベッドに座らされると海未ちゃんは心配そうな声でそう聞き、私もたどたどしくそう言った。
「沙漓ちゃんはどうして、いつも部屋にいるの?」
海未ちゃんはなんの悪気もなく、ただ気になったから聞いたみたいだった。
「怖いの……誰かといたらまた怖い目に遭う」
「そっか、じゃぁ、部屋にいないとね」
しかし、海未ちゃんは部屋から出ることを進めるどころか、逆のことを口にした。どうしてそんなことを言ったのか分からず、首を傾げると、海未ちゃんはハッとした。
「私もね、人がちょっと怖いの。だから、すぐに隠れちゃうの」
「じゃぁ、どうして私に毎日会いに来るの?」
海未ちゃんは唐突にそう言い、どうして私の事を気にするのかが気になった。
「うん。ここにきた日の夜、泣いてたでしょ?だから、慰めてあげたかったの。きっと、一人でいるのは寂しいから。だから、一緒に居れば少しは無くなると思ったの。私もいつも一人だったけど、穂乃果ちゃんとことりちゃんに会って、友達になって、寂しく無くなったから」
海未ちゃんはそう言って、微笑んだ。海未ちゃんの笑みを見たら、心が安らぎ、それと同時にドキッとした。そして、一瞬海のような真っ青な綺麗な光が見えた気がした。それを見たからか、私は思った。きっと、海未ちゃんは平気なのだと。
「うん。私も海未ちゃんと一緒に居たい……でも、お父さんたちはまだ怖い……」
「そっか。あっ、今はまだいいよ。いつか大丈夫になる日が来るよ。だから、私と一緒に頑張ろ?」
「うん。頑張る。海未ちゃん!」
「えらい、えらい。でも、私たちは家族なのだから、もっと……うん。お姉ちゃんって呼んで?」
「うん!お姉ちゃん!」
そして、私はお姉ちゃんとは居られるようになり、その日からお姉ちゃんと一緒に少しずつ部屋から出られるように恐怖に打ち勝つ練習をした。
それから数日後、お姉ちゃんと一緒なら両親にもちゃんと会え、その時にお母さんが涙を流して喜び、抱きしめてくれて、それ以降は家の中なら問題なく居られるようになった。それから日が経ち、お姉ちゃんの友達の穂乃果さんとことりさんに出会い、お姉ちゃんの友達だからなのと、二人の物腰からすぐに心を開けた。でも、お姉ちゃんは学校があるから昼間はおらず、私はまだダメだから学校に行けていなかった。そのせいか、お姉ちゃんがいない時間は退屈で寂しかった。
そして、五月になる頃にはだいぶ落ち着き、外にもお姉ちゃんと一緒なら出られ、学校にも行けるようになった。
それからは普通に生活をして、お姉ちゃんが中学生の頃にお姉ちゃんの部屋に借りていた物を返しに行った際に偶然お姉ちゃんのポエムノートを見つけて、少し見て見たらなんだかぽあぽあした気持ちになり、気づけば半分近くのページを読んでいた。そして、お姉ちゃんに見つかるやお姉ちゃんは恥ずかしそうにしていた。その時のポエムの一人称がどれも僕だったからか、なんだか“私”より“僕”の方がしっくりきて、それ以降は“僕”呼びが定着しちゃったりした。
お姉ちゃんがµ’sに入った時は、お姉ちゃんの真新しい姿に喜びと共に、一緒に居る時間が減ったから寂しく、少し嫉妬した。そして、µ’sが九人になると人気はさらに上昇し、ファンが増えていった。お姉ちゃんは困りながらもちゃんとファンに対応し、やっぱり嫉妬した。お姉ちゃんとの時間が減るにつれて、どんどん離れていく気がして、でもお姉ちゃんには心配をかけたくないから、こんな気持ちになっていることを知られたら嫌われると思い、ばれないように蓋をした。お姉ちゃんはそれでも僕から離れないという想いと、もしかしたらという想いがぐちゃぐちゃになっていった。
そんな日々が続き、そんな感情を心の奥にしまい込み平静を装っていたある日、
「沙漓、何か隠し事をしていますね?」
あっさりとばれた。しかも、
「見た感じ、私と居られる時間が減ったからですね?」
理由もあっさり看破された。ばれてしまい、ばれたからにはもう隠し通すのも無理だと諦めた。
「うん。お姉ちゃんがどんどん遠くなっていく気がして」
「どうしてそう思うんですか?」
「だって、µ’sの練習と家での稽古。そのせいで前より一緒に居る時間が減って……最近は人気になったからか、よくファンの人に囲まれてて……」
「だから、私が沙漓から離れてしまうと思った訳ですか」
「うん。お姉ちゃんが悪いわけじゃない。µ’sが人気になったらファンの人との交流が増えることもわかってた。でも、そんなお姉ちゃんとファンを見ると、なんだか変な気持ちが溢れて……でも、お姉ちゃんを困らせるのは嫌で……」
「はぁー」
僕がそんな気持ちを吐露すると、お姉ちゃんは大きくため息をついた。あっ、やっぱり呆れられちゃうんだ。そして、いつかは離れていっちゃうんだ……。
「沙漓、私は怒っています。なんでかわかりますか?」
「僕がこんな気持ちを持ったから?」
「違いますよ。別にその様な気持ちを持つのは普通なことですよ。でも、その気持ちを無理やり閉じ込めて、無理をするのはダメです。だったら、その気持ちを口にしてください」
「でも、それじゃ、迷惑をかけちゃう……」
お姉ちゃんは口に出すように言うけど、それじゃ、こんな気持ちを抱く僕に幻滅して……それに迷惑がかかっちゃう。
「いいんですよ。私は沙漓の姉なのです。妹の悩みを聞くのは姉の務めですよ。だいたい、あなたはかけがえのないたった一人の私の妹なのですから、離れることなんてありませんよ。それに、沙漓が私から離れる気なんてないのでしょ?」
「うん」
「ならいいんです。沙漓は一人でため込むのですから、これからもため込むのはやめなさい。これは約束ですよ」
「うん!」
~☆~
「これからも沙漓をよろしくお願いしますね」
僕はお姉ちゃんとの思い出を部屋の外に座って思い出していた。洗い物はすぐに終わって、いざ戻って来てみたらお姉ちゃんが僕の過去を話していて、なんとなく入りづらい空気だから入れずにいたのがここに座っている理由。
「沙漓戻ってこないわね。ちょっと見て来ます」
まぁ、そんなことを思い出したり考えたりしていたら、ヨハネが僕を探そうと立ち上がってた。あ、このままじゃ、ずっとここに居たのがばれて、冷やかされる。
そういう訳でヨハネより先に動く。
「ん?なんの話してるのぉ?」
さも、今洗い物が終わって戻って来たように取り繕って。基本的に、感情を隠せばお姉ちゃん以外にばれることは無いことはわかってる。なんで、お姉ちゃんにはばれるんだろ?
「うん。沙漓ちゃんの過去の話を聞いてたんだよ。大変だったんだね」
「うーん、まぁ。でも、それはお姉ちゃんがいましたから」
「ふふっ、ほんと沙漓ちゃんはお姉ちゃんが好きなんだね」
梨子さんは微笑みながら、そんなことを言った。それで、みんなもそんな視線を向ける。
「もちろんですよ。あと、好きじゃなくて大好きです!」
「というか、これってシスコンのレベルなんじゃ?」
「ですわね」
「……はぁー。これさえなければ、何処に出しても恥ずかしくない妹なのですが」
言い切ったら、シスコン認定をされてしまった。お姉ちゃんも顔に手を当てて残念そうにしていた。はて?お姉ちゃんを好きなのは普通なんじゃ?それに、
「ダイヤさんに否定されたくありませんよ。シスコンじゃないですか」
「なっ!」
「ああ、確かにダイヤはルビィに対してはちょーっと過保護すぎるわね」
ルーちゃんに対してのダイヤさんのそれも同じ気がするから。え?僕の方がひどい?知ってる。
「そう言えば、沙漓」
「ん?改まってどうしたの?」
「あなたには私たちが何色に見えてるの?」
「えっ?」
ヨハネが唐突に色を聞いた。色の話題は流れて“僕”呼びの話題にすぐ移っていたから、忘れられていると思ってたから驚いた。そもそもこんな荒唐無稽な話を信じるとは思ってなかったから。
「何の話?」
「沙漓が他人の色で判断してるって話よ」
「信じるの?そんな普通じゃない話」
「ふぇ?沙漓ちゃん嘘ついてたってことなの?」
「いえ、嘘はついてないけど……普通は信じないんじゃ?」
見た感じ、全員信じているみたいで視線が僕に集まる。なんで、そんな話が信じられるのやら?それに、正直言いたくない。でも、言うまでしつこく聞いて来る未来しか見えない。
「まぁ、確かにみんな最初に会った時に色は見えてたけどね。あれが見えるようになってから会った人だから、ヨハネとマルちゃんも見えたし」
「そう……それで、私は何色に見えたの?もちろん、堕天使たる私は黒色よね?」
「なんで、害がある色な訳?ヨハネは白色だよ。まぁ、普通じゃないんだけど」
「普通じゃない?」
「うん、白と一緒に水晶のような澄んだ黒というか闇色?が見えたの」
「闇色?って、初っ端から色が違うんだけど?」
ヨハネは目をキラキラさせてそう言ったから、僕は白と答え、後半は小さな声で闇色と言った。はっきり言って、イレギュラー。二色がくっきり分かれるなんて無かったし。そもそも、闇色なんて見たことも無かったからあんまり言いたくなかったけどね。最初は闇色=黒の可能性も考えたけど、黒は濁っていて澄んでいないからお姉ちゃんと同じなのだとわかった。
「ちなみに、千歌さんはオレンジ色。梨子さんとルーちゃんは多少の違いはあるけどピンク色。曜さんは水色。マルちゃんは黄色。果南さんはエメラルドグリーン。ダイヤさんは赤。鞠莉さんは紫です」
「ちょと、待って。白か黒なんじゃなかったの?」
「普通はですよ。でも、Aqoursの皆はなんでか全員特殊カラーなんだよねぇ。特殊カラーなんてお姉ちゃん以外からは見たことが無かったからよくわかんないけども」
だから、言いたくなかった。みんな、なんでか特殊カラーだから。白とか黒ならまだしもなのに。しかも、特殊カラーがそういう意味なのかわかってないし。
「まぁ、そう言う訳で。お姉ちゃん基準で問題ないってことで、あんな感じだったんだよぉ。大体、みんな優しいしぃ。それとも黒みたいに害があるの?」
「海未さんを基準って……」
「やっぱり、大好きなんだね」
あれ?なんで、空気が変わってるんだろ?なんか、梨子さんは僕とお姉ちゃんをそっちの目で見ている気がするし。気のせいかな?
「さて、そろそろ内浦に戻りますか?終バスの時間的にも」
「だね」
僕たちはその後も色々喋って、そろそろ戻らないといけない時間だったので帰り支度をする。そして、玄関に集まる。
「では、今日は色々ありがとうございました」
「いえ、私も沙漓が楽しく過ごせていることが見れてよかったですよ。ラブライブ地区予選頑張ってくださいね」
「はい。突破して見せます!」
そう言って、みんなは家を出て、
「沙漓、今の生活は楽しいですか?」
「うん。楽しいよ」
「……そうですか。どうやら、心に響くパフォーマンスをするグループだったようですね。あの子たち、Aqoursが」
「うん、そうだよぉ。だから、心配しないで……いってきます」
「いってらっしゃい」
お姉ちゃんはAqoursの皆を見てそう呟くと僕は頷き、お姉ちゃんに見送られて、家を出た。
~海~
家を出る時の沙漓の表情は、四月に会った時よりも晴れやかで、今を楽しめているようだった。きっと、あの子たちが沙漓を繋いでくれたのだろう。
「さて、沙漓の心配はいらなそうですし、私は私の……」
気を取り直して、私は私のやることをと思い、部屋に戻ると、机に置いていたスマホに着信が入る。沙漓が忘れ物……いえ、それなら直接戻ってきますね。
画面を見るとそこには……
「穂乃果、どうしましたか?」
『海未ちゃん助けてぇー』
穂乃果の名前があり、出るなり救援だった。しかし、声音から、事件に巻き込まれている感じでは無かった。おそらくはあれですね。
「課題以外なら助けますよ」
『課題が進まないよー』
「……はぁー、仕方ないですね。今日だけですよ」
『あれ?海未ちゃんがこんな簡単に……それに、声がいつもより嬉しそう。なにかいいことあったの?』
すると、穂乃果は私の声からそんな判断をする。声だけで理解するとは。伊達に長い付き合いではありませんね。
「ええ。さっきまで沙漓がいましたから。友達を連れて」
『えー、沙漓ちゃん戻ってたのー。なんで言ってくれなかったの?久しぶりに会いたかったなー』
「ダメですよ。穂乃果がいたら騒がしくなります」
『ひどい!まぁ、いいや。それにしても沙漓ちゃんが友達を連れてねー。あの頃の沙漓ちゃんを知っているからか、うれしいね』
「ええ。それにあの頃の私たちに感じたものを感じるグループに出会えたみたいですよ」
『そっか。なんてグループなの?穂乃果も興味あるなー』
穂乃果も沙漓が人付き合いにだいぶ前向きになったことを知り、安堵を。あの頃を知る私としてもうれしいですね。それに、スクールアイドルが好きだけど、はっきりと心に響かなくなっていた沙漓が興味を持ったグループにも会えましたし。
穂乃果も興味があるようですね。沙漓の気持ちを前向きにしてくれた、グループのことが。
「Aqoursですよ」
~☆~
「ねぇ、海見ていかない?みんなで!」
電車に揺られていた僕たちは、唐突に千歌さんが口にした言葉で、駅に降りた。そこは海がすぐそばに見える駅だった。みんなは砂浜の上に立ち、僕は駅と砂浜の中間にある階段に腰かけて見ていた。
「うわぁ、きれい!」
「内浦とはまた違った良さがありますね」
夕日に照らされた海は幻想的でとても綺麗だった。みんなも同様に目を奪われていて、しばらくは静かな時間が続いた。
すると、おもむろに千歌さんが口を開く。
「私ね。分かった気がする。µ’sの何がすごかったのか」
「ほんと?」
それは今日一日で得られた何かの事だった。電車の中でも千歌さんは何か考えている様子だったから、きっとそのことを考えていたんだと思う。
「うん、たぶん比べちゃダメなんだよ。追いかけちゃダメだったんだよ。µ’sも、ラブライブも、輝きも。勝ちたいところとかじゃなくて」
「どういうこと?」
「わたしはわかるかな?」
「一番になりたいとか、誰かに勝ちたいとか。そういうことじゃなかったんじゃないかな?海未さんも皆との思い出を作りたいって言ってたし」
「うん。だから、µ’sのすごかったところは、なにもない所を一生懸命走ったことだと思う。皆の夢をかなえるために。自由に、まっすぐに……だから、飛べたんだ!」
千歌さんの言葉は皆の心に響いたようで、どこか納得した表情をしていた。そして、千歌さんは言葉を続ける。
「µ’sの背中を追いかけることじゃない。自由に走ることってことじゃないかな?全身全霊。何にもとらわれず、自分たちの気持ちに従って」
「自由に」
「run&run」
「全力で走る」
「全速前進だね!」
「自由に走ったらバラバラにならない?」
すると、ヨハネはそんな疑問を口にした。確かに、九人が同時に自由に走ればバラバラになるかも。でも、この九人ならたぶん平気な気がする。
「たぶん平気じゃないかな?」
「それで、何処に向かって走るの?」
「私は0を1にしたい。あの時のまま終わりたくない!」
「千歌ちゃん……」
「それが今、私が向かいたいことかな?」
「そうだね」
「なんか、これで本当に一つにまとまれそうだね」
「遅すぎですわ」
「みんなシャイですから」
どうやら、みんなの心は一つにまとまって、同じ方向を向いているようだった。そして、九人は円を作るように集まる。
「沙漓、そんな場所にいないでこっちに来なさい」
「いいの?」
「何言ってるのよ。あんたもAqoursの一員でしょ?」
ヨハネは、自分を堕天使と言いながらも皆に優しく接することのできる優しい白と、堕天使が好きな気持ちを誰からも染められない闇色。他の人と比べたら変わった部分があるけど、本質はとにかく人のことを想いやることのできて、好きな物を好きと言える人。そんなヨハネだから、僕はヨハネといる時間が好きだった。あっ、お姉ちゃんと比べたら……うーん。
果南さんは、全てを包み込む穏やかな海のようなエメラルドグリーン。一人で抱えることもあるけど、一歩引いた位置から皆を優しく見ていて、時には誰かの為に厳しくすることのできる人。だからこそ、悩んだら相談をすることができたし、逆に力になれるなら力になりたいと思える、もう一人のお姉ちゃんみたいな?
千歌さんは、皆を引っ張り照らす太陽のようなオレンジ色。でも太陽のように遠くに無く、内浦のミカン畑のようにすぐそばにいてくれるからミカン色?いつも自分のことを普通と卑下するけど、普通だからこそ誰にでも接することができ、太陽みたいな笑顔で皆を照らせる十分すごい人。その笑顔には何度も救われ、とにかく温かかった。そして、スクールアイドルを楽しむ気持ちを持っているからこそ、みんなも集まったんだと思う。
梨子さんは、桜のように春の新鮮な息吹をくれるピンク色。普段はおとなしくて千歌さんに翻弄されているけど、怒った時は大変で、でも優しくて桜のような満開の笑顔の似合う人。梨子さんのピアノを聞いていると気持ちが落ち着くし、同じ趣味を持っている人に今まで会えなかったからかそういう時間も楽しかった。
曜さんは、みんなに元気を広める海のような水色。人辺りが良くてそつなく物事がこなせて、持ち前の元気で皆を引っ張り、ボーイッシュぽいけど中身は乙女な可愛い人。お父さんが大好きで、色々なものに手を出している辺りに親近感があったりなかったり。
ルーちゃんは、スクールアイドルのことが大好きでザ・アイドルみたいな可愛いピンク。いつもは小動物のように小さくなっているけど、スクールアイドルの時は元気いっぱいに動ける人。だからこそ、頑張る姿を見て応援したくなった。
マルちゃんは、みんなの気持ちを和ませる陽だまりのような黄色。ルーちゃんと同じでスクールアイドルが好きで、自分のことよりも誰かのことを想い動くことのできる優しい人。僕に対してもその優しさは変わらず、故に気持ちが軽くなった。
ダイヤさんは、みんなを優しく包む温かな炎のような赤。二人の関係が崩れた時もただ待ち続け、いつでも戻れるように準備をしていた芯の強い人。スクールアイドルのことを隠そうとしてるのに、影ながら応援をし、でも中途半端に見えてる辺りが抜けててちょっと可愛かったり?
鞠莉さんは、みんなを暗くさせず明るさで優しく包む夜空のような紫。大切な人を思うが故に自分のことを二の次にしてしまうほど優しく、常に皆に気を使いながらも自分を出せる人。正直なところ、ハイテンションな人は苦手だけど鞠莉さんだとなんでか平気だったり。きっと、その裏でみんなをちゃんと見てくれているからだと思う。
「だね」
僕はそう言って、みんなの円に加わる。みんなの目には確かな輝きがあって、一人一人の顔を見てそんなことを考えていた。みんなそれぞれ違う輝きがあって、それが綺麗に合わさるからこそ人を引き付ける。そして、スクールアイドルを楽しんでいる気持ちを持っている、それらが集まったのがAqoursの魅力だと思う。
「じゃぁ、行くよ――」
「待って!指こうしない?これをみんなで繋いで0から……1へ」
そして、十人で円を作って、と思ったら曜さんが待ったを入れた。どうかしたのかな?
すると、曜さんは親指と人差し指を立てて、それをみんなで繋いで0を作り、1にするモーションを提案する。うん、いいと思う。みんなもそれがいいと思い頷いていた。
「うん、それいい。じゃぁ、もう一度!」
千歌さんはそう言ってみんなの顔を一巡し、
「1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「5!」
「6!」
「7!」
「8!」
「9!」
「10!」
僕たちは順番に手を重ねた。
「0から1へ」
そして、それぞれ親指と人差し指を立てて“0”を作り、“1”に変える。
「今、全力で輝こう!Aqours。サーン――」
『『『シャイン!』』』
唐突に始まり、唐突に休止し、唐突に再開し、唐突に完結です。
理由は、最初から一期の内容までのつもりでしたので。それと、アニメの13話はミュージカルパートが半分ですし、結局予選がどうなったのかもよくわからないので、12話の内容で終わらせるのが一番だと思ったからです。
始めた理由は単純に思いついたからで、Aqoursの九人を近くで見ている女の子みたいなノリで決めました。海未の妹なのとか、善子とやたらと絡むのは、単純に好きなキャラだからです。と言っても、どのキャラも好きなのですけども。
『のんびり天使は水の中』は、沙漓がのんびり系でサリエルから引っ張って名前を決め、Aqoursの近くにいるからこのタイトルにしました。今更ながら天使要素が無いなぁと思いますけども。
まぁ、そう言う訳で、これで完結です。拙い文章だったと思いますが、お読みいただきありがとうございました。
では、ノシ