のんびり天使は水の中   作:猫犬

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日常回です。
【ダイヤさんと呼ばないで】みたいな感じです。


三年生と沙漓

「もぐもぐ。で、僕はなんで小原ホテルに連れてこられたのでしょうか?」

「あはは……」

 

十人で東京へ行った翌日の午前。僕は小原家が経営するホテルオハラにいた。というか連れてこられた。

今日は昼まで家でのんびりしてようと思ってたのに、唐突に鞠莉さんがアパートに来たと思えば「三秒でしたくしな」と言われて、三分かけて支度をしてバスに乗せられた。で、淡島行の船に乗せられてホテルに着くなり、この部屋に通され今に至る。

僕は机に置かれたクッキーを食べながら呟き、隣に座っている果南さんは苦笑いを浮かべる。

クッキー美味しい……。

 

「私もよくはわからないんだよね。いきなり鞠莉に呼び出されたわけだし」

「はぁー。それで、鞠莉さんはどこに行ったんですかね?」

「さぁ?」

 

果南さんも事情は知らないらしく、戻って来た鞠莉さんに文句を言うことを決めて、とりあえず辺りを見回す。鞠莉さんの部屋はシンプルイズベストなのかあまりものが置かれていなかった。てっきり、鞠莉さんの部屋ならいろんなものがありそうなイメージだったんだけど。

そんなことを言うと、果南さんは「あぁ」と声を出しなんでか遠い目をした。

 

「ここ鞠莉の部屋じゃないよ。客間的な場所だよ」

「この大きさで客間……」

 

まさかの鞠莉さんの部屋じゃなくて客間だったとは。一般家庭の部屋の倍はありそうなのに。あと、僕の今住んでるアパートの部屋よりも大きい気が……。

 

「そーゆうことよ!」

「あっ、鞠莉さん。ダイヤさん、こんにちは」

「こんにちは、沙漓さん」

 

そんなことを考えていると、二人が部屋にやって来る。ダイヤさんも鞠莉さんに呼ばれた感じなのかな?

二人は僕たちの反対側の椅子に座る。

 

「それで、僕はどうしてここに連れてこられたんですか?鞠莉さんは教えてくれないし、果南さんも知らないらしいし……ダイヤさんは知ってるんですか?」

「……」

「あー、それは……」

「ダイヤさん?」

 

僕はなんも知らないからそう聞くと、ダイヤさんはどうしてか肩を震わせ、鞠莉さんは面倒そうな顔をする。隣ではそのやり取りだけで果南さんが今日の要件を理解したのか「あっ、そういうこと」と呟いていた。

 

「どうして――なんですの」

「なんと?」

「どうして、皆さんわたくしのことを“さん”付けなんですの!?」

「はい?」

 

ダイヤさんはいきなり大声を出すとそう言った。僕はどういうことのかよくわからず、首を傾げる。

 

「要するにダイヤは“さん”付けされることを気にしてるんだよ。私と鞠莉はみんな“ちゃん”付けでしょ?」

「だから、ダイヤも“さん”じゃなくて“ちゃん”付けがいいみたい。あと、そのせいで自分だけ距離がある気がしてるみたいなの」

「はぁ……でも、僕の場合は二人も“さん”付けですけど?」

 

とりあえずわかったことは、今日集めたのはダイヤさんみたいなこと。僕たちはそれに巻き込まれたこと。ホテルの理由はたぶん、こんな相談をしているのをルーちゃんに見られたくないからかな?

というか、僕は二年生以上のメンバーには“さん”付けな訳で、ダイヤさんだけじゃないんだけど?

 

「だからこそですわ。沙漓さんが“ちゃん”付けすれば皆さんも“ちゃん”付けになる気が……」

「ごめんなさい。僕、基本的に年上には“さん”付けで接するように育ったので。たぶんダイヤさんと同じで。お姉ちゃん以外で年上の人を“さん”付けしない例外なのは三人だけですね」

「って、しない人もいるんだ……」

「そう言う訳ですので、ダイヤさんの作戦は無理ですね。それをしたいのなら、ダイヤさんも“ちゃん”付けで呼んでみてください」

「それは……はぁ」

 

ダイヤさんは少し考えため息をついた。たぶん無理みたいかな?

そもそも、ダイヤさんがみんなを“さん”付けしてるのもダイヤさん呼びの原因の気がするけど。でもダイヤさんがみんなを“ちゃん”付けするかと言えば、無理っぽいし。

 

「じゃぁ、ダイヤの悩みは解決しないわね」

「ダイヤ、ドンマイ」

「そんな……どうしてお二人は“ちゃん”付けで、私だけ“さん”付けに……」

 

落ち込むダイヤさんに、慰める二人。さてさて。

 

「じゃぁ、試してみますか」

「ん?何かいい案あるの?」

「はい。とりあえず、ダイヤさんを柔らかくしましょう」

「はい?」

 

 

~鞠~

 

 

午後。私たちは浦女に来て練習をするところだった。

 

「本当にうまくいくのでしょうか?」

「まぁ、これも一つの方法だとは思うよ」

 

ダイヤが心配で呟くと、果南はいつもの調子でそう言う。

沙漓が提案したのは至極単純なものだった。ダイヤの口調が硬いからもう少しフレンドリーな感じになればおのずとどうにかなるとか。しかし、私としては難易度が高い気がするものだけど。

 

「さぁ、ダイヤ行って来な」

 

果南がダイヤの背中を押すと、決心して踏み出す。部室には先に来ていた二年生三人がおり、とりあえず話しかけてみる。私たちはばれないように隠れて外から様子をうかがう。

三人とも優しいからきっと……。

 

「おはようございます。千歌さ、ちゃん。曜、ちゃん。梨子、ちゃん」

「ふぇ?あっ、おはよう。ダイヤさん……?」

「おはヨーソロー!ダイヤさん……?」

「おはよう。ダイヤさん……?」

 

なんとか“ちゃん”付けで呼んでみたけど、言いなれない為変な感じになってるわね。そのせいで、三人も困った感じになってるし。しかもせっかく“ちゃん”付けしたのに“さん”付けで返される始末。

 

「それで、どうかしたの?チカ達のこと……その“ちゃん”付けして」

「……いえ、なんでもありませんわ」

「えー。悩みがあるのなら聞くよ?」

「うんうん」

「そうだよ!ダイヤさんにはいつも助けられてるし」

 

三人とも優しい為、ダイヤに悩みがあるのだと判断したようだった。でも、ダイヤちゃん呼びして欲しいと頼むのは恥ずかしいらしいから口にすることはないわけで。

 

「悩みなんてありませんわよ」

 

だからダイヤはホクロの辺りを掻いて誤魔化す。理想としては自然に呼んでもらいたいみたいだし、今更ながらそれを言って笑われる可能性もあるとか思ってるのかしら?たぶん、笑うなんてことは無いと思うけど

 

「ダイヤさん!嘘は良くないです!」

「そうだよ、ダイヤさん!力になるから!」

 

しかしながら千歌っちと曜は確信しているかのように詰め寄る。梨子は梨子で詰め寄りはしないけど、じーっと顔を見ているので助けてはあげられそうにないわね。

 

「シャイニー!」

「やっほ」

 

と言う訳で、今の状況に見かね中に入る。それによって三人の注意が私たちの方に向き、ダイヤは少し身を引いて距離を空ける。

 

「こんにちはー」

 

そして、一年生の四人もやってきたことで練習ということになり、どうにかこの話は流れたのだった。

 

 

~果~

 

 

「で、ダイヤはどうしたいわけ?自分から頼むのは嫌なら」

「わたくしはどうすればいいのでしょうか?」

「それをマリーたちが聞いてるんだけど?」

「うーん。ダイヤさんが呼び方を変えるのが無理となると……」

「となると?」

 

とりあえずストレッチを各々している間に私はダイヤに問うも、ダイヤはいい案が思い付かないようで、私たちは困っていた。そんな中、沙漓ちゃんは何か案があるのかそんなことを言う。

 

「ダイヤさんのイメージを変えましょう」

「さっきやらなかった?」

 

沙漓ちゃんの発言に、鞠莉は首を傾げる。私もさっきやった気がするからよくわからないけど、たぶんさっきとは違うことをするつもりな気はした。

 

「さっきよりもわかりやすく行きます。ダイヤさんはみんなから見て大人のようなイメージがあるので“ちゃん”付けよりは“さん”付けなイメージがあるんです」

「あー、確かにそうかも」

「なので、ダイヤさんが子供っぽい感じをすることで皆のイメージを一新しようかと」

「なるほど……いい案ではあるけど、ダイヤにできるかしら?」

「なっ。それくらい別に……」

 

鞠莉に茶かされてダイヤはむきになり、こうしてダイヤは子供っぽく接することになったとさ。というか、ダイヤが外でそういうのしたのって小学生のころ以来だったような?

ストレッチが終わり、とりあえず基礎体力の向上をしようということで坂の一番下に集まる。ここから坂を上がるのはいい感じのトレーニングになるだろうしね。

 

「じゃ、無理はしないでってことで!」

『『『おー』』』

 

私がそう言うと、皆は一斉に坂を上り始める。いつも通りに走れば、一番に着いちゃうけど、今日はダイヤの方も気になるからとあえて一番後ろを走る。

 

「あれ?果南ちゃんが後ろって珍しいね」

「まぁね。皆の走り方を後ろから見てれば走り方で変えた方がいいところを教えてあげられるでしょ?」

「そっか。それに、後ろに誰かいると手を抜けないもんね。誰も手を抜かないけど」

 

梨子ちゃんは私が居ることを気にするけど、それっぽい理由を言ったらあっさり信じてくれた。

 

「……」

 

ダイヤの方を見るけど、ダイヤは無言で走っていた。いや、確かに喋らずに走るべきだけど、もしかして何もしない気なのかな?

 

「ダイヤ、何もしない気?」

「さすがに練習中には……」

「でもね。声かけしてエールを送るとかあるでしょ?ほら、二人に声かけてみなよ」

 

ダイヤは何もしない気でいたようだから、前を走る善子ちゃんと花丸ちゃんの方に行くように促す。ダイヤは渋々といった調子で二人の方に行く。

 

「花丸ちゃん、善子ちゃん。ファイトだよ!」

「ずら!?」

「ふぁ?……ヨハネ!」

 

どうやら、さっきのも組み合わせて実践してみようといった感じだった。二人はいつもと違うダイヤの呼び方と口調に変な反応を示していた。善子ちゃんはしっかり訂正を要求してるけど。でも、なんでダイヤは穂乃果さんの真似してるんだろ?

 

「えーっと、ダイヤさん。悩みとかある?」

「マルたちが聞くずら」

 

で、またしてもダイヤが情緒不安定と思われたのか、悩みがあると判断されて心配されていた。なんでダイヤがいつもと違うと悩みがあるんだと思うんだろ?いや、たしかにあれは悩みだけどさ。

 

「悩みなんてないわ!」

「悩みがある人はだいたいそう言うのよ。特に人に言い辛いのがある人は」

「善子ちゃんもそうだもんね」

「特に問題ないわよ」

 

あちゃー。否定してる時まで口調を頑張っているせいで余計にそう思われちゃうよ。はぁ、やっぱり別のプランで行かないとダメかな?

 

「ほらほら。もう少しでゴールだよ!ということで、こっから競争ね」

「おっ、やっと果南ちゃんが本気出すんだね!」

「じゃぁ、ビリの人が今日の買い出しってことで!」

「えっ!?こんな途中で!?」

「というわけで。よーい、シャイニー!」

 

私はダイヤを助ける意味も込めて、大声で提案すると、いつも競ってくる曜が乗り、千歌がさらに助長させる。これによって二人はダイヤに話しかけ続けるわけにもいかず、鞠莉の掛け声で一斉にペースを上げる。

 

「はぁはぁ。なんで一番後ろにいた果南ちゃんが一位になれるの?」

「まぁ、最後の平坦道なら普通の50メートルと大差ないからね」

「むー。次こそ勝つからね!」

「まだまだ負けないよ」

 

曜と千歌にそう声をかけると、私はダイヤの方に行く。ダイヤはスタートダッシュが遅れたことでなんとか追い抜こうとしてたけど、間に合わずにビリになり肩で息をしていた。そんなわけで、私は疑問を口にする。

 

「どうして、穂乃果さんの真似をしたの?」

 

 

~ダ~

 

 

「うまくいきませんでしたね」

「すいませんね。ついて来てもらって」

 

わたくしと沙漓さんは一緒に近くのコンビニまで歩いていた。どうしてこうもうまくいかないのでしょうか?穂乃果さんのあの言葉ならうまく行く気がしたのですが、不発に終わった訳ですし。

 

「そもそも、こういう補給は僕の仕事だからダイヤさんこそ皆と待っててよかったんですよ?」

「いえ。負けたわたくしがこのまま沙漓さんに任せるのは示しがつきませんから」

「真面目ですね」

 

沙漓さんは静かにそう呟くと、それから会話は止まり静かな時間が流れる。

そして、今日は何故か夏場のように暑かったので、アイスを買うと皆さんの元へ戻る。

 

「……やっぱり、あれしかないのかな?」

「何か言いました?」

「あっ、声に出てました?」

「ええ。それで、あれとは?」

 

沙漓さんの目を見て問うと、沙漓さんは話し始める。

 

「お姉ちゃんたちの時もあったんですよ」

「お姉さん?……というと海未さんのことですか?」

「はい。µ’sは九人になってすぐに合宿をしたんですよ」

「そうなんですか?そんな話聞いたことがありませんけど」

 

µ’sが九人になってすぐに合宿をしたなんて話は聞いたことがありませんけど。

 

「あれは悲劇でした……」

「悲劇ですか?」

 

沙漓さんはどこか遠い目をしてそう言う。もしかして九人になって早々解散の危機があったとでもいうのですか?

 

「お姉ちゃんが家を開けたことで寂しかった……」

「……あの、それとこれにどんな関係が?」

「あっ、そうでした。その時の合宿の目的が先輩後輩の壁を壊すというもので、先輩禁止令を出したらしいです――」

 

それからその時の話(後から海未さんに聞いたらしい)をされ、沙漓さんの話を聞くと、それで言いたいことを察した。

 

「つまり、先輩禁止をAqoursでもやろうということですか?」

「……まぁ、そういうことです」

 

沙漓さんは歯切れの悪い調子で頷く。しかし、わたくしはそれ以上にµ’sが行ったという点に興味を持ち、どうして歯切れが悪いのかはそこまで気にしませんでした。

 

「では、早速戻り次第実践しましょう!」

「あー。はい」

「と言う訳で、沙漓さんから提案してください」

「なんで、僕が?」

「こういうのは一年生から言った方がすんなり行くと思うからです」

「なるほど……で、本音は?」

「わたくしから言うとまた悩みがあると思われそうなので」

「あー、はい。わかりました。それと、先輩禁止はAqoursには不要だと思いますからね。その上で、提案の仕方は僕が勝手に決めていいのなら」

「ええ。それでお願いします」

 

沙漓さんは渋々といった様子で了承し、こうして早速実行する運びとなりました。

 

 

「お姉ちゃんたちが実践していたので、先輩禁止をやりましょう!」

「えーっと、どういうこと?」

「言った通りダイヤさんがみんなから“さん”付けされてるのを気にしてるので、お姉ちゃんたちがやっていた先輩禁止を建前に“ちゃん”付けして欲しいらしいということです」

「ちょっ、沙漓さん!何いきなりばらしてるんですか!?」

「正直、面倒なので単刀直入で。ダイヤさんも僕に任せるって言ったじゃないですか」

 

沙漓さんは一切悪気がない様子でそう言い、皆さんは困惑を隠せずにいました。ああ、これでわたくしは変なイメージを持たれ……

 

「なーんだ。てっきりもっと重たい悩みかと思ってたや」

「うんうん。いつもと違ったのはそう言う訳だったんだね」

「くっくっく。どうやら、こちら側の人間だったようね」

「善子ちゃんは何言ってるずら?」

「まぁ、要するに距離があると思ってたわけなんだ」

「うーん。結局、どうするの?」

 

誰も特にわたくしに対して変なイメージを持った訳ではなさそうでそう言う。うまく伝わらなかったのでしょうか?

 

「うーん。別に今のままでもいいような?」

「えっ?」

 

すると、千歌さんは急にそう言いました。このままでいいって。どういうことなのでしょうか?わたくしとは仲良くなくても、距離があってもいいってこと?

すると、他の皆さんも千歌さんの考えていることを察したのか頷く。そして、千歌さんは私の表情を見て慌てた様子で手を振る。

 

「あっ、勘違いしないでくださいね。確かに果南ちゃんと鞠莉ちゃんみたいにふざけたり、冗談は言わないけど――」

「私たちがちゃんとするように叱ってくれて――」

「ダイヤさんはいざって時に頼りになる」

「だから、ダイヤさんはダイヤさんのままでいてほしいなってマルは思うずら」

「そうね。真面目な人がいないとまとまらないだろうし」

「ルビィは……ううん。みんな、そんなお姉ちゃんのことが大好きだよ!」

 

六人は続けてそう言った。距離感があると思ってたのはわたくしの勘違いだったのですわね。そう考えると、わたくしは意味のないことを悩んでいた訳ですわね。

 

「わたくしだって、みなさんのことが大好きですわよ」

「あはは……じゃっ、せーの」

 

千歌さんは苦笑いを浮かべると、皆さんにアイコンタクトをし、

 

『『『ダイヤちゃん!』』』

 

わたくしが望んでいた呼び方をしてくれたのでした。まさか、本当に呼ばれるとは思ってなかったのでうれしいのですが……

 

「まぁ、別にもうわたくしはどっちでもいいですわ」

 

急に気恥ずかしくなり、そんな反応をしてしまいました。

 

「あれ?あんなに固執してたのに?」

「まぁ、急に呼び方が変わったから違和感があったんじゃん?」

「うーん。それで、これからどう呼んだ方がいいの?」

「皆さんの好きにしてもらっていいですわ」

「あれ?結局そこに落ち付いちゃうんだ」

 

もう呼び方を気にするのもあれなので、そんな反応をすれば沙漓さんは首を傾げているのでした。

 

「はいはい。アイスが食べ終わり次第、練習を再開しますわよ」

「はーい」

「ヨーソロー!」

 

 

~ダ~

 

 

「結局、みんなダイヤさん呼びになっちゃったわね」

「まぁ、ダイヤはそれでもよくなったみたいだしいいんじゃないの?」

「三人とも迷惑をかけましたわね。今日はありがとうございました」

 

練習が終わり、私たちは松月に来ていました。一、二年はこの場におらず、私たちと沙漓さんだけ。まぁ、生徒会の仕事で六人には先に帰ってもらっただけですけど。

 

「別にいいですよ。ダイヤさんの悩みも解決したわけですし」

 

沙漓さんはみかんのケーキを食べながらそう言い、二人も頷く。皆さん優しいですわね。そう言えば。

 

「沙漓さんは途中から反応がおかしかった気がしたのですが?」

「あー、はい。だって、みんなダイヤさんと距離なくて先輩後輩って関係ではないなぁって思って。だから、先輩禁止が無駄だと思って」

「確かに。やる必要ないくらい、みんな距離近いよね」

「それもそうね。Aqoursはすでに乗り越えていたのね」

 

沙漓さんは途中から距離感は別にないことに気付いていたのですか。だったら、言ってくださればよかったのに。

 

「っと、ヨハネから応援要請が来たので、先帰りますね」

「じゃぁね」

「チャオー」

「ごきげんよう」

「はい。さよならです」

 

沙漓さんはスマホの画面を見てそう言って立ち上がり、出入口の方に向かい、

 

「じゃぁね。ダイヤお姉ちゃん」

「えっ?」

 

すれ違いざまに小さな声でそう言うと、パタパタと速くもないけど走って出て行きました。

今のは一体?

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