のんびり天使は水の中   作:猫犬

21 / 34
二期が始まったから復活してみたり。まぁ、二期の内容は入るとしてもとうぶん先ですけども。
今回はアニメで13話のお話。でも、内容はライブの前後が主です。


サンシャイン

「曜さん、こんな感じでいいですか?」

「うん、完璧だよ。善子ちゃんもいい感じにできてるし」

「そう?ならいいんだけど……あと、ヨハネよ」

 

夏休みの練習終わり、僕とヨハネは曜さんの家に上がって衣装作りをしていた。予備予選を無事突破したわけだから、次は地区予選であり、既存曲でもよかったんだけど、それだとインパクトに欠けるということで新曲を進めていた。曲自体はすでに上がっており、ダンス練習も順調に進み、衣装はギリギリではあるが間に合いそうではあった。

今回の衣装は白を基調とした燕尾服をモチーフにしたタイプで、今までの衣装と違って可愛いというよりはかっこいい感じだった。

 

「それにしても、だいぶ衣装増えましたね。というか、よくこんなに部費降りますね」

「そう言えばそうね。部費に関しては三年生が管理してるからその辺の事情は分からないし……まさか、理事長と生徒会長がいるから裏から手を回して……」

「そう言う訳じゃないよ。まぁ、鞠莉ちゃんもダイヤさんもこの辺りに顔は効くから安く仕入れてもらったりだしね。未熟DREAMERの衣装はダイヤさんの家で使われてない生地を貰ったわけだし」

「ですね。でも、統廃合が近づいている中で予算が出ているのも事実ですし、極力安くしつついい出来のモノにしないと」

 

それぞれ衣装に手を加えながらそんな会話をする。そうして喋りながらもちゃんと作業をしていくと、気づけば外はだいぶ暗くなって来ていた。しかし、そのかいあってほぼ完成しており、あとは細かい部分の調整と言ったところだった。

 

「あれ?もうこんな時間。今日はこれくらいにしておこっか。あんまり詰めすぎると失敗とかしちゃうしね」

「そうですね。後の調整は明日にでもすれば」

「そうね。着てみたら少し変える部分も出るでしょうし」

 

そう言った訳で僕たちは帰るために荷物を纏める。僕はササッとまとめると、荷物をしまっているヨハネを待ちながら曜さんの部屋を見回す。

 

「それにしても机に千歌さんとの写真を置いているって、本当に仲良いですね」

「あれ?友達との写真って置いたりしないの?」

「うーん、そもそも写真って風景かAqoursの活動記録で撮るぐらいですし。写真立てとか持ってないから飾ったりもしませんね」

「そうなの?」

「そう言えば私も飾ったりはしないわね」

「ヨハネ、終わったの?」

「あとちょい」

 

机の上に置いてあった写真とコルクボードに付けられた写真を見て曜さんに話を振っているうちにヨハネが話に加わった。と言っても手を動かしながらでも会話はできるのだけども。

というか、堕天使関係の物を持ってくるから時間がかかるんじゃ?

 

「さいで……ヨハネはまだ時間がかかりそうだから置いてくね」

「置いていくんだ……」

「置いていくな!」

 

流れをぶった切って僕は立ち上がると、ヨハネもツッコミながら立ち上がる。そして、僕たちは玄関前歩いて行く。

 

「曜さん、また明日です」

「さらばっ」

「うん、二人ともまたね」

 

そうして、挨拶をすると家を出て歩き出す。曜さんの家からなら歩いても十分行ける距離だし。

 

「そう言えば、なんで今日もまたローブとかも持って来たの?というか、練習中に纏うのはやめなよ。熱中症になるよ?」

 

ヨハネは練習中も黒いローブを身に纏うから注意の意味を込めてそう言う。毎回途中でへばるのになんで纏うのやら?無いとアイデンティティーの損失だからかな?

 

「黒こそヨハネのアイデンティティーよ」

「だったらワンポイントにしなよ。なってからじゃ大変だよ」

 

予想通りアイデンティティーだから身に付けている模様。うーん、正直やめさせたいんだけどなー。

そうして喋りながら歩くと、あっという間に家に着く。

 

「じゃ、また明日」

「ええ、また明日」

 

ヨハネのマンション前で別れると、ヨハネはドアをくぐり、僕もアパ-トの方に行く。

夕飯のことを考えながら中に入ると、適当に荷物を置き、それと同時に携帯が振動した。

 

「ん?誰だろ?……あっ。はい、もしもし。園田です」

 

画面を見ると、西木野病院からだった。

内容はたぶん定期検診のお知らせ。園田家に引き取られてから検診はあそこで受けている訳で、こっちに来てからもあそこで受けないと色々面倒なことになる。主に説明しないとだし。

はぁー、完全に忘れてたけど、そう言えば毎年この時期と冬にあったんだった。こんなことなら、この前戻った時によっておけばよかった……。

 

『もしもし、沙漓』

「あっ、真姫さん」

 

相手は真姫さんだった。てっきり、西木野病院だから真姫さんのお母さん辺りだと思ったんだけど。

忙しいから代わりに電話をしてくれたのかな?

 

『海未から聞いてたけど元気そうね』

「はい、おかげさまで」

『そう……電話した理由なんだけど――』

「はい……はい……えっ?本当ですか!?」

 

真姫さんも忙しいのか早速要件を口にした。僕は相槌を打って聞いていく。その中には予想もしていなかった内容も混ざっていた。

 

『まぁ、急な話ではあるけどね。一応沙漓の両親にも伝えてはあるから、どうなるかはこっちで検査をしてからになるけどね』

「わかりました」

『伝えることは伝えたからね……そう言えば、沙漓はスクールアイドルの活動を手伝ってるんですって』

「はい。のんびりと手伝ってますよ」

『そう……うまくいけば来年からは沙漓もかもね』

「だといいんですけど」

 

それからいくつか話をすると電話を切った。聞いた限り真姫さんの方は順調に大学生活が遅れているようだった。

しかし、困ったなぁ。

 

「はぁー。まさか、かぶるなんて」

 

検査の日がライブの日と見事に被った。正直なところ他の日にして欲しいけど、事情が事情なだけに日付を変えてもらう訳にはいかないんだよねぇ。まぁ、衣装だのの裏方仕事だからライブに行かなければならない訳ではないけど。生で見たかったなぁ。

 

「明日には伝えないとだよねぇ」

 

さて、あっちのことはどう伝えようか。

 

 

~曜~

 

 

「定期検診で東京に戻んなくちゃいけないんで、ライブに行けなくなりました」

『『『え?』』』

 

翌日。活動で部室に集まるなり、話があると沙漓ちゃんは言ってそう告げた。いきなりのことでみんな驚きの声を漏らした。昨日はそんなこと一切言ってなかったのに。

 

「ちなみに、検診の連絡は昨日家に着いてからだったので」

「なるほど。それで、いつから行くんですか?」

「一応、ライブの前日には向こうにいないとなので前日の朝出るつもりですよ。あっ、それまではちゃんと準備は勧めますからね。衣装もまだ完成じゃないですし」

「そうなんだ」

「まぁ、ただの検査ですから、心配はないですよ。と、話はこれくらいで作業に……みんなも練習を始めないと!」

 

沙漓ちゃんは笑みを浮かべてちゃんと仕事はやり切ることを告げると私の家から一緒に持って来た衣装の調整に入った。

私たちは私たちでダンスの練習があるから屋上へ向かうことにする。

部室を出る際に一瞬沙漓ちゃんが暗い顔をした気がしたけど、目が合うと笑みを浮かべて「いってらっしゃーい」と手を振った。

さっきの表情、なんだったんだろ?

 

 

それから数日が経ち、沙漓ちゃんが東京に戻る日。

衣装は無事完成し、今日はやりすぎない程度に練習をすることになっていて、昼頃からと言う訳だから沙漓ちゃんを見送ってから練習に行けばいいと思っていた。

昨日の自分に言いたい。沙漓ちゃんの性格をちゃんと考えるべきだと。

 

「時間言ってなかったのに、よくわかったね」

「まさか、こんな時間に出るなんて思わなかったわよ」

「そうだよ、言ってくれれば良かったのに」

 

時刻は六時半ごろ。こんなに朝早くに沙漓ちゃんは東京に戻ろうとしていた。

沙漓ちゃんは基本的にマイペースであり、変なところで律儀というかなんというか。

私は朝早い時間にランニングをしていてちょうど駅前に差し掛かる辺りで沙漓ちゃんを見かけたから沙漓ちゃんのもとに行った。

善子ちゃんは偶然目を覚まして、外を見たら沙漓ちゃんがちょうど家を出たところだったから、慌てて追いかけて追いついた感じだった。

沙漓ちゃんは誰にも挨拶せずに戻るつもりだったようで、私たちが来たことに驚いたが、すぐに気を取り直していた。

 

「だって、ちょっと検査で戻るだけなんだから見送りはいらないでしょうし」

「それでも時間くらい教えておきなさいよね」

「いや、見送りの必要が無いんだからいいでしょ?しかも、こんな時間だしさ」

「それでも、ちゃんと見送りたいよ」

 

沙漓ちゃんは見送られることに対して何か困るのかそう言い首を傾げる。時間が早いから配慮したのかな?

 

「まぁ、来ちゃったものは仕方ない。行って来るね。ライブ頑張って」

「ええ、任せなさい。それと、行ってらっしゃい」

「うん、沙漓ちゃんも診察でなにもないといいね」

 

もうすぐ電車が来る時間だからそう言うと、沙漓ちゃんは手を振って改札を抜け、

 

「あっ、一つ忘れてた。部室の机の上に箱を置いといたので、その中身を衣装に付けといてくださいな。ボタンで付くし、誰がどれかは一目で分かるはずなので」

 

振り返るとそう言った。正直なんの話か分からない。というか、いつの間に部室に置いたんだろ?それとも小さい箱なのかな?

 

「なんの話?まぁ、わかったよ」

「あと、箱とその中身は捨てずに部室に戻しておいてね。後々、物をしまうのとかに使うから」

「りょうかい。ちゃんと検査を受けなさいよ」

「受けに行くのが目的なんだからねぇ。じゃっ、またね」

 

沙漓ちゃんは伝えることを伝えると、いつもの学校帰りのよう気軽なノリで言って、ホームの階段を登っていった。

 

「というか、私が来なかったらどうやって伝える気だったのよ!」

「さぁ?電話でもしたんじゃないのかな?」

 

 

~千~

 

 

「で、朝早くに行っちゃって、部室には箱があるという訳なんだね」

「ええ。みんなを呼んでいる時間は無かったわ」

「そうだね。それに、呼んでも皆が来るまで待ったかも怪しいし」

 

練習前に集まると、善子ちゃんと曜ちゃんはみんなに説明した。一応、沙漓ちゃんが行った後にLINEで連絡はきたんだけど。

みんな最初は何も言わずに行っちゃったことに対して思うところがあったんだけど、沙漓ちゃんの性格を考えるとなんでかみんなすぐに割り切っていた。

 

「それで、この中には何が入ってるんだろ?」

「さぁ?中身までは言ってなかったけど、衣装関係とか」

「衣装関係ねー。でも、衣装って完成したんだよね?」

「うん完成してるよ。あっ、そう言えば私たちが練習してる時に屋上から長時間離れた時にいじってたかも」

「openしてみればわかるでしょー」

 

誰も箱の中身を知らず、鞠莉ちゃんはそう言いながらさっさか箱を開ける。

 

「これは」

「造花みたいね」

「それも色違いの九つのバラの花」

 

箱の中にはそれぞれのイメージカラーの造花のバラが入っており、傷が付かないように綿が敷き詰められていた。手に取ってみると、花の裏側にはボタンが付いていた。

 

「ボタンが付いてるね。でも、何処に付けるんだろ?」

「千歌ちゃん、たぶん、ここだと思う」

「そう言えば、沙漓もボタンに付けてとか言ってたわね」

 

ボタンを付ける場所が分からずに首を傾げて呟くと、曜ちゃんがハンガーに掛けられている衣装を手に持ち、ある一か所を見せる。服の裾の一か所に何故かボタンが付いており、たぶんそこに付きそうな感じだった。

これを沙漓ちゃんが?曜ちゃんも知らなかったみたいだけど。

とりあえず、衣装にくっつけてみると、いい感じで、みんな感嘆の声を漏らしていた。

 

「なんで沙漓ちゃんは秘密にしてたんだろ?自分で言えばよかったんじゃ?」

「どうせ、沙漓のことだからめんどくさかったか、サプライズでもしたかったってとこでしょ」

「見た感じ、ボタンで取り外し式になっているのは持ち運びでバラが壊れないようにするためみたいだね」

「確かに、このままだったらバラに気を付けなくちゃいけないもんね」

 

私たちはとりあえず、箱の中身が分かったから明日に備えて練習を始める。

沙漓ちゃんはいないけど、私たちは私たちのやることをやるだけ。“0”を“1”にする為に、とにかく全力で踊りきる!

 

「1,2,3,4.1,2,3,4。千歌、ちょっと走り気味、ルビィちゃんと花丸ちゃんは遅れ気味かな?」

「「「はい!」」」

「善子ちゃんは」

「ヨハネッ!」

「うん、気持ち急ぎで」

「了解!」

 

いつもはリズム取りを沙漓ちゃんがやってくれるけど、今日はいないからと果南ちゃんがやり、私たちはステップを踏んで行く。果南ちゃんは私たち一人一人を見て正確にアドバイスをしていく。

そんな感じでステップ練習を進めていき、一区切りすると休憩に入る。太陽が直に当たるから暑い……。

 

「うゅ。暑い~」

「ずら~」

「くっ。我が力が」

「三人とも水分補給を」

 

三人は休憩になるや床に座り込み、そんな三人にダイヤさんは水を渡す。果南ちゃんはまだまだ元気で柵から外を眺めながら風を感じていて、そんな果南ちゃんの隣に鞠莉ちゃんが行く。私たちは私たちで水分補給をする。

 

「よーし、そろそろ再開しよっか」

「ぶっぶー、ですわ」

「おわっ」

「over workは禁物よ」

「そうそう。熱中症だけは気を付けないとね」

 

水分補給をしたから早速練習を再開しようと思ったけど、そろそろ一番暑い時間になるということで、その辺のことを考えなくちゃいけなかった。

たしかに、明日が地区予選だからいっぱい練習しないとと思ったけど、無理はダメだよね。

 

「まっ、そう言う訳で、みんな百円出して」

「ふぇ?あっ、そういうこと」

「くっく。今こそ究極聖戦(アルティメット・ラグナロク)の時」

「じゃーん、けん」

『『『ポンッ!』』』

 

と言う訳で、アイスを買いに行くじゃんけんに負けた善子ちゃんが買ってきたアイスを食べながら私たちは日の当たらないように図書室に移動した。図書室でアイス食べていいのかな?まぁ、二人がいいって言ってるからいいのか。

それにしても、図書室に移動してもエアコンが無いから暑い……。って、統廃合の危機だからエアコンもつかないか。って、

 

「そうだ!学校説明会の参加者って今どう?」

「よっと」

 

統廃合で思い出したけど、参加者の人数ってどうなったんだろ?予備予選の映像とかで興味を持ってくれる人がいてもおかしくないけど。

 

「えーっと……0ね」

「そっか。増えてるって思ったんだけどなぁ」

 

しかし、世の中そんなに甘くはない。まだ、0のままなんだ。すると、ルビィちゃんは時計を見て口を開く。

 

「そう言えば、沙漓ちゃんの診察って終わったのかな?」

「さぁ?朝早かったから案外終わってるかもね」

「でも、明日はライブこれないって言ってたからまだなんじゃ?」

「じゃっ、collしてみましょー」

 

そんな感じで鞠莉ちゃんがそう言うと善子ちゃんが沙漓ちゃんに連絡しようと電話をかけ……

 

「あら?出ないわね。ちょうど病院なのかしら?」

 

何故か通じなかった。時間的に病院が開いている時間ではあるから、ちょうど診察中で電源を切っているのだと思うことにした。

すると、図書室の扉が開き、

 

「あれ?みんな?」

「むっちゃんたち、どうしたの?」

 

むっちゃんたちがやってきた。なんで、夏休み中にいるんだろ?

 

「えーと。私たちは借りてた本を返しに……みんなこんな暑い中練習してたの?」

「うん。明日が大会だからね」

「それに、毎日のようにやってるから慣れてきたよ」

「えっ、毎日?」

「まぁね。と、そろそろ練習に戻らないと」

「そう……頑張ってね」

「うん!」

 

私はそう言って図書室を出る。みんな、チカを置いていかないでよ!

 

 

~ヨ~

 

 

私たちは明日に疲れを残さないようにと、いつもより少し早い時間に解散した。

私はベランダに出て沼津の街の夜景を眺めながら呟く。

 

「それにしても、学校の生徒全員で歌うってできるのかしら?というか、何か重大なことを忘れているような?」

 

今日の練習終わりに千歌さんのクラスメートの人が来て、なんだかんだで学校の生徒を巻き込んでステージで何かしようということになった。今からやって間に合うのかしら?

すると、私の携帯が鳴る。画面を見ると昼過ぎから連絡が取れなかった沙漓からだった。

 

『もしもーし』

「もしもし、沙漓。なんで、いままで連絡が付かなかったのよ」

『うーん、まぁ、色々あってねぇ。それで、何かあったの?電話がかかってたから折り返したんだけど』

 

沙漓の声音はそこまで変わっておらず、いつも通りだった。てことは、特に異常はなかったのかしら?

 

「いろいろねー。そうだ!診察結果は?」

『……うん。去年と変わらずだったよ。でも、まだ病院でやることがあるから帰れないけど……』

「そう。それじゃ、後でアップされるはずの映像を見るしかないのね」

『だねぇ。ほんと、現地で見たかったよぉ』

 

沙漓は会場で見られないことを嘆く。相変わらず過ぎて、診察に行ったのかも疑問に思えて来るわね。

 

『そうだ!今日の練習は大丈夫だった?』

「ええ。問題なくできたわ。それと……」

 

私は今日あったことを話し、最後に学校の生徒と一緒にステージで何かしようという話が挙がったことを伝えた。

沙漓は相槌を打ちながら聞いていたけど、最後の部分だけは声音が変わって、驚いたような反応をした。

 

『ヨハネ、それほんと?』

「ええ、そうよ。まぁ、全員集まるとは思えないわね。沙漓もいないし。自分もステージに上がりたかった?」

『そんなのどうでもいいよ。でも、みんなその案に乗ったの?』

「え、ええ。主に千歌さんがノリノリだったし」

 

何かまずいことがあるのか、沙漓は困ったような声音でそう聞いた。どうしたのかしら?

 

『ヨハネ、梨子さんがコンクールでいない時に、その代打で指名された僕がなんて言って断ったか覚えてる?』

「えーと。たしか、運動ができないとか、ライブには……あっ」

『思い出したみたいだね。事前にエントリーしたメンバーのみがステージに立てるんだよ』

 

沙漓がどうして困っているのか理解した。そうよ。そもそも、無理なんじゃない。

 

『まさか、ダイヤさんたちまで気づかないなんて……それとも言い出せなかったのかな?』

「分からないわ」

『まぁ、上がる前に気付けたから良かったよ。ちゃんとみんなに伝えておいてね。それと、生徒全員で上がらなくても、Aqoursの皆だけでなんとかなるって信じてるよ』

「そう。任せなさい……と、そう言えば、沙漓がそっちに行く前に打ち合わせていた、あれは大丈夫なの?」

『うん。大会史上初めてだし、規約的にギリギリ感が否めないけどね。でも、時間内に収める分には平気だよ。一応、担当の人に確認しておいた方がいいかもだけど』

「そう。わかったわ」

『それと……ありがとね』

「え!?なんて言った?」

 

沙漓が最後に何か言った気がしたけど、その部分だけ聞こえなかった。だから、聞き返す。

 

『ううん。なんでもない。ヨハネ、明日早いはずなんだから、夜更かししないで早く寝なよ』

「ええ。わかってるわよ」

『じゃぁ、切るね。明日、頑張ってね。遠くから応援してるから』

「大船に乗った気でいなさい」

 

私はそう言って通話を切った。最後になんて言ったのかしら?しつこく聞いても言わなそうだから諦めた訳だけど。まぁ、戻ってきたら聞けばいっか。ルールの件は時間が時間だから、明日集まった時に伝えればいいわよね?みんな早くに寝ていそうだし。

 

「それにしても、大会規約をちゃんと確認しておかないとまずそうね。他にもなんかないわよね?」

 

危うく規約違反になりかけてたわけだから、私は一応大会のサイトに目を通す。その結果、ステージに近づくのもアウトだった。ほんと、危ないわね。ステージの登壇可能時間は一グループ当たり、十分。歌は一曲か二曲で、火器や危険物を使わない限りは割と自由だった。

そして、一通り目を通すと、そろそろ寝ようと思い寝支度を整え、私はベッドに潜った。

明日は最高のパフォーマンスをしないとね。

 

翌日。私たちはやり切った。

沙漓が言ってた通り、ステージの上で浦女のことを、Aqoursのことを話してからの歌は、それなりのインパクトはあったと思う。

流石に、曲の途中でみんながステージに近づいてきたときは焦ったけど、誰もステージに触れなかったからギリギリセーフだった。触れてたら、失格だったらしいけど。

 

「やり切ったんだよね?」

「うん。なんだか実感がわかないけど」

「それでも、確かに私たちはやれたんだよ」

 

私たちは部室に集まり実感がわかないながらも、やり切ったことを実感していた。今は結果発表待ちであり、結果が分かるのは予備予選同様、ライブの数時間後らしい。毎回思うけど、結果が決まるの早いわね。いや、そんなものか。

 

「と、そろそろ時間ね」

 

鞠莉さんが時計を見てそう呟くと、そろそろ結果発表される時間だった。

だから、私たちはノートパソコンで確認するためにその周りに集まる。

そして、画面には予選突破のグループが発表された。

 

「結果は……」

「ダメだったね……」

「……うん」

 

しかし、そこにAqoursの名前は無かった。つまり予選敗退。私たちの演技は申し分なかったと思う。それでも、ダメだった。

 

「……私たちはやれるだけのことはやったと思う。でも、他のグループは私たちよりもすごかった」

「千歌ちゃん……また、無理してない?」

「ううん。無理してないよ――」

 

千歌さんは東京の時のように無理してるんじゃないかと思う。曜さんも同じことを思ったのか、そう聞いた。

でも、千歌さんはそれを否定した。

 

「確かに悔しいよ。でもね。私たちは私たちのできる限りを尽くせたと思う。私たちの全力を見せられたと思う」

「千歌……そうだ、鞠莉。入学希望者の人数の方はどうなってるの?」

「そうね。見てみましょ」

 

千歌さんが今回はちゃんと本心でそう言うと、果南さんは心配いらないと判断したのか、鞠莉さんに話を振った。もし“0”だったらまた空気が重くなるんじゃ?

 

「えーっと……えっ?」

「どうしたんですか、鞠莉さん?」

「“1”になってる」

『『『え?』』』

 

鞠莉さんが驚きの声を漏らしてそう言ったことで、私たちも驚き、画面をのぞき込む。そこには確かに説明会の参加人数が“1”になっていた。

 

「よかった。私たちの頑張りは無駄じゃなかったんだよ!」

「うん。“0”を“1”にできたんだね!」

 

みんなこの結果を喜んだ。Aqoursのやってきたことが無駄じゃなかった。“0”を“1”にできた。あの時よりも一歩前進できた。

 

「そうだ!沙漓にも報告しないと!」

「そうだね。沙漓ちゃんにも早く伝えないと!」

 

携帯を取り出して、早速沙漓に電話をかける。もしかしたら予選の結果は見たかもしれないけど、説明会の方は知らないから教えてあげないと。きっと、一緒に喜んでくれるわよね?

 

「……出ないわね」

 

しかし、いくら通知音が鳴っても沙漓が電話に出る気配が無かった。仕舞いには電波が入らないか電源が切られていると返される始末。

 

「沙漓ちゃん、出ないんだ」

「ええ。でも、今日も検査があるみたいなことがあるって言ってたから電源を切ってるだけかもね」

「そっか。心配して損した。てっきり、検査で何か問題でもあったのかと思っちゃったよ」

「うーん、でも沙漓ちゃんいつも元気だったし問題ないと思うずら」

「ルビィもそう思うよ」

 

でも、沙漓はただ単に今は都合が悪かっただけだろうということ片付けられた。そして、今日はみんな精神的に疲れただろうからと、これで終わりになった。

きっと、今日も夜頃には折り返しの電話が来るよね?

 

翌日。結局沙漓からの折り返しの電話は来ず、こちらからの電話を一度も繋がらなかった。

今日は練習の予定はなくてオフだったんだけど、私たちはつい部室に集まっていた。ここ毎日部室に来てたからつい足が向いたのよね。

 

「そうだ!衣装とかちゃんとしまっておかないとね」

「次は説明会でライブかしらね?」

「ですわね。µ’sも説明会でライブをしていますし」

「花丸ちゃん、今日もパン食べてるの?」

「手伝うわ」

「善子ちゃん。じゃぁ、箱持ってきて」

「ええ。わかったわ」

 

私たちは特にこれといったことをする訳でもなく、それぞれ好きなことをしていた。次のライブの話やらお喋りやら。

そして、曜さんが昨日の衣装を畳んで一角の衣装棚にしまうので、私も手伝い、造花のバラが入った箱を持ち上げる。

しかし、ここで私の不運が。

 

「うわっ」

 

私は地面に落ちていた布を踏んだことで滑り、私自身は転ばずになんとかなったけど代わりに箱を落してしまった。その際に蓋の部分が開いて中身のバラと綿が散乱した。

 

「誰よ、こんなとこに」

「あ、私のハンカチだ。ごめんね善子ちゃん」

「もう、気を付けてよね……よっと」

 

ハンカチの持ち主の千歌さんにハンカチを渡すと、散乱したバラと綿を集め始め、

 

「何かしらこの封筒?」

 

その中に一通の白の封筒が混じっていた。しかし、これはみんなの誰かが落としたようではなく、心当たりが無い為首を傾げていた。

封筒は何故か厳重に糊付けされており、その裏には文字が書かれていた。

 

【Aqoursのみんなへ】




ライブ自体はステージに誰も触れなかったからセーフってことにしました。そうでもしないと、近づいたから失格になりかねないですし。

次回は数日後に投稿予定。いつかは不明ってことで。場合によっては消えるかもだけど。
では、ノシ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。